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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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グレイはどこへ行ったの?

 最後のボタンを留めると、彼女は襟元を整えた。

 どうも首元が窮屈で気になる。


 切れ味鋭い聖剣の本体を地面に刺し、鏡がわりにする。

 剣身には、欠点のない彼女の姿が映し出されていた。


 ほっそりと白い脚、

 人魚のように柔らかく透き通る肌。

 典型的な、超絶美少女の姿だ。


「わたし、めちゃくちゃ可愛い」


 自慢するのも無理はない。


 あっ、もしかして――神官になりすませるかも!


 この世界は、通行証がなければ気軽に動けない。

 それに、神官なら特権を持っている。


 彼女は自分に呟いた。

「わたしも、神官になったの」


 旅先では、身分は自分で作るものだ。


 彼女はおふざけのように祈る姿を作った。

 やってみると、これがなかなか圣女のようだった。


 用事はすべて片付いた。

 聖剣を拾い上げ、そろそろ行こう。


 だが、足が止まる。


 爆炎魔法で吹き飛ばされた馬車の影に、

 一人の少女が倒れていた。


 呼吸は安定している。

 牧師服は埃や血痕で汚れているが、致命的な傷はない。


 薄暗い光の下、その顔は青白く静かで、

 眉根を少し寄せ、夢の中でも小心者のようだった。


 セリア。


 スキーナはそこに立って、数秒だけ見つめていた。


 この少女牧師は、見れば見るほど味の出るタイプだ。

 鼻筋に雀斑があるものの、肌は異常に白く、

 艶やかな唇が一層引き立っている。


 彼女は、わざと剣を華麗に捌いてみせた。

 もしかしたら、口止めで殺すべきか…… と思った。


 だが、ここまでする必要があるだろうか。

 老牧師は、当然の報いで殺しただけだ。


 セリアは老牧師についてきた共犯者かもしれない。

 だけどスキーナが嫌いなのは、

 自分を「モノ」として狙う、欲深い人間たちだ。


 混乱に巻き込まれた少女を憎む理由など、どこにもない。


「…… まあ、いいわ」


 スキーナは視線を外し、剣先を地面に下げた。

 声には、疲れが混じっていた。


 霜雨を収納した。

 彼女は手を出したくなかった。

 良心が咎めるのもあるし――道が分からないのも大きい。


 雨林、山道、教団の辺境。

 彼女には、どれも同じに見える。


 地図もなく、方向音痴のまま手当たり次第に行けば、

 もっとややこしい状況に巻き込まれるだけだ。


「はあ、今日ばかりは慈悲深いわたしになったものね」


 仕方がない。

 これが初めての遠出だ。

 しかも、受け身で。


 スキーナはため息をつき、セリアのそばまで歩いてしゃがんだ。

 そっと、相手の肩を二回叩く。


 反応はない。


「ねえ、神官さん」


「起きなさい。こんな場所で気を失うなんて、賢明じゃないわ」


 どうやら深く傷ついたか、

 あるいは夜で眠いのか、セリアはなかなか目を覚まさない。


「はあ、長年の祈りが通ったのね」


 スキーナは少女の片腕を持ち上げ、

 自分の首に回すと、体を引き起こした。


 案外、重くはない。

 脇に支えても、まだ余力があった。


 木の馬車の残骸を拾って火を起こす。

 夜の森は冷たい。

 火がなければ、確実に病気になる。


 もちろん、聖剣である自分が病気になるかは分からない。

 だけど、痛みは感じるし、思いやりもある。


「あら、金貨?」


 漁りにいて一番嬉しいのは、お金が見つかることだ。

 それだけでなく、空間リングまで見つかった。


 中は約 30 立法メートル。


 獲得品はこちら。


【光明教义】

【爆炎法典】

【魔法杖一本】

【金貨 2 枚、銀貨 120 枚、銅貨 30 枚】


「まあ、無理な依頼はするもんじゃないわね。

 一生の貯金が、わたしの鞍替えになっただけよ」


 これらすべてを、

 元魔法使いの――今は自分の空間リングに収めた。


 残念ながら、生きた人間は入らない。

 だったら、目の前の眠っている少女を……


「だめだめ、そんなこと考えちゃ」


 夜は更に深まり、焚き火がパチパチと音を立て、

 わずかな明かりを作り出していた。


 スキーナはあまり眠くならず、

 木の幹にもたれて座っていた。


 膝の上には『光明教义』を広げているが、

 真面目に読んでいるわけではない。


 ほとんどはぼんやりとして、

 時々、少し離れたセリアの方を瞥くだけだ。


 紙に書かれた言葉は荘厳で空虚だ。

「光は万物を照らす」「神は人々を愛す」など。

 頭が痛くなる。


 どれくらい経っただろう。

 東の空が、やっと青白く染まり始めた。


 小鳥の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。


 その時、向こうから、極めて小さな息を吸う音がした。


 スキーナは本を閉じ、目を上げる。


 セリアの睫毛が小さく震え、眉を強くひそめた。

 寒さで目を覚まし、全身の痛みで現実に引き戻されるようだ。


 思わず体を起こそうとしたが、

 動いたとたん、ううっと息を吐き、再び座り直した。


「…… 起きた?」


 朝の空気の中、スキーナの声は、とてもはっきりと響いた。


 彼女は声のする方を振り向く。

 目に入ったのは、消しかけの焚き火と、

 向かい側に座っている人影だ。


 穏やかに本を読む少女は、清らかで無害に見える。

 だけど、どこか違和感があった。


「…… あ、あなたは?」


 その少女は、清らかな牧師服を着ている。

 晨光の中、柔らかく白く光っている。


 確か、出張に来たのは自分とグレイだけのはずなのに。

 セリアは、同僚と見間違えそうになった。


 違う!!


 瞬く間に、声が尖る。

「あなた、なんで私の服を着てるの!」


「あなたのもの? いや、今はわたしのものよ」


 スキーナは、強引にこの服の所有権を主張した。


 だがセリアは、もうそれどころではない。

 慌てて地面から起き上がる。


 動作が傷に触れ、痛くて息を飲んだ。

 それでも、焦る気持ちで周囲を探し回る。


 予定の時間には、もうすぐ引き渡しなのに。

 どうしたらいいか分からなくなる。

 グレイ様はどこに行ったのだろう。


「グレイ様! どこにいらっしゃるの!」


 返事はない。


 森の中は広く、風と鳥の声だけが響く。


「どこに行ったの? あなた、知ってるでしょ?」


 直感的に、セリアは目の前の見知らぬ少女が、

 何かを知っていると感じた。


「あら?」


 面白くなった。


 スキーナは、疑われるとは思わなかった。

 この少女の勘の鋭さに、思わずハラハラした。


 彼女はゆっくり近づいていく。

 近づけば近づくほど、圧迫感が強まる。


 まるで、切れる刀のように。

 思わず、セリアは後ずさりした。


 ちくしょう、同じ女の子なのに……


 ついに、二人はすぐそばまで近づいた。


 セリアは服の裾を強く握りしめた。

 もし襲われたら、大声で助けを呼ぼう。


 スキーナはしばらく彼女を見つめていた。

 セリアが不安になるほど。


「別れたわ」


「別、別れた?」


「うん」

 スキーナは頷く。

「昨日、ちょっとした事件があったの。

 知っての通り、はぐれることもあるわ」


 その説明は筋が通っていない。

 よく考えれば、矛盾だらけだ。


 聖剣はあれほど貴重なのに、

 なぜ牧師は少女を任せられるのか。


 約束の時間も近いのに、

 どうして遅れられるのか。


 そう、聖剣!


 彼女は慌てて、馬車の残骸の方へ聖剣を探しに走る。


「何を探しているの?」

 スキーナは、知らん顔で聞いた。


「とても、大切なもの」


「これ?」


 スキーナの手に、一本の長い剣が現れた。


 剣身は真っ直ぐで引き締まり、

 暗い銀色の金属は光を飲み込み、冷たい輝きを放っている。


 細かい星紋が剣脊に沿って伸び、

 誰が見ても立派な剣だ――と言わずにはいられない。


「なぜ、あなたに聖剣が!」


 一目で、彼女はグレイが執念を燃やしていた聖剣だと見分けた。

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