高校生活初めての行事① 体育祭
他の人の願いは全て叶うのに、自分の些細な願いは絶対に叶わない。どれだけ苦しい思いをしても叶わない。自分は神から見放させられている。
この作品は、自分の感情を押し殺し苦しい思いをしているのにも関わらず、何一つ自分の願いが叶わない少年の日常が書かれた物語です。
ただ、雨が降って欲しい。静かな日々を暮らしたい。けれど、叶わない日常。
もしこの物語を通して、自分の願いは叶っているのか。自分の周りの人は。今一度考えて見て欲しいです。考えたところで誰かの願いが叶う訳ではありませんが、一度立ち止まるのに意味があると思います。
第二章・・・体育祭①
結局、晴れてしまった。薄々予想はしていた。カーテンを開けたくない。開けてしまったらそこには、僕が存在できない世界が広がっているから。嫌な気持ちという重りを背負った体をなんとか起こし、一階へ降りる。
「羅雨、私は今日朝から仕事だから机の上に置かれたご飯食べといて」
母親がそう言って家を出る。朝からうるさい母親の声がなくなったおかげで、静かな朝が訪れた。
僕の家は5人兄妹で僕はその真ん中だ。姉は遠い地方の国立大学に、兄は国立高校に、弟は学習コンクールで金賞をとり、妹は三歳の時からピアノの才能がある。父親は病院に勤めていて、母親は薬剤師。家族はそれぞれ特化した何かを持っているが、そんな中僕だけが何も持っていない。
ただ、唯一僕にだけできる事がある。感情をなくすことだ。誰もが時には感情的になる。だが、僕だけ感情的になる事はない。これが僕の可能な技術だ。
まあ、そんなのはどうでもいい。他人と比べて得をすることはない。むしろ損だ。そんなことを思いながらご飯を口に運ぶ。
「ごちそうさまでした」
静かな空間に、僕の小さな声が漏れる。ほかの家族は全員寝ているし、早く家を出るか。食器を片付け、支度をする。
僕の通う学校は私服が許されている。だが、基本的に僕は同じような服しか着ていない。ただ、制服が嫌だったからこの高校にしただけだ。
そんな条件で選んだ中学三年の自分を思い出していたら、支度が終わった。もう出るか。
「行ってきます」
静かな空間にそう言って家を出る。外は昨日の雨のせいで蒸し暑かった。五月の中旬でこれほど暑いと夏が不安になってくる。家の前に置いてある自転車を出しながら、スマホで今後の学校の予定を確認する。
そろそろ体育祭が行われるのか。僕の学校は六月の上旬に体育祭があり、凄く盛り上がるらしい。帰宅部である僕にとっては最悪な行事だ。帰宅部である以上、選抜とかには出されないだろう。
自分は、短距離はそこそこ速いが長距離はすごく遅い。選抜は200mだから、選ばれることはないはずだ。
それにしても、なぜ蒸し暑い時期に体育祭をやるんだろう。10月でもいいのに。いや、考えるだけ無駄か。スマホをポケットにしまい、駅へ自転車を走らせる。
今日はいつもより早く家を出たから、人が少ないな。明日からはこの時間帯に家を出る様にするか。そう考えながら自転車を走らせる。肌に当たる生暖かい空気が気持ち悪い。
自転車を走らせる数分、駅に着いた。次来る電車に乗ると、あまりにも早く学校に着いてしまう。あっちの駅に着いたら本屋にでも寄るか。明日、自分の読んでいる小説の新刊が出たからちょうどいい。そう思い、次の電車に乗った。
高校の最寄りの駅に着いた。そのまま本屋へ足を運ぶ。本屋にはお目当ての本が置いてあった。早速買って学校で読むか。レジに行き会計を済ませた。店を出るとそこには同じ高校の奴らが歩いていた。
僕以外にもこの時間帯で登校する奴はいるんだな。そんなことを思いながら、自分も学校へ向かう。
待ちに待った小説を買ったせいか、さっきまで気持ち悪かった生暖かい空気が少しましに思えた。しかし、そんな気持ちもすぐに悪い方向に行く事にこの時僕は知らなかった。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
重たい空気から始まるお話でしたが、「願い」について何か共感できる部分はありましたか。
羅雨に追い討ちをかけるかの様に訪れた体育祭。この後、羅雨には何があったのか。そして、体育祭では彼の日常を変えるものはあったのか。
引き続き投稿していくので、どうぞよろしくお願いします!