第9章
サラは買い物の途中だった。サブローに頼まれて食材を買いに行ったのだった。
いつもの通りを歩いていると、突然高級車が止まった。執事と思しき人が降りてきて、車のドアを開けた。
中からダークスーツを着た若い男性が出て来た。
「こんにちは、お嬢さん、私の名前はカルトと申します。私は貴方の美貌に惹かれました。恐縮ですが今から一緒にお昼のランチでもどうですか?」
「でも、あたし買い物の途中だし…」
「御心配には及びません、そんなに時間は取りませんので」
サラは仕方なく同行することになった。
なんて高級そうな車なんだ。サラは車に乗るなりそう思った。
座席も凄く座り心地が良かった。
車はとある高級レストランの駐車場に入っていった。
中に入ってみると、客はみんなブルジョア階級の人達ばかりで、クラシックによる音楽隊が楽器を演奏していた。
サラはこんな格好でこんなところに入るのが、なんだか恥ずかしかった。
店のオーナーと思しき初老の男性が「カルト様、お待ちしておりました、いつものディナーをご用意しております」と言った。
「ありがとう」
テーブルには分厚そうなステーキや新鮮な魚介類、フルーツや野菜類等、豪華な食材が並べられてあった。
「あの、これ本当にあたしの様な物が食べていいんでしょうか?」
「遠慮しなくていいんだよ、君との出会いをお祝いしてるのさ」とカルトはワインを啜りながら言った。
「あたし、こんなの食べるの初めてで、食事のマナーとかわからないんですけど…」とサラは不安そうに言った。
「大丈夫、私の食べ方を真似すればいいんだ」
「あの、カルトさんて何かの社長さんですか?」
すると横に立ってた執事が言った。
「カルト様はフーディー家の御曹司でいらっしゃいます」
サラはビックリした。フーディー家といえば、世界的な大財閥の名家だ。
「ああ、そういえば君の名前を訊いてなかったね」
「あたしはサラです」
「職業は何してるの?」
「今のところ無職です。住んでるところも仮住まいです」
「へぇー、君みたいな上品そうなお嬢さんがね、良かったらうちの会社で働かないか?」
「いえ、遠慮しときます…」
「残念だなー、こんないい話を断るなんて。もし良ければ君の連絡先を教えてくれないか?私がいつでもご馳走してあげるよ!」
「いいえ、それもご遠慮しておきます」
「ハハハ、君はなんでもかんでも人の厚意を断るんだねぇ~」
「どうもすみません」
「別に謝らなくてもいいよ、今日はディナーを楽しもう!」
すっかり遅くなってしまった。カルトは丁重に自宅まで送り届けてくれた。
家に戻るなり早速ケンが文句を言ってきた。
「サラ、遅せーぞ、今何時だと思ってるんだ、俺もう腹ペコペコだぞ」
「ごめん、あたしはもう夕食いらないから、お腹いっぱい食べて来ちゃった」
するとサブローが言った。「何かあったのか?」
「ちょっとナンパされちゃって…」
「誰にだよ!」とケンが言った。
「カルトさんていうフーディー家のお坊ちゃんによ」
「カルト…フーディー家…」サブローとケンは顔を見合わせた。
「サラ、気を付けた方がいい、フーディー家は家族全員スリーメイソンの会員なんだ」
「そうなの…」
「彼等はレプティリアンの血を引いている、それが故にあの一族は天才なんだ!」
「そうだぞ、あまり関わらない方がいいぞ」ケンが歩調を合わせた。
「でもだいぶご馳走になっちゃったなぁ~」サラはあの凛々しいカルトの笑顔を思い浮かべ、少し残念な気持ちになった。