3.夜の思索 〈レザト〉
夜の書斎、静寂が広がる中で、私は領主としての仕事に没頭していた。
書類が山積みで、先日の事件も手伝って、一層の重みを増している。
しかし、この責任を背負い、騎士団長と領主という二つの役割を果たせるのも、私の周囲にいる優秀な家令や文官たちのおかげだ。
心の中で、彼らに対する感謝の念を新たにする。
書類の手を一瞬止め、ふと思い出すのはルチカの顔だった。
ここ一週間、彼女と共に育てていたアストレラの花畑に足を運んでいない。
蕾はもう咲き、満開の美を放っているのだろうか。彼女は、私が急に花畑に来なくなったことで、どれほど寂しい思いをしているのだろう。
しかし、その心の中で渦巻く感情が、私自身をも翻弄している。
彼女と二人きりになると、その可憐な唇、清らかな瞳に心奪われ、冷静な判断ができなくなる自分がいる。
……私は彼女を愛している。その事実が、私自身の心をも狂わせているのだ。
先日の事件で、暴走した私を彼女が止めてくれた。
その時、彼女を強く抱きしめた温もり、その笑顔が今も私の心に焼き付いている。
あの瞬間、彼女に対する愛を告げ、その唇に口づけをすることをどれだけ我慢したことか。
そう、今は冷静になるべき時だ。私は彼女にとって、ふさわしくない男なのだ。
私と関わるがゆえに、彼女は危険な目に遭ってしまった。その事実を重く受け止めるべきだ。私は何の一つも、彼女に贖罪が出来ていない。
それに、あの事件の真相もまだ解明されていない。
あの黒うさぎの少女、リュミセラはルチカの話では偽名で彼女に近づき、虎視眈々とその時を狙っていた。年の割に頭の切れる狡猾な少女だ。
どうも彼女たちは人間と獣人が共生することをよしとしない、獣人の一派と見える。
あの日、小屋の中で倒れていた獣人たちから詳しく聞き出せればよかったのだが、恐ろしいことに既に事切れていた。
リュミセラ……あの少女が混乱に乗じて、口封じのため、同胞に躊躇なく手をかけたのだろうか。
何とも恐ろしい事だ。あのような子供を出さないために、日々領主として尽力しているつもりなのだが、まだまだ道は険しい。
ルチカはこうも言っていた。リュミセラはルチカ自身にも用があるようだったと。
それが私の中で、ノーマンとリュミセラたちの繋がりを予感させる。引き続き、警戒すべきだろう。
思考がぐるぐると巡る中、手元にある一通の書状に目が留まる。
それは、ルチカが王都で世話になっていたローレンス家からのものだ。
内容によれば近々、嫡男であるジョシュアをこの領地に送り、新規事業の話し合いをするとのこと。
その日は、ちょうど明日だ。
「何事もなければいいが……」
呟きが、書斎の静寂に溶けていく。
私は深いため息をつき、再び書類に目を落とした。しかし、その胸の中には、消え去ることのないルチカへの愛と、それに対する葛藤が燻っていた。
お、ここでジョシュア君の名前が!
次回、ジョシュアは男を見せるのか……!?




