表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/43

さようなら、大熊

 「クソ牧師、クソ野郎ども」


 執拗に追いつめられる状況は、まさに罠に落ちた獣のようで、スキーナは苦しくて息も詰まりそうだった。


 黒熊は、なぜ彼女が行ったり来たりするのか分からなかったが、人間たちが再びやって来たことだけは理解していた。


「分かった」


 ほとんど即座に決断した。

 彼女はもう、ここにいてはならない。


 黒熊も子熊たちも、この洞窟も。

 彼らが銃を持って来れば、結末はきっと悪いものになる。


 トラブルは自分が持ち込んだのだ。

 なら、当然自分が持ち出さなくては。


 何かに気づいたのか、黒熊は低く唸り、彼女を止めようとした。

 しかしスキーナはすでに一歩下がり、無理をして笑いかけていた。


「行かなくちゃ」


 彼女は深く息を吸い込み、振り返ると洞窟を飛び出した。


 今回も幸運が味方してくれるのか、スキーナには分からなかった。


 雨上がりの森はぬかるんで滑りやすく、足音を完全に隠すことはできない。


 そう遠くまで走らないうちに、少女は足を止めた。

 視界の端に、数人の人影が森から現れたのが見えた。


 松明、猟銃、猟犬。

 そして、今はどうしても見たくないあの顔。


「案の定、ここにいたな」


 彼は目を細め、「やっと見つけた」という確信めいた声で言った。


 スキーナは足を止めた。

 幼い顔に動揺はなく、追い詰められた後の強毅だけが宿っていた。

 びしょ濡れの服が体に張りついていたが、心は落ち着いていた。


 もう逃げられない。

 彼女は、これ以上走りたくなかった。


「あなたたち――」

 少女は顔を上げ、視界を遮る濡れた前髪を片手でかき上げる。

 声はわずかに震えていた。


「毎日毎日追いかけて、疲れないの!」


 村人たちは思わず足を止め、互いに顔を見合わせた。


 猟犬は低く唸り、鎖を張り詰めさせた。


 老牧師はすぐには答えず、ただ彼女を観察するように見つめていた。

 まるで、ついに手に入れた貴重な品を評価するように。


「本当に思わなかった」


 見慣れた顔たちを見て、スキーナは嬉しいのか悲しいのか分からなくなり。

 長い槍を持つ中年の男に目を向け、唇を引きつらせた。


「カルロスおじさん。去年、わたしお宅の麦刈りを手伝ったよ?」


 カルロスの手は明らかに一瞬震え、思わず視線を逸らした。


「リアおばさん」


 彼女はさらに反対側を向いた。

「わたしが大きくなったら、お肉の漬け方を教えてくれるって言ったよ」


 その女は顔を青くし、唇を動かしたが、何も言葉を発さなかった。


「それから、イアン」


 スキーナの視線は銃を持つ青年に落ちた。

 その瞳は恐ろしく冷たかった。


「君が子供の時、川に落ちて助けたのは、わたしのお父さんだよ」


 少女の言葉は、鋭いメスのように人の心を切り裂いた。

 村人たちの表情は次第に不自然になり、俯く者、困惑して辺りを見回す者が現れた。


「そんな風に見ないで」


 スキーナは突然笑った。

「間違えてなんかいないよ」


 道徳的に劣勢に立たされたと感じた老牧師は、黙っていられなくなった。

 一歩前に出て、表情を変えず、いらだちさえ滲ませていた。


「スキーナ」


 彼は、まるでわがままな子供を叱るように口を開いた。

「理解しなさい。これは神の摂理なのだ。聖剣は外に逃がしておくべきではない……」


「うるさい!」


 スキーナは彼の言葉を激しく遮った。

 清らかな少女の声だが、今はガラスの破片のように響いた。


「この中で一番偽善者なのはあなたよ。

 わたしは聖剣である前に、生きている人間なの!」


 そう言って、彼女は笑った。

「欲しいのなら、取りに来なさい!」


 少女の心が動いた。


 次の瞬間、彼女を中心に冷気が一気に広がる。

 細かい水滴が宙に舞って回転し、まるで逆流する雨のカーテンのように。


「霜雨」


 彼女の声が落ちた刹那、冷たい水煙が鋭い刃の光に変わった。

 彼らが渇望した聖剣が、そのまま彼女の手に現れた。


 迷いなどない。


 地面を強く蹴る。

 泥水が弾け飛び、少女自身が逆流する冷光となって、一直線に老牧師に斬りかかった。


 この一撃は華やかではない。

 しかし、信じられないほど速かった。


「撃て!」


 老牧師は絶叫した。


 ドカンッ!


 銃声は、彼女の斬撃とほぼ同時に鳴り響いた。


 次の瞬間、スキーナの脛に激痛が走った。


 灼熱の衝動が骨と肉を突き抜け、体は即座にバランスを崩し、ぬかるみの中にへたりと倒れた。


 聖剣は手から放り出された。


 彼女は声を押し殺し、歯を食いしばって、悲鳴を上げないようにした。


 視界が真っ黒になる。


「よくやった」


 老牧師の緊張した表情が、やっと緩んだ。

 彼は銃を持つ青年の方を向き、言葉にさえ賞賛を込めた。


「反応が良かった」


 青年は一瞬呆然とした後、嬉しさをあらわにした。

 しかし銃を握る手は、まだ小さく震えていた。


 スキーナは冷たいぬかるみにうずくまり、脛から血が流れ出ていた。


 クソ、痛い!

 なんて正確に狙ってくるんだ。


 少女は痛みで汗まで流れたが、決して懇願はしなかった。

 顔を青くしても、堂々と言い放った。


「クソ野郎ども、勝ったんだろ。

 連れて帰って、お前たちの手柄にすればいい!」


「それはこちらで面倒を見る。心配するな」

 老牧師のしわだらけの顔は、ひとつの塊になった。


 以前なら、スキーナは優しさに見えただろう。

 今は、ただ吐き気がするばかりだった。


 彼女は突然、とても疲れたと感じた。

 これ以上もがいても、無駄なように思えた。


 もう、抵抗したくない……


「聖炎!」


 激しい光が一気に灯った。


 それは穏やかな神の恵みではなく、制御を失った殺しの術だった。


「ドオ――ッ!」


 森の中に白い閃光が炸裂し、空気が破裂するような音を立てた。

 スキーナは反応する間もなく、胸に恐ろしい衝撃を受け、体が吹き飛ばされた。


 視界がぐるぐると回る。


 体は木の幹に激しくぶつかり、鈍い音を立てて、ぬめる樹皮に沿って滑り落ちた。


「ぐあ――っ!」


 切り裂かれるような痛みが、喉から飛び出した。


 聖炎の焼けるような感触が肌に広がり、細かくて悪意のある火の針が、少しずつ骨まで刺してくる。


 息をするたびに、血のにおいが上がってくる。


 スキーナはぬかるみに丸まり、指を痙攣させながら、信じられないというように老牧師を見つめた。


 周囲は完全に静まり返った。


 村人たちは立ちすくみ、顔の緊張が驚きに変わり、次第に不安に変わっていった。


「…… もう、抵抗してないのに」


「さっきのは、ちょっとやりすぎじゃないか?」


 ひそぬき声が広がった。


 老牧師はゆっくりと杖を下ろし、手のひらから聖炎の残光が消えていくのを見た。

 呼吸はやや荒いが、消耗で顔が青いのではなく、抑えきれない陰気を宿していた。


「お前たちには分からない」


 冷たい声が、雨音をかき消すように響いた。


「こいつが数日逃げ回って、わたしがどれだけの用事を遅らせたか、分かっているのか?」


 一同は一瞬、唖然とした。


 老牧師の視線は、木の下に倒れてほとんど動けなくなったスキーナに注がれた。

 その瞳には憐れみはなく、抑えきれない苛立ちと怒りだけがあった。


「道を封じ、人手を配し、教会からの追及を沈めるために、

 わたしはもう何日も、まともに眠っていない」


「ひとりの少女が、何度も何度も、教廷の面目を失墜させるなんて」


 彼の口元に、冷たく歪んだ笑いが浮かんだ。


「こいつが、ここまで俺たちを困らせるんだ……」


「なら、当然、代償を払ってもらう」


 スキーナは雨の中に横たわり、意識が痛みで白く霞んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ