美少女?美少年!
「ファンならさっさと来ろ。商売なら時間を決めろ。ぐずぐずしてうざい」
スキーナはイライラと足を動かした。
また、道を見ない通行人がぶつかってきた。
以前なら、この顔が異世界でもてることに内心嬉しかっただろう。
だが今日は、ただただ苛立たしい。
誰かを待ちくたびれて、堪らなくなっていた。
「カタカタ――」
澄んだ馬蹄音が近づいてくる。
金縁が飾られ、派手に装飾された貴族の馬車がゆっくりと道端に止まった。
料理店の両側の衛兵たちはすぐに身をかがめ、恐ろしいほどの格式だ。
スキーナは思わず舌を巻いた。
どこの坊ちゃんがこんなに目立ちたがるのかと突っ込もうとした。
だが車から降りてきた人物を見て、体が硬直した。
こいつは…… 先日料理店の二階の個室で、自分に告白してきた貴族の青年じゃないか。
なぜ、ここに来るの?
反射的に隠れたくなった。気まずいから。
だが足を動かした瞬間、スキーナは我に返った。
何を隠す?
何も悪いことをしていないのに、怖がることなんてあるわけない。
疑問に思っていると、青年の視線がすでに的確に彼女を捉えていた。
口元を優しく曲げ、大またに近づいてくる。
そして礼儀正しく彼女に手を差し出した。
スキーナは眉を上げた。
手を添えるわけがない。
彼女はいつも美少女としか手をつながない。
だがこの状況を見て、すべての因果が理解できた。
「私に手紙を書いたのは、お前だろう?」
「そうです」
青年の声は、滴るほど優しかった。
ところがスキーナは顔を曇らせ、振り返って行ってしまった。
「待ってください!」
青年は慌てて彼女を呼び止めた。
「別荘は要らないのですか?」
少女はたちまち足を止め、振り返った。
「言った通りにするの?」
「嘘はつきません!」
青年は慌てて頷き、目の奥に喜びを秘めて言った。
「食事をご一緒するだけで、食べ終わったらすぐに別荘を選びに連れて行きます。
町で一番良い三軒です。好きなのを、どれでも選んで差し上げます!」
スキーナは二、三秒心の中で計算した。
タダでもらえる別荘、もらわなければ損だ。
彼女は即座に振り返り、まっすぐ料理店の階段を上った。
「行こう。食べ終わったらすぐに別荘を見に行く。時間を無駄にするな」
「お先にどうぞ。個室を予約してあります。
料理はすべて一番高級な珍味を選びました」
「それは無駄遣いをありがとう」
スキーナの口調は平板で、少しも遠慮していなかった。
青年は口元をピクピクさせ、困ったように、そして寵愛するように笑った。
この娘の話し方は、本当に唯一無二のストレートさだ。
スキーナは勝手に主席に座った。少しも遠慮していない。
彼女は自分の美貌で得をするのは好きじゃない。
だが、自ら飛び込んできたカモは、扱わなければ損だ。
手あたり次第メニューをめくり、適当に数品を指した。
「これだけ。早く出せ」
青年はメニューをちらっと見て、黙って唾を飲み込んだ。
どれも一番高い料理ばかりだ。
心痛を抑え、本題を忘れない。
思い切って切り出した。
「…… 先日、獣潮を滅ぼしてくれた、眼帯をした謎の女性。
あなた、知っていますか?」
「それを何に聞く?」
「ご心配なく。ただ強者を敬愛しておりますので、素性が気になっただけです」
「お前とは関係ない」
スキーナはイライラとテーブルを叩いた。
「自分のことをしろ。料理はまだ出てこないの?」
最近、どうして町中の人間がリオノラのことを聞いてくるのか。
もし、あの子が魔女だとバレたら、きっと大騒ぎになる。
間もなく、美味しい料理がテーブルいっぱいに並んだ。
青年は和らげようと饒舌に説明した。
「このトリュフステーキは北部の黒牛使用、トリュフは百年物。
この銀鱈のキャビアは深海特産で……」
「食事してるのに口が塞げないの?」
スキーナは目を上げて彼を睨んだ。
「余計なことを言えば、今すぐ帰るわ」
青年は即座に口を閉じ、慌てて笑いを浮かべた。
「不行き届きでした。どうぞゆっくり召し上がれ」
スキーナ自身も、少し行き過ぎたと思った。
だが相手は少しも怒らず、ますます殷勤になる。
これを見れば、こいつが狙っているものは相当大きいに違いない。
しばらくして、彼女は食器を置き、満足げな顔をした。
「お腹いっぱい」
「お召し上がりいただけて何よりです!」
青年はすぐに立ち上がった。
「すぐに別荘を見に連れて行きます。三軒から好きに選んでください。
あなたと仲間たちでも十分に住める広さです」
スキーナは突然目を上げ、彼を睨みつけた。
「無駄に別荘をくれる、一体何が欲しいの?」
彼女には分かっていた。こいつは馬鹿じゃない。
本気で色に目がくらんでいるわけがない。
青年は口を開こうとした。
「いいや、言いたくないなら言うな。先に別荘を見に行こう」
もし彼が気が変わったら、別荘は手に入らなくなる。
青年は笑うに笑えず、すぐに勘定を済ませ、スキーナを馬車に乗せた。
間もなく、馬車は立派な別荘の前に止まった。
青レンガの塀、彫刻の門、明るく立派。
少女は目を見張った。
「次の一軒も見ますか?」
「いい」
スキーナは呆然と別荘を眺め、心にほっとした暖かさが込み上げてきた。
思ってもみなかった。
この異世界で、自分だけの居場所が手に入るなんて。
扉に手をかける前に、突然、影が扉の裏から飛び出してきた。
その人物は両手を腰に当て、ぷんぷんと二人を睨み、澄んだ声で言った。
「どうして他人に別荘をあげるの?
これはお父様が残してくれたものなのに!
わがまますぎる!」
青年の顔が硬直した。
ばれるとは思ってもみなかった。
「なぜ来た? ふざけるな。俺には考えがある」
「やだ!」
相手は彼の手を振り払い、頬をふくらませた。
まるで怒ったハムスターのように。
「なぜなの? この人は、一体誰なの!」
二人は言い合いを続け、大騒ぎになった。
スキーナは逆に急がなくなった。
腕を組んで、興味深げに目の前の少女を眺めた。
目元は整っていて肌は白く、柔らかい三つ編み、レースのスカート、小さな革靴。
どこから見ても可愛らしい貴族の小美人だ。
怒っている姿も、殊更に可愛らしかった。
心の奥に沈んでいた男魂が、また燃え上がった。
「あなたの奥さんなの?」
もし違うなら、もっと仲良くなってもいい。
スキーナは、こういう可愛らしい女の子に全く抵抗力がない。
だがこの言葉が出た瞬間、相手の頬が「っ」と真っ赤になった。
先ほどの怒りは一瞬にして消え、へそを曲げたように腕を組んで黙った。
青年は気まずくて足先がこすれた。
「いえ、いえ! 誤解です!
これは弟のエルベンです。
小さい頃から女装が好きで。どうか悪しからず」
「え? 男なの?!」
スキーナは目玉が飛び出るかと思い、近寄って目をこすった。
自分の目が間違っているかと思った。
三つ編み、レーススカート、小さな革靴。
これほど整った美少女にしか見えないのに、まさか弟だったなんて!
ストレートな視線に、エルベンは恥ずかしくて腹が立った。
緊張してスカートの裾を引っ張り、スキーナを強く睨んだ。
「どうしてダメなの?
何を着るのは私の自由!邪魔する?」
いつもなら、スキーナはすぐに言い返しただろう。
だが今は、ただただがっかりしていた。
こんなに綺麗な顔なのに男だったなんて。
もう、全く興味がなくなった。
「謝ってもらわなくていい」
エルベンは足を踏み鳴らし、小さな革靴が澄んだ音を立てた。
「そんな残念そうな目で見ないで!
私は町のどの女の子よりも可愛いんだから!」
「見て分かる」
スキーナはため息をついた。
青年から鍵を渡されて、やっと気持ちを立て直した。
「別荘を手に入れた!こんな楽なわけない!ははは!」
「バカ兄ちゃん!」
エルベンは怒って青年を蹴飛ばした。
青年はうめいたが、文句を言う勇気はなかった。
とっくに慣れっこになっている様子だ。
スキーナはこの凸凹兄弟をもう相手にせず、別荘の扉を開けて中に入った。
空間は広々として採光も良く、自分と仲間たちが十分に住める。
「邪魔するな!中に入らせて!」
「待て!エルベン!」
スキーナは慌てて扉を閉めた。
だが「トントントン」という激しいノック音がすぐに響いてきた。
うっとうしくてたまらない。
彼女は仕方なく扉を開けた。
案の定、エルベンだった。
「また何?」
彼女は目じりを垂らし、苛立たしさを隠さなかった。
エルベンは胸を張って、堂々と言った。
「ここはうちの家なの!
中に入って監視してやる!
勝手に壊したりしたら許さないから!」




