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2 求婚

 

「ライラ・マグノリア。お前を――魔女として、連行する」



 ――


 「そんなっ! 私が魔女だ、なんてなにかの間違いです!」


 書状を読み上げていた若い王宮兵士の一人が、いててと腰をさすっている。もしかしたら防衛魔法で弾いたことが、誤解を生んでいるのかもしれない。


「見てください! さっきのは、ただの防衛魔法です!」


 私は目の前の王国兵士に指輪を見せつけた。ふむ、ともう一人の中年の王国兵士が私の指輪を観察する。


「たしかに、これはただの防衛魔法具の指輪ですな」


「じゃあ!」


「しかし闇魔術を使っていない証明にはならない。ご同行願えるかな?」


「そんな……」


 急に突き付けられた魔女の容疑。私は闇魔術を使ったことになっているのね。闇魔術は、禁忌の魔術とされている。闇魔術は人を犠牲とし、堕落させるため、国は闇魔術を取り締まっている。

 私は唖然として反論もできないまま、馬車へと押し込められた。隣には、先ほど指輪を観察した中年の男性が座り、目の前には書状を読み上げた男性が座った。



「……少しでも事情は説明していただけないの? 私は、自分が何故魔女と言われたかすら知らないのです」


 中年の男性は、ふむ、と考え始める。


「審問官殿は面倒を嫌う、よって俺が説明しよう。俺の名は、ダグラスだ」


 隣の中年男が名乗った後に続けて、目の前の青年もレイ、と名乗った。


「ライラ・マグノリアは、闇魔術で人を操る魔女だとの通報があった。通報してきたのは、この街の男爵であったかな?」


 男爵といわれて思い出すのは、数か月前私が求婚を断った太っちょ男爵だ。彼は、自分と結婚すれば安泰だとか言いだし、あろうことか私を買おうとしてきた。男爵が提示してきたのは、私からすればはした金。こんな茶地な男のものになるつもりもなかったので、「わたくし、今度子爵になるのです」と言葉を添えて突き返したのだった。


「そんな……求婚を断った逆恨みだわ」


 私はわざとらしく悲嘆にくれる演技をする。少しでも目の前の男たちの同情を買って、有利に物事を進めたい。


「可哀想だが、お嬢ちゃん。自業自得だな、この街じゃ恨みを買わないようにするのも処世術だぜ?」


 ダグラスは一瞬哀れむような素振りを見せたが、すぐに表情を厳しいものへと変えた。こんな演技には、騙されてくれないということか。それに彼の言うことにも一理あった。スラム生まれの私が、成り上がれば成り上がるほど、不況を買う。そのために、後ろ盾として王女様からのお墨付きを貰いに行ったが、一足遅かったというわけだ。


「そろそろ着くぜ」


 そう言うとダグラスは、布を手に取り私の目元に巻き始めた。


「秘密の場所なんでな」





 目元が隠されているため、はっきりとは分からないがどんどん地下に進んでいる。空気が湿っていて重苦しかった。ダグラスたちの足音が止まった。部屋に入ったみたいだ。なんだかこの部屋は、不快な匂いがする。血のような。ダグラスに背中を押されて、着席させられる。


「ここだ。じゃあ、審問官殿、あとはよろしく頼みます」


 審問官殿。きっと異端審問官のことだろう。最近は、異宗教への取り締まりの他に闇魔術を使った人間を捕まえる、つはりは魔女狩りを始めたとの噂だった。これから、眼孔に映る異端審問官せいで私は魔女にされるんだ。


「やぁ、お久しぶり? いや、今朝振りかな? また、会えて嬉しいよ、ライラ」


「……イザヤ」


 目の前で目を細めて笑っていたのは、昨日の恩人のイザヤだった。彼は、異端審問官の制服に身を包み、昨日の風体とはまるで違う。なるほどね。そう考えると昨日の偶然にも、納得ができる。


「あー、さっきのでライラから貰ったお菓子なくなっちゃった。ライラに追加のお菓子、持ってくるようにダグラスたちに言っとけば良かったなー」


 私が目の前で縛られているのにも関わらず、呑気な口調で話すイザヤ。あべこべな状況にめまいがした。


「……昨日の助けてくれたのは、私を調べるためだったのね。夕食も朝食も、何もかも、用意して損したわ」


「そんなこと言わないでよ。ライラの家に言ったのはお前を観察するためだったけど。別に何もかもオレが仕組んだことじゃないよ?」


 本当かどうか疑わしい。きっと彼が夜盗をけしかけたに決まっている。


「……はぁ。信じてくれないか……。夕食も朝食も、お菓子も、全部美味しかったよ」


「なら、お菓子ついでに解放してくれませんこと?」


 イザヤは、恐ろしいことに梨のような形の、たぶん拷問器具を弄り始めた。


「……魅力的な提案だ。でもな、それじゃ足りない」


 軽く笑いながら器具を指先で転がすその仕草に、私は背筋が凍った。お菓子ごときで買収されるわけない、分かっていたことだ。


「お金でも、ダメなんでしょうね。じゃあ私は、大人しく拷問を受けるしかないってことか」



 昨日も金銭を受け取らなかった人が、ここで金銭を渡しても買収されるとは考えにくい。ああ、私の成り上がり人生はここまで?そんな、嫌だ。まだ目的を達成していないのに!私は、必死で頭を働かせる。金銭でも、お菓子でもなく彼を買収できるもの。


 そして私は、一つ提示できるものがあることに気づいた。それは最も私が取りたくなかった選択肢だ。でも、ここで死んでしまうよりはマシだった。


「私なら?もう私が差し出せるものは、私しかないわ」


 そう言うと、イザヤは笑い始めた。嘲笑の笑いではなく、嬉しくてたまらないそんな声色の笑い方だった。


「あはは! オレは、察しが悪い奴は嫌いなんだ。うんうん、その点、本当にライラは気が遣えるね。途中諦めちゃうかと思ったけど、諦めない姿勢もすごくイイ。自分の今後が、審問官に左右されるのをよく分かってる」


 イザヤが上から評価する姿勢が腹立たしかった。彼の言う通り、魔女の容疑がかかった私の未来は彼に掌握されているのだから。

 イザヤがひとしきり笑うと、今度は私に近づいた。長身の彼は、ただ立っているだけで威圧感があり、恐ろしい。


「ライラ……。オレと結婚して欲しい」


 そう言ってイザヤは、プロポーズするかのように片膝をついた。


「えっと、懇願するのは私のほうじゃなくて? ……ちなみに私のどこが良かったの?」


 急のプロポーズに驚いてしまい、変なことを口走ってしまった。イザヤはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、にっこりと口角を上げた。


「お前となら、幸せな家庭が見れるかもってそう思ったんだ」


 イザヤの声は、優しく甘さを含んだものだった。


「それに、料理も上手だし。見た目もすごく好みだ。仕事終わりに、お前にただいまって迎えてほしい。それにイイ匂いがするし――」


 どんどんイザヤの顔が私の顔に近づいてくる。


「ちょっと、ストップ!それ以上はっ」


 顔が熱くて、恥ずかしい。相手は異端審問官で、私は魔女容疑をかけられている状況なのに、褒められて喜んでしまうなんて。それでも、彼から褒められたのが嫌じゃなくて。


「――できないわ」


「……は?」


 彼の声のトーンが一気に下がる。


「できないってどういうこと?オレとは、結婚できない? 合意を取って優しくしようと思ってたのにな……」


 イザヤの機嫌が急降下していくのが分かる。私は、だんだん恐ろしくなってきた。さっき決めた考えは、覆したほうがいいのかも。まぁ、生きるためにはそんなことも言ってられないが。


「このままじゃ貴方の手を取ることができないって言ったの!」


 私の発言を理解したイザヤが、せっせと私の拘束を外す。嬉しそうにイザヤが、私の手を取った。


「貴方と結婚します」


 これは契約結婚だ。生きながらえるための。


「幸せにするよ。オレなしじゃ生きられないくらいに」


 そう言って彼の大きな身体が私を包んだ。オレ(イザヤ)なしじゃ生きられないね。生憎、自立して生きるが指針の私が、どうとなるわけがないと高を括った。するとイザヤが、力いっぱい私を抱きしめる。


「ちょ、ちょっと! 痛いんだけど!?」


「あ、ごめんごめん。ライラが受け入れてくれたことが嬉しくって」


 照れたように笑うイザヤ。もしかして本当に私が好きなの?


「それじゃあ、オレは上司にライラが魔女じゃなかったって報告してくるね! ライラは、待ってて」


「ま、待って!」


 そう言って私からイザヤに抱きついた。


「えっ、ライラからのハグは嬉しいけどどうしたの?」


「……私からもお返しに抱きしめちゃダメでしたか?」


 上目づかいでイザヤを見る。イザヤは、顔を赤くし効果覿面(こうかてきめん)だ。


「ふふ、早く帰って来てくださいね?」


 そう私が国をかしげると、イザヤは走って行ってしまった。早く戻ってくるつもりで走っていったのだろうか?

 良かった。イザヤにつけた小型魔道具のイヤリングは、気づかれていないみたいだ。装飾もない小さな宝石だけがついたイヤリングは、片方で音を拾い、もう片方で聞くことができる。録音することもできる優れものだ。異端審問官に尋問されるから、身ぐるみをはがされるかと思っていたのに、手元に残されたら使いたくもなる。

 イザヤが、本当に私を魔女じゃないと報告するか聞かなくては。もし魔女だと報告されたら、私はその瞬間なにがなんでも逃走しなくてはならない。


『イザヤ審問官は随分とごきげんですね』


 きたっ!イザヤが、上司と呼ぶ人物と接触したみたいね。声からして、壮年の男性みたいだ。ここからは集中して聞かないと。


『審問長官殿もご機嫌だな』


『今日は、魔女が一人告発されたと聞きます。日常に混じった魔女を見つけ出し、市民に平和をもたらせたので、機嫌がいいのですよ』


 なにが日常に混じった魔女よ。私は魔女じゃなくて市民側なのに。


『それがだな! 相手は、魔女じゃなかったんだ』


『ほう……。何故です?』


『オレもビックリしたんだ! 魔女だと連れてこられた相手が、まさか婚約者だったなんて!』


 私もびっくりよ。いつから私はイザヤの婚約者だったのかしら。流れるように嘘をつくわね。


『なるほど、なるほど。……驚きました。貴方から婚約者の存在は聞いたことがなかったもので。それで彼女が貴方の婚約者であるから、魔女ではないのを信じろと? これでは、魔女でないのも嘘だと思ってしまいますよ』


 思いっきり婚約者じゃないのバレてるじゃない!逃げたほうがいいかもしれない。私は出入口の扉に近づく。


『あはは、長官はよくオレを見てるな。ライラが魔女でない確信はない。だから手元に置いて監視することにしたんだ』


 私の動きが止まった。なんだそういうことか。イザヤは、私が好きで求婚したんじゃない。使命として監視のために、結婚を申し出たってわけね。イザヤはとても仕事熱心というのが知れた。


『ほう……。それで私になんの報告が? 魔女の対応は君に一任しているので、解放も処分も報告は今まで一切なかったのに。別の要件があるのでしょう?』


 やっぱり異端審問官のイザヤに命運が握られてたってわけね。


『司祭でもある長官に、オレとライラの契約痕(けいやくこん)を施してもらいたい』


 契約痕(けいやくこん)は、司祭によって婚約の際に施される魔法の誓い。互いの想いがなければ半年ほどで消えてしまうため、痕が無くなれば離婚も成立できる、昔から伝わる夫婦の証である。イザヤは使命から私と結婚するのだ。つまりは、私が魔女じゃないと潔白の身をイザヤに、半年間見せ続けるだけの期限付きの結婚!私は、椅子に向き直り、座り直す。


『なるほど、なるほど。君の意図は理解しました。その願い、聞き入れましょう』


『やった! ありがとな! じゃあ、オレは急いで戻らないとだから』


 やばい!イザヤが帰ってくる!私は努めて冷静な表情を作る。これで、私の半年の目標が決まった。イザヤの妻として、魔女と疑われないように大人しく暮らす。そうすれば、半年後には離婚して元通りの生活よ。

 廊下からドダドタと足音が聞こえる。


「ライラ、お待たせ! うーん、やっぱりライラは可愛いな」


「冗談はよしてください」


 使命感で求婚して、可愛いなんて本当に思ってもない癖に。どれだけ演技が上手いんだろう。


「それじゃあ、行くか!」


「はい、早くここから出してください」


 もう薄暗い尋問室はまっぴらだ。長いこといたせいで、血の匂いに鼻が慣れてしまった。


「ここから出るのはもちろんだけど。行くのは、オレの屋敷」


「へ?」


「だって俺たち結婚するんだろ?」


 そう言ってイザヤが、私の頬にキスをした。



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