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第40話 銀狐、麒澄に会う 



 式鳥は天井を旋回すると届け主を見極めたのか、医生の前に降り立ちながら、その姿を一枚の紙に変える。

 医生は急いで目を通すと、途端に喜色を浮かべた。


 

「なんと! 馴染みの術師が来院されていたらしく、移動陣が敷けるとのこと。すぐにこの宿に来て下さるそうです」

「──本当か!?」

「ええ。早速迎えに言って参ります」


 

 そう言って医生が慌てて部屋を出て行く。

 移動陣は目的の場所にあらかじめ同じ陣を描いておき、『力』を発動させれば、今いる場所から目的の場所へ瞬時に移動することが出来るものだ。国のいくつかの場所にこの陣は存在しているが、扱える者が術師の中でも限られている難しい術だと聞いたことがあった。

 そんな術師が訪れている院の医生など、ただひとりしかいない。 

 部屋の外で何やら遣り取りが聞こえる。後は任せて頂きたいと誰かが言い、先程まで白霆(はくてい)を診ていた医生が礼を言って去っていく気配がする。

 そうして無遠慮にも部屋に入ってきた人物は、(こう)もよく知っている人だった。


 

「──だから言ったんだ、馬鹿弟子」


 

 彼が寝台に横たわる白霆をじっと見下ろしていたかと思うと、まるで吐き捨てるかのように言う。


 

「聞こえているか? 俺は忠告したぞ、この馬鹿弟子が……!」


 

 だがそれに対する白霆の応えは、高熱から来る苦しそうな息遣いのみ。

 そんな白霆の様子に舌打ちをするのは、深縹(ふかきはなだ)(いろ)の長い髪を、ゆったりと三つ編みにして肩へと流した、片眼鏡の男だ。

 名を麒澄(きすみ)という。

 紅麗にある薬屋『麒澄』を営む薬師であり、主に竜や魔妖を専門に診る医生だ。銀狐の一族も彼の診察や薬に大変世話になっている。

 彼が特に得意としているのは、術や妖気に冒された身体を払う薬の精製だ。胸の鬱血痕を術的なものだとみて、麒澄を呼んだ先程の医生の判断は正しいのだろう。

 だが。


 

「──麒澄。白霆は貴方に頼まれた薬を、南の国に取りに行く途中で体調を崩した。体調管理も仕事の一環だと言われてしまえばそうかもしれないが、にしてもそんな言い方はないんじゃないか!」


 

 しかも高熱で倒れている弟子に舌打ちまでしたのだ。

 晧は憤りを麒澄にぶつける。

 麒澄の紅玉の目が晧に向いたと思いきや、麒澄は人の心を凍り付かせるかのような、冷え冷えとした笑みを見せた。

 そうして短く息をついて、嗤う。


 

「ああ、お前にはそう話していたのか。確かにそう言えば南へ行く口実が出来るな」

「こう……じつ……?」

「ちなみに俺はこの馬鹿弟子に『南の国に薬を取りに行け』と頼んだ覚えなどない」

 

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