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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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魔女の時代

 ここは恐ろしく暗かった。

 窓から漏れ込むわずかな光が、やっと城の内部の輪郭をなぞっている。


 失血しすぎたのか、彼女は激しく寒さを感じた。

 そのせいで、聖剣の一部に錆が浮き始めていた。


 彼女の頭の中は、疑問でいっぱいだった。

 ここは一体どこなの?

 この不気味な城は誰のもの?

 魔鷲はどうして自分をここに連れてきたの?


 それよりも不安だったのは、あの魔鷲がまだ去らないことだった。


 魔鷲は少し離れた木にとまり、翼をたたみ、丸い瞳を彼女に釘付けにしていた。

 まるで監視しているようでもあり、何かを待っているようでもあった。


 その時、極めて小さな足音が聞こえてきた。

 ゆっくりと一定の間隔で、「カタ、カタ」と。

 一歩ごとに、スキーナの張り詰めた神経を踏みつけるようだった。


 ついに、光がその姿を照らし出した。

 眩しい――それがスキーナの最初の感覚。

 二つ目は華やか。あるいは、その両方が一体となっていた。


 彼女は黒金の織り成す衣に包まれ、

 大きな魔法帽の縁が顔の大半を隠していた。

 ただ、黄金のような金髪だけが、帽縁から流れ落ちていた。


 美しい、尊い――そんな言葉がやっと形容に足る。

 スキーナは、自分の言葉の貧しさを恨んだ。


「お前は、彼女を傷つけた」

 その言葉で魔鷲はすぐにすすり泣くような声を上げた。

 怯えているようでもあり、言い訳をしているようでもあり。

 鉄の爪を木に引っ掛けたり離したり、ひどく緊張していた。


「はあ……」

 スキーナは、そのかすかな嘆息を聞いた。


 続いて、淡い金色の魔法紋が地面から浮かび上がった。

 え? 聖剣を滅ぼすつもり?

 スキーナは剣身を軽く震わせ、決死の覚悟で挑もうとした。

 ところが、魔法は意外にも魔鷲に向けられていた。


 魔法を受けた魔鷲は悲しげに鳴き、体が徐々に膨らみ、

 全身の羽が伸び、抜け落ちていく。

 まるで、ある種の変化を迎えているようだった。


 スキーナは驚いてその様子を見つめていた。

 魔法に対する自分の常識が、根底から揺さぶられていた。


「紫焔鷲……

 陽の下では紫色に輝き、翼を動かすと炎が踊るように見える。

 それで、そう名付けられた」

「10 年に一度、変態を遂げる。

 その時、羽はすべて抜け落ち、一週間、飲まず食わずで新しい羽が生える。

 私の魔法は、ただその過程を早めただけだ」


 誰に説明しているのだろう?

 ここに他に人はいないのに。


「さあ、行け」

 少女の声は淡く、だが疑いを容れぬ力が宿っていた。


 魔鷲――いや、紫焔鷲は敬って頭を垂れ、

 やがて羽ばたき、空に消えた。


 たちまち、部屋は静まり返った。

 スキーナは、ただ自分に気づかれまいと祈った。


「チリッ!」

 蝋燭が灯された。

 魔法使いでもマッチを使うのだろうか?


 彼女はゆっくり立ち上がり、広い衣が床をなびかせ、

 スキーナの元まで歩いて来た。

 腰をかがめ、剣を拾い上げ、冷たい指先でそっと剣身を撫でた。


 その瞬間、スキーナは暖かく圧倒的な力が流れ込んでくるのを感じた。

 肩を鉤爪で貫かれた激痛が、一瞬にして消え去った。


「カロランディの聖剣……

 ついに、あるべき場所に辿り着いたわ」


 下から見上げると、この少女の目元には黒布が巻かれていた。

 整った顎のラインだけが、世にも鮮やかだった。


 スキーナは自分がこの大陸で一番美しいと思っていたが、

 今日、この座にライバルが現れたと悟った。


「聖剣、あなたに意識があるのは知っている。

 別の姿になりなさい」


 声が落ちた瞬間、スキーナはたちまち人型に戻り、

 彼女の腕から飛び出した。

 身のこなしは軽やかで、着地直前に片手で地面を突き、

 そのまま後方へ回転し、二人の距離を安全に保った。


「シャッ!」

 少女は剣の先をすっと彼女の胸元に突きつけ、

 警戒に満ちた鋭い構えを見せた。


「どうして、私をここに連れてきたの?」

「わらわは、汝が必要だ」


 彼女の声は舞い落ちる雪のように抑揚がなく、

 まるで、それが当然のことであるかのようだった。


 そんな理由で納得できるはずもない。

 治してもらったとはいえ、獣潮の原因は、この魔女と切っても切れない関係に違いない。


「誰もが私を欲しがるけど、

 こんなにストレートなのは初めてよ。

 さあ、行くわ」

 スキーナは剣を向けたまま、ゆっくりと後退した。


「行かないで!」

 スキーナが扉の近くまで後退した瞬間、

 無形の魔力が彼女の四肢を縛り上げ、続いて抗いがたい引力に包まれた。


 まさか…… 詠唱なしで!?

 目の前の魔女に近づいていく自分を感じ、

 スキーナは必死に手首をひねり、剣を胸元に構えた。


「キン――」

 スキーナは宙に浮かんだまま止まった。

 少女の目は隠されているのに、すべてを感知しているのは疑いようもなかった。

 こんな強者がなぜ知られていないのか。彼女は問いかけた。


「あなたは、一体誰なの?」

「魔女の時代の黄金魔女――リオノラよ」


 彼女はそっと頭を下げ、数本の金髪が帽縁から滑り落ち、

 つるりとした顎に張り付いた。

 窓から風が入り、黒金の衣の端をなびかせ、かすかな音を立てた。


 その言葉を言い終えると、彼女はしばらく黙った。

 考え、思い出しているように。

 やがて、さらに続けた。

「汝…… 覚えている?」


 覚えている? 何を?

 言葉に滲む哀しみに、スキーナの胸は震えた。

 幼い声であっても、その重みははっきりと伝わってきた。


 スキーナがなかなか答えないのを見て、リオノラは寂しげに振り返った。

 ちょっと! 私、まだ宙に浮かんでるわよ!


 彼女の心の声が聞こえたかのように、

 スキーナの体の力は抜け、ついに両足が地面に着いた。


「彼らはわらわを異端と呼び、魔女の時代を闇と呼んだ」

 リオノラの指先は衣の金の模様をそっとなぞり、偲び、惜しむように言った。

「だが、汝ら人間が作った王朝だって、こんなものよ」


 思い出した。

 誰かの教義で読んだことがある。

 伝説の魔女の時代、人間は奴隷となり魔女が世界を支配した。

 王国と教廷が手を組んでこれを倒し、人間の自由が取り戻された。

 神が神器を与えたのだと。


 …… って、その神器って、もしや聖剣?


「するとあなたは……」

 スキーナは慎重に問いかけた。

 自分の推測が当たらないことを願いながら。


「わらわと共に、人間の王朝を覆し、

 魔女の栄光を取り戻そう!」


「あなた、狂ってるわ!」

 スキーナは教廷を覆したいと常に思っていたが、

 卵で石にぶつかるような真似はしない。

 エセラン王国がどんな国か?


 道で百姓を一人捕まえれば、誰もが答えるだろう。

 北へ魔族を漠北まで駆逐し、

 西へグリューマン帝国を征し、

 大陸に幾百年も覇を張り、諸族を圧迫し続けてきた国。


 今、キラキラした魔女一人に「反逆しよう」と誘われて、

 命がけでついていくわけ、ないわ!


「わらわは狂ってなんかいない」

「わらわは魔女の時代の生き残り。復興の使命を背負っている。

 もし汝が拒むなら、無理には……」


 その言葉を聞いて、スキーナはほっとした。

「…… やむを得ない場合を除いて」


 言葉と同時に、彼女はスキーナの手首を一瞬で捕まえた。

 すごい力!

 こんなに細い腕なのに、全く抜けられない。


「七百年前……

 ヴァレリウス家は聖剣を使って大陸の王権を築いた。

 教廷は聖剣によって何千万もの信徒の信仰を結集した。

 わらわたちの時代を葬り去ったのだ」

「彼らは安泰だと思っているだろうが、

 魔女たちにだって、聖剣が手に入るのを知らないでいる」


「一体、何をするつもりなの!?」

 スキーナは顔を歪め、どれだけ攻撃しても空気の壁が遮るだけ。

 ただ、彼女の白い手首から赤い紋様が這い上がってくるのを、見ていることしかできなかった。


「痛くなんて、ないわ」

 スキーナは胸に鋭い痛みを感じた。

 見知らぬ力が無理やりに侵入し、自分と絡み合い、解けなくなる。


 彼女は心の底から驚愕した。

 これは契約だ。しかも、自分の意思を無視して!


 リオノラはそっと頭を上げ、

 黒布の下の目元が、スキーナの顔を向いているようだった。


 足元に、淡い金色の魔法陣がぽっかり現れた。

 まるで無形の枷のように、スキーナの力を彼女と強く結びつけた。

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