戸口の手紙
「まったくもう、スキーナ、また家に美少女を連れてきたの?
どうやら私たちのどちらかが、ベッドの下で寝なきゃならないみたいね」
ノヴァはリオノラをじろじろと眺めながら、ペラペラと口を動かし続けた。
「この私、彼女の身から溢れる滔々たる魔力を感じ取ったわ。
この人物の実力は、この私に決して劣らない」
「あんたたち、もういい加減にしなさい!」
スキーナは頬を赤く染めた。
なんて家に美少女を連れてきただなんて、自分はちゃんとした人間なのに。
それにリオノラの性分はまるで掴めていなかった。
もしノヴァが口から災いを呼んだら、彼女を守りきれる保証などなかった。
「スキーナ、このお嬢様は目が不自由なの?」セリアが尋ねた。
「私にもよく分からないわ」
目が不自由なんて、ありえないとスキーナは思っていた。
だってこの魔女は、数多くの魔物と連戦できる体術と魔法の両方を極めた存在なのだ。
眼帯をしているのは、ただカッコつけているだけだろう。
「汝らの誹謗の罪は、赦してやろう」
リオノラが言った。清らかで冷ややかな声が、場の空気を静めた。
「えっとねエレシア、どうやらあなたと張り合えるくらい厨二病のライバルができたみたいね」
「ノヴァ、死にたいの?」
その後、数人はまたにぎやかに騒ぎ始めたが、現実の問題は残ったままだった。
この家はあまりにも狭すぎる。
スキーナは大きな布団でみんなで一緒に寝るのも悪くないと思ってはいたが、一日中腕がだるくなるのは勘弁だった。
だが幸いなことに、彼女にはお金ができたのだ。
「セリア、明日この辺りで売りに出てる別荘を探してきて。大きめのやつを、ケチらなくていいわ。ついでに借金も返してきなさい」
スキーナは満面の笑みで、稼いだ二百十九枚の金貨をすべてセリアに渡した。
これは彼女がのんびり暮らすための元手であり、自分の実力を証明するものでもあった。
「うん」
ずっしりと重い金袋を見て、セリアは唇をまっすぐに閉じ、複雑な気持ちになった。
どうやら自分はチームの購買担当と会計担当になったらしい。
「わらわは現界に住まう必要はない」
見ると、彼女は片手をさっとかざし、暗くうねる亀裂を出現させた。
そしてスカートの裾をつまんで、その中にするりと入っていった。
この光景を見て、スキーナは頬を少し膨らませ、笑いをこらえていた。
この魔女、時々すごくおかしい。
だが家の問題は依然として残っていた。
前はやむを得なかったが、今になってケチケチしているわけにはいかない。
例えば今でも、家の中に三人を超えると窮屈に感じるのだ。
全員が華奢な美少女だというのに。
そこでスキーナは外に出て息抜きをし、ついでに物資を買い出すことにした。
通りに出ると、見たところいつもと変わらない…… はずだった。
「スキーナ様ですね!どれでもお好きなものをお選びください!今日は半額です!」
「お嬢さん、パンをどうぞ!焼きたてですよ、お金はいりません!」
「あなたのおかげで町が守られました!こんなもの、なんでもありません!」
品物は半額どころか無料で渡され、気づけば彼女の手の中にどんどん押し込まれていた。
町がすっかり変わったわ!
スキーナは山のようなパン、果物、布地を抱え、目を三日月のように細めて笑った。
彼女はもともと遠慮しない性格なので、もちろん来るものは拒まなかった。
今日の幸運はここまでだろうと思っていたら、また大勢の人々がどっとやってきた。
先頭に立っていたのは、髪を真っ白に染めた老紳士だった。
胸には勲章が縫い付けられており、魔法使い協会の人間だ。
「あなたがスキーナ様ですね。まったく人は見かけによりませんな。
我々は魔法使い協会の者です。この度は、あなたともうお一人の魔法使い様のおかげで町が守られました。厚く御礼を申し上げます」
スキーナは唇を少し下げ、握っていた手が硬直した。
なんて人は見かけによらない、って?自分が強者に見えないってこと?
「私たちに用事があるの?それともただ御礼に来ただけ?」
彼女は小学生みたいに褒められて喜ぶような人間ではない。
欲しいのは、魔法書や金銭といった、形のあるものだ。
「おおっと」
老紳士はひとつげして自分の額を叩き、スキーナの意図を理解した。
そして数冊の魔法書を取り出した。
「我々が今回お越ししたのは、御礼もさることながら、もう一つお願いがあってのことです。
あなたと共に降臨された、眼帯をなさっている魔法使い様は、今どちらにいらっしゃいますでしょうか?」
「あなたたちが彼女を探して、一体何をするつもり?」
本はもちろん受け取ったが、リオノラを渡すつもりなど毛頭なかった。
「ご安心ください。悪意などございません。
あのお嬢様の魔法の造诣は、我々の認識をはるかに超えております。
ただ、ぜひ一度お伺いして教えを乞い、我々の魔法の未熟な点を補いたいだけなのです」
「それなら知らないわ。彼女は外出していて、まだ帰ってきていないの!」
「そうでしたか」
彼らは顔を見合わせた。
お会いする機会を逃したとはいえ、がっかりしながらも、スキーナに彼らの想いを伝えてほしいと頼んだ。
スキーナはリオノラが今何をしているか、知っていた。
たぶん、あの遺跡を探しているのだろう。
だがたぶん無駄足に終わるだろう。
だって彼女は魔女であって、考古学者ではないのだ。
数百年前の遺跡など、とっくに歳月に埋もれてしまっている。
「スキーナ、私、あなたに謝らなきゃ……!」
振り返ると、泣きそうな顔のセリアがいた。
「またどうしたの?まさかお金を全部寄付しちゃった、なんて言わないでよね?」
「そんなことはありません。ただ、高利貸しを完済したら、残りは二十枚の金貨になってしまって……
それに、周りの村は獣潮で跡形もなくなってしまって、今の町では家がどこにもなくて。
私たちのお金では……」
「一気に最後まで言いなさい。私は耐えられるわ」
「お金で、普通の別荘を一ヶ月借りるのがやっとです!」
がちゃり――
スキーナから色が抜け落ちた。
絶対に通貨の問題だ。こっそり価値が下がったに違いない。
そうでなければ、こんなに英明な転生者である自分が、家一つ買えないわけがない。
この一件で、少女は街を散策する気力を失い、抜け殻のように家へと歩いて帰った。
頭の中では、協会の依頼にどう応えるべきか、リオノラにこの件を伝えるべきか、という考えがぐるぐると回っていた。
「あれ?」
家のドアノブの上に、封をされた手紙が静かに置かれていた。
アイボリー色の封筒には、差出人の名前はなく、小さな蝋印だけが押されていた。
「どうやら誰かが手紙を送ってきたみたいね」
「どうして私たちの住所がバレたのかしら」
リオノラだって彼女が連れて帰ってきたのに、誰がここに手紙を送ってくるのだろう?
魔法使い協会の人間?それとも、彼女の力を狙う他の勢力?
彼女は慎重に手を伸ばして手紙を取り上げ、中の便箋を取り出した。
すると、途端に目を細めて笑った。
「敬愛するスキーナ様
御大名をかねてより承っております。イグルスタの町を救われた御壮挙を目の当たりにし、小生は心から敬慕の念を抱きました。
近々、住まいにお困りとのことを伺いました。小生不徳ながら、名下に複数の空き別荘を所有しております。いずれも広々と快適な造りとなっておりますので、お好きなものをお選びいただければ幸いです。
ささやかながら、敬意を表するためのほんの気持ちです。
もしご希望がございましたら、明日の午後、町東にある「炉と朝の光」にお越しくださいませ」
少女はセリアが家を探すのに手間取っている上に、お金がかかりすぎるのを悩んでいたところだった。
まさかこんなタイミングで、誰かが主动的に別荘をプレゼントしてくるなんて!しかもタダで!
セリアがそばに寄ってきたのを見て、スキーナは口角を上げ、手に持った便箋をひらひらと振って、得意げな口調で言った。
「ほらね?いざという時は、私の名声が頼りになるのよ!
慕ってくれる人がタダで別荘をくれるんだから、あなたがあちこち走り回る必要もなくなったわ!」
「罠かもしれませんよ?」
「セリア、運命が贈り物をくれた時は、疑うことなく素直に受け取るものよ。疑心暗鬼になっちゃいけないわ」
それに――
スキーナは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
これからリオノラも一緒に住むことになる。
誰が来ようと、どんな悪い心を持っていようと、死ぬだけだ。
その上で、自分はタダで別荘を手に入れられるのだ。




