10.不穏な影 <ジョシュア>
夕暮れの空が紫と金色に染まる中、黄昏の美しさが俺の心に突き刺さる。
黄昏は、どうしてこんなにも美しいのか。
その美しさが、俺の心の傷を癒やすようにも、また新たな痛みを引き起こすようにも感じられる。
この曖昧な時間帯が、俺の曖昧な心情を許容してくれるようで、一種の皮肉を感じずにはいられない。
シュヴァルツェルトの屋敷を出て馬車は進む。リタクロスへ向かって。
「ジョシュア様~。もっと近くの村にも宿はあるのに、なんでわざわざ遠くの宿に行くんですか?」
「あんな貧相な村の宿のベッドなんぞで眠れるか。俺は気品のある場所でしか落ち着かない」
本心では、あいつの……ルチカの近くにはいたくなかった。
単純で、我ながら女々しい理由だと思う。
「……トビアス。お前、羽が生えたらどこに行きたい?」
ふいに、俺はトビアスにこの問いを投げかける。窓から見えるだだっ広い風景を見て、何となく訊いてみたくなったのだ。
「え、急になんですか……? そーですねえ、海の上を飛んでみたいですね、違う大陸まで飛んでいったりとか楽しそうです」
「そうか、海か……。あいつもよく見てたな。水平線のその先にあるもの、か……」
「ひえぇ……ジョシュア様、ちょっとセンチメンタル過ぎて怖いです。失恋って男をこんなにも気持ち悪くするんだなあ……」
「おい、全部聞こえてるぞ! ほんと、お前は言葉に遠慮ってものが……ん?」
その瞬間、俺の目に飛び込んでくるものがあった。
途中で入れ違いになった馬車が、灯りに照らされて明らかになる。
その馬車に掘ってあった紋章を見て、俺は寒気を覚えた。
「あれは、ノーマン総裁の馬車……?」
何故、こんな時間に、この場所で?
……嫌な予感がする。
拭えぬ不安は、馬車の不安定な振動に合わせて、どんどん増していくようだった。
何かが起こる、その前触れを。
次からはジョシュアとトビアスにスポットを当てた番外編を挟んで、次章に続きます。
王都でレザトを打ちのめすための情報探しに奮闘する二人の珍道中的な話です。
少し時間をおいてからまた投稿します!




