願いは哀しき記憶となりて
昔々、とある小さな王国に、珠のように美しく、賢く、心優しい若き姫がおりました。建国時よりこの王国に住まう人々は、小さな国ながらも豊かな暮らしを営み続けていましたが、姫が誕生した後は、神の祝福を受けているかの如く更に豊かな国へと成長していきました。
一方、隣国にあたる大国では政変が起こっておりました。小国と良好な関係を築いて恩恵を受けたい国王一派と、姫を奪い小国を自国に取り込む策を練る傲慢で強欲な王太子一派とのぶつかり合いが起きていたのです。
なかなか決着のつかない争いに、先に痺れを切らしたのは王太子でした。独断で騎兵し、小国に間者を送り込み、見事姫が公務の最中に攫ってみせました。
小賢しいことに、隣国の王太子は孤児院の幼い子どもたちを人質にしたのです。姫は抵抗しましたが力で敵うことはなく、姫を守ろうとしていた護衛たちも、人質に危害が及ぶのを良しとしない姫の命令により投降することになりました。
そこからは、地獄の始まりでした。もし、隣国の国王が王太子の行動を把握さえ出来ていたならば、未来は変わっていたのかもしれません。父王は王太子の策略により、既に天の住人となっていたので、それも叶わぬ願いではありました……。
姫はせめて護衛たちだけでも助かるようにと、王太子と密約を交わすことにしました。
『ならば姫よ。其方が我が妃となるのであれば、其の方の願いを叶えてやろう』
『であるならば、勇敢な私の騎士を解放して下さいませ』
『よいともよいとも。既にあ奴らは解放しておるよ。魂となってな!』
そう。その時にはもう彼らは誰一人として生きてはおりませんでした。悲しみにくれた姫は、王太子の腰から剣を奪い、自ら天に召されることを決めたのです。
姫が帰城しないことを不審に思った国王は、精鋭たちをすぐさま集め、姫の行方を探しました。姫の居場所はすぐに判明しましたが、相手は大国。兵力ではどうしても負けてしまいます。その時、隣国の王宮に執事として潜入させていた同胞より鳩が届きました。大層慌てていたのでしょう。文字は歪み、所々にシミができたその手紙は、悲惨な事実を伝えてきました。
ーー姫君、王太子より打たれる
国王は怒りと悲しみで膝を折り叫び続けました。その叫びを聞いた城の者たちから国全土へお姫の訃報が伝わるのに、そう時間はかかりませんでした。
姫を失った悲しみは小国を包み、やがてどこからか声が聞こえるようになりました。
"満月の夜、願いの星に祈りなさい"
"真っ赤に輝く願いの星に"
小国の王と民たちは皆、その夜が満月であったため空を眺めておりました。暫くして、金色の空に輝く赤い星を見つけふと、何者かの言葉通りに赤く輝くその星に、復讐を願いました。
その後、"器となる人形を用意して姫の魂をその人形へ降ろせば願いが叶う"と何者かが囁きます。その囁きは祈りを捧げた全ての民に聞こえていたようで、器を作るため皆が城へと集まってきました。
皆、喜びました。誰ともわからぬ者の言う通りに、器となる人形を用意し、突然頭に浮かんだ何ともわからない図を、少しずつ集めた生き血を使い地に描くと、なんと失ったはずの姫が現れたのです。
しかし、彼らが願ったのは復讐。人形に下ろされた魂は、かつての姫ではなかったのです。姫の魂は復讐の鎖に縛られ、滅びの厄災へと変わってしまいました。
そんな姫の願いは"解放"。その願いが叶う時、彼女には何も残されていませんでした。
その後、復讐のため王太子は炭となり大国は滅びました。しかし、願いの影響か、復讐のために戦った小国の王や国民は死してなお戦い続ける魔物と化しておりました。その中で自我があるのは鎖に囚われた姫ただ1人だけ。
姫の心は泣き続けました。
かつて心から愛した父王がーー
かつて心から愛しんだ国民がーー
願い星は願いを叶えてくれる奇跡の赤星。しかし、その願いが人々にどう影響するかは、誰にもわかりません。
それから年月が経ち、願い星は禁忌となりました。
この伝承が何者によって広められたのか、誰にもわかりません。何故なら、願い星の奇跡を知るものたちは皆、この世のものではないのだから……。
※作者より
見切り発車の初連載小説です。至らぬ点はたたあるかと思いますが、楽しんで頂けるように頑張りたいと思います。
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