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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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ハースストーンの準備

 扉を一歩踏み込んだスキーナの頭には、ただ一つの思いしか浮かばなかった。

 広々として、一望みなさま。

 これが大きな家の感触なのか!

 明るくて立派だ!


 二階の掃き出し窓が天光を迎え、大理石の床は鏡のように輝いている。

 ノヴァはベルベットのソファーにぐったりと寝そべり、開封したばかりの果実酒を手に揺らし、

 エレシアは隣の一人掛けソファーに丸まって、極上の心地よさを味わっていた。


 なんて素晴らしい午後なんだろう。

 スキーナは思わず心の中で感慨した。


「何をしたの!」

 エルベンはレースのスカートの裾をつまんで駆け寄り、怒りで髪が逆立ちそうになった。

「勝手に酒戸棚のものに触るなんて!あれは父様の秘蔵品よ!」


「酒は人が飲むためのものでしょ?」

 スキーナは、ノヴァが酒好きだとは思ってもみなかった。


「ふん!よく聞きなさい!」

 エルベンはノヴァの飲みかけの酒を取り上げ、宣言した。

「この家は今から私が全権管理する!損壊したら、すべて定価で弁償してもらうわ!」


「これ、給料つきの専属執事じゃない?」


「執事なんて!違うわ!」

 その言葉でエルベンはたちまち逆上し、頬をまるで尻尾を踏まれたハムスターのように膨らませた。

「私は世話を焼きに来たんじゃないわ!」


「はあ……」

 せっかくのいい気分が……

 スキーナは二人の喧嘩を止める方法を知っていた。

 彼女は手当たり次第に隣のお菓子皿からバタークッキーを一枚取り、熱弁をふるっているエルベンの前に差し出した。


 少年は思わず受け取り、一口齧った。

 頬を膨らませてぶつぶつ言いながら目が輝き、先ほどの怒りは甘い香りと共にほとんど消えてしまった。


 その時、濃厚な香りがキッチンから漂ってきた。

 クリームマッシュルームスープのまろやかさに、蜂蜜ローストチキンの香ばしさが混ざり、腹がぐうっと鳴らずにはいられない。


 セリアはエプロンをつけてキッチンから顔を出し、額に細かい小麦粉がついたまま、柔らかい声で言った。

「皆さん、あと十分で食事ですよ。先に手を洗ってね」


 ぐう――

 唐突な腹の音が、静まり返ったリビングで異常にはっきりと響いた。


「何を見てるの、私じゃないわ」

 エレシアは顔を赤らめて言い訳した。


 彼女たちのわくわくに比べ、スキーナはなぜだかやる気が出なかった。

 生活の切迫感がなくなると、深い倦怠感が押し寄せてきた。


 テレビが見たい、ゲームがしたい。

 だがこのひどい世界の娯楽は、あまりにも貧困だった。


 前世、暇で暇でたまらない時は、ほとんどの時間をハースストーンの酒場で過ごしていた。

 朝起きてから夜寝るまで、速攻デッキ一つで百回でも飽きずに遊んでいた。


 って――ハースストーン!

 スキーナはだらりと下がった瞼をぱっと開け、目に火をつけて、ソファから飛び上がった。


 そうだ!なんで忘れてたんだ!

 この世界には既存の職業体系がある。戦士、魔法使い、牧師、圣骑士、すべて揃っている。

 魔物も至るところにいる。黒熊、狼男、巨竜、魔族、必要なだけいる。

 教廷、魔女、冒険者、貴族と、はっきり分かれた陣営もある。

 まさに生まれながらのカード素材庫だ!


 核心ルールも定番デッキも、目を閉じても暗唱できる。

 ハースストーンをこの世界に再現できたら、大金は手に入るに決まっている!


「食事だよ!」

 スキーナは部屋に駆け戻って下書きを描こうとした瞬間、鼻に突き刺さる蜂蜜ローストチキンの香ばしさに、その場に釘付けになった。


 隣のエレシアはさらに態度を崩し、口からよだれが床に落ちそうになり、

 キッチンの方をじっと見つめ、美食への執着でいっぱいだった。


 とりあえず急ぐこともない。

 スキーナは唇をなめ、ナイフとフォークを取ろうとした瞬間、セリアの優しい視線に止められた。


 彼女は今さら思い出した。

 セリアに料理を任せてから、食前の祈りは絶対に変わらない習慣になったのだ。


「なんでこんなことに!」

 スキーナは心の中で激しく嘆いた。

 自分は教廷が大嫌いなのに、このクソ教規が、生活の隅々まで染み込んできた。


 食卓の周りの皆は動きを止め、セリアに続いて目を閉じ、手を合わせた。


 少女の長く濃いまつげがそっと下がり、声は耳元を通り過ぎる春風のように優しかった。

「私たちの出会いと安らぎに感謝し、満腹の食べ物に感謝します。

 皆が平安でありますように、スキーナの願いが叶いますように」


 スキーナは口まで出かかったツッコミを飲み込んだ。

 セリアがあまりにも優しいからだ。


 彼女は怒りっぽく唇を尖らせ、適当に手を合わせて揺らし、儀式を済ませた。


「アーメン――」

 最後の二文字が落ちた瞬間、エレシアの手のナイフとフォークは、ローストチキンの一番柔らかいもも肉に的確に刺さった。


「ちょっと!それは私が先に見たわ!」

 ノヴァは焦って、皿のもう一方のもも肉を取ろうと手を伸ばした。


「食事の時に取り合いなんて、行儀が悪いわ!」

 エルベンは軽蔑して口を尖らせながら、皿の香ばしい皮を的確に自分の器に取った。


 スキーナは美味しい料理を食べながら、先ほどのアイデアを考えていた。

 ノヴァとエルベンの言い争いが小さくなったところで、彼女は口を開いた。


「話があるの。暇つぶしになる上に大金が稼げる、いい考えを思いついたわ。

 この世界にカードゲームを作ろうと思う。名前はハースストーン」


「カードゲーム?それは何?」


「ルールに基づいて、双方が対戦するの。カードに人物が描かれていて……」


「カードゲーム?羊皮紙に子供の落書きを描いただけでしょ?つまらないままごとじゃない」

 説明を遮られ、スキーナは怒りでエルベンと喧嘩しそうになった。


「それに私は立派な貴族の坊ちゃんよ。こんな無意味なことに付き合っていられないわ」

 エルベンはスキーナが袖をまくっているのに気づかず、勝手に話し続けた。


「私はこの考え、いいと思うな」

 セリアは優しく笑った。「手伝いが必要なら、いつでも言ってね」


「セリア、大好き」

 スキーナは彼女を抱きしめてキスしたくてたまらなかった。

 当初セリアを連れ出したのは本当に賢明だった。


 彼女はエレシアの方を向き、咀嚼で頬を膨らませた柔らかい頬をそっとつついた。


「エレシア、百年生きているエルフなんだから、大陸の魔物の種類、各地の英雄伝説、古戦場の逸話、誰よりも詳しいでしょ。カードの素材を提供してくれる?」


 エレシアはぶつぶつと頭を上げ、目にはただ一つの言葉が書かれていた。

「…… メリットは?」


「君のためにエルフの森に勇敢に挑戦してあげる?」


 彼女は一瞬たじろいだ。

 この言葉はエルフの望みに的確に刺さった。

 彼女は家に帰りたい、人間の世界で隠れ住みたくないのだ。


「決定!大陸の魔物はもちろん、深淵の悪魔も太古の巨竜も、すべてはっきりと教えてあげる!」

 少女は興奮して椅子を倒しそうになった。


 仕入れの仕事は、言うまでもなくノヴァに任せる。


 絵を描くのは……

 スキーナは腕を組んで「興味ない」という顔のエルベンをゆっくりと見つめ、わざと間を置いて言った。


「はあ、絵の上手な紳士がいて、原画を描いてくれて、大陸中のプレイヤーに作品を見てもらえたら、どんなに名誉なことだろう……」


「私以外に、このゲームにふさわしい原画を描ける者がこの町にいるものか!」

 エルベンはもう我慢できず、小さな拳を握りしめ、目に強い意志を宿らせた。

「街の絵描きなんて、光と影も描けないくせに、あなたの考えを台無しにするだけよ!」


 思った通り、こいつは絵が描けた。

 この世界の貴族の坊ちゃんは、絵画、馬上槍、剣術が必修科目なのだ。


 少女たちははしゃぎ始めた。

 スキーナは瞳に笑みを浮かべた。

 ハースストーンを、この異世界で大流行させるのだ。

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