第5章
たくさんの人や車が行きかうローゼの街の雑踏の中にサラの姿があった。彼女は高校を卒業し、就職先を探す為上京してきたのだ。
サラは目を丸くした。これ程の都会の喧騒を味わうのは初めてだった。
サラはなるべく人とぶつからないように注意して歩いた。
後ろからバイクがが近づいて来た。バイクに乗った男がサラのカバンを引っ手繰ると猛スピードで去っていった。
サラは息を止め、時間を止めようとしたが、その間もなく、バイクは走り去っていった。
サラは公園に行くと、力なく座り込んでしまった。あのカバンの中には全財産が入っている。警察に届けようか、としんみり考えていた。
「ほらよ!」
後ろから若い男の声がし、奪われたカバンがサラの膝の所に投げ出された。
サラは振り向いた。若い20代位の男が立っていた。多分自分よりも2,3歳年上だろう。
「俺があんたのカバン取り返してやったよ!」
「どうやって?」
「俺には特殊能力がある。瞬間移動てやつだ。まあ500m以内だけどな」
「あたしにも特殊能力があるよ!呼吸を止めている間だけ時間を止める事が出来るの」
「もしかしてそれ、宇宙人から与えられたんじゃないか?」
「そうだよ」
「実は俺もそうなんだ!」
「あなた、名前なんていうの?」
「俺はケンだ、君は?」
「あたしはサラ」
「俺たち能力者同士だな」
ケンはサラの隣に座った。
「なあ、サラ、俺と組まないか?」
「どういう事?」
「つまりだ、君が息を止めている間、俺が瞬間移動してコンビニの中に入り、レジから金を奪って、瞬間移動して戻って来るんだ」
サラは呆れた顔をした。
「そんな事に手は貸さないわよ」
「いやあ、俺が君のカバンを取り返してやったんだから、一度くらい言うことを聞いてくれてもいいだろう?一度だけだ!」
「仕方ないわねぇ~、一度だけよ!」
「報酬は山分けといこうぜ」
ケンとサラはとあるコンビニに近づいて行った。
「サラ、隠れてろ、俺が合図をだすから、君は息を止めるんだ、その間に俺は瞬間移動して金を奪ってくる」
ケンが指を鳴らした。サラは大きく息を吸い息を止めた。周りの情景が静止した。するとケンがフッと姿を消した。
サラは肺活量には自信があったが、一分もすると苦しくなってきた。
ケンが現れた。レジ袋を持っていた。袋の中には紙幣や硬貨がいっぱい入っていた。
サラは「フゥ~」と息を吐いた。
「成功だな」ケンがニヤリと笑った。
これで一回きりの筈だったが、その後何件も繰り返される事になった。
その度に各コンビニが悲鳴を上げ、謎の現金消失に困惑した。
「いいだろうサラ、俺たちは大金持ちだ」
2人はアジトというかケンの住むアパートで奪った現金を数えていた。
「もうこれ以上手は貸さないわよ!」
サラはきっぱりと言った。
「まあいいじゃないか、これだけ金が集まったんだし、何かご馳走でも食べにいくか」
するとベランダの方から光が入って来た。「ウワァ~!!」2人は光に呑み込まれていった。