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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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42/43

美少女?美少年!

「ファンならさっさと来ろ。商売なら時間を決めろ。ぐずぐずしてうざい」


 スキーナはイライラと足を動かした。

 また、道を見ない通行人がぶつかってきた。


 以前なら、この顔が異世界でもてることに内心嬉しかっただろう。

 だが今日は、ただただ苛立たしい。

 誰かを待ちくたびれて、堪らなくなっていた。


「カタカタ――」

 澄んだ馬蹄音が近づいてくる。


 金縁が飾られ、派手に装飾された貴族の馬車がゆっくりと道端に止まった。

 料理店の両側の衛兵たちはすぐに身をかがめ、恐ろしいほどの格式だ。


 スキーナは思わず舌を巻いた。

 どこの坊ちゃんがこんなに目立ちたがるのかと突っ込もうとした。

 だが車から降りてきた人物を見て、体が硬直した。


 こいつは…… 先日料理店の二階の個室で、自分に告白してきた貴族の青年じゃないか。

 なぜ、ここに来るの?

 反射的に隠れたくなった。気まずいから。


 だが足を動かした瞬間、スキーナは我に返った。

 何を隠す?

 何も悪いことをしていないのに、怖がることなんてあるわけない。


 疑問に思っていると、青年の視線がすでに的確に彼女を捉えていた。

 口元を優しく曲げ、大またに近づいてくる。

 そして礼儀正しく彼女に手を差し出した。


 スキーナは眉を上げた。

 手を添えるわけがない。

 彼女はいつも美少女としか手をつながない。

 だがこの状況を見て、すべての因果が理解できた。


「私に手紙を書いたのは、お前だろう?」

「そうです」

 青年の声は、滴るほど優しかった。


 ところがスキーナは顔を曇らせ、振り返って行ってしまった。

「待ってください!」

 青年は慌てて彼女を呼び止めた。

「別荘は要らないのですか?」


 少女はたちまち足を止め、振り返った。

「言った通りにするの?」

「嘘はつきません!」

 青年は慌てて頷き、目の奥に喜びを秘めて言った。

「食事をご一緒するだけで、食べ終わったらすぐに別荘を選びに連れて行きます。

 町で一番良い三軒です。好きなのを、どれでも選んで差し上げます!」


 スキーナは二、三秒心の中で計算した。

 タダでもらえる別荘、もらわなければ損だ。


 彼女は即座に振り返り、まっすぐ料理店の階段を上った。

「行こう。食べ終わったらすぐに別荘を見に行く。時間を無駄にするな」


「お先にどうぞ。個室を予約してあります。

 料理はすべて一番高級な珍味を選びました」

「それは無駄遣いをありがとう」

 スキーナの口調は平板で、少しも遠慮していなかった。


 青年は口元をピクピクさせ、困ったように、そして寵愛するように笑った。

 この娘の話し方は、本当に唯一無二のストレートさだ。


 スキーナは勝手に主席に座った。少しも遠慮していない。

 彼女は自分の美貌で得をするのは好きじゃない。

 だが、自ら飛び込んできたカモは、扱わなければ損だ。


 手あたり次第メニューをめくり、適当に数品を指した。

「これだけ。早く出せ」

 青年はメニューをちらっと見て、黙って唾を飲み込んだ。

 どれも一番高い料理ばかりだ。


 心痛を抑え、本題を忘れない。

 思い切って切り出した。

「…… 先日、獣潮を滅ぼしてくれた、眼帯をした謎の女性。

 あなた、知っていますか?」


「それを何に聞く?」

「ご心配なく。ただ強者を敬愛しておりますので、素性が気になっただけです」


「お前とは関係ない」

 スキーナはイライラとテーブルを叩いた。

「自分のことをしろ。料理はまだ出てこないの?」


 最近、どうして町中の人間がリオノラのことを聞いてくるのか。

 もし、あの子が魔女だとバレたら、きっと大騒ぎになる。


 間もなく、美味しい料理がテーブルいっぱいに並んだ。

 青年は和らげようと饒舌に説明した。

「このトリュフステーキは北部の黒牛使用、トリュフは百年物。

 この銀鱈のキャビアは深海特産で……」


「食事してるのに口が塞げないの?」

 スキーナは目を上げて彼を睨んだ。

「余計なことを言えば、今すぐ帰るわ」


 青年は即座に口を閉じ、慌てて笑いを浮かべた。

「不行き届きでした。どうぞゆっくり召し上がれ」


 スキーナ自身も、少し行き過ぎたと思った。

 だが相手は少しも怒らず、ますます殷勤になる。

 これを見れば、こいつが狙っているものは相当大きいに違いない。


 しばらくして、彼女は食器を置き、満足げな顔をした。

「お腹いっぱい」

「お召し上がりいただけて何よりです!」

 青年はすぐに立ち上がった。

「すぐに別荘を見に連れて行きます。三軒から好きに選んでください。

 あなたと仲間たちでも十分に住める広さです」


 スキーナは突然目を上げ、彼を睨みつけた。

「無駄に別荘をくれる、一体何が欲しいの?」


 彼女には分かっていた。こいつは馬鹿じゃない。

 本気で色に目がくらんでいるわけがない。


 青年は口を開こうとした。

「いいや、言いたくないなら言うな。先に別荘を見に行こう」


 もし彼が気が変わったら、別荘は手に入らなくなる。

 青年は笑うに笑えず、すぐに勘定を済ませ、スキーナを馬車に乗せた。


 間もなく、馬車は立派な別荘の前に止まった。

 青レンガの塀、彫刻の門、明るく立派。

 少女は目を見張った。


「次の一軒も見ますか?」

「いい」

 スキーナは呆然と別荘を眺め、心にほっとした暖かさが込み上げてきた。


 思ってもみなかった。

 この異世界で、自分だけの居場所が手に入るなんて。


 扉に手をかける前に、突然、影が扉の裏から飛び出してきた。

 その人物は両手を腰に当て、ぷんぷんと二人を睨み、澄んだ声で言った。

「どうして他人に別荘をあげるの?

 これはお父様が残してくれたものなのに!

 わがまますぎる!」


 青年の顔が硬直した。

 ばれるとは思ってもみなかった。

「なぜ来た? ふざけるな。俺には考えがある」


「やだ!」

 相手は彼の手を振り払い、頬をふくらませた。

 まるで怒ったハムスターのように。

「なぜなの? この人は、一体誰なの!」


 二人は言い合いを続け、大騒ぎになった。

 スキーナは逆に急がなくなった。

 腕を組んで、興味深げに目の前の少女を眺めた。


 目元は整っていて肌は白く、柔らかい三つ編み、レースのスカート、小さな革靴。

 どこから見ても可愛らしい貴族の小美人だ。

 怒っている姿も、殊更に可愛らしかった。


 心の奥に沈んでいた男魂が、また燃え上がった。

「あなたの奥さんなの?」


 もし違うなら、もっと仲良くなってもいい。

 スキーナは、こういう可愛らしい女の子に全く抵抗力がない。


 だがこの言葉が出た瞬間、相手の頬が「っ」と真っ赤になった。

 先ほどの怒りは一瞬にして消え、へそを曲げたように腕を組んで黙った。


 青年は気まずくて足先がこすれた。

「いえ、いえ! 誤解です!

 これは弟のエルベンです。

 小さい頃から女装が好きで。どうか悪しからず」


「え? 男なの?!」

 スキーナは目玉が飛び出るかと思い、近寄って目をこすった。

 自分の目が間違っているかと思った。


 三つ編み、レーススカート、小さな革靴。

 これほど整った美少女にしか見えないのに、まさか弟だったなんて!


 ストレートな視線に、エルベンは恥ずかしくて腹が立った。

 緊張してスカートの裾を引っ張り、スキーナを強く睨んだ。

「どうしてダメなの?

 何を着るのは私の自由!邪魔する?」


 いつもなら、スキーナはすぐに言い返しただろう。

 だが今は、ただただがっかりしていた。

 こんなに綺麗な顔なのに男だったなんて。

 もう、全く興味がなくなった。


「謝ってもらわなくていい」

 エルベンは足を踏み鳴らし、小さな革靴が澄んだ音を立てた。

「そんな残念そうな目で見ないで!

 私は町のどの女の子よりも可愛いんだから!」


「見て分かる」

 スキーナはため息をついた。

 青年から鍵を渡されて、やっと気持ちを立て直した。


「別荘を手に入れた!こんな楽なわけない!ははは!」

「バカ兄ちゃん!」

 エルベンは怒って青年を蹴飛ばした。


 青年はうめいたが、文句を言う勇気はなかった。

 とっくに慣れっこになっている様子だ。


 スキーナはこの凸凹兄弟をもう相手にせず、別荘の扉を開けて中に入った。


 空間は広々として採光も良く、自分と仲間たちが十分に住める。


「邪魔するな!中に入らせて!」

「待て!エルベン!」


 スキーナは慌てて扉を閉めた。

 だが「トントントン」という激しいノック音がすぐに響いてきた。

 うっとうしくてたまらない。


 彼女は仕方なく扉を開けた。

 案の定、エルベンだった。

「また何?」

 彼女は目じりを垂らし、苛立たしさを隠さなかった。


 エルベンは胸を張って、堂々と言った。

「ここはうちの家なの!

 中に入って監視してやる!

 勝手に壊したりしたら許さないから!」

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