5.彼らの事情
昼過ぎの穏やかな日差しは、森の小屋近くの池に優しく降り注いでいた。
最近、護衛のフランソワが他の任務で忙しいため、オスカーさんの看病が終わった後は、ミリアと過ごす時間が増えている。
ミリアと私は、彼女の手作りクッキーを味わいながら、心地よい時間を過ごしていた。
「レザトさまとのくらしは、どですか?」
ミリアが、その瞳に好奇心をキラキラと輝かせながら尋ねる。
「うん、レザト様は優しい方だから大事にしてもらってるよ。……実はね、一緒にアストレラっていう花を育てているの」
「アストレラですか!?」
ミリアが興奮した様子で声を上げる。
「そのハナ、いろんなクスリつくれるハナです! おじじさまがいうてました!」
「ふふ、レザト様も同じ事言ってたよ。子供の頃、育てた事があるんだって。だからレザト様にその花の育て方を教えてもらってるんだ」
「……そですか。レザトさまもおんなじですか」
ミリアはどこかムスッとした表情で黙ってしまった。
どうしたんだろう。何か気に入らなかったのかな?
「ねえ、ミリア……」
「あ! ルチカ様だ!」
ミリアに不機嫌な理由を尋ねようとした矢先、誰かに声を掛けられた。
「ルゥオじゃない! どうしたの?」
声の方を見ると、釣りにでも来たのか釣り竿とバケツを抱えたルゥオがいた。
ルゥオとは村に最初に来た時に話して以来、会えばこうして話をするようになっていた。
ぴょこんと垂れ下がった茶色の耳がぴこぴこと動く様子はいつ見ても可愛らしくて、つい笑顔になる。
「ぼく、最近このお池に釣りに来てるんだよ! ん? ルチカ様の持ってるクッキー、めちゃくちゃおいしそう~!」
ルゥオが、目を輝かせながら興味津々な様子で手元のクッキーを見つめている。
「ミリア、これをルゥオにあげてもいい?」
確認のためにミリアに向き直ると、彼女は何かを抱え込むような苦々しい表情で頷いた。
「みりあ? 誰、その子」
ルゥオはミリアを一瞥し、不思議そうな顔をしている。
「この森に住んでる獣人の子よ。ルゥオは会ったことないの?」
「ううん、知らな……あ、やっぱりいいや! ぼくお母さんに用事を頼まれてたんだ! ばいばい!」
ルゥオは後ろを向いたかと思うと、元来た道を走っていってしまった。
「変なルゥオ……」
何だか様子が変だったけど、どうしたんだろう。
それにしても、小さい村だから住人たちは皆知り合いなのかと思ってたけど、案外そうでもないのだろうか。
「ミリアは、他の子供たちとは交流はないの?」
「おとこのこは、らんぼうだからキライですッ」
プイッと首を振ってミリアが答える。
その様子がとても可愛らしくてほっこりしたけれど、何かほんの少しの違和感を覚える。
「そだ! アストレラのクスリのつくりかた、ルチカおねさんも、しりたいですか?」
「え、ミリアは薬の作り方、知ってるの?」
「はい、おじじ様に作り方、おしえてもらいました。レザト様にプレゼントしたら、きっとよろこぶおもいますよ!」
「うんうん! ぜひ教えて! あ、でもまだアストレラは開花してないの。もう少しで咲きそうだってレザト様は言ってたけど……」
「ツボミでも、クスリつくれますよ! じゃあ、あさって、何本かもってきてください」
「あさって……? 随分、急だけどどうして?」
「…じつは、ルチカおねさんにはダマってたけど、わたし、しばらくこの村をはなれるんです。黒うさぎは森から森へいどうするオキテあるんです」
「そうだったんだ……」
獣人も部族によって、色々と決まりがあると知って納得する。
ルゥオとミリアが面識がなかったのも、村に定住している獣人ではなくて、移動生活をしているからなんだろう。
「あ、レザト様も、みんなにも、ナイショしてくださいね! ルチカおねさんだけ!」
ミリアがにこりと微笑む。ミリアがいなくなるのは寂しいけれど、アストレラの薬の作り方を教えてもらえるのは嬉しい。
レザト様に渡した時の反応を想像して、私は再び微笑んだ。




