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第6話 銀狐、魔妖狩りに遭う 其の二



 男の言葉に、冷たいものが背筋を流れ落ちていくかのような、気味の悪さを感じた。その言葉を額面通りに受け取るとするならば、傷の付いてない自分の、この身体が必要だということだ。それは物好きな好事家に売られることを意味している。

 それがどんな意味合いなのか分からないほど、(こう)は子供ではなかった。街道かもしくはこの街入ってからか、それとも城下街にいた頃か、自分は彼らに目を付けられていたのだろう。

 

 先手必勝だと晧は思った。

 相手が術者ならば迷っている暇などない。

 手の所作と『力ある言葉』による術の発動には、実は大きな隙がある。

 そこを狙って晧は相手の懐に飛び込み、回し蹴りを相手の頭に喰らわせた。相手は声を上げる余裕もなく、身体ごと吹き飛んで倒れる。間を空けずに晧はすぐ隣にいた、二人目の術者の脇腹を渾身の力を込めて蹴る。格好の悪い呻き声を上げて、術者が地に沈んだ。

 三人目、と地面を踏み込んだところで、空気を重く切り裂くような音が耳元で鳴り、晧は本能の感じるままに身を軽く翻して避ける。

 避けたつもりだった。


 

「──っ!」


 

 玉鎖がまるで生き物のように畝って動いて、晧の左手首を絡め取る。そのまま身体ごと地面を滑るようにして引き寄せられたところで、突如、晧の顔に何やら液体のようなものが掛けられた。


 

「うわっ! なっ……!」


 

 目に入らなかったことが幸いか、それとも不幸か。

 顔から香る、濃厚で甘い芳香に身体がだんだんと痺れたように動けなくなる。そしてやたら身体が熱くて堪らなくなった。


 

「──ったく手間を掛けさせやがって」


 

 玉鎖の持ち主が、晧の右手首にも鎖を絡ませて身体を持ち上げる。鎖が自分の体重によって手首に食い込んだ。


 

「……っ!」


 

 痛いはずのそれが妙な快楽に擦り変わる。思わず上げてしまいそうな声を晧は、奥歯をぐっと噛み締めて堪えた。

 だが。


 

「──っあ……!」


 

 男の武骨な手が、晧の銀灰黒の尻尾の付け根を卑猥な手付きで揉み込む。思わず上がってしまった自分のものとは思えない甘い声に、晧は戸惑った。


 

「へぇ? 存外可愛い声で啼くじゃねぇか。獣系の魔妖はここが堪らんだろう?」

「や、やめ……ろ……!」

「さすがは闇で評判の、魔妖専用の媚薬だなぁおい。即効性抜群だ。それに仕込み甲斐がある。どんな淫乱な子狐に仕上がるのか、楽しみで仕方ねぇ」



 男は荒々しい息を、(こう)の銀灰黒の耳に吹き付ける。本来ならば気持ちが悪いと思うはずの男の手が、気持ち良くて仕方がなかった。

 晧は甘く荒々しい息を吐きながら、快楽で朦朧とする意識を何とか保っていた。意識を失ってしまえば、どこに連れ去られ何をされるのか分からない、そんな気持ちが頭の中をまだ占めていた。

 だが意識を失えてしまえた方が幸せだっただろう。身体も心も、ただひたすら快楽を求めて染まっていく様を、自覚せずに済んだのだから。


 

(……ああ、だめだだめだ)



 気持ちがいい。

 もっともっとして欲しい。 


 

 

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