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4.贖罪 その②

悶々とするレザト様。一方その頃、ルチカたちは……。

「あれがオレたちの暮らす騎士団の宿舎だ。左に見えるのは、騎士団の休憩所と武具などを収めた倉庫になるんだ」


フランソワが指差す先には、堂々とした建物が立っていた。


「すごい……! 色々な施設があるのね」


私は目を輝かせて答える。

どこかぎこちなかった私達も、屋敷内の施設を紹介し終わる頃には大分打ち解けて話が出来るようになっていた。

フランソワは最初、私に敬語を使っていた。

けれど、年齢が一つしか違わないこともあって、私は彼に敬語を使わないでほしいと頼んだ。

フランソワも私に同じように敬語を使わないようにと言い、私たちはお互いに堅苦しい敬語を抜きに話すことにした。

そのお陰か会話が自然になって、お互いリラックスして話すことができるようになった気がする。


「これでこの屋敷内は大体、見て回ったと思うが……何か他に気になることはあるか?」


フランソワが私に向かって尋ねた。

気になること……。真っ先に浮かんだのはレザト様の事だった。

急用を思い出したといって足早に去っていったレザト様。

どこか逃げるようなその背中を思い出して、少し悲しくなる。

レザト様とせっかく色々話が出来るチャンスだったのに……。


「屋敷の事じゃなくて、レザト様の事を聞いてもいい?」


レザト様がいないなら、他の人から彼の事を聞いてみるのもいいかもしれない。

私は思い切ってフランソワに聞いてみることにした。


「レザト様のことか? もろろん、俺で分かる事なら何でも聞いてくれ!」


彼の目が輝いた。


「私、レザト様の婚約者でありながら、彼の事をあまり知らなくて……レザト様は10年前の戦争で救国の英雄と言われるほどの活躍をして、その褒美としてこの領地の領主様になったってことは聞いたのだけど、どんな活躍をしたの?」


私の問いにフランソワは一瞬、考え込むような素振りをして口を開いた。


「細かい戦歴まで言い出したらキリがないが……そもそも獣人が騎士になる事自体、前代未聞の事なんだ。戦争が近づく中、有事でレヴァナス王国も戦う人材の確保のため門戸を広げてはいたが、精々一般兵が関の山だ。だがレザト団長は、その一般兵から数々の武功を打ち立て騎士まで上り詰めた! それが如何にすごい事なのかは実際に軍人にならなければピンと来ないかもしれないな!!」

「そ、そうなの……」


レザト様の事を話し出した途端、フランソワが爛々と目を輝かせてすごい勢いで喋り出した。その勢いに目を丸くする私に気づかないまま、彼は話を続ける。


「一番の転機になったのは、第3王子の誘拐事件だろう! 第3王子のセヴェリアス様が敵国に誘拐された際、レザト団長が単身かけつけ、命がけで王子を救出したのだ! その件が高く評価され、このシュヴァルツェルト領の領主になったのだと父から聞いている」

「へえ……」


熱弁するフランソワに若干引きながらも、レザト様の活躍に私も胸が熱くなる。

レザト様は本当にすごい人なんだ……ふと、レザト様のあの優しい笑顔が頭を過ぎって、何故か鼓動が速くなるのを感じた。


「ルチカ、レザト様は素晴らしい方だ! そんな彼の婚約者である事、誇っていい!」

「そう、だね……」


婚約者。婚約者と言っても私は仮初の婚約者。

レザト様とはいつか離れる運命。彼の優しさにいつまでもぶら下がっているわけにはいかない。


「ルチカ、どうした……?」

「ご、ごめん、なんでもない! そうだ、フランソワは何か私に聞きたい事なんかある?」


私の内心を悟られないよう、無理やり話題をかえてみた。

私の言葉に一瞬、フランソワの視線が顔の傷に向かったのがわかった。


「顔の傷、気になる? 実は私もどうしてこの傷が出来たのか、よく覚えてないんだ。他の人から聞く限りでは、戦争の時に出来た傷らしいんだけど……」

「す、すまない! つい、視線がそちらに向かってしまって……」

「ううん、大丈夫」


にこりと笑ってみるも、フランソワはどこかやり場のなさそうな顔をしている。


「ルチカ! 軍人からすれば向こう傷は勲章と同じだ、誇っていい! ……あ、いや、女性に対してこんな励まし方は間違ってるか…ッ!?」

「ふふふ、ありがとう! そうだね、私もこの傷はそこまで嫌いじゃないの。フランソワにそう言ってもらえて嬉しい」

「いや、こちらこそ……」


フランソワは眼を泳がせて、どこか地面を見ている。

私の言ったことが意外だったのだろうか?

でも、こうやって自然な会話が出来るのはいいな。

私もレザト様とこんな風にお話出来るといいのだけど……。


「そうだ、レザト様と仲良くなるためには、フランソワはどうしたらいいと思う?」

「な、仲良く?」


私が投げかけた質問にフランソワが顔を上げた。

突然の質問に少し困惑した素振りを見せながらも、答えてくれた。


「ううむ……何か共通の趣味を持つとかどうだろう。父と母は同じ武芸を嗜み、交流を深めたと聞いた」

「武芸…は、私には無理そうかな」

「そ、そうか……」


一瞬の沈黙。


「レザト団長の趣味か……」

「レザト様の趣味……」


レザト様の趣味が何も思いつかない。

私達は、顔を見合わせて唸るしかなかった。




夜、淡い月の光が周囲を静かに照らす。

その柔らかな光は、私の心と同じく穏やかで温かい。

ベットの中で、ぼんやりと今日の出来事を思い返し、明日への期待に胸が躍る。


結局、あれからレザト様とは会えず仕舞いで彼に趣味が何か聞く機会がなかったけれど、フランソワからこのお屋敷やレザト様のことをたくさん聞くことが出来た。


私の過去の記憶、そしてレザト様との距離が少し縮まったようで嬉しくなる。

明日こそ、レザト様に趣味はあるのか聞き出さなくちゃ。

そんな明日への期待と使命感に燃えたところで、ふと気付いた。

よく考えてみたら、私自身も今まで趣味らしいものなんて持ったことがない。


「そういえば……」


思い出した事があって、ベッドから降りてトランクを探る。


「あった!」


オスカーさんからもらった花の種。

何かを育てるのは暇つぶしにちょうどいいと言ってたっけ。

そうだ、花を育ててみよう。


そう決めた途端、いきなり睡魔が襲ってきた。ふらふらした足取りでベッドに向かう。

ふかふかなベットの感触に溶けるように、私の意識はゆっくりと沈んでいった。




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