7.青いお茶と赤い瞳
「ルチカ! ここのところ他の任務が続いてばかりで一緒に行けず、すまなかったな! 今日はオスカー殿の看病に同行出来るぞ!」
「えっ……」
そろそろオスカーさんの所へ行こうかと身支度をしていた私の部屋に、フランソワが訪ねて来た。彼の明るい表情に対して、私は思わず気まずくて視線を逸してしまった。
「どうした?」
フランソワの眉が僅かに下がる。
「ごめんなさい、フランソワ。今日は一人で行きたくて。オスカーさんも、もう殆ど怪我も治ってるから私一人でも大丈夫だと思うの」
「そうか……わかった。それなら、オスカー殿によろしく伝えてくれ」
「本当にごめんね、フランソワ」
少し良心が痛むけれど、ミリアとの約束だからフランソワを連れて行く訳にはいかない。
部屋を出ていく彼の少し寂しそうな背中に罪悪感を覚えながらも、昨日花畑から採取したアストレラをカバンにそっと忍ばせ、部屋を後にした。
オスカーさんの看病も無事に終わり、私は駆け足でミリアの家がある森に向かっていた。
手に持つカバンの中からは、昨日摘んだばかりのアストレラの花の香りが漂ってくる。
その香りに心を和ませつつ、一瞬立ち止まり、花がしおれていないか確認しようと手を伸ばした所で、ルゥオの姿を見かけた。
一瞬、声をかけようかと迷ったけれど、前に会った時の微妙な空気を思い出し、今日は遠慮することにした。時間もないし、今はミリアが待っている。そう自分に言い聞かせ、そのまま森の深い緑の中へ駆けていった。
「ミリア! ごめんね、少し遅くなっちゃった」
「ルチカおねさん、ようこそ! お待ちしてました」
私が到着すると、ミリアがいつもの笑顔で私を迎えてくれた。
「アストレラの花、持ってきたよ! しおれてないといいけど……」
「まずは、おちゃしましょ! わたし、おいしいヤツあります」
「うん、ありがとう」
ミリアは優しいな。いつも家に来る私を精一杯おもてなししようとしてくれる。
椅子に腰掛けながら待っていると、ほどなくしてミリアがお茶を入れたトレーを持ってきた。
「青色のお茶……?」
カップに注がれたお茶は、透明な青色で、懐かしい海を思い出させる。
こんな綺麗なお茶、初めて見た。
「キレイですよね! さ、ルチカおねさん、のんでのんで!」
「う、うん」
何だか今日はやけにミリアがお茶を勧めてくる。それだけ美味しいお茶なのだろうか。
一口、飲んでみる。
「……ミリア、今日のお茶変わった味だね」
あまり好きな味ではないけれど、せっかく勧めてくれたんだから、最後まで飲まなきゃ。
「おねさんは、レザト様と何で婚約したですか?」
突然の質問。
まただ。ミリアはレザト様の話になると、いつもの柔らかさが欠けて、何か鋭い感じがする。
「……急にどうしたの?」
「あの男の妻になる事の意味、理解してるんですか?」
あれ、いつものミリアはこんなはっきりした喋り方じゃないのに。
それにしてもこのお茶、やっぱり苦くて飲みきれない……。
「ミリ…ア、どしたの? あなた、どこか変……」
「変? 変なのは人間のくせに獣人と結婚しようとするアンタです」
「それより…おちゃ…レザト様…クスリ…の…」
どうしてか呂律が回らない。体と頭がバラバラになっていくような感覚が強くなって、カップが手から滑り落ちる。
「知ってますぅ? バカにつける薬はないってこと」
「……ぁ…う…」
頭が混乱し、視界がぼやける。
ミリアの満面の笑みが、ひどく恐ろしく見える。
赤い瞳が段々と近づいてきて、私の意識は闇に飲まれた。




