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閑話 二

「チエ、よくやってくれた! まさかこんなすばらしい顔があるなんて!」


 暗い闇の中、一人の男が奇妙な笑い声を上げていた。モニタの前に腰かけ、自分の創造物を膝に乗せて満足そうにその髪を撫でる。男は未だかつてないほどに興奮していた。

 青い光を放つモニタには、四人の男女が映し出されている。一人は大柄な男。一人は特徴がない平均的な少年。一人は小柄な学ランの少年。そしてもう一人……黒髪を三つ編みにした少女を中心に、映像が大きく映し出された。見つからないようにと、念には念を押して超遠距離から撮影されたそれ。少しだけぼやけたその向こうに、少女の笑顔が映し出される。その顔は生命力に満ち溢れていた。


「ああ、この輪郭、この目、この口、この鼻! この顔こそ僕が理想としていた君の顔だ!」


 男は自分の人形の――チエの顔を撫でる。膝の上に座る彼女は嫌がるでもなく、ただ静かに自分の主人を見続けた。チエのガラス玉で出来た瞳が己の主を映し出す。

 そこに映るのは、新しいおもちゃを見つけた少年のような笑顔の男だった。


「ありがとうございます」


 淡々とした言葉でチエが答える。彼女に心なんてものはない。何も考えず、何も感じない。故に、主人がどんな姿で笑っていても彼女は気にしない。いつもと同じように、ただ無機質な言葉をかける。

 だが男はその心のない言葉だけで満足だった。そもそも彼は否定など必要としていない。人のつむぐ欺瞞に満ちた言葉など、彼は聞きたくもなかった。故に、彼には人形の囁く言葉だけでいい。魂のこもらない言葉は、そのために彼を否定することもない。

 ひとしきり笑った男は満足したのか、いつしか口を閉じてモニタを見つめていた。そして再び、件のシーンを頭から再生し始めた。


「まさか、例の二人を探してこんな顔に出会えるなんて……やはり僕が君を完成させるのは運命という物らしい」


 平均的な少年が小柄な少年の頭を叩いているシーンで一時停止される。少年たちの幸せな風景があった。

 男はすでに壊れていた。この深い闇の中、己が作り出した人形と二人、時を刻み続ける。その在り方は正しく隠者。世を厭い、己の殻に閉じこもった男。

 神は己に似せて人を作ったという。ならば人と似た物を作り出した己は、この世界においては神なのではないだろうか。

 そう思い、そう信じることだけが彼の在り方。……彼のアイデンティティ。それを満たすため、彼は今日も彼女の完成を望み彼女を使う。


「さあ、チエ、頼むよ。あの顔をとって来ておくれ。あいつらが邪魔するかもしれないが……それなら、先にそっちを潰して構わない。ただし、何が何でも顔を持って来ておくれ」

「りょうかいしました。」


 人形が動き出す。そのガラスの瞳は何も映さない。

 狂気が回る。

 ――今日もまた、歯車が回る。


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