私の動物の相棒
どう見てもこの黒熊は、老神父にひどく痛めつけられていた。
雨の中で体温は少しずつ奪われていき、このままなら流血死してしまうのは時間の問題だ。
「吼 ——」
スキーナは驚いて一歩下がり、靴の踵は泥に沈み、冷たい感触に体がピクリと震えた。
理性は彼女に告げていた。
今すぐ振り返って逃げるのが、唯一正しい選択だと。
彼女はただの少女だ。
こんな状況で勇者気取りになるべきじゃない。
それに追っ手もいる。今の彼女にとって、時間は何よりも貴重なのだ。
だが振り返ろうとしたその瞬間、彼女は足を止めた。
その緑色の瞳には、捕食者の貪欲さなどなく。
痛み、警戒、そして絶望的な状況に追い詰められた諦めだけが宿っていた。
熊は、もう自分の行く末を分かっているようだった。
「…… ち」
スキーナは心の中で自分を叱った。
認めるしかない。
彼女は心が弱っていた。
なぜこんな時に心が揺れるのか分からない。
あまりにも痛々しい傷のせいかもしれないし、間接的に自分が瀕死にしてしまったせいかもしれない。
結局、スキーナはここを離れた。
雨音がすべてをかき消していた。
再び姿を現した時、黒熊は明らかに一瞬硬直し、低い唸り声は一気に慌ただしくなり、体を少し前のめりにした。
まさに今にも飛びかかろうという体勢だ。
「動かないで……」
スキーナは声を出した。
とても柔らかく、母性のような優しさが滲んでいた。
人語の分からない獣にこんなことを言うなんて、自分でも馬鹿げていると思った。
それでも彼女は両手を上げ、わざと動作をゆっくりにして、無害だと示した。
黒熊は襲ってこない。
ただじっと彼女を睨んでいた。
黒と赤が入り混じる傷を見て、スキーナは見つけてきた止血草を口に入れ、奥歯で噛み潰した。
草が砕かれた瞬間、苦みが口の中に広がり、目がしみてくる。
「ん…… っ」
そして噛み潰してペースト状になった薬草を手のひらに吐き出した。
スキーナはしゃがみ、指をわずかに震わせながら、慎重に肉が捲れた傷に塗りつけた。
黒熊は一瞬硬直し、低く唸った。
「我慢して……」
彼女は言った。
「じゃないと、死んじゃうよ」
この世界の薬草は、薬効が強いらしい。
血のにじみ出るスピードが目に見えて遅くなった。
手のひらが血でべたつくのも気にせず、スキーナはもう一層塗り重ねた。
せっかく噛んだのだ、無駄にはできない。
この瞬間だけ、時間がゆっくりと引き伸ばされた。
雨音、呼吸音、心音が、異常にはっきりと聞こえる。
ついに黒熊の緊張した体が緩み、重く疲れた喘ぎ声を漏らした。
もうスキーナを警戒することはなく、ただそこにうずくまり、小さな人間が傷の手当てをするのを許した。
木の下だってよかった。
でなければ薬が雨で流されてしまう。
すべてが終わった時、彼女は自分がどれだけ突拍子もないことをしたのか気づいた。
顔を上げると、スキーナは疲れた緑の瞳と目が合った。
「…… もう大丈夫だよ」
彼女は手を伸ばし、その体を軽くたたいた。
雨はまだ降っていた。
だが最初のような、追い詰めるような勢いはなく、疲れ果てた後の余韻のようになっていた。
とっくに体力は底をついていた。
一晩中神経を張り詰めていた反動が、一気に押し寄せてきた。
彼女は熊の側に寄りかかり、ほんの少しだけ目を閉じたかった。
黒熊は低く鼻を鳴らし、まるで不器用な優しさを込めて。
巨大な前掌をゆっくりと上げ、彼女をすっぽりと包み込んだ。
それは熊にとって、限りなく優しい動作だった。
濡れた柔らかい黒い毛皮、厚い脂肪。
まるでふっくらとした枕のようだ。
そして暖かい熊の掌が、夜の雨の冷たさを遮ってくれる。
熊の体温が肌に伝わってくる。
スキーナは呼吸が次第に落ち着き、疲労と安心感に包まれ、そのまま眠りに落ちた。
朝の光が、洗い清められた葉々から漏れてさす。
湿った空気には土と草のにおいが混ざり、遠くから小鳥のさえずりが細くて澄んだ声で聞こえてくる。
スキーナは、かすかな突かれるような感触で目を覚ました。
ぼんやりと眉をひそめ、寝返りを打とうとしたが、何かに邪魔されて動けない。
次の瞬間、温かくてザラザラしたものが頬にすり寄ってきた。
彼女は勢いよく目を開けた。
目に飛び込んできたのは、すぐそばにある黒熊の頭。
濡れた鼻先がそっと彼女を押している。
「…… 朝になった?」
スキーナは二秒ほど呆気にとられ、やっと現実を理解した。
熊にもたれて一晩中眠っていたなんて。
彼女は背伸びをした。
体は予想していたほど硬くならず、意外にもスッキリしていた。
黒熊は彼女が動くのを見て、再び低く鼻を鳴らした。
まるで返事をするように。
そして舌を出し、遠慮なく彼女の顔をペロペロと舐めた。
「きゃ――!」
スキーナはびっくりして体を後ろに引け、顔がくすぐってたまらない。
彼女は逃げながら笑い、声は寝起きのかすれたままだ。
「や、やめて! いい子だから、やめて!」
黒熊は首をかしげた。
抗議の意味がよく分からない様子だ。
だが舌は引っ込め、頭でそっと彼女にすり寄ってきた。
もう敵ではないことは明らかだった。
スキーナは手で顔を拭う。
びしょ濡れだ。
だが気分は不思議と晴れやかだった。
彼女はこの大きな熊を見上げた。
立ち上がった自分の二倍以上はある。
漆黒の毛皮は濡れても艶やかだ。
この熊が友達になってくれたなら、俺にもだいぶ力がついたも同然だ。
「くまちゃん」
この熊はこの世界の力で、かなり知能が高いらしい。
彼女は手を伸ばし、うつむいた頭をなでた。
「これからは、君の名前を熊大って言うね!」
「あ、あちゃ――! 手のひら舐めないで」
すると黒熊は低く鼻を鳴らし、ゆっくりと体を伏せ、頭で自分の背中の方をつついた。
意味は明白だ。
スキーナは一瞬、きょとんとした。
「…… 乗っていいの?」
彼女はためらいながら、広くて厚い黒い背中を見つめ、熊の確かな瞳を見た。
短いためらいの後、彼女は熊の肩に手をかけ、慎重に乗り上がった。
思ったより、ずっと安定していた。
熊の背中はゆったりと起伏し、筋肉が毛皮の下でゆっくりと動く。
一歩一歩、しっかりと大地を踏みしめている。
スキーナは無意識に首の毛を握り、体が歩調に合わせてゆったり揺れた。
「嬉しい!」
この瞬間、臆病も、慎重さも、全部捨て去った。
森の覇者の背中に乗る時、そんなものは必要ない。
スキーナは笑い、白い髪が陽の光を浴びてきらきらと輝いた。
人間は生まれながらに、乗り物が好きで火を好む生き物らしい。
熊の背中の揺れるリズムが、ずっと昔の記憶を呼び起こした。
あの時も、誰かに担ぎ上げられて、視界が一気に高くなり。
風が頬をなで、世界のどんなものも彼女を傷つけられないように思えた。
そう思った瞬間、また悲しくなった。




