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5 メゾン・ド・リュミエール

 

  イザヤに抱きすくめられる。嫉妬した?使命感で求婚しただけの関係なのに、私を騙すためにそこまでするなんて、本当に悪い人。


「……イザヤって呼び捨てだけじゃ足りない。もっと気安く話してよ」


「私たち、まだ出会ったばかりですよ」


「これからはずっと一緒じゃん」


 本当に呆れる。


「それがお望みなら、いいわよイザヤ」


 イザヤが嬉しそうに声を出して笑った。私に親しくすれば尻尾を出すと思ってるのか。あいにく私は魔女でも何でもないので、出す尻尾もないわけだが。


「じゃあ、イザヤはそこのドレスをコリンに渡してね」


「気安くって言ったけど顎で使っていいとは言ってない」


 イザヤが不服だという表情を作る。


「じゃあ、元に戻しましょうか?」


「仕方ないな」と言いながら、イザヤは大人しく従ってくれた。馬車を降りるときに手を貸してくれたり、今も手伝ってくれたり、意外と自由人なだけじゃないのかもしれない。

 コリンも手配が終わったようなので、コリンと一緒に私とイザヤは、店に向かうことにした。馬車では、私の向かい側がコリンで、隣にはイザヤが座った。


「マグノリアさん! それでどういう経緯でイザヤさんと出会ったんですか? これまでにこっそりと会っていたとか……?」


 馬車が動き始めると、コリンからの質問攻めが始まった。


「一昨日の夜、ライラの馬車が夜盗に襲われているところを助けたんだ」


「へぇ! じゃあ、助けられたマグノリアさんが惚れてプロポーズを?」


「そうだったら良かったんだけどな。ライラの家に泊めて貰って、家庭的な彼女にオレが落ちたんだよ」


「へぇぇぇぇ! たしかにマグノリアさんの料理は結婚したくなるほど美味しいからなぁ。思い出したら、食べたくなってきた。また作ってくださいね、マグノリアさん」


 いいわよ、と返事をしようとしたら目の前にイザヤの手がかざされて制止させられる。


「……コリンくん、それは無理な話だな。オレのライラは、シェフじゃなくてオレの妻だ」


「そ、そんなぁ」


 コリンが肩を落としてうなだれる。


「イザヤが私の夫であろうと、私が何をするかは止められないわよ」


「この男に料理が作りたいのか?ライラは」


 この男って。


「料理が作れないなら、イザヤにも振る舞えないわね」


「オレだけに作ってほしいんだよ……」


 そう言ってイザヤは、眉を下げる。庇護欲を湧きたてる表情だ。私は、騙されないわよ!?


「イザヤの分だけ、多めに作ってあげるから。それでいいでしょ?」


 イザヤは納得していない様子で「まぁ、いいけど」と呟いた。


「婚約してないのに、甘ったるいですね~。いつ婚約なさるですか? それとも、もう婚約の儀も済ませたなんて言わないでくださいよ」


 コリンが茶々を入れてくる。そういえば、婚約の儀には司祭から契約痕(けいやくこん)を施してもらう約束をイザヤはしていた。私はイザヤの発言に耳を傾ける。


「そうだなぁ。ライラと早く婚約したいから、明日とか?」


「明日とかって……。いいわ。コリン、婚約の儀のための白のドレスの在庫はある?」


「はい。シーズンは過ぎましたが、数着は残っているかと」


「店に着いたら、確認ね」


 明日の婚約の儀のために、白のドレスを確認しなければならなくなった。前言撤回、やっぱりイザヤは自由人だわ。

 店の裏手口に私たちは向かった。メゾン・ド・リュミエールはまだ開店前だけど、もう従業員は集まっているはずだ。


「みんなお疲れ様。遅くなってごめんなさい」


 私がそう声をかけると従業員が一斉に私を見て「お疲れ様です、マグノリアさん」と返事をしてくれた。


「いつもマグノリアさんは働きすぎなので、ちょっとくらい遅れても大丈夫ですよぉ」


「もっと身体を休めてても罰は当たらない的な?って感じですぅ」


 近寄ってきたのは、双子の従業員のメルルとルルナだった。二人ともベージュの髪を編み込んで、姉のメルルは前髪を真ん中で分けていて、妹のルルナはぱっつん前髪に二人同じの薄いベージュの瞳をしている。


「ちょっとアンタもマグノリアさんに挨拶しなさい的な?」


 ルルナがそう言って奥にいた、カイゼを連れてきた。カイゼは灰色髪が特徴の二十代半ばの男性で、力仕事担当として雇っているものの中々私とコミュニケーションしてくれない。教育係のメルルとルルナとは、ちゃんと話せているみたいなのでいいのだけど。


「まぁいいわ。今日はみんなに伝えたいことがあるの」


 私が目配せをするとイザヤが隣に並ぶ。


「彼は、イザヤ・エリシオン。明日、彼と婚約の儀を上げるわ」


 私が言い終わると、メルルとルルナが驚嘆の声を上げた。


「ええー!? マグノリアさん結婚するんですかぁ。マグノリアさんと結婚……」


 メルルがじっとイザヤを見つめる。値踏みしているようだ。


「えっと……」


 あのイザヤがたじろいでいる。珍しい。


「身長、髪型、服のスタイル。重心から予測される身のこなし……。まぁ合格ですぅ」


「マグノリアさん、婚約の儀には白のドレスが必要的な? 今すぐにフィッティングの準備をします」


 ルルナはそう言って奥の在庫部屋に行ってしまった。ほんとにメルルもルルナも良い従業員ね。気になるのは、私が婚約すると言ってから微動だにしないカイゼのことだけど。


「……カイゼ、分かるぜ」


 コリンがぽんとカイゼの肩を叩いていた。


「そういえば、『ご婦人のクッキング』の新しいレシピを思いついたわ。後でレシピをおこすから、出来たものを印刷して頂戴」


「はい! マグノリアさん、この前に発注していた生地が間もなく届くとのことです」


 コリンがカイゼから顔を上げて、仕事へと移る。コリンは仕事だけは出来るのだ。


「マグノリアさん、フィッティングの準備が出来ました」


 ルルナが声をかけてくれる。私は「イザヤも来て?」と呼びかけた。店の試着室前にカイゼが衣装を運んでくれので、そこでドレスを見ることにする。最新のドレスは三着残っていた。


「Aラインのドレスとビックスカートが特徴のプリンセスライン。曲線美が優雅なマーメードラインですぅ」


 ルルナがドレスを解説してくれる。うーん、プリンセスラインはないわね。装飾も相まって可愛すぎる印象だ。そうなるとAラインかマーメードラインだけど。


「Aラインとマーメードラインを試着するわ」


 私はメルルと試着室に入って、フィッティングしてもらう。ルルナもそうだが、メルルは腕の良いお針子でもあるのだ。


「どうかしら?」


 私はAラインのドレスを着て、イザヤの意見を求める。


「……綺麗だ」


 イザヤはぼそりとそう呟いた。


「ええ。私の職人が腕によりをかけて作ったものですから。もう一着に着替えるわ」


 私は試着室に戻って、今度はマーメードラインのドレスを試着する。


「こっちも悪くないと思うのだけど――」


 私が試着室のカーテンを開ける。イザヤが、じっと私の姿を黒い目で捉えていた。すると、がばりと私に抱き着いた。


「今すぐに婚約の儀を上げたいくらいに綺麗だ」


「婚約の儀は、明日になれば出来るわよ……。それでどっちが良かった?」


 私はイザヤの身体を何とか押し返した。


「うーん、どっちも綺麗だけど、今着てるやつかな」


「そう、じゃあこれを明日着るわ」


 私は明日の準備をコリンに言いつけた。暫くレシピをおこしたり、作業をしていた。するとコリンが話かけてきた。


「マグノリアさん。明日は婚約の儀なんですから、今日はもう上がってください」


「あら、私の店なのに」


「イザヤさんが何をしでかすか怖くてたまったもんじゃないんです。それに、マグノリアさんのことを俺たちもお祝いしたいんですよ」


「そう……それなら、お言葉に甘えさせてもらうわ。……ありがとう」


 どうやら従業員に気を遣わせてしまったみたいだ。普通なら婚約の儀は一大イベントですものね。私は店をあちこち物色していたイザヤを引っ張り出して、みんなにお礼を伝えて店から出た。馬車には既に明日の準備物が乗っていて、やはりコリンは仕事はできる。

 帰りの馬車がイザヤの屋敷に向かって走っていく。


「ところで、どうして二着目に? 何か理由でもあったの?」


 何気なしにイザヤにマーメードラインのドレスを選んだ理由を聞いてみた。


「ああ。お姫様抱っこした時に気づいたんだけど、ライラはお尻の形も綺麗だから」


「~~~っ! 店で聞かなくてよかったわ!」


 ほんと最低!

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