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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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撃ち合い? それはちょうどいい。

 すべて、終わってしまうのだろうか。


 スキーナには、彼らが近づいてくるのがはっきりと分かった。


 自分は勇者が魔王を討つための兵器になるか、教廷の神聖な象徴として扱われるか。

 まさか競売所で値段がつけられることだけはないだろう。


 よく考えれば、最初の二つの運命なら、まだ悪くない。


 意識が朦朧となり、まばたきの間隔がだんだんと長くなっていく。


 だが耳に、かすかに慌てた叫び声が届いた。

 誰か、助けに来てくれたのだろうか。


「早く!撃、撃て!」


「ひゃあ!助けて!」


「吼――」


 一発の咆哮。

 野生的で、低く、荒々しい。

 その声がスキーナの朦朧を吹き飛ばし、彼女は体を支えて状況を確かめた。


 その瞬間、スキーナの呼吸は突然止まった。


 熊大。

 彼が、来てくれたのだ。


 ここ数日、瞳の奥に押し込めていた熱気、胸に詰まった苦しさ、決して崩さないようにこらえていた強情。

 その姿を見た瞬間、すべてが一気に溢れ出した。


 巨大な体が人垣に飛び込み、無防備な村人たちは弾き飛ばされ、悲鳴が次々と上がる。


「この畜生め!」


 ドカンッ!


 驚きと怒りに叫ぶ声と共に、火が閃いた。


 黒熊の体に、真っ赤な穴があいた。

 激痛が脳を駆け抜け、彼は極めて低く、短く、心を締めつけるような、困惑を含んだ悲鳴を上げた。


 なぜ人間の武器が、こんなにも痛いのか。

 彼には分からなかった。


「熊大!」


 スキーナの涙が、ぽろぽろと零れ落ちた。

 熊大は、この数日で彼女ができた、ただ一人の友達。

 今の彼女には、動物の絆の方が、人間よりも誠実に思えた。


 弾丸の装填音がする中、熊はよろけた。

 それでも、しつこくスキーナの前に立ちふさがった。

 分厚い背中は、わずかに震えていた。


「やめて――!」


 スキーナの声は掠れていた。

 彼女はもう痛みなど気にせず、体を支えて立ち上がり、老牧師に向かって叫んだ。


「止めて!」


「わたしはついていく。だから、もう撃たないで!」


 熊の古傷はまだ癒えていない。

 このままでは、死んでしまう。


「止めろ!」


 老牧師が手を上げ、さらに撃とうとする村人を止めた。


 これ以上追い詰めれば、神様も見逃さないだろう。

 彼は胸に十字を描いた。


 わざとらしい老牧師など無視し、スキーナは足を引きずりながら熊に近づいた。


 思ってもみなかった。

 この果てしない闇の中で、本当に、自分のために来てくれる者がいたなんて。


 喉が締めつけられ、瞳の潤みはすでに頬を伝っていた。

 自分でも気づかないほどの、柔らかい震えさえ伴って。


 少女は、血の気の引いた白い手を伸ばし、垂れた大きな頭をそっと抱きしめた。

 温かい血と塩水が、袖を濡らしていく。


「ごめんね……」


 たった一言で、声は掠れ、言葉にならなかった。


 黒熊は低く鳴き、彼女の肩を強く擦った。

 まるで、無事を確かめているように。

 スキーナはザラザラした暖かい毛皮に顔を埋めた。


「さよなら、友達。別れなきゃならないの」


 しばらくして、彼女は手を離した。

 スキーナは疲れた瞳を閉じ、光が灯った。


 それは静かで、抑えられた、別れのような光だった。


 それを見て熊は「ウー」と鳴き、傷を舐めた。

 その背中は、とても寂しそうだった。

 そして彼女は、老牧師に拾い上げられた。


 やっと、ゆっくり休める。


 若さに値段などない。

 目が覚めたら、オークションの値段が分かる。


 いつの間にか、スキーナは目を覚ました。

 傷は癒えていたが、すぐに老牧師の悪罵が耳に届いた。


「クソ、今日はなんで魔物がこんなに出没するんだ。

 セリアが迎えに来るまでに、何もなければいいが」


「牧師様、さっきの戦いで、ピーター老人が死にました」


「死んだ?」

 老牧師は一瞬呆然としただけで、気に留めていない。

 ただ、さっきの治癒魔法が無駄になったのが痛いようだった。

「ついてないな」


 どうやら、この出来事も最近の不運の一つだと考えている様子。


 数人の村人たちは息を切らして立ち寄り、緊張する者、安心する者、

 魔物の死を見て興奮ぎみな者もいた。


 魔物が完全に息絶えたその刹那。


 肉眼では見えない淡い光点が、死体から溢れ出る。

 そして、見えない何かに引かれるように、剣身に溶け込んだ。


 スキーナは全身に衝撃を受けた。


「…… なんだ、これ?」


 彼女の目の前に、一つのバーが現れた。

 さっきの魔物で 3 ポイント。上限は 10 ポイント。


 満タンになったら何が起こるか分からない。

 だが、悪いことではないはず。

 きっと、世間でいうチートだ。


 牧師様、早くたくさんの魔物に出会ってください!


 だが、その後の老牧師は、まるで神の加護を受けたかのように、

 何事もなく過ぎていく。

 期待に反して暇になったスキーナは、剣としての人生を考え始めた。


 いわゆる聖剣になった自分の運命は、どこへ向かうのだろう。

 まるで、この車の揺れのように。


 その時、車輪が石にぶつかり、車軸が「きいい」と軋んだ。

 スキーナは揺すられて目が覚め、ぼんやりと周囲を見渡した。


 だが状況を理解した途端、不愉快になった。

 なぜなら、今、自分は老牧師に握られていたから。

 奴はどこからか鞘を用意し、自分を巻いていて、とても居心地が悪かった。


 真正面に、一人の少女がいた。

 彼女は車室の壁にもたれ、口を少し開けて眠っていた。


 老牧師は厳しい表情で、少女を揺すって起こした。


「後ろから誰かが追って来ている」


「ん?」

 彼女は目をぼんやりさせる。

「た、ただ道連れの旅人かもしれないよ?」


 老牧師は言い訳を無視し、ただ警戒するように起こした。

 そして杖を持ち上げる。


「牧、牧師様?」


「これは重大な案件だ。どんな事故も許されない」


 それを聞いて少女はうなだれ、黙った。


 先に手を打つ、か。

 とても執念深い。


 だがスキーナは不思議ではなかった。

 この老牧師は、いつも自分の好きなように振る舞う男だから。


 彼は詠唱を始めた。

 音節は正確で、無駄な間が一つもない。

 空気中の魔力が引き寄せられ、杖の先に急速に集まり、白く輝いた。


 それは暖かい光ではなく、刺すような、裁きの光だ。


「ち、待ってください! もし誤解だったら――」


「誰のために、情けをかけている?」


 老牧師が横目で睨み、少女の言葉を封じた。


 次の瞬間、杖が振り下ろされた。


 光は圧縮された聖輝となり、カーテンごと後方に撃ち込まれた。


 グレイは深慮遠謀の男だ。

 ここは街の外だ。

 人が消えても誰も気にかけない。

 現場処理すら必要のない、好都合な隠れ場所だ。


 ドオン!!!


 破裂する白い光が視界を覆い、誰も相手が生き残れるとは思わなかった。


 少女は衝撃で座り込み、耳鳴りが止まらない。


「…… ひ、ひどすぎる」

 彼女の声は震えていた。

「まだ、あちらは攻撃もしてきてないのに」


「だから、先に攻撃するんだ」

 老牧師は当然だと言う。

「もし彼らが無実なら、道を間違えた代償だ」


 言葉の直後――


 シューッ!!!


 灼熱の火球が流れ星のように聖光を打ち破り、こちらに飛んでくる。


 二人の顔が、オレンジ色の炎で赤く照らされた。

 驚いている暇もなく、老牧師は少女を一突きに押しのけ、左手を伸ばした。


 スキーナはひどく驚いた。

「老牧師、わたしを盾にする気か?」


「聖なる盾!」


 白く輝くバリアが手のひらから広がり、爆炎は上空で弾け、

 水のように半円の上を滑り落ちた。


「はあ…… ふう」


 彼にはかなりの消耗だった。魔力は底をついた。


「…… 三星魔法使い」


 煙の中から、一つの影がはっきりと現れる。

 大きな魔法使い帽は片側が欠け、服はボロボロ。

 どちらも、傷だらけだった。


 男は魔力を集め、再び炎の奔流を放とうとした。


 聖光は他の魔法と違い、ダメージは高くない。

 詠唱時間も長い。

 だが、下級の刻印魔法では防ぎきれない。


「剣士を雇うべきだった」


 このレベルの魔法使いがこんな場所に現れるとは、

 きっと、何かを狙っている!


 彼は鼻で笑った。

 三星だろうと、田舎教会の牧師である自分を、誰も舐めきれない。


「セリア、共に聖光術を詠唱する!」


「え! わたしが?」

 セリアは、教会学院で学んだ知識で伏せてダメージを回避していた。


 二つの下級魔法が融合すれば、中級魔法に匹敵する可能性はある。

 だが、それにはお互いの高い協調性が必要だ。


 しかし、詠唱が始まる前に、

 爆炎が闇夜の中で渦を巻いた。


 男の顔に、深い驚きが浮かんだ。

 たるんだ瞼の下の濁った瞳に、炎の光が映る。


 瞬発の聖光バリアを張る魔力は、もう残っていない。


 この一髪、男は伏せるしかなかった。


 残りの魔力で、ミニバリアを張る。


 オレンジ色の火柱が、大地を引き裂く牙のように。

 爆炎が熱波を伴って襲い来る。


 ドオ――――ッ!!!


 ほとんど破竹の勢いで、馬車が真っ先に襲われた。


 木造の車室は炎に砕け、破片が雨のように飛び散る。

 牽引馬は悲痛な嘶きを上げ、瞬く間に炎に飲み込まれた。


 衝撃波が道全体をひっくり返した。


 セリアは吹き飛ばされ、地面にたたきつけられ、耳は鳴りやまない。


 老牧師はううっと声を上げ、杖を強く地面に突く。

 足元の地面はひび割れ、倒れる刹那、思わず聖剣の方を見た。


 異状がないのを確認し、口の中の血を吐き出した。


 スキーナもくらくらした。

 この老け頭が、バリアが割れた時に、自分を押し上げたのだ。


「教廷の牧師……、この程度か」


 炎が野原を焼く中、三星魔法使いがゆっくりと歩いて出た。

 法衣は黒こげだ。


「閣下、教廷の面目を立ててくれないか……」


「クソくらえ!」

 男は嗤った。

 だが、すぐに何か思い出したようだった。


「安心しろ。聖剣を手に入れたら、根絶やしにする。

 一滴の痕跡も、見つからないようにしてやる」


 その得意げな様子に、老牧師の顔は極限まで曇った。


 根絶やしなど、自分が何度もやってきたこと。

 まさか、自分がその立場になるなんて。


 これが、報いなのだろう。

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