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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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ノヴァに刻印を施す

 ノヴァに刻印を施すため、スキーナは今から勉強するしかなかった。


 刻印の章を開くと、冒頭に魔法呪文などなく、ただ一言だけが記されていた。

「世界よ、力を引き出せ」


「ずいぶん虫のいい話じゃないか」

 スキーナは眉を上げ、先を読み進めた。


「精神力で魔力を引き寄せ、符文の通りに指先で体に書き込むだけか。

 奇抜な用語を並べるなよ」


 彼女の理解能力は異常なほど高く、概要を一瞬で飲み込んだ。


 少女は精神力を両眼に集めた。

 まるでスイッチを入れたかのように世界が透き通り、

 普段は見えないものまでが視界に浮かび上がる。


 赤、緑、青、黄、白。

 無数の光の粒が宙に漂い、ゆっくりと流れる星屑のように絡まり合う。

 部屋中、壁、床、さらには自分の体の中をも、すり抜けていた。


 続いて少女の精神力が一気に広がり、

 まるで目に見えない手が伸びるように、

 宙に漂う淡い赤い光をそっと「握りしめた」。


 操作は、思ったより簡単じゃないか。

 スキーナは会心の笑みを浮かべた。


 爆炎法典の指示に従い、スキーナの指先にかすかな赤い光が宿る。

 それは火属性の魔力が凝縮されたもので、ほのかな熱を帯びていた。


「どこに刻む?」

「こ、この手のひらに!

 火の玉術はやっぱり手から出したらカッコいいでしょ!」


 スキーナは真剣な面持ちでノヴァの手を握った。

 少女の手は白く、血の気が少なく、掌紋も薄かった。


「スキーナ、くすぐったいから…… 優しくして?」

「ごめん、無理」


 低い声で答え、彼女は書物に記された符文の通りに指先を動かし、

 一筆一筆、歪みのないように慎重に描き出した。


 思っていたのと違い、ノヴァはゆっくりと目を開けた。

 目の前にはスキーナの真剣な横顔があり、

 細い指が肌の上を滑り、掌から繊細な体温が伝わってくる。

 不思議とほのかな痺れが走り、心が次第に落ち着いていく──

 とても気持ちいい感覚だ。


「なんだか撫でられているようで心地いい……

 これ、もう相手をとろけさせる行為じゃないか」


「何するの?」

 ノヴァは手を伸ばしかけて、その場で固まった。

 慌てて「ハハハ」と空笑いし、心の中でくやしがった。


 髪色はこんなに綺麗な純白なのに、

 いつも放り髪で、しかも今は見るだけで触れないなんて、

 実にもったいない。


 最後の一画が描き終わる。

 ノヴァの掌の火属性符文が一瞬、輝いた。

 スキーナはまるで傑作を仕上げた職人のように、満足げな目をした。


 整った火の符文は鮮やかな赤をしており、

 端正でクリア、完全に法典の通りに仕上がっていた。


「できた」

 スキーナは爆炎法典を閉じた。

「魔力を動かして、火の玉が作れるか試してみなさい」


 ノヴァはすぐに腕を上げ、

 掌の火属性符文に意識を集中させ魔力を巡らせた。


 次の瞬間、掌の符文が強く赤く輝き、

 濃密な火属性魔力が一気に手のひらに集まり、火の玉が形作られた。


 詠唱も必要なく、魔力の消費さえ少ない。

「成功した!すごく楽ちん!

 前よりずっと早く魔力をまとめられる!」


「いいじゃないか。私の腕前、超一流だな……

 もしかしたら街で刻印店を開けるかもしれない」


「じゃあ私、二階級魔法使いになれたってこと?」

 ノヴァは火の玉を消し、スキーナを見上げた。


 残念ながら願いは叶わず、スキーナはゆっくり首を振った。

「二階級魔法使いの条件は、

 下位魔法回路二つ、または中位魔法回路一つを構築することだ」


「じゃあ、あと一つ足りないってこと?」

 ノヴァは素直に左手を差し出した。

「もう一回火の玉術を刻印して!」


「ダメ」

 スキーナは爆炎法典を持って、そっとノヴァの頭を叩いた。

「人間の精神力には限界がある。

 耐えられる魔法回路の数は多くない。

 同じ系統の魔法を刻印するなんて、もったいなさすぎる」


 これで一件落着。

 今は、これから来る危機に備えることを考えなくては。


 幸い時間はまだあるはず。

 スキーナはセリアに物資の調達を命じた。

 鎧、刀剣、食料、すべてを買い占める。

 今が底値で買い占めるチャンスだ。

 もちろん手持ちの資金は潤沢な市場に比べれば微々たるもの。

 大儲けするためには、自分も動き回らなくては。


 手元の使い手も、もちろん無駄にはしない。

「ノヴァ、魔法の試しに行こう」

「どこどこ?」

 ノヴァは目を輝かせた。

 火の玉を作ったばかりなのに投げられず、たまらなかった。


「冒険者協会だ」

 スキーナは剣を取り、淡い声で言った。

「依頼を受けて、金を稼ぐ」


 冒険者協会のホールは人でにぎわっていた。

 ざわめき、汗のにおい、武器がぶつかる音が入り混じる。

 壁には無数の依頼状が貼られていた。

 魔物の掃討、商隊の護衛、材料の採取、獣の狩猟──。


「どうやら最近の魔物騒動の被害で、頭を抱えている連中が多いようだ」

 スキーナは内心、嬉しそうだった。


「じゃあ S ランク任務を受けよう!

 私の魔力、もう飢えているわ!」


 周りの冒険者たちが振り返る。

 白髪の冷ややかな少女と、間の抜けた魔法使い。

 クスクスと笑い声が漏れ、低い声でささやき合う。


「またわかってない小鬼だ」

「牧師に見習い魔法使い?

 まともな戦士すらいないのに、任務だなんて」


 スキーナは周りの視線を無視し、心の中で冷笑した。

 笑ってろ。

 数日後、同じように笑えるかどうか楽しみだ。


 彼女はまっすぐ掲示板に近づき、視線を素早く動かした。

 時間がない。狙うは三つだけ。


 金がいい、距離が近い、すぐに片付く。


 すぐに一枚の依頼状を引き抜いた。


【農場付近を荒らす巨大ネズミの群れを退治 十匹以上】

「危険度:B 級」

「報酬:銀貨三十枚」


「この依頼、受けます」

 受付の係員は一瞬あきれたが、判を押した。

 二人の少女を見て、心からの注意を送る。

「くれぐれも、気をつけてください!」


 しかしその後も、スキーナは次々と依頼状を差し出した。

「あ、あなたたち、さらに受けるんですか?」

 受付嬢は目を丸くした。


「まとめて」

 スキーナの声は淡い。

 大金を稼ぐ身には、一つ一つ片付けている暇はない。効率が悪すぎる。


 ノヴァの瞳には火が燃えていた。

「私、戦える!今、超強いんだから!」


 その後スキーナはルートを綿密に練り、

 農場のネズミ、密林の毒蛇、渓谷の岩トカゲ……

 次々と滞りなく片付けていった。


 さすがにノヴァは魔法を自在に扱えるようになり、

 戦闘力は飛躍的に上がり、自信もついた。

 これを見てスキーナも、自分も早く魔法符文を刻印したいと思った。


【聖剣進階】

【御剣術】

 縁者を待たず、自ら勇者を探し出す


【破勢の眼】

 勇者が剣を持つと、相手の隙を自動で見抜く


【剣意顕現】

 自らの意志を剣気として結晶させ、貯蔵可能


 ふふ、ついに来たか。


 聖剣になってから自由に動けるのは良い。

 だが説明が、とにかく腹立たしい。

 迷わずスキーナは三つ目を選択した。


 これで保有効果は「堅不可摧」「剣意顕現」となり、進捗度は俄かに 0/1000 に変わった。


「まさかよ…… 私を虐殺師にでも仕立てる気?」

 彼女は聖剣を握りしめ、思わず熱く感じた。

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