表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/43

売買と大儲け

 物事はすべて、スキーナの思う通りに進んでいた。


 わずか数日の間に、町全体が恐慌に包まれた。

 町の東に謎の精霊予言者が現れ、もうすぐ獣潮が町を襲うと予言したという。

 冒険者たちは、山の中で魔物たちが異常に集まり始めたと口々に話し、これこそ獣潮の前兆だと騒いでいた。


 冒険者協会の依頼板の前は閑散としていたのに、人々は気が狂ったように武器や鎧を買い占めていた。


 パン屋の乾パンは一瞬で売り切れ、通りを歩く人々は足取りも慌ただしく、不安に怯えていた。


「ははは――」

 スキーナは有頂天になり、すでに大儲けした後の楽しい生活を思い浮かべていた。


「あの人間たち、本当にバカばっかり。私が何を言っても信じるし、質問攻めにして、もう耳が痛いわ」

 エレシアは皮肉っぽく言い、相変わらず人間を嫌っていた。


「人間は複雑な生き物よ。

 利口な者もいれば愚かな者もいる。

 共通しているのは、権力と利益を求め、生きたがり、死を恐れることだけ」


「こんな下劣なことに熱中するのは、人間だけよ。

 もう、あんな人間相手にさせないで」


 彼女の言葉が終わるか終わらないうち、ノヴァが嬉しそうに扉を開けて飛び込んできた。

「スキーナ!エレシア!

 店主たちがお金を全部持ってきたわ!すごくたくさん!」


「行こう、みんなで成果を見に行こう」

 スキーナは、精霊の功労者を忘れるわけにはいかなかった。


 エレシアは「めんどくさい」とぶつぶつ言いながらも、引かれるままについてきた。

 実は、いくらもらえるのか気になって仕方なかった。


 三人は急いで倉庫の前に着くと、取引をしていた店主たちがすでに待っていた。

 彼らは重そうな金袋を提げ、こびるような笑顔を浮かべていた。


 今は物資が不足しているので、彼らは決して怠慢できないのだ。


「スキーナ様、お待たせしました!」

 頭の店主がすぐに近づき、金袋を差し出した。


「約束の通りです。

 鎧一着四金貨、三十着で百二十金貨。

 剣一本三銀貨、七十本で二十一金貨。

 火油一トン三金貨、二十トンで六十金貨。

 銃一本六銀貨、三十挺で十八金貨」


 店主は手際よく計算し、他の店主たちも次々に金袋を渡した。

「乾パン二台分は、お約束の通り計八金貨です。

 全部こちらにおまとめしております」


 ノヴァは抑えきれない笑みを浮かべ、目には金の輝きが宿っていた。


 スキーナはざっと金額を確かめ、間違いないことを確認しながらも、冷ややかに言った。

「随分と儲かったわね。

 今の相場なら、鎧一着六金貨は下らないはずよ」


 スキーナの辛辣さに、商人たちは気まずそうに笑った。


「スキーナ様、おっしゃる通りです。

 だが大量に捌けば価格は下がり、私たちにもリスクがございます」


 スキーナは金袋を懐にしまい、鼻で笑った。

「口先だけは綺麗ね」


 ノヴァはすぐそばで目を丸くし、小声で囁いた。

「すごいお金…… スキーナ、これって大儲けじゃない!」


「まあな」

 スキーナは商人たちが去るのを見送り、訊いた。

「セリアは?

 まずこれで借金を返そう」


「セリアは…… 町の教会に行っちゃったみたいです」


 教会?

 スキーナは心臓が突き刺さるように驚いた。

 こんな時、なぜセリアが教会へ?


 彼女は今、教会のこととなると、ものの音にも怯えるほどだ。

 何度も夜中に教会に追われる夢を見て飛び起きた。

 だからこそ、一刻も早くここを離れたかった。


「あなたたちは神父なのよ?

 教会に庇護を求めるのは当然じゃない?」

 エレシアは腕を組んで、当然だと言わんばかりに言った。


「違うわ」

 最初から共に困窮し、ついてきてくれたセリアが、

 自分を裏切るはずがない。


 スキーナにとって、セリアは単なる仲間ではなく、

 一生共に歩む存在だ。

 絶対に見つけ出さなければ。


「探す!

 まず前の旅館に行ってみる!」


 三人が出発しようとした瞬間、

 馬に乗った衛兵が疾走してきて、平穏を打ち砕いた。


 鎧には埃と血が付着し、街中を減速もせずに駆け抜け、叫んだ。

「獣潮だ!獣潮が来た!

 早く逃げろ!備えろ!」


 この一言が雷鳴となり、町は一瞬にして混乱に包まれた。

 叫び声、泣き声、走り声が入り乱れ、人々は我先に家へ逃げ込んだ。


 ノヴァは顔を青くし、思わずスキーナの腕を掴んで声を震わせた。

「ス、スキーナ、どうしよう…… 獣潮が来たよ!」


「慌てるな。

 精霊が、こんな下等の魔物を恐れるわけない」


 エレシアは強がったが、

 ピンと張りつめた尖った耳が、彼女の動揺をすべて物語っていた。

 無意識のうちにスキーナの方を向き、心の支えを求めていた。


「私は先にセリアを探す。

 お前たちはあの馬車を用意して、すぐにここを離れるの」


 言い終わると、スキーナは教会へ走り出した。


 道中、馬に乗り、槍を担いだ衛兵たちが行き交う。

 面甲の下の瞳には怯えがにじんでいたが、その奥には覚悟が宿っていた。


 スキーナは人波に逆らい、

 ただひたすらセリアを探し、一刻も早くこの場を離れたかった。


 しかし教会の前に近づいた瞬間、スキーナは立ち止まった。


 教会前の広場では、セリアが神父や修道女たちの間に立ち、

 乾パンを持って、食料に困った老人や子供たちに配っていた。


「皆さん、慌てないで。

 きっと大丈夫。私たちは一緒に乗り切るの」


 その言葉を聞いた瞬間、スキーナの焦りは怒りに変わった。

 彼女は駆け寄り、セリアの手首を強く掴んだ。


「セリア、何やってるの!

 獣潮が来たのよ!早く逃げないと間に合わない!」


 だがセリアは力を込めて手を振りほどき、

 スキーナを見つめ、重い口調で言った。


「スキーナ…… 私は行けない」


「なぜ?」

 スキーナは目の前のセリアを見て、急に他人になったように感じた。

 今まで臆病で、いつも彼女に従っていたのに。

 今になって、自分の命を顧みず善行に執着するなんて。


「ここには、行き場のない貧しい人たちがいるの。

 お金もなく、食べ物も買えず、逃げることもできない。

 私は神父として、見て見ぬふりをすることはできないの。

 私はここに残って、彼らを助けるわ」


「…… やっぱり、教会の連中に洗脳されたのね」

 スキーナは頷き、すべてを理解したように剣を抜いた。

 怯える神官たちに向かって言った。


「お前たちの本性は知っている。

 偽善者で、頑固で。

 私が仮面を剥ぐ前に、友達を解放しなさい」


「違うの!違うよ!」

 セリアは神父たちの前に立ちはだかり、スキーナに向かって叫んだ。

「自らここに来たの。私が、自ら残りたいと思ったの」


「…… ふん?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ