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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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封印を解き、魔女降臨

 彼は痛ましい悲鳴を上げた。

 五色竜の中で最も地位の低い白竜とはいえ、彼にも己の誇りがある。人間に屈するなど、あってはならないことだ。

 彼はもがこうとしたが、長年の封印でかつての俊敏さは失われていた。黄金の巨剣が己の首筋に振り下ろされるのを、ただ見つめることしかできなかった。


 ぷしゅっ――

 竜の血が滝のようにほとばしった。


 巨体の竜身が何度か揺れ、瞳の光は点滅を繰り返し、やがてどさりと血の海に倒れ込んだ。


 この光景を見て、スキーナの心は乱れた。

 この女は冷酷非情で、目的のためなら何でも切り捨てる。

 もし将来、自分が彼女の邪魔になったら、同じように殺されてしまうのだろうか?


「緊張するな」


 スキーナは本体の拘束が解けたのを感じ、次の瞬間に人型に戻った。彼女が手を緩めてくれたのだ。


「最深の復讐を成すには、この手を穢さずにはいられない」


 契約を結んだことで、彼女のスキーナに対する信頼は全く新しい次元に達していたらしい。彼女の心の動きにまで気を配り、まるで自分の行動を弁解するかのように言ったのだ。


 なぜだろう、この魔女に同情の念を抱いてしまう自分がいた。

 だが、足元に跳ね返る血しぶきは、はっきりと一つの事実を突きつけてくる。

 この魔女からは、できるだけ距離を取った方がいい。


 だが、今日は新しい発見があった。

 どうやら獲得できる能力は、倒した相手に関連しているらしい。


 というのも、彼女は数多くの能力の中に「竜語」を見つけたのだ。

 残りの枠で彼女が選んだのは――


【命灯未消】瀕死の状態で、一時的に意識を維持できる

【御剣の術】聖剣は縁のある者を待つ必要はなく、自ら勇者を探して移動できる


 この魔女についていれば、確かにメリットは山ほどある。

 だが、セリアの方は今どうしているだろうか。


 続いてスキーナは死体漁りに変身し、様々な魔物の体から有用な素材を切り取っては収納指輪に入れていった。


 大収穫だわ!


 嬉しそうに地下室を出たスキーナの目に入ったのは、リオノラの姿だった。

 彼女は王座にきちんと座り、まるで荘厳な彫像のように佇んでいた。


 孤独で、輝いている。

 この二つの言葉が一人の人間に宿るなんて、思いもしなかった。

 黒金の衣は黄金の王座の上に広がり、蝋燭の光が彼女の金髪に降り注ぎ、流れる金の粉のように煌めいていた。

 だが、黒布で隠された目元の輪郭は、見る者の想像力を掻き立ててやまない。


 気まずい――


「普段はここに、あなた一人だけなの?」

 スキーナは話題を探した。だが、無口な少女と会話するのは、どうも苦手だった。


「うん」


 これはあまりにも可哀想だ。まるで一人ぼっちのお留守番魔女じゃないか。


「誰も話し相手はいないの?」

「さっきの連中がそうだ」


 リオノラは意外にも「おとなしく」答えた。だが、最後の一言で、スキーナは思い出した。

 この子は、隣の家の優しい女の子なんかじゃないのだ。


「だったら外に出てみれば?人間の世界はにぎやかだし、面白いこともたくさんあるわ……」


 生き生きとしたにぎやかさを見せれば、彼女の骨の髄まで染み込んだ執着も、少しは和らぐかもしれない。


「わらわは…… 出られない」

 リオノラはそっと首を振り、指先をわずかに丸めた。


「教廷がここに三重の封印を施している…… わらわは、汝に魔女の代弁者となって、世を歩んでほしい」


「わらわは高等魔法をすべて教えよう。汝に、すべてを覆すだけの力を与える」


「そしてあなたみたいに獣潮を引き起こすの?」

 教廷のことは好きになれないが、魔女だってどう見ても善玉とは言えない。スキーナはそう思った。


「イグルスタの町は、かつての魔女都市の跡地だ。地下には魔女の遺跡が眠っている」

 彼女の声に、初めて切迫感が宿った。

「そこに、封印を解く宝がある。わらわが獣潮を動かしたのも、そのためだ」


 それを聞いて、スキーナは頭がくらくらした。

 また見えもしない理想だの、果てしない使命だの。

 彼女はただ平穏に楽しく暮らしたいだけなのに、こんな因縁に巻き込まれたくなんてない。


「たかが封印くらい、私が解いてあげるわ」


 言葉が落ちた瞬間、王座のリオノラは頭を上げた。

 彼女の周身の気が一気に制御を失い、スキーナが吹き飛ばされそうになった。


 こいつ、ここに長く居すぎて精神がおかしくなっちゃったのか?

 じゃなきゃ、こんなに魔力が異常なはずがない。


 リオノラはスキーナの前まで駆け寄り、細い指先を伸ばした。

 次の瞬間、スキーナの手に冷たい感触が伝わった。

 骨のないような柔らかい手が、だんだんと力を込めて締め付けてくる。

 まるで、最後の一本の藁を掴むように。


「お願い…… この城の封印を、解いてほしい」


 スキーナは、こんなに彼女が取り乱し、脆くなった姿を初めて見た。


「約束してもいいわ。だが、あなたは獣潮を止めなければならない」


「うん」


「罪のない者をむやみに殺してはいけない」


「良いだろう」


 実は契約を結んだ後で、彼女はスキーナの能力に気づくこともできたはずだ。

 だが、彼女の高慢さがそれを許さなかったのだろう、気づいてはいなかった。


 正直なところ、スキーナは彼女を外に出したくなかった。

 だが、ずっとここに彼女と一緒にいるわけにもいかない。

 リオノラには気高く独特の美しさがあり、一緒にいても退屈はしないだろう。

 だが、博愛精神の持ち主である彼女が、一本の木のために森全体を捨てるはずもない。


 想像していたようなドラマチックな展開もなく、ただ「零縛界」を一度発動しただけだった。

 まるで何かの障壁が砕けたかのように、リオノラは城の外へと歩み出た。


 久しぶりの陽光が降り注ぎ、彼女の黒金の衣を照らした。

 金髪が光の中で煌めき、だが彼女の体はわずかに震えていた。


「約束を守ってね」


「必ず守る」


 たった一瞬、彼女の足元に淡い金色の魔法陣が輝いた。

 周囲の景色が一気に変わる。


 スキーナは下を見て、思わず悲鳴を上げそうになった。

 二人はなんと、イグルスタの町の上空に転移していたのだ。

 下には黒い斑点が広がっている、あれは群れを成した魔物に違いない。


「あなた、何をするつもり?」


 リオノラは答えなかった。ただ手を上げ、指先に濃厚な金光を宿らせた。


 次の瞬間、下の魔物の群れが次々と血しぶきとなって爆散した。

 まるで見えない大きな手に、踏み潰されたかのように。


 私、とんでもない太ももにしがみついちゃったのかしら?


 こんなにたくさんの魔物を、全部自分で倒していたら、どれだけの才能がアンロックできたことか。

 だが今となっては、まともな死体すら残っていない。


 上から見下ろしている分には、それほど驚きもしない。


 だが下から見上げれば、その術の威厳は人を驚かせるに十分だった。

 リオノラがスキーナを連れて空から降り立つと、すぐに誰かが「どさり」とひざまずいた。

 震える大きな声が、耳に飛び込んでくる。


「神様が降臨した!神様が現れたんだ!」


「ほら、みんなが汝を讃えているわ」


「つまらない、浅はかな人間どもだ」


 スキーナは口を尖らせた。

 まったく、この子は冷たい氷山そのものだ。

 人間の世の素晴らしさを感じさせるには、まだまだ道のりが長そうだわ!


 突然、人ごみの中から小さな影が飛び出してきた。

 リオノラの細い耳がわずかに動き、手を上げようとした瞬間、スキーナが慌てて止めた。


 ぱしゃっ――


「スキーナ!」


 泣き声の混じった、透き通った呼び声。

 柔らかい塊がスキーナの腕の中に飛び込んできた。

 少女の小さな頭がくるくると肩で震え、やがて腕の中から顔を上げた。

 涙でいっぱいになった真っ赤な目が、スキーナの心に突き刺さった。


「泣かないで。私は無事よ、なんともないわ」


「みんなが、スキーナは死んだって言うの…… ううう……」


 セリアはますます激しく泣き、スキーナを強く抱きしめて離さなかった。


 いつもは恥ずかしがり屋のこの子が、こんなに激しく自分への想いをぶつけてくるなんて、初めてのことだった。

 胸の中のときめきも、押し込められてしまった。


 今すぐにでも家に帰って、セリアとずっと寄り添っていたい!

 だが、自分がそばにいないと、この魔女が町でとんでもない大事件を起こしかねない。


「彼女は誰?」


 セリアは突然スキーナの腕の中から顔を出し、そばに佇む影を見た。

 金髪が溶けた金のように腰まで垂れ、衣はありえないほど華やかだ。

 それを見て、自分なんてまるで醜いアヒルの子だと、恥ずかしくなって首を縮めてしまった。


「彼女はリオノラよ。…… 私を助けてくれた人なの」


 仕方がない、嘘をつくしかない。

 強制的に契約を結ばれたなんて、言えるわけがないだろう。


 スキーナはセリアの背中をそっと撫で、緊張した猫をなだめるようにしながら紹介した。

「こっちは私の友達、セリアよ」

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