ジョシュアの受難「父との確執」①
数日が経ち、再び孤独に包まれた俺は、暖炉の前で深く思索に沈んでいた。
酒場での出来事は大きな収穫だったが、レザトに関する新たな情報は一向に手に入らない。不安と焦りが心を静かに蝕んでいく。
俺の散漫な思考は、炎に照らされたルチカの面影に引き寄せられていった。彼女の傷の真実を知ってから、過去の自分が彼女をあざ笑っていたことに、苦々しい自責の念が湧き上がる。
「ルチカ……」
いつからだろうか、周りがルチカの傷を揶揄し、俺もそれに同調してルチカを傷つけるようになったのは。
アイツの傷をからかうことが、俺にとっては一種の日常と化していた。
しかしその背後には、彼女に自分の存在を意識させたい、という隠された欲求があったのかもしれない。
いつもどこか遠くばかり見ているルチカの視線が、俺の言葉によって一瞬だけこちらに向けられる瞬間、その強い感情が籠もった彼女の瞳に、俺は隠れた喜びを感じていた。
ルチカへのいたずらな挑発が、実は彼女への深い関心の裏返しだったことに、今更ながら気づかされる。
……ルチカを深く理解しようとするほど、俺は自分自身と向き合うことを余儀なくされる。
彼女は俺の内面に深く刻まれていて、いなくなった今、その存在の大きさを痛感している。
何とも皮肉なものだ。
だからこそ、俺はルチカをレザトの手から取り戻さなければならない。
ルチカは俺にとって、単なる家族以上の存在なのだから。
「しかし、情報が……もっと必要だ」
そんな思考をしていた矢先、背後にふわりと漂う誰かの気配を感じた。その気配と同時に、甘く香る匂いが空気を濃くし、俺の鼻腔を突く。こんな強い香りを纏って俺の背後に立つ者は一人しかいない。
「やあ、愛しい息子よ。暖炉の火を見ながら考え事かい? うんうん、私もお前ぐらいの年の頃は悩みは尽きなかったものだよ」
俺の天敵である父だ。
その声はいつもの温和さを装っていたが、俺には虚偽に満ちて聞こえた。
父と向き合うのは、いつだって息苦しい。
「何だ。また女遊びから戻ったのか?」
俺は吐き捨てるように呟いた。
軽蔑した眼差しを向ける俺を父はにこやかな笑顔のまま受け止める。
「相変わらず手厳しいねえ。私はご婦人達と歓談をしてきただけだよ。流行はいつも女性が生み出すからね。その流行を生み出す上流のご婦人方との会話はローレンス家の商売にとっても、大変有益なものなんだよ」
「ハッ、シャツの襟袖に付いた口紅も流行の一環か? 汚らわしい身なりでこちらに近づくな」
父は一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐにおどけた笑顔に戻り、「おっと、失礼」と襟を整えた。
俺の父はレヴァナス王国の社交界で名を馳せ、男女問わず浮名を流す色男として知られ、その恋愛遍歴は数知れない。
母と結婚してもそれは変わらず、むしろ母は父の不倫を積極的に支持し、情報収集の手段として利用しているのだ。
俺もまた、若い頃からその父に似た容姿で社交界で注目を集めてきた。青年に成長してもなお、父の若き日々の影が俺に付き纏う。その事実が俺を不快にさせ、社交界に対する嫌悪感を強めていた。
俺は父とは違って、自分の見た目を利用するような真似はしたくなかった。
……その背後には、幼い頃の忌まわしい出来事があったからだ。




