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いつもの日常

 人は誰しも、他人に合わせて生きる瞬間がある。

でも、それが「いつも」になったとき、自分が自分でなくなるような気がする。

 この作品は、そんな“自分を押し殺して生きる”少年の、静かで変わりばえのない日常に、

ほんの少しの“変化”――いままでになかった出会いが訪れる物語です。

 それは大げさな奇跡じゃない。けれど確かに、彼の何かを揺らす出来事でした。

 もしこの物語を通して、誰かの「本当は言えなかった気持ち」に寄り添うことができたなら、それだけで意味があると信じています。

  第0章・・・プロローグ


 アラームが鳴るより先に目が覚めた。雨の音が遠くから聞こえる。また、嘘の自分を演じる日常がきた。感情を出さず、誰にも迷惑をかけないようにする日常が。

「羅雨、起きたなら早く支度しなさい」

 一階にいる母親からだ。朝からあんなに声を出さなくても聞こえるのに、なんであんなに声を出す必要があるんだろう。いや、考えるな。感情を出したら面倒事になるだけだ。

「分かってるって」

 重たい体を起こしながら、ベッドから出る。空は曇っているのに、薄暗い部屋にやけに眩しい光がカーテンの隙間から差し込む。まるで、暗くなった僕の心に救いの手を差し伸べるかのようだった。そんなものは存在しないのに。あるとすればそれは奇跡の出会いに等しい。恋愛ものの小説や漫画のような出会いに。



  第1章・・・どこに行っても変わらない


 慣れている。誰かに命令され、その通りに動くのは。他の人が面倒くさいと思っているかもしれないが、そんなことはどうだっていい。ただ感情を捨てロボットの様に動けばいい。言葉というプログラム通りに。そうすれば目立ちもせず、誰も迷惑をかけることはない。小学3年生からずっとこの生き方をした。なぜ感情を捨てたのかもう記憶にない。なぜならもうあの頃に戻れないから。

 そんなことを考えていたら、教室には僕しかいなかった。もう下校の時間か。机の上に広げていた教材をバッグに入れる。前の扉が開いた。

「すまない水無瀬。もう日直帰っちゃったから日直の仕事代わりにやっといてくれ」

 長谷川先生か。いつも放課後教室に残って自習している僕は、何かとこの担任に仕事を任される。日直は仕事したくないから早く帰ってしまったのだろう。いつものことだ。

「分かりました。やっておきます」

「いつも悪いな、先生としてはこの状態を直したいんだがな。どうも言うことを聞いてくれなくて」

 本当は直そうとしていないくせに。

「大丈夫ですよ。雑用はなれてるので」

 そう言って黒板を消しを手に取る。

「そうか。なんか困ったことあればいつでも相談に乗るからな」

「ありがとうございます。それではあとはやっておきますね」

「ああ。それじゃ私は職員室に戻るから気を付けて帰れよ」

「さようなら」

 中学の時はほぼ毎日日直の仕事をしていた。高校に行けば少しは変わると思ったのに。どこに行っても人は変わらないんだな。黒板を消しながら中学の時を思い出していた。

 僕の通う高校はこの地域ではそこそこ頭のいい高校だ。だから、真面目なやつが多く入学していると思っていた。だが、そんな事はなかった。男子は猿の様に騒ぎ、女子はグループを作りひたすら青春について語る。なぜそこまで集団で溜まっていたいんだ。どうせ三年後、いや一年後にはクラス替えで会う機会が少なくなるのに。たった一〜三年の関係を深くする必要はないのでは。理解ができない。いや、考えるだけ面倒くさい。やめよう。日直の仕事も終わったし、帰るか。

 すっかり暗くなった外。雨は止んだがあの独特な匂いはまだ残っている。ずっと雨が降ればいいのに。そうすれば、少しはクラスのテンションも下がるだろうから。そんなことを願いながら駅まで歩いて行く。その願いは叶わないことを悟りながら。

 最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

 静かな空気の中で進むお話でしたが、読んでくださったあなたにも、何か共感できる部分があったなら嬉しいです。

 羅雨の物語は、まだ始まったばかり。

 これからどんな風に彼が変わっていくのか、少しずつ書いていけたらと思っています。

 引き続き投稿していくので、どうぞよろしくお願いします!

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