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閑話 一

※微グロ注意

 そこは暗い部屋の中だった。耐えがたい異臭が漂い、床という床にはなにがしかの書類や紙の類がばらまかれている。常に暗幕がかけられた窓は閉じられたままで、蛍光灯の明かりすらついていない。ただパソコンのモニタのみがうっすらと光を放ち、部屋の中の闇の輪郭を際立たせていた。


「……それで、チエ。君の邪魔をしたのは二人いたんだね?」

「はい、ごしゅじんさま。かたづけられず、もうしわけありません」

「いや、良いんだよチエ。悪いのは君じゃない。そいつら二人の所為さ」


 その生命の息吹が感じられないような部屋の中で、二人の人影が蠢いていた。

 一人は眼鏡をかけた痩せた男。モニタの前で椅子に座り、その膝にもう一人を乗せている。相手を見つめる目は何処までも優しく何処か壊れていた。すでに濁った瞳は、相手の事しか見えていなかった。瞳の中に正気はなく、ただ狂気の身が渦巻くのみである。

 男の膝の上に座るのは、無表情な少女。青い原色の髪を持つ、メイド服の女の子。整った手足はしなやかで白く輝き、人では決してありえない美しさを湛えている。

 男は優しくその少女の髪を撫でる。それは仲の良い兄妹のようであり、仲の良い親子のようであり、仲の良い恋人のようであり。――仲の良い、主従の姿であった。


「君の邪魔をしたのは高校生の少年と、中学生くらいの妙な少年だという話だったね? その妙な少年の方が刀を持って応戦してきたと……。なるほど、例の連中かもしれないな。全く……こそこそと僕たちをつけ狙うなんて、無粋もいいところじゃないか」


 顔をしかめながらそう言った男は、少女の髪から手を離しその頬に静かに口づけをした。それを合図にするかのように、少女が立ちあがる。男もまたその後に続いて席を立ち、そして部屋の奥へと向かった。

 物が乱雑する部屋の中で、唯一整然とした場所。その場所に、男が望み――そしていらなくなったものが保存されていた。壁につけられた棚の上にあるのは、一種の芸術。


 頭首頭首頭首頭首頭首頭首頭首頭首。

 首頭首頭首頭首頭首頭首頭首頭首頭。


 ――その棚の空白を満たすのは、瓶に満たされたホルマリンと妙齢の女性達の、首。『首刈り』事件の被害者たちは、今そこで静かに時を過ごしていた。

 そのうちの一つを手に取り、何処か不満そうな目でそれを見つめる男。結局、何をするでもなく棚へと戻す。男はそれを丁寧に丹念に、一つ一つの犠牲者に対して行っていく。そして最後の一つを棚に戻した時、大きなため息を漏らした。

 此処にある物では、男を満足させることはできない。

 男は毎日のように同じ行為を繰り返し、そして同じことを思う。棚の上に犠牲者が増えたとしても、それは変わることがなかった。終わることのない、狂気。故に、首は刈られ続ける。


「君を完成させるにはもっと君に合う顔が必要だ……。もっと美しく、僕のイメージに合う顔が。こんな女たちの顔では、ダメなんだ!!」


 男がヒステリックな声を上げ、周囲にある物を蹴り飛ばした。何かの紙が、書類が、舞いあがっては落ちる。少女はそれをただ無表情に見続けた。


「……チエ、すまないがいつも通り顔探しを頼むよ。ああ、そのついでに君の邪魔をしたやつらの顔も見てみたい。今回は手を出さなくていいが、居所だけは確かめてくれ」

「りょうかいしました」


 主人の言葉に、恭しくも厳かに頭を下げる少女。――いや、『首刈り人形』。その表情は決して変わることがない。ただその虚ろなガラス玉が、己の主を見つめ続けていた。


 ――ああ、今日もまた、闇の底で狂気が渦巻いている。


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