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1. 幕開け・それぞれの朝 <ジョシュア>

第八章はじまりました。この章を挟んでいよいよ最終章になります!

本日からラストまで毎日投稿になります~。

空が白み始めた頃だった。

鍵の開いた宿の窓から、朝の冷たい空気が流れ込んでくる。

リタルク・ルミナリアから数日経った街には普段の平穏が戻ってきていた。

外では早起きの商人たちが店を開け始める音が聞こえる。


俺はベッドの上で、背中を壁にもたれさせながら思いに耽っていた。視線の先には床に転がって寝息を立てているトビアスがいる。

いつも通り、ろくに布団も敷かずに床で眠っている姿に、よく眠れるものだとある意味感心する。


「よう、起きろ。トビアス」


俺は声をかけるが、やはり反応はない。

昨日も大方、深夜までリュミセラを探して疲労困憊で倒れ込んだのだろう。


「まったく…」


俺は溜息をつきながらも立ち上がり、窓の外を眺めた。

朝靄に包まれたリタクロスの街並み。秘石ランプの青白い光が、朝の陽射しと重なって独特の光景を作り出している。


祭りの後、俺はすぐにシェザハの薬室へ向かったが、あいつの薬室は跡形もなく焼け落ちていた。

レザトとルチカからリュミセラがしでかした事の詳細を聞いた後でも、こうしてリュミセラを探すトビアスの一途さはどこから来るんだろうか。


「ん…んん…ジョシュア様?」


床からトビアスのぼんやりとした声が聞こえた。


「やっと起きたか」

「もう朝なんですかあ…眠い…」


トビアスは両手で目をこすりながら、ゆっくりと体を起こす。

いつもなら無駄に元気だが、連日の出来事で相当疲れたのか、珍しくぼんやりとした様子だ。


「今日、俺はグラシア工房に寄る」

「工房ですか? なんで?」

「ルチカと、エリザベスという女に会うためだ」

「へえ! ルチカさんも行くんですか?」

「ああ、約束してある」


トビアスが急に顔を上げ、興味深そうな表情になる。


「トビアス、お前も来るか?」

「えっと…」


やはり、まだリュミセラのことが気になっているのか。


「リュミセラの事が気になるのか」

「はい…なんか心配で」


他人の目玉を嬉々として抉ろうとするようなヤバい女に、どこか共感でもしてるのか?

虫も殺せず取り逃がしそうなコイツに限ってそんな事、あるわけないか。

俺がどうこう考えた所で、トビアスの思考が分かるはずもない。


「分かった」


俺は短く言った。


「お前は……好きにしてろ」

「え?」

「リュミセラが気になるなら、探してみるのも悪くないだろう」

「本当ですか? 探してもいいんですか? でも、危ないんじゃ…」

「決めるのはお前だ。俺は…」


一瞬言葉を探す。


「誰かを探したいという気持ちが、悪いことだとは思わないだけだ」


トビアスは何かを言おうとして、言葉に詰まった。

そして、俺の目をじっと見つめた後、にっこりと笑った。


「ありがとうございます、ジョシュア様!」


この素直な反応に、少し気恥ずかしさを覚える。


「…勘違いするな。勝手にしろと言ってるだけだ。責任はとらんぞ」

「はい! でも、リュミセラちゃんを見つけたら…ちゃんと話を聞いてみます! 何か事情があるはずです」


俺は黙ってコートを羽織った。


「じゃあな」

「ジョシュア様、いってらっしゃい~!」


トビアスの声に応えず、俺は宿を後にした。

いつもの明るさが戻ってきたようで、少し安心する。


朝の空気が肌を刺す中、グラシア工房へと足を向ける。

そこで何が待っているのか。そして、その先の運命がどう動き出すのか。


まだ誰も知らない。


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