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第2話 銀狐、準備する


 麗国城下街、紅麗は大通りを中心に大変な賑わいを見せていた。

 昼間は市が出て新鮮な野菜や果物、川魚に乾物、香漬けに茶など、日常の食卓に必要な屋台がたくさん出て、呼び子の粋の良い声が飛び交う。

 だが夜になれば大通りは見事な歓楽街に変わる。酒を扱う屋台が出て、朝まで眠ることはない。

 そんな喧噪の中、晧は街外れに向かって歩いていた。


 遊学の為に里を出て城を目指すこと三日。


 ようやく辿り着いた城下街で、晧は自分の護衛として付いてきた者達に、しばしの休息を言い渡した。麗城へはこの街から北上して、更に一日以上掛かる道のりだ。この街でしばらく身体を休めてから出発しようと提案すれば、自分に数人の護衛を置いて皆、歓楽街へと消えていった。

 誘われはしたが、自分は乗り気ではないから宿にいると言い、護衛にも遊びに行けと命じたが、護衛はそういうわけにはいかないと頑なだ。

 何とか護衛にばれないように宿を抜け出せたのは、陽もすっかり落ちたあとだった。

 晧は街外れへと急ぐ。

 そこにある茶屋で術者と会う約束をしていたのだ。



 茶屋の主人に二層目の一番奥にある部屋に案内される。ごゆっくり、と意味ありげに微笑まれて晧は少しげんなりし、灰黒の耳をへにょっと倒した。だがこの陽も落ちた刻時に、茶屋の二層目を使うことがどういう意味なのか、知らないわけではない。

 茶屋の二層目は夜になれば、出合茶屋に変わる。人を始め、様々な種族の者達が密かに逢瀬を楽しむ場所だ。

 だがこの部屋で待っている者は、晧にとって決してそんな対象ではない。『夜の茶屋の二層目』を選んだのはお互いに、抜け出して落ち着いて話をするのに都合が良かった、ただそれだけのことだ。

 


(──それにあの人、番がいるからなぁ)



 しかも真竜の。

 頼み事以外にも、少し話を聞きたかった。

 真竜のアレは、本当に──。

 そんなことを思いながら晧は部屋の引き戸を、こつこつと叩く。返事が聞こえて晧は中へと入る。

 


「久し振りだね、晧」



 そう言いながらにっこりと笑うのは、綺麗な藤瑠璃の髪を高く結った妖艶な青年だった。

 城お抱えの術師であり、その『力』は折り紙付きだ

 晧は彼のことを紫君(しくん)と呼んでいる。

 本来の名前もあるらしいが、晧は呼んではいけないと彼に言われたのだ。過去に何やら色々とあったらしいのだが晧自身は全く覚えていないので、特に気にもしてないし、特に聞きたいと思ったこともない。そのことで紫君は、昔から良くしてくれているのだが、有難いとも思うし申し訳ないとも思う。 

 だが今回はとても有難かった。

 晧は挨拶もそこそこに、紫君に勢いよく頭を下げて、願い出る。



 ──俺によく似た、精巧な式を作ってくれないか、と。



 遊学中に逃げるにしても、周りの者に心配を掛けるのには忍びない。それにここまで付いて来てくれたお付きの者達に、自分がいなくなったことで罰を受けるかもしれない。せめて遊学の間だけでも誤魔化せる式が欲しい。

 紫君が理由を聞いてきたが、彼には色々と隠し通せる気がしないので、晧は正直に話した。番に真竜のいる彼なら、もしかしたら気持ちを分かって貰えるかもしれない。

 紫君は、きょとんとした表情を浮かべていた、が。



「あ──……」



 どこか気まずそうな顔をして、晧から視線を逸らした。



 (は!? 何!?)

「まぁ……初めは痛いけど何とかなるよ」



 苦笑しながら紫君は言う。



(──痛い!? 痛いって何!? ってことは、やっぱり)



 閨の真竜の真竜は、剛竜なのだ。

 持っているものは凶悪なのだ。

 


「ひ、ひえぇぇ……──!」



 銀灰黒の綺麗な尾を無意識の内に股の間にくるりと収めて晧は、へにょっとしていた銀灰黒の耳を覆うように頭を抱え込んで叫んだ。

 想像だけだったものが、実体験の話を聞いて現実を帯びた感じだった。


 

「いやでも彼ら基本優しいし、彼らの持つ気が色々と和らげてくれ……ちょっと、聞いて晧? こーう?」      

   

 

 

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