第24話 銀狐、悩む 其の四
「……っ」
白霆の何気ない言葉に、灰銀黒の耳がぴんと立ち、嫌でも顔が熱くなる。そんな晧の顔を見て、良かったと、優しい口調で白霆が言った。
「顔色、良くなりましたね。本当に良かった」
彼の手が、晧の様子を見るように頬に触れる。その熱さが心地良い。閉じた心の蓋が溢れそうになるのを晧は何とか堪える。
ふと晧は思った。
「昨日、別室にしたのって……」
「……ええ。同室にしてしまったら、貴方が私を気にして休めないと思いましたので」
彼の言葉を全て信じたわけではないが、もしも本当なら白霆は自分のことを考えてくれていたのだ。そう思うだけで温かいものが心内を満たしていく。
だが。
「もしかして……寂しかったですか?」
「なっ……!」
そんな風に聞かれて、顔に更に朱が走った。
「寂しいわけ、ないだろうが!」
思わず、くわっと吠えながらそんなことを言う晧を、白霆は驚いていたが須臾の内にくすりと笑った。
お見通しだと言わんばかりに。
こんな自分はいつもの自分ではない。
だが何の説明もなく目の前で心の扉を閉めるような真似は、二度とごめんだと思う自分がいる。
(いや……同室がいいとかそういうのではなく!)
湧き上がった感情が、図星だったが為の苛立ちなのかよく分からない。
だが白霆が自分の体調を気にしてくれていたのは確かだ。
思えば自分の中の心の葛藤が齎した結果だ。
白霆には何も関係がないというのに、彼の気遣いに対して八つ当たりをしてしまったようなものだ。
「……その……白霆は俺のこと心配してくれたのに……声を荒げて悪かった」
「……っ、いえ……」
いつになく辿々しい口調の白霆が気になって、晧は様子を伺うように彼を見上げた。
そこで見たものは、片手で口を覆いながら顔を紅潮させた彼の姿だ。
「……っ」
どこか飄々とした印象を持っていた白霆の意外な姿に、釣られて晧の顔が更に赤くなる。
お互いに何も言えないまま、ただただ見つめ合う。
何かを言わなければと思うのに、言葉にならない。
「あ……」
それでも互いの間に流れる空気を何とかしたくて、晧が何か言いかけたその時だった。
──……定です! 今朝麗海から届いた新鮮なお魚、お刺身でも焼き魚でも美味しいですよ! 豪華特別朝餉! 限定十食! はいあとニ食ですー!
食事処の方向から聞こえる元気な声は、昨日の魔妖の少女のものだろうか。
だがそれよりも。
「──ニ食! ニ食だって! 白霆! 豪華特別朝餉!」
「それはいけません。急ぎましょう、晧」
いつの間にか普段通りに話すことが出来て、晧はほっとする。
二人は食事処に向かって走り出したのだ。




