金のなる木
どこかの国の、いつかの話。
小さな村の、小さな家には
とても仲良しの兄弟が暮らしていた。
しかし、兄弟の性格は正反対であった。
兄は欲張りで悪知恵のはたらく怠け者。
弟は欲がない誠実で真面目な男。
でも、そんな二人は仲が良かった。
二人はいつも一緒にいた。
ある日、二人は散歩に出かけると
今まで見たことのない花屋を見つけた。
樫の木で造られた、
小さくてシンプルな店だった。
二人は気まぐれに、
その店に入ってみることにした。
「いらっしゃい」
店に入ると、鮮やかで美しい花々と、
愛想の良い老人の店主が迎えてくれた。
老人の顔には深いシワが刻み込まれ、
大樹のような温かみがあった。
「最近できた店なのかい?」兄が聞く。
「ええ。昨日できたばかりです」と老人。
「それじゃあ記念に何か買おうか。オススメはなんだい?」と弟。
「そうですね……この二つの種は素晴らしいですよ」
「どんな花が咲くんだい?」
「こちらの赤い種は、黄金のなる木。こちらの青い種は、銅がなる花でございます」
二人は耳を疑った。
「赤いのが黄金の木で、青いのが銅の花だって?」兄が聞いた。
「黄金のなる木は、一週間ほどで大きな樹となり、黄金の葉をつけます。それはもう、大量に。葉を全部とってしまっても、一週間後にまた新しい黄金の葉をつけます」
「銅の花は?」と弟。
「銅のなる花は、二日ほどで小さな花が咲き、その後、ごくわずかな銅の実をつけます。銅の実をとってしまえば二度と花は咲きませんが、銅の実を一つでも残しておけば、また同じように花が咲きます」
「それじゃあ黄金の木のほうがいいじゃないか。おじいさん、黄金の木の種が欲しいな」兄は急いで財布を出した。
「しかし、この種は一つしかありません。弟さんは、どうなさいますか?」
「兄さんが欲しいなら、僕は銅の花でいいよ」弟は兄に微笑んだ。
「そうかい? ありがとう。それじゃあおじいさん、二つとも売ってくれ。いくらだい?」
「お代はいりません。開店記念でサービスします。お受け取りください」
兄と弟はそれぞれ種を受け取った。
兄は赤い種を。
弟は青い種を。
「ありがとう。黄金の葉がなったら、おじいさんにも分けにくるよ」兄は気前のいいことを言うと、弟と店を出た。
家に帰ると兄弟は、小さな庭にさっそく種を埋め、水をやった。
次の日の朝には二つとも芽が出ていた。
また水をやった。
その次の日朝には弟の種は花になっていた。
小さくて白い、綺麗な花だった。
そして夕方には花は無くなっており、花があった部分に光沢のある茶色い銅の実を五つ、実らせていた。弟は老人に言われたとおり、四つの銅をとり、一つだけ実を残しておいた。
次の日の朝には、花があった所にまた小さな芽が出ていた。
兄が埋めた種は、すくすくと育ち、兄の身長と同じくらいの高さになっていた。
そしてまた、水をやった。
次の日も、また次の日も、水をやった。
弟はいつしか、銅の実よりも白い小さな花のほうが魅力的に感じ、銅の実を採らなくなっていた。
そして黄金の木のほうは家と同じくらいの高さになった。しかしまだ葉は緑色のまま。
また、水をやった。
そして次の日の朝。ついに緑色の葉は、黄金に変わり、朝日を浴びて輝いていた。
兄は大いに喜び、葉を一枚残らずとった。
老人に分けに行くと言ったのも忘れ、欲しいものを全て手にした。
新しく家も建て、弟と別れて生活するようになった。古い家は弟の家。その隣に、比べものにならないほど、大きな家が建った。
そして、また木に黄金の葉がなると、兄は家をどんどん大きくしていった。
そして、弟の方はいつしか、家の周りに白い花畑ができていた。
そんなある日、黄金の木は枯れ果てた。
枯れて、二度と葉をつけなくなった。
原因は、兄の家が大きくなりすぎて、日の光が当たらなくなったからだった。
仕事をせず、お金が無くなっていった兄は家を売り、また弟の家へ戻った。
弟の家の周りには、地面が見えなくなるほどの白く美しい花畑が広がっており、夕方には、夕陽に照らされた銅が、あたり一面に輝いていた。
弟は、兄とまた一緒に生活できることを喜び、愛情を込めて銅の花を育てた。
そして二人は幸せに暮らしたのだった。
終わり