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第38話 銀狐、動揺する 其の一



 今日の宿の受付の者はさぞかしびっくりしただろうと、(こう)は少しばかり反省した。宿の戸を勢い良くばんと開けて、入ってきたのは人を乗せた大きな銀狐だったのだから。

 だが騒ぎにならなかったのは、晧がすぐに人形(ひとがた)に戻ったことと、この宿が魔妖もよく利用する有名な宿だったからだ。

 晧は受付の者に連れの調子が良くないので、もし離れのような部屋があれば用意して欲しいと頼む。到着が早かったおかげか、離れは空いているようだった。

 そして近くに医生がいたら、連絡を取って欲しいと受付に伝えた。宿専属の医生であればすぐに連絡が取れて、部屋に来てくれるという。

 白霆(はくてい)を何とか支えながら、晧は案内された離れの部屋に入った。受付のあった建物から随分と離れた場所にあるそれは、部屋自体がひとつの建物のような造りになっている。

 寝台に白霆を座らせた須臾(しゅゆ)、余程我慢し隠していたのだろうか。彼が荒々しい息を吐いた。


 

「白霆、眠衣(ねむりぎぬ)があるから着替えよう。脱げるか?」


 

 晧の言葉に白霆が弱々しく、はいと応えを返す。

 いつもとあまりに様子の違う白霆に、晧の心の中で動揺が走った。だがいま一番辛いのは白霆だろうと、晧は自分を鼓舞する。

 億劫そうに旅装束を脱ぎ始める白霆を手伝いながら、やがて彼の上半身が露わになる。


 

(ん……?)


 

 ちょうど心の臓の上辺りだろうか。

 何かを打ち付けたような大きな鬱血痕を見つけて、晧の背中を冷たいものが流れ落ちる。どこかに感じた痛みに耐える為に付けた。そのようなものに思えて仕方ない。

 眠衣を羽織らせて着付けた後、下衣の旅装束の帯を解いて脱がせる。本来ならば眠衣の下袴も穿くのだが、白霆の体力がもう限界だったのだろう。

 寝台に横になった彼に上掛けを掛ける。

 済みません晧と、乱れた呼吸の中で途切れ途切れに、白霆がそんなことを言う。


 

「……謝るな白霆。今はゆっくり休んでくれ」


 

 晧はそっと白霆の額に触れた。

 熱い。

 きっと熱が出てきているのだ。医生が来るまでの間、宿の者に手水と布巾を用意して貰わなくては。

 そう思って白霆の額から離そうとした手に、重ねられる大きな手。


 

「少し……だけ、こう、していてくださ……」

「……っ、白霆」

「あなたの手……すごく……安心す……」


 

 やがて白霆が眠った。

 その呼吸は先程の荒々しさが嘘のように穏やかだった。

 このまま苦しまずに、ゆっくり休んで欲しい。

 白霆の額に触れながら晧は思う。


 

 だがその願いも虚しく、宿専属の医生がこの部屋を訪れた時には、白霆は再び呼吸を激しく乱した。

 自身の胸を拳で打ち付けながら。

   

 

 

  

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