狼と交わした取引
天哪、彼女はただの女の子なのに、なんでこんなに肩の荷が重く感じるんだろう。
家では口が二つもあって食わせ、毎日の家賃も払わなきゃならない。
それが、異世界に転生してきた熱意を、じわじわと削いでいく。
だが、どうしようもない。
依頼を受けないわけにはいかず、スキーナは仕方なく「牧師」の身分を利用して、
教会の外注の告白聞きの仕事を引き受けた。
ただ、彼女には専門知識なんて、欠片もない。
告白室は狭くて薄暗く、じめじめして背中に汗がにじむ。
「…… わ、わたしに罪があります」
最初の告白者はおじけづき、声をひそめ、
もつれた不安な面持ちで話し始めた。
「言え」
「わたし…… 最近、隣の町の未亡人さんと、付き合っています。
悪いことだと分かっているのに、抑えられなくて……
それ以来、何をやってもうまくいかないんです。
出かければつまずく、商売は損ばかり、
体中が変な気がして仕方ないんです」
「なるほど。除霊が必要か?」
「除霊?」
どうしてそんな話になるのか、男は困惑した顔を見せた。
「そういうことだ。お前、普段から生き物をよく傷つけているか?」
「わたしは屠殺師です」
なるほど、入ってくる時から、ほのかに血のにおいがしたわけだ。
「ふむ、手ごわいな。
お前の行いが分際を越え、運気が崩れ、穢れたものがとりついている。
だから何事もうまくいかず、不運に見舞われているんだ」
「こ、これは…… どうしたらいいんですか?」
異世界には悪魔の誘惑や魂の穢れという話がある。
男はそれを結びつけて考え、声を震わせた。
「どうか、助けてください」
スキーナは静かに微笑んだ。
ここまでいけば十分だ。
「術を施せば穢れを断てる。
だが、お前にとりついている邪気はかなり強い。
わたしには神の力を借りる必要がある」
「どうやって借りるんですか!」
「神にお金を捧げることだ。
そうすれば神はわたしに力を与えてくれる」
男の顔は曇った。
金のことだと分からないわけがない。
だが問題は放っておけない。
数分後、男は「清められた」という安心感を胸に去っていき、
告白室には分厚い献金が残された。
スキーナは黙って金を仕舞った。
専門的かどうかは問題じゃない。
家計を助け、問題が解決できれば、それで十分なのだ。
すべてを収納指輪にしまった後、スキーナは急いでセリアのもとへ向かった。
今日は納品の日だ。
神など信じていなくても、契約違反の罰だけは恐ろしいから。
町の門に着くと、やはりセリアだけが待っていた……
いや、いやだな、見知らぬ男が一人、余計にいる。
男は饒舌に何かを話しかけているようで、
セリアは困った顔をしている。
これが、スキーナがセリアを好きでもあり、嫌いでもある点だ。
臆病なほどの優しさ。
「実に珍しい気品ですね、牧師様……
トレイ家の者です。ご一緒に――」
なんだこの陳腐な口説き文句は。
「ふん、ふん……」
スキーナは二回、咳をして二人の視線を引きつけ、前に出た。
「この美人さん、さっき向こうで見ていたよ。
一杯飲みに付き合ってくれないか?
ホテルで人生について語り合おうじゃないか」
「おいおい、先に来た順番があるだろう。
そんな三流の口説き方で成功するわけないだろ……」
男の言葉は途中で止まり、
スキーナの顔を見た瞬間、その場で固まった。
白い髪は太陽の下で冷たい輝きを放ち、
目元は清らか、輪郭は整い、
まるで神が細工した芸術品のよう。
一目見ただけで、目が離せなくなる。
まばゆいばかりの美しさだ。
男は言いかけた皮肉をすべて喉に詰まらせ、
呼吸さえ一瞬、止まった。
「お、お前……」
セリアはスキーナを見た瞬間、
くすんでいた顔が一気に明るい笑顔に変わり、
嬉しそうにうなずいた。
「いいわ!」
そしてスキーナの後ろに身を隠し、
まるで心の支えを見つけたようだった。
男はその様子に呆然とした。
自分が懸命に口説いても無反応だった少女が、
他の女の子に一言で誘われて応じるなんて。
今の女の子は、ハンサムで有能な男が好きじゃないのか?
男の考えなど知る由もなく、
スキーナはセリアを腕に抱き、挑戦的な視線で男を見上げた。
「さあ、この娘さんは、どうやらわたしの方が好きみたいだよ」
男はやっと我に返り、顔を青から白に変えた。
「お、お前…… 最近、空いてるか?」
最終的には下半身が脳を支配した。
「関係ないわ」
スキーナは白い目で見返し、セリアを引いて振り返った。
「行こう」
できることなら、前世の平穏無事な顔に戻りたい。
この顔が原因で災いを招くくらいなら。
同時に、焦りも覚えた。
自分の可愛い娘が、どれだけの男を引き寄せるか分からない。
早く、自分のものにしなければ。
「品物は?」
町を出て、スキーナは訊いた。
「門の守り人が、たくさんの荷物を持って出るのを許してくれなくて……
だから、商隊の証明を持っているベルさんにお願いしたの」
「ベル?誰だ?」
スキーナの胸はきゅっと締まった。
もう少し訊こうとしたとき、
先に二つの影と一輌の馬車を見て、ほっと息をついた。
「牧師様!」
前にいたのは、筋骨たくましい男と、無表情な女。
町に入ったばかりの時、スキーナに言いくるめられた二人だ。
近づいてみると、男は異常に熱心で、
教廷のために命を捧げるかのような様子だった。
自分のために働いてくれる者には、スキーナは惜しみなく褒める。
「ご苦労さま」
二枚の銀貨を渡そうとしたが、男は受け取ろうとしなかった。
「こんな無欲なお心…… 神があなたをお守りくださいますように」
セリアは、去っていく二人に手を振った。
「ベルさんたちが、馬車を手配してくれたの」
彼女は目を細め、優しく微笑んだ。
「門の守り人は、獣鎧や薬、生肉をたくさん持って出るのを許してくれなくて。
ちょうどベルさんたちに会ったら、
ついでの任務で出ると言って、商隊の証明も持っているから、
荷物を町外まで運んでくれるって、言ってくれたの」
その後、スキーナは馬車を点検した。
荷台には、きちんと梱包された獣鎧、
ふっくらとした薬袋、
分厚い布で包まれた大きな生肉塊が、すべてそろっていた。
「よしよし、完璧だな」
スキーナは馬に手をなで、セリアと馬車に乗り込んだ。
「行こう!」
馬車は、びくともしなかった。
スキーナはため息をついた。
この馬はたくましいが、どうやら前の痩せた馬ほど人懐こくないらしい。
そこで彼女は鞭を上げ、馬はやっと動き出した。
鬱蒼とした森を抜けるにつれ、馬はだんだん騒ぎ始めた。
遠くに、数匹の狼の影が待ち構えている。
どうやら、迎えに来てくれたようだ。
スキーナとセリアを見ると、
親分の狼がゆっくりと前に出てきた。
目は穏やかになり、ほのかに満足の色を宿している。
「スキーナ様、セリア様、お待ちしていました」
狼の親分の声は低く太く、荒々しいが、非常に丁寧だ。
スキーナは馬車から降り、淡い声で言った。
「品物はすべてここにある。
約束通り、獣鎧 10 セット、指定の薬草 20 キロ、生肉 500 キロ。
過不足なし」
狼の親分はうなずき、
手下の狼たちに品物の確認を命じた。
彼らは手早く袋を切り開き、
嗅ぎ、舐め、最後に親分にうなずいて、
数も質も問題ないことを知らせた。
それを見て、スキーナはほっとした。
だって、自分、けっこうリベートを抜いていたのだから。
狼の親分は人間的な安堵の笑みを浮かべ、
自ら爪を出し、誠実な口調で言った。
「ありがとう。これらは、我々にとって非常に重要だ。
我々狼族は、人間社会に溶け込みたいと、ずっと誠意を持って望んでいる。
だが、二人のように助けてくれる人間は、本当に少ない」
少女はにっこり笑って腰を曲げ、狼の親分の爪を握った。
「あなたたちは狼で、人狼じゃないんだよ。
人間社会に溶け込むなんて、おかしくないかな?」




