3.予想外の告白
「ふむ……」
静かな室内に、パラパラと紙をめくる音がやけに耳に残る。
レザト様は頬杖をつきながら、ローレンス家からの書状に目を通している。
何枚も書き連ねているその手紙は、一体何がしたためられているんだろう。
「お待たせしました」
とうとう最後のページをめくったレザト様は、ゆっくりと頭を上げ、私の方へ視線を戻した。
「ローレンス家の女主人、アデリーヌ様の書状で間違いないですね。彼女の商才と機敏な行動力は聞き及んでいましたが、まさか即座にあなたを領地へ送り出すとは、思いもよりませんでした」
柔らかい笑みを崩さないけれど、どこかその表情にはピリピリと苛立った空気が漂っていて、思わず言葉を返すのをためらってしまった。
「屋敷にはお一人でいらっしゃったと他の者から聞きましたが、どうやってここまで?」
「あの…行商の方の荷馬車に乗せてもらって……」
「……」
レザト様の眉間にあからさまにシワが寄るのが見えた。
どうしよう、何かレザト様の気に障ることを言ってしまったの…?
心臓がドキドキして鼓動が速くなる。
「そうですか……さぞ心細かったでしょうに。急な長旅でお疲れでしょうし、込み入った話は明日にしましょうか」
「いえ、大丈夫です! レザト様、私もあなたにお聞きしたいことが……」
「ええ、色々お聞きしたこともあるでしょう。私で分かることであれば何でもどうぞ。その前に……二人とも、入れ」
レザト様が扉の向こうに声を掛けると、その声に応じて扉から二人が入ってきた。
その顔を見た瞬間、私は思わず声を上げた。
「チェシャさん!?」
「やっほー子猫ちゃん、また会えたね♪」
まさか、こんなところでチェシャさんにまた会えるなんて。
もう王都での知り合いに会う事はないと思っていたせいか、チェシャさんの顔を見た途端、懐かしさとどこかほっとした気持ちが込み上げてくる。
でも、なぜチャシャさんがレザト様のお屋敷にいるの……?
チェシャさんは商人だ。もしかして、オスカーさんのように商売のためにレザト様の領地に来ているのだろうか。チェシャさんの隣にいるもう一人の騎士も見覚えがあった。
「あなたは確か、私がお屋敷に来た時に手助けして下さった騎士様ですよね?」
「ええ、またお会いしましたね。私はアルベール・デュモンと申します。レヴァナス国境騎士団の訓練教官を務めております」
アルベール様。彼はお屋敷の門番の騎士様に追い払われそうになっていたところを助けてくれた人だった。どこか私の事を知っているような感じだったけど、レザト様から前もって私の事を聞いていたのなら納得がいく。
太くキリッとした眉に真面目そうな印象の騎士様。けれど声はしっとりと優しい雰囲気がして、厳つさはあまりない。
「チェシャとは王都でもお会いしているでしょう。彼女は私が個人的に雇っている者でしてね。この場には彼女もいた方がよいと判断し、同席させました」
「男ばっかじゃ雰囲気怖くなっちゃうもんね~。さっすがレザト様!」
「ジェイラ、レザト団長の前だぞ。軽口は慎め」
「ほらほら~。そーゆーとこが若い子萎縮させちゃうんだってば。ってか子猫ちゃんの前でジェイラって呼ぶのやめてくんない? レザト様だってチェシャて呼んでるのにさ~」
「二人ともそれくらいにしろ。話が進まんだろう」
「ハッ! 申し訳ありません!」
チェシャさんたちが交わす会話に、レザト様がどこか呆れた様子で二人のやりとりをたしなめる。三人とも昔からの知り合いのような、気心の知れた雰囲気が漂っている。
レザト様は交互に二人の顔を見て、再び私に視線を向けた。
「ごほん……最初に、はっきりお伝えしたほうがいいでしょう」
レザト様の声は低くて、包み込むような優しい声で。
でも、その声音から告げられた言葉は残酷だった。
「私は、あなたを妻に迎えるつもりはありません」
何やら最後、雲行きがいきなり悪くなってますね。
すいません、一日投稿が遅れます。




