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第7話 銀狐、魔妖狩りに遭う 其の三


 

「……っ、はぁ……ぁっ……!」


 

 目の前の男に縋るような甘い声が、晧の口から発せられる。

 男がくつりと笑った。


 

「よしよし。攫って来いって言う命令だったが、やることは一緒だろうさ。これから一晩、いや二晩掛けて、お前をたっぷり仕込んでやる」


 

 たっぷり仕込む。

 男のその言葉に更に熱くなる身体と、その裏腹に心の奥底のどこかに冷たいものが落ちて波紋を作った。

 もっと触れて熱を解放して欲しいと思う気持ちと、止めろ触るなという気持ちが鬩ぎ合う。

 何も言わずに許婚竜から逃げた罰、なのだろうか。


 

(……こんなところでこんな男に犯されるなら、初めてはお前の方が)


 

 良かった。

 逃げたというのに、そんな勝手なことを思う。

 どんなに冷たい灰銀の目で自分を屈服させたとしても、あの真竜は性技を仕込んだ挙げ句に、物好きな好事家に自分を売ったりなどしないだろう。


 

(それに……)


 

 こんな状況だというのに、何故か思い浮かぶのは、自分の後ろを短い脚で、とてとてと着いてきたあの幼竜なのだ。

 冷えた心の目覚めるがままに、晧は鉛のような足を動かした。酷く億劫なほどに動かない足で、男の脇腹に蹴りを入れようとする。

 だがそれは無残にも男によって、易々と足を掴まれてしまった。


 

「──おっと! 無抵抗なお(ひい)さんより、抵抗するお姫さんの方が唆るってもんよ。だが俺はな、どちらかっつーと従順なのが好みでなぁ」


 

 男は晧の掴んだ足を自分の肩の高さまで持ち上げると、足首から脹ら脛にかけて、これでもかと舐め上げた。その悍ましさと熱い滑りとした舌の感触に、晧の心の中を嫌悪と官能が鬩ぎ合う。

 男は晧の足を肩に掛け、唾液塗れにしながら器用にも、胸元から小さな小瓶を取り出した。口で栓を抜き、これ見よがしに晧の目の前に突き付ける。

 ふわりと香る甘い芳香に、その小瓶が先程掛けられた媚薬だと思い知った。


 

「……や、めろ……っ……!」


 

 たった一度の量で、これほどまでに身体が熱くなり、痺れたように動かなくなったのだ。そして目の前のこの男に快楽を求めてしまいそうになった。

 それをもう一度掛けられたら、どうなるのか。

 くつくつと無慈悲に、だが楽しそうに笑った男は小瓶を傾ける。

 晧の唇に。


 

「──……っっ!! ……ぁ……ぁ……」


 

 頭の中が快楽によって真っ白に染まって、何も考えられなくなる。


 

「そうだそれでいい。今から優しく仕込んでやるからよ」


 

 男は晧に攻撃されて、未だに地に沈んでいる他の仲間に起きろと怒鳴った。


 

「始めの仕込みは終わった。これから二晩かけてこいつを仕上げるぞ」


 

 そう言って晧の手首を繋いでいる鎖を、ぐいっと持ち上げた刹那。


 

 空気が唸った。


 

 次に聞こえてきたのは男の絶叫だ。錆びた鉄のような臭いが辺りに充満し、ぼとぼとと地に何か水滴のようなものが落ちる音が聞こえる。

 持ち上げられていた晧の身体が、地面に向かって滑り落ちそうになったその須臾。

 抱き留められる、力強い腕。

 失せろ、という冷淡な声に、男共が悲鳴を上げて立ち去っていく足音が聞こえる。

 晧は朦朧とする意識の中、助けてくれた人の顔を見た。

 全く知らない男の顔だった。

 もしかすると新手の魔妖狩りか。

 そんなことを思うのに、身体は熱を増して、痺れてもう動くことも叶わない。


 

「……夫ですか? すぐに手当てを……」


 

 彼が何を言っているのか、もうよく聞こえない。

 だがどこかで嗅いだことのあるような、とても懐かしい匂いが彼からする。それに酷く安心してしまって、晧は自分を横抱きしてどこかへ運ぼうとする彼に、ことりと身を預けたのだ。 

 

 

 

 

 

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