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聖剣になってしまった少女は、勇者になれますか?  作者: 風間 蒼月


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やっと任務が終わった

  温かい指先が肌に触れた瞬間、スキーナはびくりと身震いした。

 誰が、私の服を……


「だいぶ、楽になりましたか?」

 スキーナの筋肉の張り、そしてつるんとした肌の感触がはっきりと伝わってくる。

 まるで、上質な翡翠のようだ。


「…… ちょっと、くすぐったい」


 スキーナは唇を嚙み、口を覆って、頬をほのかに染めた。

 女の子の体って、なんでこんなに敏感なの。

 これだけ触れられただけで、声が漏れそうになる。

 それに、どっかがおかしいはずだ。

 私こそ、攻める立場なのに――


 彼女が少し慣れたのを見て、セリアは治療を続けようとした。

「いきますよ」


 淡い癒しの光を纏った指先が、スキーナの腹の上をそっと撫でる。

 馴染んだのを確かめ、脇の下、背中、太ももへとゆっくり移動していく。

 少女の手は、まるで電気を帯びているかのように、

 通り過ぎるたび、スキーナの体を小刻みに震わせた。


 痺れるような感覚が波のように押し寄せ、理性を洗い流し、

 心の奥のときめきと、甘えたい気持ちを抑えられなくする。

「ん…… っ」


 スキーナは思わず腕を強く絞め、セリアをぎゅっと抱きしめた。

 頬を彼女の首元に埋め、熱い息を零す。

 ふんわりとした体が、まるで骨の髄まで溶け込むように、

 信じられないほどの安心感が、体中に広がっていった。


 セリアは一瞬、きょとんとしたけれど、変だとは思わず、

 ただ優しく背中をさすった。

 リズムなどなく、ただ呼吸に合わせて、

 肩甲骨から背中へ、ゆっくりと。

 筋肉痛が治る時の痛みだと、思い込んでいた。


 スキーナはふう、と安堵の息を零し、

 張り詰めていた体がゆっくりと解けていく。

 だるさは消え、そこに温もりが広がる。

 彼女はゆっくりと目を開け、残る余韻をたたえた瞳で、セリアを見つめた。


 一方、小屋の外の広場では、牧夫と四人の冒険者が輪になって座り、

 今後のことを小声で話し合っていた。


「あの魔獣たちは、まだ近くに隠れている」

 大斧を担いだ男が低い声で言った。

「あの娘さんが目覚めたら、完全に始末する方法を話し合おう。

 このままじゃ、また羊が襲われる」


 牧夫はうなずき、心配そうな顔をした。

「ありがたいよ。今回はあの二人のおかげで助かった。

 羊も小屋も……。あの娘さんは、大丈夫だろうか」


 弓使いの男は囲いにもたれ、小屋の方を笑いながら見た。

「安心しろ。あの二人は立派な牧師だもの」


 話している最中、小屋の戸がゆっくりと開いた。

 スキーナとセリアが、並んで出てきた。


 朝の光が二人を照らす。

 スキーナの白い髪は薄い金色に染まり、頬にはまだ赤みが残っている。

 セリアは穏やかな面持ちで、相変わらず祈祷書を胸元に抱え、

 ずっとそばを離れない。


「調子はどうだ? 傷は治ったか?

 顔が赤いが、まだどこか悪いのか?」


「赤い……?」

 スキーナは頬をさすると、確かに熱かった。

 慌てて言い訳した。

「部屋の中が、ちょっと暑かっただけだ」


 牧夫は彼女の動揺に気づかず、笑った。

「無事なら何よりだ。

 今回は任務を完全に終わらせられなかったが、

 お前たちには助けられた。

 B ランクの報酬で、卷轴にサインさせてもらう」


 今までなら、B ランクの報酬と聞けば、

 スキーナはすぐに目を輝かせて受け取っていただろう。

 だが今回は、彼女は無意識に隣のセリアをちらりと見た。

 戸惑いと、もやもやした気持ちが瞳に宿っていた。


 こいつ、一体どういうつもりなの?

 さっきのことは、何もなかったかのように振る舞う。

 私が、考えすぎだったのだろうか。

 それとも、全然気にしていないのか。


「牧夫さん、どういたしまして。

 当たり前のことですから」

 セリアは任務の卷轴を渡してサインを求め、

 ぼんやりしているスキーナの袖をそっと引っ張った。

「…… あ、うん」


 町に戻る道中、スキーナはずっと上の空で、

 いつもと違う、ぎこちない動きをしていた。


「ひいぃ――っ!」

「神様……! どうして町の道標を切っちゃったの!」


 スキーナが、時々訳の分からない奇行をすることは知っていた。

 だがこの瞬間、セリアの顔から、まるで色が全部消え失せた。


「知るか」

 スキーナは、少し怒っているセリアを横目で見て言った。

「俺の剣には、鞘がない。

 いつだって、刃をむき出しにしているだけだ」


 やはり、得た能力は無駄ではなかった。

 この道標は石工が丹念に作り上げた大理石製で、

 普通の武器なら、傷一つつけられない。

 それなのに、スキーナの本体――聖剣には、

 欠けも、刃こぼれも、一切ない。


 世界中の者が聖剣を羨むのも無理はない。

 錆びないだけでなく、切れ味も、潜在能力も、計り知れない。


 だが、散らかした始末は、自分でつけなければならない。

「これで、どうだ?」


 スキーナは聖剣を彫刻刀のように使い、

 凹凸の溝を掘り、積み木のように組み立て直した。

 ただし――

 元の「イグルダの町」が、いつの間にか「イグルの町」になっていた。

 だがスキーナは気にしていない。

 セリアが、困り果てた顔をするのを見ると、なぜか嬉しかった。


 セリアはため息をついて、叱ることなく、

 碑の上の石くずをそっと払った。

 だが、振り返った瞬間。

 彼女は、スキーナの瞳から、あざ笑いが消え、

 重たい寂しさに変わったのを、鋭く感じ取った。


 胸の中の小さな怒りは、一瞬にして心配に変わった。

 生まれつき優しい彼女には、この突然の違和感を、無視することなどできなかった。


「スキーナさん……。

 何か、話したいことがあるんじゃないですか?」


「い、いや…… ない」

 スキーナは足元の石を蹴り、

 落ち着かない様子で、もやもやとした顔をした。


「どんなことでも、話していいですよ。

 私たち、仲間ですもの」


 自分でも、どうしてこうなったのか分からない。

 セリアに対する、不思議な想いがずっと心に渦巻いていて、

 どうにも、口に出せなかった。

 だが、セリアの瞳に宿る、飾り気のない真剣さを見て。

 スキーナは、一生分の勇気を振り絞って、

 かすれた声で、はっきりと言った。


「セリア。

 俺は、女の子が好きなんだ」


「ふんわりして、柔らかい体が好き。

 いつも、癖になりそうないいにおいがするのが好き。

 白玉みたいに、つるつるで、何度触っても飽きない肌が好き」

「それだけじゃない。

 話しているだけで、胸がどきどきする。

 こんなに素敵な女の子たちを、好きにならない方がおかしい」

「この世界には天国がある。

 天使は、きっと、みんな可愛らしい女の子たちなんだ……」


 あまりにも衝撃的な言葉に、

 セリアの思考は、一瞬、完全に止まった。


 スキーナの、神を冒涜するような言葉すら、聞き漏らしてしまった。


 実は、セリアにも、少しだけ予感はあった。

 前から、スキーナがそういう気持ちを持っていることは感じていた。

 だけど、深く考えないようにしていた。

 勘違いだと思い込もうとしていた。

 勇者と牧師の、ただの信頼関係だと。


 この大陸には、勇者と牧師が恋に落ちる物語がたくさんある。

 だが…… 二人は、どちらも女の子だ。


 だが今、スキーナがはっきりと告白したことで、

 一つの考えが、セリアの頭に浮かんでしまった。

 ――もしかして、さっきまでのスキーナの甘えたような態度は、

 私に、いたずらをしていただけなの……?


 その考えが浮かんだだけで、セリアの顔は青ざめた。

 彼女は教会の牧師として育てられた。

 教えられた教義には、同じ性同士の恋は、認められていない。


 思わず、セリアは一歩、後ろへ下がった。

 スキーナの視線を逸らし、かすれた声で言った。


「スキーナさん…… ごめんなさい。

 私には、その想いに、応えることができません」


「私は神官です。

 あなたは勇者です。

 自分の使命がある。

 そんな想いに囚われてはいけません」

「気を取り直して、これ以上、考えないでください……」


 言い終わると、セリアは思い切って顔を背けた。

 だが、我慢できず、スキーナの方を、ちらりと見てしまった。


 そこにいたのは、

 目の中の輝きがすべて消え、

 まるで、風に消された蝋燭のように、

 しょんぼりと寂しそうに佇む少女だった。


 セリアの胸が、きゅっと締め付けられた。

 苦しく、切なく、重たい後悔が、あふれて止まらなかった。


 思わず、指先を強く握りしめ、

 頭の中はごちゃごちゃになった。


 …… 私が、悪かったのだろうか。

 普段から、距離が近すぎたのだろうか。

 何気ない優しさが、不用意な、境界を越えた合図になってしまったのだろうか。


 全部、私が悪い。

 きちんと距離を保てなかった私が悪い。

 そのせいで、スキーナさんが、あんな想いを抱えてしまった――


「ごめんなさい…… スキーナさん」

 セリアの声は、かすれ、深い後悔に満ちていた。

「私が悪かった。

 距離の取り方が分からなくて…… あなたに、そんな想いをさせてしまった」

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