表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/138

2. 花の香りに誘われて 

通りに出ると、夕暮れの風が優しく頬を撫でた。

まるで誰かの温かい手のようで、心が少し和らぐ。


華やかな人々が行き交う祭りの通りを、私はゆっくりと歩いていった。色とりどりの着物や衣装を身にまとった人々が、楽しげに笑い合いながら流れていく。その中で、私はどこか浮いているような気がして。


通りを満たす人々の幸福があまりにも眩しい。その光が胸の奥を甘く苦しく締めつける。ここにいていいのだろうか。この祭りに私の居場所はあるのだろうか。


何気なく視線を巡らせると、小さな石鹸屋の屋台が目に映った。

心がそちらへ惹かれる。誘われるように足がその店へ向かった。


木箱に整然と並ぶ石鹸から漂う香りが、忘れかけていた記憶をそっと呼び覚ます。

柔らかな紫と白が混じりあった、小さな石鹸。


「あ……」


それを手に取った瞬間、忘れていた記憶が鮮やかによみがえってきた。


幼かった私が初めて受け取った贈り物。ジョシュアが無造作に差し出したその手のひらに、思いがけない優しさが隠されていた。周りの誰もが私を避ける中、彼だけが見せてくれた優しさ。


「ほら、やるよ」


そっけない言葉の奥に潜む彼の瞳は、小さな光を湛えていた。他の誰もが見向きもしなかった私に向けられた、その特別な表情が、長い時間を経ても私の心に残っている。


「……変わらない、な」


小さく呟き、そっとその石鹸を買い求めて店を離れた。

手の中にある小さな温もりと香りが、静かに胸に沁み込んでいく。


小路の角を曲がり、人波の喧騒から離れた静かな路地へと入った、その瞬間だった。

背後に微かな気配を感じて振り返る。


そして、私は息をのんだ。


そこに立っていたのは、記憶の中の人。

ジョシュア。


予期せぬ再会に時間が止まり、世界が息をひそめたように静まった。


まっすぐに見つめてくる彼の瞳に囚われ、言葉は喉の奥で震えたまま出てこない。祭りの灯りが彼の金の髪を照らし、その姿は昔より大人びて見えるけれど、あの頃と変わらない何かがそこにあった。


ただ二人の視線が静かに絡まり、長い一瞬が私たちを包み込んだ。

胸の鼓動だけがやけに大きく響く。


どんな言葉も口にはできず、私はただ、小さな微笑みをそっと彼に向けた。

胸の奥に、どこか切ない痛みを感じながら。


最後までお読みいただきありがとうございました。

今回は、ルチカとジョシュアの“過去と今”がそっと重なる回でした。

言葉よりも先に響いたのは、かつての記憶が繋いだ視線と香り。

この再会が、彼らにどんな感情の波を呼び起こすのか。次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ