3.真紅の黒うさぎ その②
「ほんとにほんとにほんとにほんとに! ごめんなさいです!」
「大丈夫、この森のそよ風ですぐに服も乾くよ」
森の中に漂う爽やかな風が、私たちの服を優しくはためかせる。窓越しにその光景を眺めながら、何度も謝罪の言葉を繰り返すミリアに、私は笑顔で応えた。
あの時、獣人の少女ミリアを助けようとして、結局私も川に落ちてしまった。彼女は落ちた靴を拾おうとしていたらしい。
ミリアは、その赤い瞳を潤ませながら何度も私に謝り、濡れた服を乾かすために自分の家へ招いてくれた。
確かに、私の服は下着までびしょ濡れになっていた。このまま帰宅すればきっと屋敷の人達を驚かせてしまう。
私はミリアに勧められるまま、森の中にひっそりと佇む彼女の住む小屋で、服が乾くのを待つことにした。
小屋の中は二部屋ほどのシンプルな作りだった。けれど驚いたのは、その部屋の中にところ狭しと乾燥した草や花が吊るされ、何かの薬液が入った瓶や乳鉢などが転がっていることだ。
私が好奇心に駆られて部屋を観察していると、隣の部屋からミリアが戻ってきた。
「これ……よかったらどぞ」
ミリアが少し緊張した様子でトレイを差し出してきた。そのトレイには、色とりどりの木の実が散りばめられたケーキと、柑橘系の香りが漂うお茶が置かれていた。ケーキには光沢のある透明なソースがかかっており、お茶は淡い茶色で透き通っていた。
「美味しそう! これ、ミリアが作ったの?」
「はい! わたしつくりました」
ミリアがはにかんで微笑む。その舌足らずな喋り方が、彼女に一層幼さを与えていた。何か言葉に慣れていないような雰囲気があり、獣人の部族によっては言葉が異なるのかもしれない。
「ミリアのお家って何をやってるの?」
「おうち、ですか? おじじ様がくすりを作ること、してました」
「へえ! じゃあ、そのおじじ様と一緒に暮らしてるんだ」
「……おじじ様、もういません。わたしひとりです」
ミリアがそう言って顔を伏せると、私は瞬間的に顔を歪めた。
「ご、ごめん! 無神経な事聞いちゃって……」
ミリアは首を振りながら、再び私に顔を向けた。
「ルチカおねさんは、レザトさまのこんやくしゃですよね? みんな、言ってるのききました」
「そっか……みんな噂にしてるんだ」
確かに、レザト様があれだけ堂々と宣言していたのだから、村の人々が私のことを話題にするのは当然かもしれない。
フランソワといる時はあまり気にならなかったけれど、今日一人でいる時に視線を感じることが多かったのは、これが理由だったのかな……。
「ルチカおねさん、ケーキたべましょ! おちゃ、さめちゃいます」
「そ、そうだね、食べよっか」
ミリアの優しい促しに応じて、私たちはテーブルに座った。
今の私たちの格好は、薄い布一枚を体に巻いただけで、とてもティータイムをするようなお行儀のよい格好ではない。けれど、その非日常感が逆に私の心を躍らせていた。
それにチャシャさん以外で、獣人の……年の近い女の子と友達になれたらいいなってずっと思ってたから、この時間が何だかとても楽しい。
「ねえ、ミリア。また遊びに来てもいいかな?」
「もちろんです!」
静かな森の中、女の子同士で語らうこの時間が、どこで過ごすよりも、ずっと素敵な午後のティータイムになった。
新キャラのミリアちゃん回でした。




