ep1.魔王の娘の彼氏になった俺は
これからは頑張ります。色んな物が限られていますが、精一杯やらせていただきたいと思います。リメイクでありながら内容が凄く変わっております。ご注意下さい。
昔はこういうことに憧れていなかっただろうか。
例えば異世界に勇者として召喚されて、其処で出会ったお姫様と結婚してハッピーエンド。
例えば神様に殺されてしまって、テンプレ通りに蘇らしてもらい新しい人生をゲームやアニメ、ラノベの世界で過ごすなんてこと。
例えば異能に目覚めるコトになり、世界を壊そうとする巨悪を倒して英雄になって後世に名を残すという英雄伝。
誰しも一度は通ったことがあるだろう。俺自身憧れてない、と言えば嘘になる。それはそうだろう?
ガキなら、男なら、誰でも人生で一度は目指す物だと俺は思っている。なにせ、男は馬鹿だから。
俺の親父は色んな危険や世界、お宝を夢見て馬鹿みたいに真っ直ぐに進む、そんな男だった。
その影響もあってか俺も軽くその影響を受けている。親父の背中を見て育つとは良く言ったもんだ。
何気なく周りを見てみると、そこは一見平凡で溢れかえっていて危険の『き』の字もない。
だが、少し注意深く色んな場所を見てみると色んな不思議、異常で溢れかえっている。
まあ、なんだ。俺は高校生にもなって厨二臭いヤロウである。
だが、心の何処かで理解している。
異世界からの召喚?俺に巡ってくることなんて無いだろうな。異世界への転生?そんなもの万能イケメンに任せておけばいい。無敵?そんなのは一般人な俺には無理だろう。最強?俺は残念ながら剣道二段しか持っていない。天才神童?厨二で朽ち果てろ。
そう、思っていたんだがなあ。
高校から家への帰り道の途中ファ○マに寄ってファ○チキ食って家に帰ろうとしていたところ、どうやら俺に異世界転生という素敵イベントが発生したみたいだ。まあ、心躍らせてワクワクした俺はしょうがないと思う。
だが、そこで気づいてしまった。爺さんや婆ちゃん、両親や幼なじみ、親友は俺が居なくなったら悲しむんじゃないだろうか?と。
まあ、既に時遅し。後悔役に立たず。光陰矢の如し。時はあっという間に過ぎてしまって気がつけば異世界。
目の前には物凄く清楚そうなお姫様がいらっしゃった。
まぁ、驚いたな。うん。正直目の前で起きていることがどうなっているのかも頭の中が真っ白で理解すること出来なかった。
で、召喚されたは良いけど、国王の目が完全に奴隷を見る目だったことやお姫様が完全に利用しようとしていることに気づいた俺は右も左も解らないこの世界を一人旅することにした。
モチロン見つかったら連れ戻されてどんなことされるか解らないから、真夜中に見つからないように足を一本折っても良いという覚悟で飛び降りた。
そして運良く足も折らなかったので、取り敢えず走った。
地面を思い切り蹴って、目的地なんか無い状態でずっとずっとずっと走り続けた。
今お世話になっている国こと『アップグルント』になんとか着いた訳なんだが、そこで待っていたのは衛兵に連れて行かれるという予想外の出来事だった。
いや、普通なら自分の格好を見れば予想できたことなんだろうけど、ただただ一生懸命に走って生き残ること以外頭になかった俺には本当に寝耳に水の状態で。
で、魔王と魔王の娘の前に連れ出された訳なんだが、予想外に超美少女だったもんで。俺は後先考えずに、こういってしまったのだ。
「好きです!!」
……馬鹿だろう?馬鹿なんだよ。俺は本当に後先考えずに思ったことを口に出してしまった訳で。
モチロン後ろに控えてる衛兵達に殴られたんだが。
その時だ。自分の異常さに気づいたのは。
俺は殴られたときに反射的にその殴ってきたヤツを殴ってしまったのだ。ウチの家族のルールはやられたらやり返せだったしな。
まあ、これまた後先考えずに、だ。自分の阿呆さ加減に自分で呆れるという。
話を戻そう。殴ってしまったのは良いんだが、結果は相手は重装備だから吹っ飛ばないだろうなんて俺の予想に反して壁を突き破るという結果に至った。
驚きだろう?俺が一番驚いたがな。
その後成り行きで魔王と戦うことになって、まさかの一発KOをしてしまい……。
「この有様だ」
「何をいっているの?葵」
「いや、過去を振り返っていただけだから気にしなくて良いぞ」
「昔と言えば、初めて会った私に『好きです』って告白して来たのを思い出すなあ。あの時は本当に吃驚しちゃったよ」
アレは本気で黒歴史だから思い出さないで欲しいんだがなあ。なんであんなことをしたんだろうか?
いや、あのお陰で俺は魔王の娘の彼氏兼次期魔王になったから良かったんだろうけどさ。まあ、今になっては後の祭でしかないし、告白したことに後悔はないしな。
因みに俺がつい告白してしまった魔王の娘はリア・D・サタン。名前からして魔王である。
「あ、そう言えば城下で祭がやってるから一緒に行かない?」
「お、行く行く。ちょっち用意すっから待ってて」
リアは炎髪灼眼というどこぞのメロンパン好きな刀を振り回すツンデレ少女が連想されそうな容姿だ。
まあ、結構かけ離れているんだが。あんなに幼い感じじゃあ無いし、結構胸あr……ゲフン。
纏めると超美少女である。俺の彼女がこんなに可愛くて良いのだろうか。
「お待たせ」
「え、たったの三十秒でなにをしたの!?」
「財布取ってきただけだよ」
用意の『よ』文字も無いな。と自分でも理解している。ただ女性を待たせるのは色々いただけないからな。
実は上着もさっきまでと着替えて居るんだが、解ってくれなくて軽くショボンとしている。ただし心の中で、だが。
「あ、服変えたんだね。三十秒って早着替えだね。似合ってるし、格好いいよ」
……こういうところにキュンとしてしまう俺は姉貴の少女漫画の読み過ぎだろうか。
服装とかの変化に何かしらコメントしてくれるだけで物凄く嬉しくなる。普通は逆なんだろうけど。
俺としてはリアの服装について褒めたいんだが、な。
「んじゃ、行くか」
「了解っ」
くだらない雑談や、昔俺に起こった間抜けな出来事や馬鹿みたいにはしゃいだ出来事なんかを話しながら城下に出た。
城下は活気が溢れて、皆凄く楽しそうだ。今を一生懸命に生きている証拠なんだろう。俺もそうなれるように頑張ろう。兎に角今を一生懸命に。
「どうしたの?急に真面目な顔なんてしちゃって」
「ん?いや、なんでも無いよ。んじゃ、遊ぼうか!!」
「それじゃ、射的とかしようよ!」
射的とかあるんだ。
俺はここに来てまだ一週間しか経っていない。割と濃い一週間だった。なにせお義父さんと決闘して、お義父さんと喧嘩して、リアと楽しく会話して、お義父さんと殴り合いをして、引きこもりの美少女を連れ出して、お義父さんと勝負をして……。
あれ?お義父さんと喧嘩しかしてなくないか?いや、まあ、それで認められたからなんとも言えないんだがな。
あ、ちゃんと俺が勇者として召喚されたことも話した。ついでに勇者なんかクソ喰らえって行ったらお義父さんがもの凄く爆笑してたのが記憶に新しい。
「そう言えば葵の助言のお陰で犯罪が少なくなったみたいだよ」
「俺の助言つか、向こうでやってたことなんだが……」
「それでも葵が居なくちゃこうはならなかったんだから」
未だ一週間なんだがな。いや、アレだから口には出さないけどさ。
城下の名前は『ランバラル』という何処かで聞いたような町だ。俺も初めて聞いたときは吃驚した。
敢えて、別にどっかの機動戦士の青いヤツに乗っているパイロットでは無いとだけ言っておこうか。
この町はこの世界の他の町に比べて犯罪は少ないんだが、それでも結構多い。それこそ向こうの治安が恋しくなるほどである。
初めて聞いたときはびびったな、うん。
「それにしても、何処だ?射的は」
「ん~、アレじゃあないかな?」
「……おお、アレだな」
俺達は射的屋に向かう。小さな子達が一杯群がっている。どこの世界でも射的ってのは人気なんだな。
俺は苦手だけどな。向こうでは液晶テレビ当てて倒してしまって『弁償しろ!』とか言われたからな。
理不尽だと思う。『なら、景品の所に置くんじゃねえよ』と心の底から叫びたかった。まあ、その後に来た爺さんが事情を聞いてその射的屋のところで店員に正論ぶちかまし泣かしてたけどな。
アレはスッキリしたよ。見てて日頃溜まっているストレスが少し発散されたような気がした。
「リア、どれが良い?」
「ふぅむ、それじゃあね……。あの大きなベアードのぬいぐるみ、いける?」
「まかせたまへ。じゃあ行かせて貰いませうかね。さあ、射的屋の親父よ。景品の準備は十分か?」
「やられるモンならやってみやがれ!」
親父さんに言われ、俺は軽く息を吸い、息を止める。ただ的を中てる為に。
集中し、要らないことを考えず、目標に向かってただただ真っ直ぐ飛ぶイメージを浮かべる。
そして、引き金を引く。
……ストン。
「おお!!葵凄い!!一発だよ!!」
「フン、当たり前。俺を誰だと思っていやがる?」
ちょっといい気になって馬鹿なセリフを言ってみた。
リアはリアで貰った景品を嬉しそうに抱きしめているし、俺的には大満足の結果である。
因みに未だ弾は4発ほど残っているため、今度は普通に狙って、そして引き金を引いた。
結果、お菓子二つに、ぬいぐるみ一つ、何か不思議なカードを一つ、本を一冊というまあまあの結果であった。
射的屋の親父さんは若干涙目だったが、『持ってけ、泥棒!!』と言って渡してくれた。
「ま、喜んで貰えて良かったよ」
「ふふん!葵だと思って抱きしめて寝よっと!」
「やめい、俺が恥ずかしい」
会って一週間でどうしてここまで仲良くなったのか。それは少し遡ることになる。
●
「葵、今にも泣きそうな顔になってるよ」
「……リア、居たのか」
……絶対にリアには俺の泣き顔は見せたくなかった。
正直醜いだろうし、失望されるだろうからと思って。だから俺は絶対に泣かないと決めていた。
「リア、俺は全てを受け入れるよ。例えそれが……どんなに残酷な真実しかなくても」
大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせた。道化でも良い。好きな女の子の前では強くありたい。その一心で。
決して泣かない。会いたいと思う家族に一生会えないという真実が俺の胸を何度も何度も抉って来るけど。俺は絶対に泣かない。
「葵、無理はしなくて良いんだよ。私は葵が無理してる方が辛いんだからさ」
「は、はは。俺は無理なんか、してないよ」
「大丈夫、堪えたりしなくて良いよ。弱い葵を私に見せて。私は貴方を受け止めるから」
「……っく、言う、なあ」
「良い女でしょう?」
「あ、あ。惚れ、直すよ」
●
ま、この後リアの胸を借りて泣いて、泣き疲れて寝てしまったのは秘密だ。
うん、今思い出しても恥ずかしい。正直新しい黒歴史だ。そもそも黒歴史なんてものは幾らでもあるんだけどな。
色んなことを話して受け入れられることに安心感を得て、ドンドン『好き』という感情が膨らんでいって。
リアはリアでその時に俺のことを好きになったらしい。
これがたった一週間で仲良くなったことの全貌だ。
まあ、今こうやって二人で笑っているのは幸せだ。
「……そう言えば葵ってブドウしてたんだよね?」
「それじゃあ果物だな。イントネーション的な意味で。どこかの戦闘力インフレ漫画の主人公みたいな間違え方だな。で、質問の答えとしてはしてたよ」
「葵から聞いた話じゃあ、礼儀を重んじるものって言ってたでしょ?どうやってケンドウとか言うブドウの練習をしてたのかな?って」
「いや、確かに礼儀を重んじてはいるが、練習は普通に素振りとかだぞ?」
「え?じゃあ、何処が剣術と違うの?」
「う……」
どう答えたら良いんだろうか?俺には全く解らないんだが、どうしたら良いんだろう。
確かに剣道は心を鍛えるものだけれど、剣術も心を鍛えているからなあ。違いってなんだろうか?
俺も深く考えたことなかったなあ。……どうなんだろう?
「俺には答えられないみたいだわ。ごめん」
「ううん。ただ不思議に思っただけだし」
「リアは俺が来る前に何かしてたのか?」
「特に何もしてなかったよ?学院に入って飛び級して卒業して、五年ほど経って葵が来たんだよ」
飛び級って『何もしていない』にはいるんだろうか?
俺の考えとしては少なくとも『している』と認識出来るんだが……。
「てか、リアって今幾つなんだ?」
「ん?私は十八だよ。葵の一歳年上だから少しお姉さんだね」
なんか、お姉さんって単語に魅力を感じてしまう俺はそろそろ末期の様な気がする。
昔から年上に魅力を感じていた俺はどうやら初見で年上だと見抜いていたのかもしれないだ。
本当だったとしたらなんという、要らない能力だろうか。こんな能力はどこぞの不平等さんに消されてしまえっ!!
いや、まあ、そのお陰で今の生活があるんだけど……って、さっきも同じコトを考えていたような気がする。
「ふむ、リアって呼び捨てで良かったのか?」
「私は葵に呼び捨てにされたかったんだよ。なんというか、リアさんって呼ばれたときになんか自分の中で『こんなんじゃ嫌だ』って言ってるような気がしてさ」
「いや、リアが良いっていうんなら俺はそれで良いんだけどさ」
寧ろリアの今の発言を聞いて『この世に生まれて良かった!!ただし、うまれたのはこの世じゃないんだけど』と嬉しくなった。
好きな相手にあんなこと言われて嫌な人は居ないと思う。だって、好きな相手なんだぜ?
「そういえば、また『アヴァロン』が懲りずに勇者召喚するみたいだね。お父様は全軍で潰しにかかろうとか言っているんだけど葵的にはどう思う?」
「ん~、そうだなあ。そのまま全軍突撃も良いんだけどさ、被害が多くなるだろうな。俺から提案するとすれば、全軍で迎え撃った方が良いと思うんだよ」
つまり今まで『ヌルゲでクソゲ(笑)』だった物がラスダンで鬼畜ゲに変貌する感じだ。
確かに強くなっているだろうし、色々不都合はあるかもしれないが基本数が物を言うからなあ。
感覚的には中ボスもボスもラスボスも纏めてかかってくるような感じだ。
「最後の最後に全軍で迎撃するとしたら、コッチが有利だし。拠点が近いってだけで有利なものが、数が揃っているってコトによりより有利になるだろう?」
「あ、そだね!って、葵って本当に勇者だったの?勇者って普通そんな考え方しないんじゃあないの?」
「そもそも俺は勇者だったという自覚がないからな」
「ふふっ。何を胸張ってるのさ。それにしても酷いことになるんだろうね」
「きっとそれは非道で悲劇で惨くて残酷で、それでいてコチラからすると衝撃で笑劇で喜劇な最終バトルになるわけだよ、ワトソンくん」
「ワトソンくんってだれ?」
……まあそれは置いておいて。俺は俺で色々準備するとしますか。
ダンジョン制覇したり、竜と修行してみたり、魔法の練習をしてみてりというラノベの主人公みたいな強化修行をな。
「出来ればスルーしないでくれると、嬉しいんだけどね。ま、いっか」
「良いんかい」
まあ、リアがそれで良いんなら良いんだけどさ。
もしもう一度聞かれたら完全で完璧で簡潔な説明はできないから、普通の説明をしようとおもっていたんだけどな。
「ま、葵と普通に過ごせるだけで私は幸せなんだけどね」
「ははは、俺もリアと居られるだけで幸せだわ」
周りの人達の生暖かい視線が気持ち悪い。
まるで『若いっていいわねえ』とか『うんうん、青春してるねえ』とか言ってるみたいな視線が気にくわない。
まあ完全に周りのことを忘れてこんなやりとりをしていた俺等が悪いと言えば悪いんだろうけどな。
それにしても多分今の俺の顔は少し赤いと思う。しょうがないだろう?俺は純朴な青少年なんだ。
「と、取り敢えず城に帰ろうか!」
「う、うん!」
取り敢えず、顔を冷ますために『対勇者戦』をどうするか考えてみる。
一番良いのは戦闘経験をさせないこと。コレは基本的に魔獣が居る時点で無理な話だろうからこの案は消す。
次にさっき言った最後までヌルゲを演出することで、最後に数の揃った軍隊vs勇者御一行という戦闘をするということ。コレに関しては何処にでもいる汚職をしている幹部達が戦果を上げようと馬鹿な行動に出なければ大丈夫だが、微妙だから保留。
最後に勇者対勇者という展開に持ち込むということ。コレはリアに止められるから出来るかは解らないけどな。
「……ふむ、レイナール居るか?」
「はいはいっ!いつもニコッと癒しを貴方に!レイナール・C・ディカオス此処に!」
「勇者達の行動を見るコトの出来る道具みたいなものって作れるか?」
「うーん。出来るねっ!」
「今の『うーん』は何だよ」
レイナール・C・ディカオス。元引きこもりで今は俺の愛人らしい。
なんだかんだでリアと仲良くやっていて、リアも俺の愛人として認めているらしい。
全く、訳が分からないよ。ま、そんな軽い愚痴も程々に。
「あ、そうだ!僕としたことが葵に依頼されたってだけでテンションが上がっちゃって代償を忘れてたよっ!」
「んむ!?」
聞いてないぞ!?いや、レイナールに頼めば代償を取られるってのは聞いては居たんだがキス!?
いやいやいや、ファーストキスはリアだったが、まさかセカンドキスがレイナールだとは……。
いや、美少女にキスされて嬉しく無いわけが無いわけが無いわけが無いんだが。もうパニックで今俺が何を考えているのか自分でも訳が分からなくなってきた!!
「ぷはっ!葵の唇いただきましたっ!んじゃ、頑張って来るよっ!!」
……と、兎にも角にも俺は俺らしく俺であるためにコレからの生活を頑張って過ごそう。
向こうでの生活が忘れることの出来るくらいに、一生懸命コレからを過ごそう。それが今俺に出来ることなんだから。
さあ、明日も頑張ろう!!