さようなら、大熊
「クソ牧師、クソ野郎ども」
執拗に追いつめられる状況は、まさに罠に落ちた獣のようで、スキーナは苦しくて息も詰まりそうだった。
黒熊は、なぜ彼女が行ったり来たりするのか分からなかったが、人間たちが再びやって来たことだけは理解していた。
「分かった」
ほとんど即座に決断した。
彼女はもう、ここにいてはならない。
黒熊も子熊たちも、この洞窟も。
彼らが銃を持って来れば、結末はきっと悪いものになる。
トラブルは自分が持ち込んだのだ。
なら、当然自分が持ち出さなくては。
何かに気づいたのか、黒熊は低く唸り、彼女を止めようとした。
しかしスキーナはすでに一歩下がり、無理をして笑いかけていた。
「行かなくちゃ」
彼女は深く息を吸い込み、振り返ると洞窟を飛び出した。
今回も幸運が味方してくれるのか、スキーナには分からなかった。
雨上がりの森はぬかるんで滑りやすく、足音を完全に隠すことはできない。
そう遠くまで走らないうちに、少女は足を止めた。
視界の端に、数人の人影が森から現れたのが見えた。
松明、猟銃、猟犬。
そして、今はどうしても見たくないあの顔。
「案の定、ここにいたな」
彼は目を細め、「やっと見つけた」という確信めいた声で言った。
スキーナは足を止めた。
幼い顔に動揺はなく、追い詰められた後の強毅だけが宿っていた。
びしょ濡れの服が体に張りついていたが、心は落ち着いていた。
もう逃げられない。
彼女は、これ以上走りたくなかった。
「あなたたち――」
少女は顔を上げ、視界を遮る濡れた前髪を片手でかき上げる。
声はわずかに震えていた。
「毎日毎日追いかけて、疲れないの!」
村人たちは思わず足を止め、互いに顔を見合わせた。
猟犬は低く唸り、鎖を張り詰めさせた。
老牧師はすぐには答えず、ただ彼女を観察するように見つめていた。
まるで、ついに手に入れた貴重な品を評価するように。
「本当に思わなかった」
見慣れた顔たちを見て、スキーナは嬉しいのか悲しいのか分からなくなり。
長い槍を持つ中年の男に目を向け、唇を引きつらせた。
「カルロスおじさん。去年、わたしお宅の麦刈りを手伝ったよ?」
カルロスの手は明らかに一瞬震え、思わず視線を逸らした。
「リアおばさん」
彼女はさらに反対側を向いた。
「わたしが大きくなったら、お肉の漬け方を教えてくれるって言ったよ」
その女は顔を青くし、唇を動かしたが、何も言葉を発さなかった。
「それから、イアン」
スキーナの視線は銃を持つ青年に落ちた。
その瞳は恐ろしく冷たかった。
「君が子供の時、川に落ちて助けたのは、わたしのお父さんだよ」
少女の言葉は、鋭いメスのように人の心を切り裂いた。
村人たちの表情は次第に不自然になり、俯く者、困惑して辺りを見回す者が現れた。
「そんな風に見ないで」
スキーナは突然笑った。
「間違えてなんかいないよ」
道徳的に劣勢に立たされたと感じた老牧師は、黙っていられなくなった。
一歩前に出て、表情を変えず、いらだちさえ滲ませていた。
「スキーナ」
彼は、まるでわがままな子供を叱るように口を開いた。
「理解しなさい。これは神の摂理なのだ。聖剣は外に逃がしておくべきではない……」
「うるさい!」
スキーナは彼の言葉を激しく遮った。
清らかな少女の声だが、今はガラスの破片のように響いた。
「この中で一番偽善者なのはあなたよ。
わたしは聖剣である前に、生きている人間なの!」
そう言って、彼女は笑った。
「欲しいのなら、取りに来なさい!」
少女の心が動いた。
次の瞬間、彼女を中心に冷気が一気に広がる。
細かい水滴が宙に舞って回転し、まるで逆流する雨のカーテンのように。
「霜雨」
彼女の声が落ちた刹那、冷たい水煙が鋭い刃の光に変わった。
彼らが渇望した聖剣が、そのまま彼女の手に現れた。
迷いなどない。
地面を強く蹴る。
泥水が弾け飛び、少女自身が逆流する冷光となって、一直線に老牧師に斬りかかった。
この一撃は華やかではない。
しかし、信じられないほど速かった。
「撃て!」
老牧師は絶叫した。
ドカンッ!
銃声は、彼女の斬撃とほぼ同時に鳴り響いた。
次の瞬間、スキーナの脛に激痛が走った。
灼熱の衝動が骨と肉を突き抜け、体は即座にバランスを崩し、ぬかるみの中にへたりと倒れた。
聖剣は手から放り出された。
彼女は声を押し殺し、歯を食いしばって、悲鳴を上げないようにした。
視界が真っ黒になる。
「よくやった」
老牧師の緊張した表情が、やっと緩んだ。
彼は銃を持つ青年の方を向き、言葉にさえ賞賛を込めた。
「反応が良かった」
青年は一瞬呆然とした後、嬉しさをあらわにした。
しかし銃を握る手は、まだ小さく震えていた。
スキーナは冷たいぬかるみにうずくまり、脛から血が流れ出ていた。
クソ、痛い!
なんて正確に狙ってくるんだ。
少女は痛みで汗まで流れたが、決して懇願はしなかった。
顔を青くしても、堂々と言い放った。
「クソ野郎ども、勝ったんだろ。
連れて帰って、お前たちの手柄にすればいい!」
「それはこちらで面倒を見る。心配するな」
老牧師のしわだらけの顔は、ひとつの塊になった。
以前なら、スキーナは優しさに見えただろう。
今は、ただ吐き気がするばかりだった。
彼女は突然、とても疲れたと感じた。
これ以上もがいても、無駄なように思えた。
もう、抵抗したくない……
「聖炎!」
激しい光が一気に灯った。
それは穏やかな神の恵みではなく、制御を失った殺しの術だった。
「ドオ――ッ!」
森の中に白い閃光が炸裂し、空気が破裂するような音を立てた。
スキーナは反応する間もなく、胸に恐ろしい衝撃を受け、体が吹き飛ばされた。
視界がぐるぐると回る。
体は木の幹に激しくぶつかり、鈍い音を立てて、ぬめる樹皮に沿って滑り落ちた。
「ぐあ――っ!」
切り裂かれるような痛みが、喉から飛び出した。
聖炎の焼けるような感触が肌に広がり、細かくて悪意のある火の針が、少しずつ骨まで刺してくる。
息をするたびに、血のにおいが上がってくる。
スキーナはぬかるみに丸まり、指を痙攣させながら、信じられないというように老牧師を見つめた。
周囲は完全に静まり返った。
村人たちは立ちすくみ、顔の緊張が驚きに変わり、次第に不安に変わっていった。
「…… もう、抵抗してないのに」
「さっきのは、ちょっとやりすぎじゃないか?」
ひそぬき声が広がった。
老牧師はゆっくりと杖を下ろし、手のひらから聖炎の残光が消えていくのを見た。
呼吸はやや荒いが、消耗で顔が青いのではなく、抑えきれない陰気を宿していた。
「お前たちには分からない」
冷たい声が、雨音をかき消すように響いた。
「こいつが数日逃げ回って、わたしがどれだけの用事を遅らせたか、分かっているのか?」
一同は一瞬、唖然とした。
老牧師の視線は、木の下に倒れてほとんど動けなくなったスキーナに注がれた。
その瞳には憐れみはなく、抑えきれない苛立ちと怒りだけがあった。
「道を封じ、人手を配し、教会からの追及を沈めるために、
わたしはもう何日も、まともに眠っていない」
「ひとりの少女が、何度も何度も、教廷の面目を失墜させるなんて」
彼の口元に、冷たく歪んだ笑いが浮かんだ。
「こいつが、ここまで俺たちを困らせるんだ……」
「なら、当然、代償を払ってもらう」
スキーナは雨の中に横たわり、意識が痛みで白く霞んでいた。




