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三国志

三国志・廖化伝~果敢忠烈の闘将~

作者: 霧夜シオン
掲載日:2023/09/19

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。 


三国志・廖化(りょうか)伝~果敢忠烈(かかんちゅうれつ)の闘将~


作者:霧夜シオン


所要時間:約90分


必要演者数:最低8人、最大10人

      (8:0)

      (8:1)

      (7:2)

      (9:1)

      (8:2)


はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。 



●登場人物


廖化(りょうか)・♂:字(あざな)は元倹(げんけん)。

     初め廖淳(りょうじゅん)(惇とも書かれる)で晩年に廖化(りょうか)と改名。(当台本は

     廖化で統一します)

     荊州襄陽郡中廬県(けいしゅうじょうようぐんちゅうろけん)の人。初登場は関羽(かんう)の荊州(けいしゅう)統治時で、元黄巾(もとこうきん)

     賊(ぞく)の過去は、演義のみの設定。(当台本では採用しています)

     生年不明だが蜀(しょく)滅亡後死去している為、かなり長命だったと

     見られている。忠実で果断激烈、堅実な戦いぶりを諸葛亮(しょかつりょう)らに

     評価され、最終的には車騎(しゃき)将軍にまで出世している。

     「蜀中無大将、廖化作先鋒(蜀中に大将無し、廖化を先鋒とな

     す。)」

     「前に王平(おうへい)・句扶(こうふ)あり、後(あと)に張翼(ちょうよく)・廖化(りょうか)あり」

     相反する二つの評価を史書から与えられている人物。

     ※作中、廖化は段々年老いていきます。その点に注意ください

     。


関羽(かんう)・♂:字(あざな)は雲長(うんちょう)。

     酒に酔ったような赤(あか)ら顔と腹まで届く見事な顎鬚(あごひげ)を持ち、重さ

     八十二斤の青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を軽々と操る智勇兼備(ちゆうけんび)の名将。

     軍神と謳(うた)われ、信義に厚く目下には慈悲深いが、同輩や目上を

     軽んじる傲慢(ごうまん)な一面も持つ。死後、関帝聖君(かんていせいくん)として祀(まつ)られる。


廖化(りょうか)の母・♀:名や字(あざな)は伝わっていない。

       廖化(りょうか)の年老いた母。

       荊州(けいしゅう)が陥落し関羽(かんう)が死んだ際、息子の廖化(りょうか)は呉の孫権(そんけん)に

       一時降伏する。だが間もなく共に呉から脱出し、途上関羽

       の報復戦の為侵攻してきた劉備(りゅうび)と出会い、保護される。


劉備(りゅうび)・♂:字(あざな)は玄徳(げんとく)。

     漢の中山靖王(ちゅうざんせいおう)・劉勝(りゅうしょう)の末孫(まっそん)を自称。乱れた世を正す為、義兄弟

     の関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)と共に乱世を駆ける。

     蜀漢(しょくかん)帝国初代皇帝。


諸葛亮(しょかつりょう)・♂:字(あざな)は孔明(こうめい)。

      蜀漢(しょくかん)帝国の丞相(じょうしょう)。道号は臥龍(がりゅう)。

      謀略家と言うよりは政治家としての側面が強い。

      年々人材が失われていく蜀(しょく)において、全ての面で非凡な活躍

      を見せる。


姜維(きょうい)・♂:字(あざな)は伯約(はくやく)。

     天水(てんすい)の麒麟児(きりんじ)と謳(うた)われる俊英(しゅんえい)。

     もとは魏(ぎ)の将だったが、諸葛亮(しょかつりょう)の計にかかり、蜀(しょく)に降伏。

     以来彼に師事、その遺志を受け継いで北伐(ほくばつ)を繰り返し、国力を

     疲弊させてしまう。


杜遠(とえん)・♂:字は伝わっていない。

     正史では関羽(かんう)千里行に廖化(りょうか)は登場しないため、そもそも創作の

     人物だと思われる。本作では採用しているため登場している。

     劉備(りゅうび)の夫人達をさらってくるが廖化(りょうか)の怒りを買い、刺し殺され

     てしまう。


王双(おうそう)・♂:字(あざな)は子全(しぜん)。

     隴西狄道(ろうせいてきどう)の生まれ。

     身の丈(たけ)七尺(約180cm)目は黄色く、腰は熊のごとく、

     背は虎のごとくという身体的特徴を持つ。

     武勇に優れ、中でも流星槌(りゅうせいつい)という鉄球の付いた鎖分銅(くさりふんどう)のような

     暗器を得意とし、敵の不意を突いて投げつける。

     ただし、挑発に乗りやすく、短慮な面がある。


司馬懿(しばい)・♂:字(あざな)は仲達(ちゅうたつ)。

      司馬(しば)の八達(はったつ)の次男。

      諸葛亮(しょかつりょう)が魏(ぎ)において恐れる唯一の人物。その才略は計り知れ

      ず、演義では諸葛亮(しょかつりょう)に叶わない立ち位置で描かれるが、

      本来軍事の才においては諸葛亮以上である。

      後に子孫が魏を乗っ取り、蜀・呉をも併呑して晋(しん)を建国。


鍾会(しょうかい)・♂:字(あざな)は子季(しき)。

     幼い時から賢く、早熟で十五にして周りを驚かせていたとある

     。司馬懿(しばい)の息子の司馬師(しばし)・司馬昭(しばしょう)の片腕として活躍する。

     蜀平定後、降伏した姜維(きょうい)に野心をくすぐられて反乱を起こすが

     失敗、姜維(きょうい)ともども殺されてしまう。


蜀(しょく)軍部将・♂♀不問:様々な場面で登場します。


魏(ぎ)軍武将・♂♀不問:様々な場面で登場します。


従者・♂♀不問:関羽千里行時の関羽の部下。


賊兵・♂♀不問:関羽千里行時の廖化の部下。


ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いし

 ます。


※配役例+総セリフ数

●ナレ男性版(8:1or7:2)

廖化(148):

関羽(31)・蜀軍部将(14):

廖化母(21):

劉備(19)・勅使(6):

諸葛亮(28)・従者(1):

姜維(40)・杜遠(10):

王双(9)・魏軍部将(7):

司馬懿(8)・鍾会(7)・賊兵(2):

ナレ(27):


●ナレ女性版(7:1)

廖化(148):

関羽(31)・蜀軍部将(14):

廖化母(21)・ナレ(27):

劉備(19)・勅使(6):

諸葛亮(28)・従者(1):

姜維(40)・杜遠(10):

王双(9)・魏軍部将(7):

司馬懿(8)・鍾会(7)・賊兵(2):


―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:人材の枯渇(こかつ)を示唆(しさ)する、ひどく不名誉な言葉。

   国を担(にな)う重鎮(じゅうちん)である事を示す、誉(ほま)れある言葉。

   双方を与えられた人物が、古代中国の三国時代、蜀(しょく)の国にいた。


   名を廖化(りょうか)、字(あざな)を元倹(げんけん)という。


   後漢(ごかん)末期、張角(ちょうかく)率いる黄巾党(こうきんとう)が大規模な農民反乱を起こす。

   世に言う、黄巾(こうきん)の乱である。

   しかしその勢いはわずか一年も経たずに下火(したび)となり、廖化(りょうか)の属する

   部隊も官軍(かんぐん)に追い立てられていた。

   そこで彼は、己の一生を決定づけるほどの鮮烈な出会いを果たす。 


廖化:ちくしょう…張角(ちょうかく)様に従ってりゃ、世の中が新しくなると思って

   反乱に参加したのによ…!

   !うッ、あ、あれは!?


関羽:ぬぅうんッ!!

   どけェェェい賊徒(ぞくと)ども!

   張角(ちょうかく)兄弟はすでに死んだ!

   無駄に命を捨てず故郷に帰り、畑を耕(たがや)すが良い!


廖化:な、なんだありゃあ…。

   あんな馬鹿でかい青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を枯れ枝みてえに振り回してやがる…!


関羽:もはや汝(なんじ)らの追い求めた黄天(こうてん)の世は実現せぬ! はあッ!!

   醒(さ)めない夢は無いのだ!!


廖化:あの人相…赤(あか)ら顔に腹まで届く髭(ひげ)……。

   一度見たら絶対忘れねえ、まるで昔聞いた武(ぶ)の神様みてえだ…!


関羽:剣を捨て、矛(ほこ)を折り、再び鍬(くわ)を持てェい!

   まだ夢の中にいるのなら、この関羽雲長(かんううんちょう)が叩き起こしてくれる!

   りゃあああッッ!!


廖化:…関羽(かんう)、あのお方は関羽(かんう)というのか…。

   時代を変えていくのはああいうお人なのかもしれねえ。


   【二拍】


   とにかくよ、おめぇらも一目(ひとめ)見りゃ、絶対に忘れられねえ。

   あの時の関羽(かんう)様は、本当に神か何かかと思ったもんよ。


賊兵:お頭(かしら)は関羽(かんう)様の話となると、時が経つのも忘れて語っちまいますから

   ねぇ。


廖化:そりゃあそうさ。

   今はこんな山賊で、その日暮らししちゃいるけどよ。


   いつか…あの方の家臣になりてえんだ。


ナレ:黄巾(こうきん)の乱が終息(しゅうそく)してしばらく後、廖化(りょうか)は黄巾党(こうきんとう)時代の仲間を率い、

   山賊稼業(さんぞくかぎょう)に手を染めていた。

   当初の志を忘れたわけではなかったが、日々食べていく為、

   慕ってくれる仲間の為に、足を洗うに洗えずにいた。

   だがそんな彼の日常を壊すかのような出来事が起きる。


杜遠:おう廖化(りょうか)、いま戻ったぜぇ!


廖化:ずいぶんと遅かったじゃねえか杜遠(とえん)。

   ? やけに上機嫌だな。

   何か、でかい獲物でも手に入ったのか?


杜遠:へへへ…聞いて驚け!

   貴人(きじん)の奥方(おくがた)様を引っさらって来たぜ!


廖化:なにっ、貴人(きじん)?


杜遠:おうよ。

   どこへ行く途中だったか知らねえが、たった二十人ばかしのお供で

   この乱世を旅しようってのが、あめぇ考えだぜ。


廖化:素性(すじょう)は聞いたのか?


杜遠:んなもん聞いてなんになるってんだよ。


廖化:まあ、な…。

   【つぶやくように】

   だが、妙に気になる…。


   【二拍】


   ちと尋(たず)ねてえ。

   何やらわけありに見えるが、いずこのお方で?


従者:【警戒している】

   …されば、左将軍宜城亭侯(さしょうぐんぎじょうていこう)、予州(よしゅう)の牧(ぼく)を兼ねておられる帝(みかど)の皇叔(こうしゅく)、

   劉備玄徳(りゅうびげんとく)様の奥方様方(おくがたさまがた)である。


廖化:ッな、り、劉備(りゅうび)様の!?


   おいッ、杜遠(とえん)!


杜遠:なんだ、いきなり大声を出すなよ。


廖化:何てことしやがったんだ!

   劉備(りゅうび)様と言えば信義に厚く、民百姓に慕われているお方だぞ!

   その奥方(おくがた)様をさらってくるなんて、どういうつもりだ!

   すぐに元の街道へお戻ししなきゃならねえ!


杜遠:はァ?

   劉備(りゅうび)だか何だか知らねえが、ろくに護衛もつけずにこんなとこを

   うろつかせてるのが悪いんだ。

   それよりもよ、ちらっと見たんだが中々の上玉(じょうだま)だぜ。

   ちょうど二人いるし、俺とおめえで分け獲(ど)りにしようや。


廖化:なっ、バカな事を言うんじゃねえ!


杜遠:バカな事だァ?

   俺たちゃ山賊だぞ!

   奪いてえもんを奪い、食いてえもんを好きな時に喰い、

   抱(だ)きてえ女を襲って犯す!

   それの何が悪いってんだ!


廖化:それじゃ獣(けだもの)と何も変わらねえぞ!

   黄巾党(こうきんとう)にいた時の、俺と世の中を変えようって誓い合ったてめえ

   はどこいったんだ!


杜遠:はッ、俺ァ気づいたんだよ!

   どんだけお高くとまって、ご大層(たいそう)な事ぬかして、いきがったとこ

   で、俺らみてえな土民(どみん)が世の中変えるなんてのは、夢物語だって

   なぁ!


廖化:な…なんだと…!?


杜遠:張角(ちょうかく)も夢見すぎたんだよ!

   たかだか鉅鹿(きょろく)の秀才ってだけで持ち上げられていい気になってる

   のを、どこの馬の骨か分からねえ老いぼれに焚(た)きつけられたって

   とこだろうよ!


廖化:!!

   杜遠(とえん)…てめえ…そこまで落ちたかァッ!!!

   ッッ!


杜遠:ぐはッッ!?

   な、なな、なにしやがるん、だッ…!


廖化:ッ!

   バカ野郎ッ…!


   お前ら、このお方たちは元の場所へお連れする!

   不満のある者はいるか!?


賊兵:い、いや、俺らはお頭(かしら)に従いやす!

   杜遠(とえん)の奴、止めるのに耳も貸さねえでさっさと捕えてこいって言う

   んで仕方なく…。


廖化:よし、わかった!


   ご夫人様方、恐ろしい思いをさせちまい、申し訳ありやせん!

   すぐにもとの街道へお連れしますんで!

   お前ら、すぐに出発だ!


ナレ:廖化(りょうか)は杜遠(とえん)を一突きで刺し殺すと、夫人達を護衛して街道へ

   向かった。

   見ると、彼方(かなた)から砂塵(さじん)を巻き上げて馬を駆けさせてくる者がいる。

   遠目にも風になびいて見える見事な顎鬚(あごひげ)と赤(あか)ら顔、関羽(かんう)だった。


廖化:!!あ、あれは…忘れもしねえ、関羽(かんう)様だ!

   お前らはここにいろ。


   【二拍】


   そこへ来られたのは関羽(かんう)将軍ではございやせんか!?


関羽:!?

   我が名を知っているとは、汝(なんじ)は何者だ!

   いや、それよりも何故ご夫人方の御車(みくるま)を囲んでいる!

   返答次第ではその首がすぐに胴と泣き別れをするぞ!


廖化:お待ち下せえ、将軍!

   あっしらは決して将軍や奥方(おくがた)様方に敵意を持っちゃいません!


   申し遅れやした。

   あっしは元黄巾党(もとこうきんとう)の廖化(りょうか)、字(あざな)を元倹(げんけん)と言いやす。

   今はここら辺を縄張りにしている山賊ですが、実はついさっき、

   仲間の杜遠(とえん)という奴が奥方(おくがた)様方をさらって戻ってきたんです。


関羽:なにい!?

   では奥方(おくがた)様方は、汝(なんじ)らの根城(ねじろ)まで連れていかれていたと言うのか!


廖化:ご安心下せえ、お二方(ふたかた)やご家来(けらい)衆に傷一つ付けちゃおりません。

   一目(ひとめ)で訳ありだと感じてお尋ねしたら、漢(かん)の劉皇叔(りゅうこうしゅく)が奥方(おくがた)様方と

   おっしゃるじゃありませんか。

   あっしは仰天(ぎょうてん)してすぐに元の場所にお戻しすべきだと言ったのですが聞か

   ず、ついにはけしからん野望すらほのめかしました。

   それで不意を突いて刺し殺し、こうしてここまでお送りして来たっ

   てわけでして…これがその首級(しゅきゅう)です。


関羽:むぅぅ……なるほど、そういう事であったか。

   廖化(りょうか)殿と言われたな。

   奥方(おくがた)様方が危難を逃れられたのも、ひとえに貴公の尽力(じんりょく)の賜物(たまもの)だ。

   このとおり、礼を申す。 


廖化:あ、頭を上げてくだせえ!

   あっしは当たり前のことをしただけなんです。

   

   むかし、戦場で将軍を初めてお見かけした時から、いつかお仕えし

   てえと、そう思っていたんです。


   関羽(かんう)様! どうか、あっしらを家来にしてくだせえ!

   このままいつまでも、山賊でいたくねぇんです!


関羽:むう…、できる事ならその願いを叶(かな)えてやりたいが、どうしても今

   は世間の目がはばかられる…。


廖化:ッ、確かに…山賊(さんぞく)がお供したとあっちゃあ、劉備(りゅうび)様の名に傷が…。


関羽:だが! 貴公の名は決して忘れぬ。

   いずれ落ち着き先を聞いたら、我が君(きみ)劉皇叔(りゅうこうしゅく)なり、それがしなりを

   訪ねて参られよ。

   今日の恩に重く報(むく)いたい。


廖化:!へ、へい!

   きっと!


関羽:うむ、必ずまた会おう。

   ひとまず、さらば!


ナレ:奇縁(きえん)によって関羽(かんう)と再会した廖化(りょうか)であったが、主従の縁(えん)はまだ薄く

   、家臣(かしん)となるには至らなかった。

   それからしばらくの年月がたち、関羽(かんう)達の居場所が風に乗って

   彼の耳に伝わってきた。


廖化:関羽(かんう)様はいま、荊州(けいしゅう)にいるのか…!

   山賊稼業(さんぞくかぎょう)から足を洗ってだいぶ経つ。

   今なら大手(おおで)を振って関羽(かんう)様のもとに向かえる…!

   おっ母(かあ)!


廖化母:元倹(げんけん)や、どうしたんだえ、そんなに大きな声を出して。


廖化:前からおっ母(かあ)に話してたろ。

   関羽(かんう)様のことだよ。


廖化母:ああ、その話かえ。

    もう聞き飽きるほど聞いたわぇ。


廖化:昔話をしようってんじゃねえ。

   関羽(かんう)様の居場所が分かったんだ。

   荊州(けいしゅう)におられるらしい。


廖化母:…山賊やってたと思ったら今度は宮仕(みやづか)えかぇ。

    忙しないねえ。


廖化:関羽(かんう)様にお仕(つか)えするのは長年(ながねん)の夢だったんだ!

   だから…。


廖化母:おらの事は気にせんでええよ。

    荊州(けいしゅう)へ行って、関羽(かんう)様にお仕(つか)えすればええ。


廖化:おっ母(かあ)…すまねえ!

   落ち着いたら、必ず迎(むか)えをよこすからよ!


廖化母:はいはい、あてにせんで待っとるわぇ。


廖化:じゃ、行ってくるぜ!


ナレ:廖化(りょうか)は飛び立つ思いで家を出て、荊州(けいしゅう)城へ入った。

   城門をくぐると、ちょうど関羽(かんう)が城下を巡察するのに出くわす。

   その雄大な体躯(たいく)を見ると、彼は我を忘れてその脇にひれ伏した。


廖化:関羽(かんう)様、おひさしゅうございます!


関羽:む?

   久しぶりと…?

   そう言うそなたは……。


   ! おお、もしや、廖化(りょうか)殿か!


廖化:はい!

   関羽(かんう)様、お元気そうで何よりでございます!


関羽:うむ!

   あれから何年もたってしまったが、そうか、わしの居場所を知って

   来てくれたのだな。


廖化:はい、今この荊州(けいしゅう)におられると聞いて、いてもたってもいられず…

   !


関羽:そうか、あの時の礼をせねばな。


廖化:関羽(かんう)様…今度こそ、あっしを関羽(かんう)様の家来にしてくだせえ…!


関羽:もちろんだ。

   よく訪ねて来てくれた。

   あらためてここに主従(しゅじゅう)の契(ちぎ)りを結ぼうではないか。

   よろしく頼むぞ、廖化(りょうか)。


廖化:はいッ、関羽(かんう)様!


ナレ:廖化(りょうか)は召し抱えられて念願を果たすと、関羽(かんう)をただ一つの太陽と思

   って忠義を捧(ささ)げ、粉骨砕身(ふんこつさいしん)仕えた。

   関羽(かんう)からも高く評価され、今の幕僚長(ばくりょうちょう)にあたる主簿(しゅぼ)にまで出世、

   さらに母を荊州(けいしゅう)城に迎え、充実した日々を送る。

   だが、その晴天に暗雲が突如(とつじょ)として立ち込めた。

   それは、関羽(かんう)が曹操(そうそう)の領土である樊城(はんじょう)へ侵攻した事に端(たん)を発する。


関羽:皆、聞けい。

   我が君(きみ)劉皇叔(りゅうこうしゅく)が曹操(そうそう)軍を漢中(かんちゅう)から追い払い、漢中(かんちゅう)王となられた。

   あわせてそれがしは、かたじけなくも軍を統括する最高の位である

   、五虎大将軍(ごこだいしょうぐん)の筆頭・前(ぜん)将軍に任ぜられた。


廖化:我ら幕僚(ばくりょう)一同、心よりお祝い申し上げます!


関羽:うむ。

   このご恩に報ずる為にも、そして逆賊曹操(ぎゃくぞくそうそう)を追い詰める為にも、

   荊州(けいしゅう)から北上(ほくじょう)し、南陽(なんよう)方面を攻略しようと思う。

   異論(いろん)はないか。


廖化:ははっ!

   関羽(かんう)様と共に、逆賊曹操(ぎゃくぞくそうそう)を討ち倒しとう存じます!


関羽:よくぞ申した!

   出陣は三日後、先鋒は関平(かんぺい)、左翼は周倉(しゅうそう)、右翼は廖化(りょうか)が務めよ!


廖化:心得ました!

   ただちに準備にかかります!


ナレ:敵味方から軍神と讃(たた)え怖れられる関羽(かんう)、彼に率いられた廖化(りょうか)達の

   士気は最高潮に達する。

   樊城(はんじょう)の包囲、長雨(ながあめ)を利用した計略、敵援軍大将・于禁の捕縛(ほばく)、

   ホウ徳(とく)を処刑するなど、全てが順調に進んでいた。

   呉の孫権(そんけん)が突如同盟を破棄し、荊州(けいしゅう)へ侵攻するまでは。

   その事を新手(あらて)の敵援軍・徐晃(じょこう)から聞かされた廖化(りょうか)達は動揺、

   不意を打たれたのもあり敗走する。


廖化:関羽(かんう)様、申し訳ありませぬ!

   徐晃(じょこう)が軽騎兵(けいきへい)を率いて現れ、我が軍の側面を突かれました。


関羽:勝敗は兵家(へいか)の常(つね)だ。

   戦(いくさ)は勝つこともあれば負けることもある。

   だが、いかに徐晃(じょこう)が勇猛で不意を突かれたとはいえ、戦況はかなり

   優勢であったはず。

   なぜここまで崩された?


廖化:それが…荊州(けいしゅう)が落ちたと敵将・徐晃(じょこう)から聞かされ…!


関羽:何ッ!

   そのような小賢(こざか)しい敵の口車に乗って何とするか!

   背後の呉(ご)とは同盟を結んでいるのだ。

   魏(ぎ)軍が荊州(けいしゅう)を直接攻撃することなど不可能であろう!


廖化:それがしも初めは疑っておりました。

   しかし本陣へ撤退(てったい)直後に荊州(けいしゅう)から知らせがあり、

   呉が…孫権(そんけん)が…我らを裏切ったとのことです…!


関羽:なんだと!?

   【勢いよく立ちあがって】

   ぬうう孫権(そんけん)!!

   碧眼紫髯(へきがんしぜん)の不義者(ふぎもの)め!!


   して、孫権(そんけん)軍はどう動いておる?!


廖化:そ、それが…、

   すでに荊州(けいしゅう)城は陥落したと…!


関羽:!!!

   バカなッ!

   繋(つな)ぎ狼煙(のろし)で異変は瞬時に伝わるようにしていたはず!

   なぜ荊州(けいしゅう)城が奪われているのだ!?


廖化:商人に化けて狼煙(のろし)台へ近づき、油断を突いて占領したとの事です。

   荊州(けいしゅう)城は狼煙(のろし)台で降伏した将兵を用いて城門を開かせ、

   これもやすやすと…。


関羽:ぬ、ぬうう…しかし荊州(けいしゅう)の本城(ほんじょう)が落ちたと言えど、

   公安には傅士仁(ふしじん)が、南郡(なんぐん)方面には糜芳(びほう)がおる。

   そこで巻き返しを図(はか)るほかあるまい。


廖化:い、いえ…報告では、公安も南郡(なんぐん)もすでに…!


関羽:な…ッ!?


廖化:孫権(そんけん)軍の将、虞翻(ぐほん)…この者が公安を預かる傅士仁(ふしじん)と旧知の仲で、

   調略(ちょうりゃく)を受けて降伏したとの事です。

   さらに傅士仁(ふしじん)が南郡(なんぐん)の糜芳(びほう)を調略(ちょうりゃく)し、これも開城(かいじょう)と…。

   む、無念にございます…!


関羽:……事ここに至ってはやむをえぬ。

   あの程度の者どもを後方の守りに置いた、我が見る目の無さを恨む

   ほかない。

   何としても成都(せいと)まで撤退せねばならんが…。


廖化:主要な街道はすべて孫権(そんけん)軍、曹操(そうそう)軍に遮断(しゃだん)されています。

   さらには我が軍の兵士たちの家族は全て荊州(けいしゅう)城にいるため、

   すでに脱走者が出始めております。


関羽:去っていく者は留(とど)めがたい。

   むしろ、この逆境(ぎゃっきょう)において我を見捨てず付き従ってくれる者こそ、

   一騎当千(いっきとうせん)の兵(つわもの)と言えよう。


廖化:おおせの通りかと…!


関羽:それで、これからのことだが…どこか立て籠(こ)もれる城砦(じょうさい)は無いか?


廖化:たしか…ここから南へ進んだところに、今は使われていない麦城(ばくじょう)と

   言う古城(こじょう)があります。

   まずはそこへ入りましょう。


関羽:麦城か…うむ、わかった。


ナレ:関羽主従(かんうしゅじゅう)は孫権(そんけん)・曹操(そうそう)連合軍に追い立てられるように麦城(ばくじょう)へ入ると

   、百五十にまで減った配下の兵と共に立てこもった。

   そのわずかな味方ですら、夜の闇に乗じて投降を呼びかける同郷の

   者の声に応じて一人、また一人と減っていく。

   そもそも籠城(ろうじょう)という戦術は、援軍がいずれ来るという前提で成り立

   つ。

   絶望的な状況の中、廖化(りょうか)は知恵を絞(しぼ)って一計(いっけい)を案じると、関羽(かんう)達の

   前へ出た。


廖化:関羽(かんう)様、それがしに一つ策(さく)がございます。


関羽:…策(さく)とな。

   どのようなものだ?


廖化:はい。

   ここから上庸(じょうよう)の地はさして遠くはありませぬ。

   聞けば味方の劉封(りゅうほう)、孟達(もうたつ)の二将(にしょう)が守っているとか。

   そこへ援軍を要請するのです。


関羽:!

   そうだ、上庸(じょうよう)の地があったか。

   しかしこの城は敵に包囲されつつある。

   誰が使者として脱出するかだが…。


廖化:…それがしが参ります。


関羽:廖化(りょうか)…。

   そちが…行ってくれるか。


廖化:…はい…!


関羽:危険な役目だ。

   失敗すれば確実に死ぬぞ。


廖化:覚悟の上でございます…!!


関羽:そうか…………頼んだぞ…!


廖化:この廖化(りょうか)、身命(しんめい)を賭(と)して必ずや援軍を…!

   関平(かんぺい)殿、周倉(しゅうそう)殿、趙累(ちょうるい)殿、王甫(おうほ)殿、

   では…!!


ナレ:廖化(りょうか)は決死の覚悟で麦城(ばくじょう)から脱出。

   やっとの思いで上庸(じょうよう)へたどり着き、劉封(りゅうほう)と孟達(もうたつ)に面会し援軍を

   要請する。

   しかしそこで聞かされたのは、無情にも断りの返事だった。


廖化:バカなッ!!

   上庸(じょうよう)はまだ不安定ゆえ兵は出せぬ、成都(せいと)へ直接援軍を仰(あお)げだと!?

   そんな事をしていては麦城(ばくじょう)は、関羽(かんう)様や皆は…!!

   !! し、しまった、あれは孫権(そんけん)軍!


ナレ:援軍を拒否され、やむなく成都(せいと)を目指そうとする廖化(りょうか)。

   しかしその途上、孫権(そんけん)軍に見つかり捕えられてしまう。

   それと共に関羽(かんう)達の死を知り、心が折れて降伏する。

   呆然自失(ぼうぜんじしつ)の日を送るものの、彼を再び突き動かしたのは母の言葉と

   、在(あ)りし日の関羽(かんう)の生き様(ざま)だった。


廖化:関羽(かんう)様…それがしが、上庸(じょうよう)から何とか援軍を引き出していれば…。

   悔やんでも悔やみきれぬ…。


廖化母:これ、元倹(げんけん)や!

    いつまでそんな腑抜(ふぬ)けた様(ざま)を晒(さら)しているつもりだえ!?


廖化:おっ母(かあ)…。

   そうは言っても、関羽(かんう)様にお仕えする事がすべてだったんだ。

   その関羽(かんう)様に死なれて、心にぽっかり穴が空(あ)いてしまったみたい

   で…。


廖化母:その関羽(かんう)様は桃園(とうえん)の契(ちぎ)りで義兄弟の誓いを結ばれた、劉備(りゅうび)様に

    お仕えしてたんだろ?

    なら、今度は劉備(りゅうび)様を主(あるじ)に仰(あお)げばええ!


廖化:だ、だけど、今この身は呉(ご)に仕えてしまってる。

   どうにもならない…。


廖化母:元倹(げんけん)、関羽(かんう)様もその昔、曹操(そうそう)の元にいた時があった事を忘れたの

    かぇ?

    お前がさんっざん聞かせてくれたろ。


廖化:!!!

   そうだった…関羽(かんう)様も、曹操(そうそう)に心から降伏すること無く、

   千里の道を越えて劉備(りゅうび)様の元に戻った…!


廖化母:それにならって、劉備(りゅうび)様の元へ行けばええ。

    亡き関羽(かんう)様が今のお前を見たら、きっとそう仰(おっしゃ)られるわぇ。


廖化:おっ母(かあ)!

   目が覚めたよ。

   呉を脱出して、劉備(りゅうび)様の元へ帰参(きさん)する!

   だが降伏した将だけに、目は付けられてるはずだ。

   何か手を打たなければ…。


廖化母:だったらこういうのはどうだぇ?

    お前が病(やまい)か何かで死んだという噂を流すんだ。

    そうすれば、脱出しやすくなるんでないかぇ?


廖化:そうか! 死んだとなれば、監視の目をそらせる…!

   おっ母(かあ)もなかなかの策士だ!

   よし、さっそく…!


ナレ:廖化(りょうか)はすぐに自身が死んだという噂を、周囲にあらゆる手段を使っ

   て広めていった。

   そして自(みずか)らは身を隠すと、誰も疑わない状況を作り上げていく。

   噂が浸透しきった頃合いを見計らい、ついに彼は夜闇(よやみ)にまぎれて

   年老いた母と共に脱出を図(はか)った。


廖化:おっ母(かあ)、もうこれくらいでいいだろう。

   聞いた限り、周りも完全に俺の死を信じきっている。

   今こそ劉備(りゅうび)様の元に戻ろう。


廖化母:そうだね、見張られてる感じもほとんどのうなった。

    けんど、本当におらまで連れていくつもりかぇ?

    近ごろはだいぶ足腰が弱ってしもうた。

    長旅(ながたび)に耐えられるかね…。


廖化:おっ母(かあ)を一人残していけるものか。

   それに、人質にされてしまう可能性もある。

   心配しなくてもいい、俺が背負ってでも連れて行くよ。


廖化母:すまないねぇ、苦労をかけて…。


廖化:それで、自分の事は周りになんて言ったんだ?


廖化母:親類と一緒に遠方の親族に会いに行くから、

    しばらく留守にするって言ってあるよ。


廖化:それなら誰も怪しむ奴はいないな。

   日も完全に落ちた。

   さ、行こう!


ナレ:二人は家を出ると昼は林や森、岩陰で身を潜め、夜の闇を利用して

   蜀(しょく)への旅路を急いだ。

   そうして幾日か経ち、秭帰(しき)という辺りまで来たある日の昼。

   いつものように森の中に身を隠していると、大量の人馬の音が聞こ

   えてきた。


廖化:うっ、この大勢の人馬の足音は…まずい、追っ手か…?


廖化母:なんてことだい……。


廖化:く…なんとかやり過ごさねば……ん?

   ! あ、あれは!!


廖化母:? どうしたんだぇ、元倹(げんけん)。


廖化:おっ母(かあ)、蜀(しょく)だ!

   蜀(しょく)の劉備(りゅうび)様の旗だ!


廖化母:えッ!?

    ほ、本当かい?


廖化:ああ、間違いない。

   きっと関羽(かんう)様の仇討(あだう)ちに来たんだ!


廖化母:おおお、それじゃ、追っ手じゃなかったんだねぇ…!


廖化:おっ母(かあ)はここにいてくれ!


   【二拍】


   おーーーぅいッッ!!


   【一拍】


   おーーーぅいッ! 待ってくれえーーッ!!


蜀軍部将:!? 何奴(なにやつ)か!!


廖化:それがしは荊州(けいしゅう)陥落の折、関羽(かんう)様の元で主簿(しゅぼ)を務めていた廖化(りょうか)、

   字(あざな)を元倹(げんけん)と申す者だ!

   劉備(りゅうび)様にお目通(めどお)りを願いたい!


蜀軍部将:な、何ッ、関羽(かんう)様の!?

     しばし待たれよ!

     はッ!


劉備:む…?

   行軍(こうぐん)が止まっているぞ。

   …あれは。


   【一拍】


蜀軍部将:どぉうっ!

     申し上げます、陛下!


劉備:何事か?


蜀軍部将:はっ、それが、先ほど我が隊のそばへ一人の男が参り、

     名乗るを聞けば廖化(りょうか)と申し、関羽(かんう)様に仕えていた者だと…!


劉備:!!!なにッ、関羽(かんう)に仕えていたと申すか!

   廖化(りょうか)…聞いた事があるぞ。

   関平(かんぺい)、周倉(しゅうそう)をはじめ、みな討(う)ち死(じ)にしたと思っていたが…

   そうか、生きておったのだな!

   すぐにこれへ連れて参れ!


蜀軍部将:ははッ、ただちに!


劉備:そうか、この地にまだ関羽(かんう)の忘れ形見(がたみ)がおったか…!


   【二拍】


蜀軍部将:お待たせいたした、廖化(りょうか)殿!

     陛下がお会いになられる。

     共に参られよ!


廖化:おお、かたじけない!


廖化母:元倹(げんけん)…よかった、よかったねぇ…。


蜀軍部将:? そちらは?


廖化:それがしの母だ。

   共に参ってもよろしいであろうか。


蜀軍部将:むむ、とりあえず、近くまではお連れ申そう。

     さ、こちらへ。


     【二拍】


     陛下、廖化(りょうか)殿をお連れしました!


廖化:こうして直(じか)にお会いするのは初めてにございます。

   廖化(りょうか)、字(あざな)を元倹(げんけん)と申します。

   陛下におかれましてはご機嫌麗(きげんうるわ)しゅう…!


劉備:おお、そちが廖化(りょうか)か!

   関羽(かんう)に仕えておったとのう!


廖化:ははっ!

   かつて千里の道を陛下の元までお戻りになられる際に、

   縁あってお会いしました。

   そののち、荊州(けいしゅう)におられるところへ馳(は)せ参じ、配下に召し抱(かか)えて

   いただいたものです。


劉備:うむ、その折は我が妻たちを救ってくれたそうだな。

   朕(ちん)からも改めて礼を申すぞ!


廖化:あ、ありがたきお言葉…!!


劉備:それにしても、あの曹仁(そうじん)と呂蒙(りょもう)に南北より攻められた中で、

   よく生きていたのう!


廖化:あの時…それがしは関羽(かんう)様に献策(けんさく)し、上庸(じょうよう)に援軍を求めて麦城(ばくじょう)を

   脱出しました。

   ですが守将の劉封(りゅうほう)・孟達(もうたつ)に断られ、やむなく陛下のおわす成都(せいと)へ

   向かったのです。

   しかしその道中で孫権(そんけん)軍に捕らえられ、進退窮(しんたいきわ)まったそれがしは

   心ならずも降伏しました。

   しかし蜀(しょく)に対する忠義の心は変わらず、いつか必ず帰参せんものと

   固く誓い、自身の死の噂を流して母と共に脱出して参りました…!


劉備:そうであったか!

   その忠義厚き心、さすがは義弟(おとうと)が重く用いていただけの事はある!

   関羽(かんう)にならって朕(ちん)の元へ、しかも老いたるご母堂(ぼどう)を背負っての千里

   行…実に見事である!

   朕(ちん)も誇らしいぞ!

   して、ご母堂(ぼどう)はいずれにおる?


廖化:はっ、幕の外に。


劉備:うむ、ここへ通すのだ。


廖化:えっ、よ、よろしいので?


劉備:もちろんである。

   そなたのごとき人物を育てた御人(ごじん)だ。

   遠慮はいらぬ。


廖化:は、ははっ!


    【二拍】

   

廖化母:こ、皇帝陛下…わ、わたくしのような者がここにいても、

    よいのでございましょうか…?


劉備:おお、そなたが廖化(りょうか)のご母堂(ぼどう)であるか。

   あなたの息子は忠義厚く、関羽(かんう)の為に粉骨砕身(ふんこつさいしん)仕えていたと聞く。

   義弟(おとうと)の関羽(かんう)が討たれ、仕えていた者たちまで皆(みな)失ったかと、

   朕(ちん)の嘆かぬ日は無かった。

   だが今日、こうして関羽(かんう)の忘れ形見(がたみ)とも言うべき廖化(りょうか)と会えた事は

   近頃一番(ちかごろいちばん)の良い出来事だ。

   廖化(りょうか)の忠烈さはご母堂(ぼどう)の教えの賜物(たまもの)である。

   朕(ちん)は心より礼を申すぞ。


廖化母:そ、そんな…陛下…、も、もったいないお言葉でごぜえます…。


劉備:廖化(りょうか)よ、そちを今より宜都(ぎと)の太守(たいしゅ)に任ずる!

   併せてこの呉(ご)征伐軍の一翼として軍を率いよ!


廖化:! は、ははぁーッ!!

   ありがたき幸せにございます!!


劉備:朕(ちん)と共に関羽の仇(かたき)を討とうぞ!


廖化:はいっ!

   必ずや、関羽(かんう)様の無念を晴らしてご覧にいれます!


劉備:うむ!

   ご母堂(ぼどう)は成都(せいと)へ厳重に護衛をつけて送ろうぞ。


廖化:何から何まで…陛下、感謝申し上げます!

   

   …おっ母(かあ)、行ってきます。


廖化母:元倹(げんけん)や、体に気を付けてなぁ…。


劉備:皆(みな)聞け!

   関羽(かんう)にかつて仕えていた廖化(りょうか)が再び戻ってきてくれた!

   まさに義弟関羽(おとうとかんう)の引き合わせであろう!

   実に幸先(さいさき)が良いぞ!


劉備役以外:【歓声:SE代用可】


劉備:さあ、進軍を再開するのだ!

   孫権(そんけん)に我らの怒りを思い知らせてやろうぞ!


ナレ:劉備(りゅうび)は帰参したばかりの廖化(りょうか)を重く用い、これこそ天が呉(ご)を滅ぼし

   て関羽(かんう)の仇(かたき)を討たせる前兆であると、大いに士気を鼓舞(こぶ)した。

   廖化(りょうか)も劉備(りゅうび)の期待にこたえるべく、関羽(かんう)の時と変わらぬ忠義を捧げ

   る。

   しかし、連戦連勝の蜀(しょく)軍の前に立ちはだかったのは、すでに病死し

   た呉軍大都督(ごぐんだいととく)・呂蒙(りょもう)と共に関羽(かんう)の死の原因を作った若き俊英(しゅんえい)、

   陸遜(りくそん)、字(あざな)は伯言(はくげん)だった。

   長く伸びきった蜀(しょく)軍の陣に、得意とする火計を仕掛けてきたのであ

   る。


   【激しく燃えるSEあれば】


廖化:くそっ、なんという猛烈な勢いの炎だ…!

   これでは味方は寸断されて連携がとれぬ…。

   陛下は、陛下はいずれにおわす…!

   !あれは!


劉備:くっ…恐るべきは陸遜(りくそん)…。

   七十万の兵がこうもあっさりと…。

   朕(ちん)の命運(めいうん)もここに尽きるのか…。


廖化:陛下ーーッ!

   それがしです! 廖化(りょうか)です!

   お怪我はございませぬか!?


劉備:!おお廖化(りょうか)!

   朕(ちん)はこの通り無事だ!

   天は朕(ちん)を見捨てたまわず…助かったぞ!


廖化:速やかに白帝城(はくていじょう)へ撤退なされませ!

   ここはそれがしが引き受けます!


劉備:廖化(りょうか)…!

   死んではならぬぞ!

   必ずや生きて戻るのだ!


廖化:ははっ!

   お前達は陛下をお守りして白帝城(はくていじょう)へ撤退せよ!

   残りは我と共に味方の退路(たいろ)を確保し、窮地(きゅうち)にある友軍(ゆうぐん)を救援するの

   だ!

   続けェーーーーいッ!!


ナレ:義兄弟(ぎきょうだい)の仇(かたき)、主君の仇(かたき)と夷陵(いりょう)の戦いに臨んだ劉備(りゅうび)と廖化(りょうか)であったが

   、陸遜(りくそん)の知謀の前に壊滅的打撃を受け、蜀最前線(しょくさいぜんせん)の拠点・白帝城(はくていじょう)へ

   撤退する事となる。

   その後、いくばくもなくして蜀漢(しょくかん)帝国初代皇帝・劉備玄徳(りゅうびげんとく)は病(やまい)の為

   にこの世を去った。

   蜀(しょく)全体が悲しみに包まれる中、廖化(りょうか)も劉備(りゅうび)の棺(ひつぎ)を守って共に成都(せいと)へ

   引き上げた。


廖化:先帝……お会いしてわずかな間ではありましたが、この身に受けた

   数々のご恩、決して忘れませぬ。

   後を継がれた劉禅(りゅうぜん)陛下に、先帝と変わらぬ忠誠を誓いまする…。


蜀軍部将:廖化(りょうか)様、ここにおられましたか。

     丞相(じょうしょう)閣下がお呼びです。


廖化:? 諸葛丞相(しょかつじょうしょう)が?

   わかった、すぐ参る。


   丞相(じょうしょう)には初めてお会いするが…何の呼び出しであろうか…?

   廖元倹(りょうげんけん)、お召しによって参じました。


諸葛亮:うむ、待っていた。

    さあ、これへ。


    【二拍】


    そなたとこうして直(じか)に話すのは初めてであるが、先帝からは関羽(かんう)

    将軍亡きあとも我が蜀(しょく)への忠誠を忘れずに帰参したと、書簡(しょかん)で高

    く評価されていた。


廖化:お、恐れ入ります。


諸葛亮:夷陵(いりょう)にて呉の陸遜(りくそん)に火計を仕掛けられた際は、味方の救援に奔走

    し、先帝をお守りして無事に白帝城(はくていじょう)へ撤退させたと聞く。

    その働き、見事である。    


廖化:いえ…その時の自分にできる精一杯の事をしたまでにございます。


諸葛亮:謙遜(けんそん)せずともよい。

    それで、先帝がそなたに与えた太守(たいしゅ)の地位だが…知っての通り、

    宜都(ぎと)は現在、蜀(しょく)の領土ではない。

    それゆえ、私付きの参軍(さんぐん)に任命しようと思う。


廖化:なんと、丞相(じょうしょう)閣下付きの…!

   ありがたき幸せに存じます…!


諸葛亮:うむ。

    現在、五つの道より魏(ぎ)がこの蜀(しょく)へ攻め入ろうとしている。

    すでに魏延(ぎえん)、馬超(ばちょう)、李厳(りげん)、趙雲(ちょううん)に各所の要害(ようがい)を守らせて万全を

    期しているが、そなたも遊軍として補佐してもらいたい。


廖化:ははっ!

   国家の為、粉骨砕身(ふんこつさいしん)働かせていただきます!


諸葛亮:呉(ご)にはすでに使者を派遣して修交同盟を結ばせるべく動き、

    予(よ)も南蛮(なんばん)を平定に向かわねばならぬ。

    くれぐれも留守を頼む。


ナレ:廖化(りょうか)は新たに諸葛亮(しょかつりょう)直属となり、蜀(しょく)へさらなる忠勤を励(はげ)む。

   かたや南蛮(なんばん)王・孟獲(もうかく)を心服(しんぷく)させた諸葛亮(しょかつりょう)は、いよいよ先帝劉備(せんていりゅうび)の遺

   志を継いで魏(ぎ)への侵攻、すなわち北伐(ほくばつ)を開始した。

   この時、廖化(りょうか)は副将飛衛将軍(ふくしょうひえいしょうぐん)として従軍し、蜀(しょく)の勝利に貢献する。

   しかし街亭(がいてい)において馬謖(ばしょく)が司馬懿(しばい)らに敗戦して以降、思うように

   戦況は好転しなかった。

   時は建興(けんこう)七年。

   第二次北伐、陳倉(ちんそう)城攻防戦にて。


蜀軍部将:も、申し上げます!

     敵援軍迎撃に向かった謝雄(しゃゆう)・キョウ起(き)の両将軍は、敵将王双(てきしょうおうそう)に

     討たれましてございます!


諸葛亮:むうう、ならば王平(おうへい)! 張嶷(ちょうぎょく)! 廖化(りょうか)!

    汝(なんじ)らは部隊を率いて敵援軍を迎え撃つのだ!

    陳倉(ちんそう)城へたどり着かせてはならぬ!


廖化:ははっ、ただちに向かいます!


   【二拍】


   しかし、謝雄(しゃゆう)将軍達を討つとは…かなりの剛(ごう)の者だな……むっ!


王双:なんだァ!?

   また蜀(しょく)軍の雑魚(ざこ)が来たか!

   我は隴西狄道(ろうせいてきどう)の生まれ、王双(おうそう)、字(あざな)は子全(しぜん)なり!!

   潔くその首を渡せィ!!


廖化:身の丈(たけ)は七尺もあろうか…なんという猛気あふれる敵将だ…!

   だが、臆(おく)してはおれぬ!

   我は蜀(しょく)の廖化(りょうか)、字(あざな)を元倹(げんけん)!

   ゆくぞ! でぇぇえい!!


王双:ふんッ!!

   なんだその柔(やわ)い打ち込みは!!

   舐(な)めてるのかァ、廖化(りょうか)とやら!!


廖化:ぐッッ!!

   なんという重い一撃だ…!

   だが、我ら三人を相手ならどうだ!!


王双:雑魚(ざこ)が寄り集まったところでしょせん雑魚(ざこ)にすぎんわァ!!

   束(たば)になってかかって来いッッ!!

   ぬぅぅぅおおおああああ!!!


廖化:うっ、ぬうぅぅうう!!!

   バカな、三人がかりでも抑(おさ)えられんとは…!?

   ! いかん、兵達が怯(おび)えて逃げ始めておる!


王双:うわっはははは!

   さすがは雑魚(ざこ)の部下、蜘蛛(くも)の子を散らすように失(う)せおったわ!

   だが貴様らは逃がさん!

   我が武功となるがいい!!


廖化:くっ、こう部隊が崩れてはどうにもならぬ!

   退(ひ)けっ、退(ひ)けっ!!


王双:待てェい!!

   背を見せて逃げる輩(やから)には…これでもくれてやるわァ!!

   ふんッッ!!


廖化:うっ!

   い、今のは流星鎚(りゅうせいつい)か!?

   危なかった…ッ!? 張嶷(ちょうぎょく)殿!


王双:うわッはははは!!

   片方は当たったか!

   どぉれ、その首をいただくぞォォ!!


廖化:ッさせるかああああ!!


王双:ぬうッ!

   おのれェ、邪魔をするかァ!!


廖化:張嶷(ちょうぎょく)殿は討たせんッ!

   今だ、王平(おうへい)殿!

   はあッ!!


王双:逃げるなァ!!

   首を置いて行けェ!!!


廖化:貴様の相手などしておれん!

   退(ひ)け退(ひ)けェ!!

   張嶷(ちょうぎょく)殿、しっかりされい!


王双:チィィ、武功を逃(のが)したわ!!

   まァ良い、陳倉(ちんそう)城のカク昭(しょう)将軍と合流するのだ!!


ナレ:かくして陳倉(ちんそう)城の包囲を突破された蜀(しょく)軍は、その後間もなく漢中(かんちゅう)へ

   撤退、第二次北伐は失敗となる。

   諸葛亮(しょかつりょう)は戦法を変え、戦術を練り、翌年再び北伐(ほくばつ)を断行する。

   陰平(いんぺい)・武都(ぶと)の都市を攻略し、更には魏(ぎ)の名将・司馬懿(しばい)を自軍の退却

   を装っておびき出す事に成功、これを討ち取るべく策を巡らした。


諸葛亮:姜維(きょうい)、廖化(りょうか)、これへ。


姜維:はっ!


廖化:おん前に。


諸葛亮:汝(なんじ)らはそれぞれ兵を三千率い、あれに見える山に潜むのだ。

    明日、魏(ぎ)軍との決戦において我が軍が不利と見えても決して動い

    てはならぬ。

    そしてこれを…。


姜維:これは…錦(にしき)の袋でございますか。


諸葛亮:うむ。

    ここぞという戦機(せんき)を見極めたら、この袋を開いて中に記しておい

    た我が策に従って動くのだ。

    よいな。


姜維:お任せ下さいませ、丞相(じょうしょう)閣下!

   参ろう、廖化(りょうか)殿!


廖化:うむ!

   では丞相(じょうしょう)、行って参ります!


諸葛亮:そなた達の動きにかかっている。

    頼んだぞ。


ナレ:一夜明(いちやあ)け、張(ちょう)コウ・戴陵(たいりょう)率いる魏(ぎ)軍先鋒三万がついに蜀(しょく)軍の背後に

   現れる。

   呉懿(ごい)、呉班(ごはん)、馬忠(ばちゅう)、張嶷(ちょうぎょく)ら四将が陣を布いて迎え討ち、そこへ王平(おうへい)

   、張翼(ちょうよく)、関興(かんこう)らの伏兵や、後から追い付いた司馬懿(しばい)の魏(ぎ)軍本隊が

   激突し、混戦模様(こんせんもよう)を呈していた。

   血は河となって流れ、屍は山をなし、馬さえも互いを噛(か)み合うほ

   どの修羅の世界が現出(げんしゅつ)する。


姜維:廖化(りょうか)殿、戦況が一進一退(いっしんいったい)を繰り返しつつある。

   おそらく、丞相(じょうしょう)のおっしゃられた戦機(せんき)とはこのことであろう。


廖化:うむ。

   となれば、あの時授けられた錦(にしき)の袋を開けてみよう。


   【二拍】


   ! おお…!

   姜維(きょうい)殿、やはり丞相(じょうしょう)閣下は神算鬼謀(しんさんきぼう)だ。

   これを。


姜維:うむ。


諸葛亮:汝(なんじ)ら二人は布陣しているこの地を捨て、司馬懿(しばい)が空(から)にして出てき

    た渭水(いすい)の敵本陣を奪うべし。


姜維:…なるほど、そういうことか…!!

   すぐに進軍開始しよう!

   本陣を奪われた司馬懿(しばい)の顔が見ものだ!


廖化:よしッ参ろう!

   全軍、我らに続け!!


【喚声:SE代用可】


ナレ:姜維(きょうい)、廖化(りょうか)の二将はただちに軍を動かすと峰伝(みねづた)い、山伝(やまづた)いに間道(かんどう)を

   抜け、魏(ぎ)軍本陣を目指した。

   この動きは間もなく発見され、司馬懿(しばい)の元へ知らせが届くこ

   ととなる。


司馬懿:ぬう、蜀(しょく)軍め…なかなか粘る…戦況が膠着(こうちゃく)しつつあるか…。


魏軍部将:も、申し上げます!

     彼方(かなた)の山に布陣していた蜀(しょく)軍が動き出しました!


司馬懿:くっ、ここでさらに新手が加わるか…!

    数はさほどではないゆえ、そこまで戦局に影響は無いだろうが…

    。


魏軍部将:い、いえそれが、その敵軍は渭水(いすい)方面へ進軍しています!


司馬懿:なッ、なにッ、渭水(いすい)だと!!?

    まずい! 本陣を奪われては長安(ちょうあん)との通路が断たれる!!


    全軍ッ退け(ひ)! 退(ひ)けェッ!!

    本陣へ向けて撤退せよーーーーッッ!!


ナレ:この決戦で魏(ぎ)が受けた損害は、諸葛亮(しょかつりょう)の北伐(ほくばつ)が始まって以来最大と

   伝えられる。

   草むらに伏す両軍の屍(しかばね)は実に一万を越え、魏(ぎ)軍の将は蜀(しょく)軍よりも

   多く討たれ、枚挙(まいきょ)にいとまがなかったという。

   しかしそれでも勝利を決定づけるには至らず、蜀(しょく)軍は漢中(かんちゅう)へ撤退と

   なる。その後第四次北伐を経て、建興(けんこう)十一年。

   第五次北伐、運命の時が迫っていた…。


諸葛亮:今回の策は木牛流馬(もくぎゅうりゅうば)を用いて敵から食料を奪う事、だがその真の

    目的は司馬懿(しばい)をおびき出して討ち取る事にある。

    諸将よ、抜かるな。


諸葛亮・廖化役以外全員:おうッ!【SE代用可】


廖化:【つぶやくように】

   よし、必ず今日こそ司馬懿(しばい)の首をわが手に…!


蜀軍部将:! 将軍! あれを!


司馬懿:はぁ、はぁ、いかん、味方が全滅とは…!

    なんとか本陣まで戻らねば…!


廖化:おお、あれこそ司馬懿仲達(しばいちゅうたつ)!

   これぞ天の与えた機会!

   待てッ、司馬懿(しばい)!!


司馬懿:うっ、あ、あれは蜀(しょく)の廖化(りょうか)!

    いかん!


廖化:往生際が悪いぞ!

   潔くその首を渡せッ!!


司馬懿:くうッ、ま、まだ死ぬわけには…!


廖化:もらった! でぇぇいッッ!!


   【一拍】


   !! し、しまった! 剣が木に!

   ぐっ、くっ、ぬ、抜けん!!


司馬懿:い、今だ!

    はっ!


    【二拍】


    た、助かった…だがまたすぐに追いついて来よう。


廖化:ッ! ッ!!

   ぬ、抜けた!

   くそっ、逃がさんぞ!!

   この千載一遇(せんざいいちぐう)の好機をおいて、いつ司馬懿(しばい)を討ち取れるものか!


司馬懿:何か…何かないか…。

    分かれ道へ出たか。


    !っそうだ、この冠を…ッ!


廖化:急げ! 急げ! 司馬懿(しばい)を逃(のが)しては…!

   !むっ!?

   道が分かれている…っ!?


   これは…司馬懿(しばい)の被っていた冠ではないか。

   !さては逃げるのに夢中で落としていったな。

   という事は…こちらの道か!


   【三拍】


   ぬうう、一向に追いつかん…。

   やはり剣を抜くのに手間取(てまど)ったのがまずかったか…!

   くそっ、運の良い奴め!

   やむを得ん、この冠(かんむり)だけでも持ち帰るか…。


ナレ:一つの判断の誤りが、後の出来事すべてを狂わせるに至る事はよく

   ある。

   廖化(りょうか)が司馬懿(しばい)の機転に気づき、冠の落ちてい

   た道とは反対へ向かっていれば、歴史は大きく変わったかもしれない。

   かくして司馬懿(しばい)は九死に一生を得(え)、廖化(りょうか)は空(むな)しく蜀(しょく)軍本陣へ戻った

   。


廖化:丞相(じょうしょう)、ただ今戻りました。


諸葛亮:おお廖化(りょうか)、待っておったぞ。

    む? その冠は?


廖化:はっ、司馬懿(しばい)の冠です。

   それがしにこっぴどく追われて余程(よほど)うろたえたのでしょう。

   追撃の途上(とじょう)にて落ちておりました。

   さぞ肝(きも)を冷やしたことかと。


諸葛亮:! そうか…司馬懿(しばい)をな。

    うむ、将軍に追い回され、生きた心地(ここち)もしなかったであろう。

    ともあれご苦労であった。

    皆も下がって休息するがよい。


廖化:ははっ。


   【二拍】


諸葛亮:…ああ、もしここに今、関羽(かんう)や趙雲(ちょううん)らがおれば、この程度の小さ

    な戦果で満足などしなかったであろう…。

    むしろかえって罪を乞(こ)うていたかもしれぬ。

    関羽(かんう)なし、張飛(ちょうひ)なし、趙雲(ちょううん)なし。

    …そのほか幾多の将星(しょうせい)落ちて、蜀(しょく)に人材はいなくなった、か…。


ナレ:諸将が己の功績を誇る中、諸葛亮(しょかつりょう)は魏(ぎ)との人材の質を比較して

   心中その差を嘆(なげ)く。

   しかし国家の大目標を成し遂げる為、身を削(けず)り、魏(ぎ)を討つ軍略を

   練ると五丈原(ごじょうげん)の地に陣を移した。

   廖化(りょうか)も諸将と共に一層の忠勤に励み、蜀(しょく)軍を支えていく。

   だが無情にも天は人を待たず、諸葛亮(しょかつりょう)の命の灯(ひ)は燃え尽きようとし

   ていた。


廖化:地雷の計も失敗に終わり、魏(ぎ)軍は何としても陣を出てこない…。

   食料に不足はないが、このままでは…。


姜維:はぁ、はぁ…!

   ! 廖化(りょうか)殿!

   ここにおられたか!


廖化:姜維(きょうい)殿、どうされた?

   何をそのように慌てておられる。


姜維:【声を落として】

    丞相(じょうしょう)閣下が、お倒れに…。

    すぐ本営へ。


廖化:【声を落として】

   !!? なんだと!?

   わかった、すぐ参る!


   日ごろ、働き過ぎておられるとは思っていたが…。

   今ここで丞相(じょうしょう)に何かあっては、蜀(しょく)は…!


   【二拍】


   廖元倹(りょうげんけん)、参りました…!

   丞相(じょうしょう)閣下、お加減は…!?


諸葛亮:おぉ…廖化(りょうか)か。

    どうやら予(よ)の命も、あとわずかのようだ。


廖化:ッそのような事をおっしゃらないで下さい!

   丞相(じょうしょう)はこの国の大黒柱、代わりなどおりませぬ!


諸葛亮:予(よ)もかなう事なら、先帝のご遺志を果たしてから逝きたい…。

    だが、天が定めた寿命だけはどうにもならぬ。


廖化:そ、そんな…。


姜維:うっ、うっ…く、くく……。


諸葛亮:姜維(きょうい)よ、泣くでない。

    そなたには我が兵法の全てを授けた。

    あの兵法書二十四冊をよく究(きわ)め、国家の為に尽くしてくれよ。


姜維:は、はいっ…!    


諸葛亮:廖化(りょうか)よ、そなたの忠義や勇敢さは常々よく見ていた。

    予(よ)の亡きあとも、皆で力を合わせて蜀(しょく)を守って欲しい。

    くれぐれも頼み置くぞ。


廖化:ううっ…は、はい…必ずや…っ…!


諸葛亮:どれ…。


姜維:!? じょ、丞相(じょうしょう)、何をなされます?


諸葛亮:陣中を巡視する。

    四輪車を引いてきてくれ。


廖化:【つぶやくように】

   な、なんと…死が数歩先まで迫っているのに、最期まで国の事を…

   しかも死期が迫っていることを感じさせない毅然(きぜん)とした態度…。

   それがしもその生き様(ざま)、見習いとうございます…!


諸葛亮:ああ…旗にはまだ生気がみなぎっている。

    予(よ)が死すとも、蜀(しょく)はすぐに潰(つい)えることはない…。


姜維:はい…!


諸葛亮:人の一生とは実に短いものだ…。

    あの蒼い空…極みはいずこであろうかのう……。


廖化:【つぶやくように】

   !! 志半(こころざしなか)ばで病(やまい)に倒れるその無念、いかばかりか……!


諸葛亮:もうひとつ、そなたらに申しておくことがある。

    …予(よ)が死ねば、必ずや魏延(ぎえん)は謀反(むほん)するであろう。

    それに対する策はすでに楊儀(ようぎ)らに授けてある。

    ゆえに決して立ち騒ぐことなく、静かに漢中(かんちゅう)へ退きあげよ。


    ふう…少し疲れた。休ませてもらおう。


廖化:は、ははっ…では…。


姜維:失礼いたします…。


   【二拍】


   廖化(りょうか)殿、少しよろしいか。


廖化:? どうされた、姜維(きょうい)殿。


姜維:こちらへ…。


   【二拍】


   これを見ていただきたい。


廖化:!? 丞相(じょうしょう)?!

   ッいや、これは…木像?


姜維:いかにも。

   丞相(じょうしょう)はご自身の亡きあと、必ずや司馬懿(しばい)はそれに気づいて追撃して

   くると見抜かれ、あらかじめこの木像を作らせておられた。

   魏(ぎ)軍が追撃して来たらこれを押し出せば、必ずや司馬懿(しばい)は逃げ奔(はし)る

   ゆえ、無事に退却できるであろう…そうおおせられた。


廖化:じょ、丞相(じょうしょう)…ご自身の亡きあとの事まで…。


姜維:王平(おうへい)殿や張翼(ちょうよく)殿はじめ、魏延(ぎえん)を除いた諸将にはすでにこの策は伝わ

   っている。

   廖化(りょうか)殿もそのつもりで準備にかかっていただきたい。


廖化:承知した。

   五丈原(ごじょうげん)の地を去る思い出に、司馬懿(しばい)めに手痛い置き土産をくれてや

   るとしよう。


姜維:ええ。

   くれぐれも、魏延(ぎえん)には知られぬようお頼みします。


ナレ:それから数日後の夜。

   諸葛亮(しょかつりょう)は再び諸将を集めて最期の言葉を遺(のこ)した。


諸葛亮:楊儀(ようぎ)…これが予(よ)の遺書だ。

    陛下にお届けしてくれ…。


    …予(よ)の亡きあと、決して喪を発してはならぬ。

    予(よ)の死を司馬懿(しばい)が知れば、総力を挙げて攻め来たるだろう…。

    すでに姜維(きょうい)から伝わっているとは思うが…そうなったら

    授けた秘策を実行するのだ…。

    司馬懿(しばい)は必ずや驚いて退却し、我が軍は無事に漢中へ退(ひ)きあげら

    れるだろう…。


    …もはや言い置くことは無い。

    諸将よ…心を一つにして国に仕え、己の職分を全うしてくれ…。


姜維:ははッ…!

   我ら一同、必ずや丞相(じょうしょう)のご遺托(いたく)にお応えします…!


廖化:委細(いさい)、承知いたしましてございます…!


諸葛亮:うむ…。

    外に出たい。

    四輪車に乗せてくれ…。


姜維:は、ははっ…。

   廖化(りょうか)殿、手伝ってくだされ。


廖化:うむ。

   さ、丞相(じょうしょう)…。


   【二拍】


諸葛亮:…秋風が沁(し)みる…。

    虫の声もどこか寂しげだ…。

    …みな、空を見よ。

    あれが、予(よ)の宿星(しゅくせい)だ…。


廖化:あの星が…。


姜維:丞相(じょうしょう)を現す宿星(しゅくせい)…。


諸葛亮:いま…滅亡前の最後の輝きを見せている…。

    …見ていよ…今に墜(お)ちるであろう…。


姜維:!! あっ!


廖化:ほ、星が…!

   !? ッ丞相(じょうしょう)!?!


姜維:丞相(じょうしょう)閣下!!?


諸葛亮:……。


姜維:丞相(じょうしょう)ッ、丞相(じょうしょう)ーーーーーッッッ!!!

   ううっ、ううう………ッ!!【泣き崩れる】


廖化:丞(じょう)、相(しょう)……ッッ。

   く…う…っ。


【人々が嘆き悲しむSEあれば】


ナレ:建興(けんこう)十二年秋、八月二十三日。

   蜀漢(しょくかん)帝国最後の巨星、諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)死す。享年(きょうねん)五十四才。

   廖化(りょうか)をはじめ、諸将はその偉大な足跡(そくせき)を涙と共に偲(しの)んだ。

   その後、蜀(しょく)は人事を一新し国の健在を内外に示すが、

   以降も国の重鎮(じゅうちん)が相次(あいつ)いで死去。

   誰の目にも国の斜陽(しゃよう)が見える中、いつしか廖化(りょうか)は蜀(しょく)を代表する将軍

   となっていた。


廖化:すでに六十を越えたわしが、車騎(しゃき)将軍か…。

   国を守るため、さらに奮起(ふんき)せねば…。


姜維:廖化(りょうか)殿、車騎(しゃき)将軍就任、おめでとうござる。


廖化:おお、姜維(きょうい)殿か。

   わしはすでに老齢(ろうれい)、適任が他にいそうなものだとは思ったが…。


姜維:何を言われる。

   張翼(ちょうよく)殿と並んで百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の将である廖化(りょうか)殿こそ、車騎(しゃき)将軍の任に

   ふさわしい。

   巷(ちまた)では民達も申しておるぞ。

   「前に王平(おうへい)・句扶(こうふ)あり、後(あと)に張翼(ちょうよく)・廖化(りょうか)あり」とな。

   それに年は関係ない。

   かつて蜀(しょく)の五虎大将軍(ごこだいしょうぐん)であった黄忠(こうちゅう)殿のごとき気概(きがい)を持ってもら

   わねば。


廖化:そうか…黄忠(こうちゅう)殿か。

   確かに、老いてなお盛んな方であられた。

   わしも、まだまだ負けてはおれぬのう。


姜維:うむ、その意気だ!


ナレ:その後も廖化(りょうか)は姜維(きょうい)らと共に前線で国を守り続けた。

   しかし二代皇帝・劉禅(りゅうぜん)は宦官(かんがん)を寵愛(ちょうあい)して国政を顧(かえり)みず、また連年の

   姜維(きょうい)の北伐(ほくばつ)によって国力は疲弊(ひへい)の一途(いっと)をたどっていく。

   その隙(すき)を見逃(みのが)さず、魏(ぎ)はついに大軍をもって蜀(しょく)に侵攻。

   廖化(りょうか)は姜維(きょうい)・張翼(ちょうよく)と要害(ようがい)の剣閣(けんかく)で魏(ぎ)の鍾会(しょうかい)を迎え撃った。


鍾会:あれが剣閣(けんかく)か。

   漢中(かんちゅう)すら守り切れなかった蜀(しょく)軍など恐れる必要はない!

   者ども、踏み潰(つぶ)してやるがよい!


魏軍部将:ははっ!

     では将軍、総攻撃の合図を!


鍾会:かかれェーーーーーいッ!!

   全軍突撃せよーーーッ!


【喚声:SE代用可】


廖化:くっ…魏(ぎ)め、ついに押し寄せて来おったか…。

   漢中(かんちゅう)はすでに奪われ、ここが抜かれれば国が危うい…。


姜維:なんの、この剣閣(けんかく)は無双の要害(ようがい)。

   魏(ぎ)軍がたとえ何十万の兵を率いて来ようと、決して落とせぬ。


廖化:うむ。

   何としても守り抜かねばのう!


姜維:よしッ連弩(れんど)隊、準備せよ!


廖化:敵に矢を腹いっぱい喰らわせてやるのじゃ!


   放てェッッ!!


【大量に矢を射るSEあれば】


魏軍部将:ううっ、なんだあのバカ長い矢の雨は!

     かすっただけで大怪我はまぬがれん!


鍾会:ええい、かかれかかれ!

   力づくでも突破するのだ!


魏軍部将:し、しかし鍾会(しょうかい)将軍!

     こうも兵が怯(おび)えていては戦(いくさ)になりませぬ!


鍾会:お、おのれぇ…!

   蜀(しょく)の内部は腐敗していると聞いたが、前線の軍はそうでもないとい

   う事か!


魏軍部将:くうっ、また一斉に放って来た!!


鍾会:ええぇい全軍、矢の届かぬ所まで後退だ!


姜維:はっははは!

   見ろ、敵は怯(ひる)んだぞ!


廖化:よし、わしに続けィ!

   魏(ぎ)軍を蹴散らすのじゃあーーッ!!


姜維・廖化役以外:【喚声:SE代用可】


姜維:我らも負けてはおれん!

   張翼(ちょうよく)殿、参るぞ!

   全軍突撃せよ!!


魏軍部将:将軍! 敵が打って出て来ました!!


鍾会:くそッ、図に乗りおって!

   やむをえん、退却だ!


魏軍部将:全軍ッ退(ひ)けェーーーいッ!


鍾会:おのれ、早くここを突破せねば…!

   トウ艾(がい)に手柄を横取りされかねんというに…!


姜維:ははは、いくらでもかかってくるがいい!

   この剣閣(けんかく)は決して抜かせん!


廖化:控(ひか)えの兵は怪我人の手当てにあたれィ!

   体力の残っている者は石と矢を回収するのじゃ!


ナレ:剣閣(けんかく)に篭(こも)る蜀(しょく)軍の士気は高く、再三にわたって魏(ぎ)軍率いる鍾会(しょうかい)を

   撃退する。

   その為、いずれ諦(あきら)めて撤退するであろうと廖化(りょうか)達はふんでいた。


   だが、その見通しは成都(せいと)からやってきた二世皇帝・劉禅(りゅうぜん)の勅使(ちょくし)に

   よって、絶望と共に突き崩(くず)されることとなる。


姜維:ここしばらく敵の攻撃が無いな…。


廖化:確かに。

   我らの鉄壁の防御に攻めあぐねたのかもしれぬのう。


姜維:ん? あれは…。


勅使:開門! 開門せよ!

   我は成都(せいと)の劉禅(りゅうぜん)陛下より遣(つか)わされし勅使(ちょくし)である!


姜維:なに、陛下からの…?


廖化:すぐにお通ししよう。

   しばし待たれい!


   【二拍】


姜維:勅使(ちょくし)どの、ここへ来られたのはいかなるわけで?


勅使:うむ…。

   将軍達には辛い知らせと勅命(ちょくめい)になります。


   実は…魏(ぎ)軍が成都(せいと)城下に迫(せま)り、我が国は、蜀(しょく)は…魏(ぎ)に降伏しま

   した…。


廖化:なッ、なんじゃと!?


姜維:バカなッ!

   どうやって魏(ぎ)軍が成都(せいと)にやってきたというのだ!

   現(げん)にこうやって敵は剣閣(けんかく)から一歩も進めておらぬではないか!


勅使:魏(ぎ)のトウ艾(がい)将軍が陰平(いんぺい)の間道(かんどう)を越え、江油(こうゆ)城とフ城は降伏、

   綿竹(めんちく)を守っていた諸葛瞻(しょかつせん)殿とその子息(しそく)、尚(しょう)は戦死しました。


廖化:な…諸葛瞻(しょかつせん)殿が…!

   【つぶやくように】

   そうか…国家に殉(じゅん)じられたか…父君(ちちぎみ)・諸葛丞相(しょかつじょうしょう)の名を辱(はずかし)めない、

   立派な最期であったろう…。


勅使:それゆえもはや勝ち目はないと朝廷(ちょうてい)は判断し、魏(ぎ)に降伏する事と

   なった次第です…。


姜維:な、何という事だ…。


勅使:では…劉禅(りゅうぜん)陛下の勅命(ちょくめい)をお伝えします。

   ただちに武器を捨て、魏(ぎ)に降伏するべし、とのことです…。


姜維:我らは承服(しょうふく)しかねる!

   

   …ッだが……だが……勅命(ちょくめい)には逆(さか)らえぬ…!

   無念だが、やむをえぬ…か…。


勅使:よろしいか。

   では、その旨(むね)を鍾会(しょうかい)将軍にお伝えして参る。


   【二拍】


廖化:姜維(きょうい)殿!

   なぜ降伏を決めたのじゃ!

   我らはまだ戦えるぞ!


蜀軍部将:そうです!

     なぜ陛下は降伏されたのだ!

     我らと挟(はさ)み撃ちすれば、全滅させるのは容易だったはず!


姜維:我らが今戦い続ければ、陛下とそのご一族の身に危害が及ぶことに

   なる。それに我らは勅命(ちょくめい)に背(そむ)いたとして、反逆者の汚名を被(かぶ)る事に

   もなるのだ。


蜀軍部将:これまでの戦いで我らの親兄弟、子供も戦死しました。

     その死は一体何だったのでございますか!

     こんな…こんなバカな事があっていいのか!!

     くそぉッ!!


廖化:お、お前達…剣を叩き折るとは…。


蜀軍部将:廖化(りょうか)様は口惜(くや)しくないのですか!?

     まだ戦えるのに、敵にひざまずかねばならないのですぞ!


廖化:……ああ、分かる……分かるぞ、お前達…。

   わしもそなたら同様、口惜(くや)しくて…無念でならぬ…!

   ふんッ!


   丞相(じょうしょう)…我らの不甲斐(ふがい)なさ、お許しくだされ…!

   うっ、ううう……!


姜維:丞相(じょうしょう)、蜀(しょく)の未来を託(たく)されていながらこの始末…申し訳ありませぬ。

   この剣ももはや、蜀(しょく)の為にふるう事ができませぬ。

   む、無念……ッッ!!


   うっ、ううううおおおお………!!【号泣する】


ナレ:姜維(きょうい)も、廖化(りょうか)も、その他の将兵たちも皆、号泣(ごうきゅう)しながら剣を岩で

   叩き折った。

   かくして蜀(しょく)の景耀(けいよう)六年・秋、蜀漢(しょくかん)帝国は滅亡する。

   二世(にせい)四十三年の歴史であった。

   しかし、諦めきれない姜維(きょうい)は廖化(りょうか)らと語らい、鍾会(しょうかい)をそそのかして

   蜀(しょく)を取り戻そうと画策(かくさく)する。

   だが計画は失敗に終わり、姜維(きょうい)・鍾会(しょうかい)は斬られ、廖化(りょうか)ほか数名は

   洛陽(らくよう)へ連行となった。

   その途上。


廖化:うっ、ごほっ、ごほっ…!

   ああ…この身の命も、尽(つ)きる時が来たか…。

   思えば…黄巾党(こうきんとう)時代に関羽(かんう)様をお見かけした時から…わしの人生は

   決定づけられていた…そんな気がする…。

   そして関羽(かんう)様を失い…主(あるじ)の先帝(せんてい)・劉備(りゅうび)様も失い…そして諸葛丞相(しょかつじょうしょう)をも

   失った時、わしも…共に終わっておったのかも、しれぬな…。

   関羽(かんう)様…先帝(せんてい)…丞相(じょうしょう)…申し訳ありませぬ…。

   不肖(ふしょう)の身なりに力を尽(つ)くしましたが…国を守りきる事が叶(かな)いませなん

   だ…。


   いま…そちらに参って…おわび…もう、し…あげ…ま…す……ッ…。


ナレ:人材の枯渇(こかつ)を示唆(しさ)する、不名誉な言葉。

   国を担(にな)う重鎮(じゅうちん)である事を示す、誉(ほま)れある言葉。

   相反(あいはん)する二つの評価を与えられた男がいた。


   廖化(りょうか)、字(あざな)を元倹(げんけん)。


   その姿は国家への忠義厚く、戦場に出ては勇猛果敢な将であった。

   乱世をひた駆けて蜀(しょく)を守るべく粉骨砕身(ふんこつさいしん)したが、力及ばず国の滅亡を

   目(ま)の当たりにすることとなる。

   その衝撃と無念、そしてすでに体を蝕(むしば)んでいた病(やまい)の為、蜀(しょく)滅亡の翌年

   、魏(ぎ)の景元(けいげん)五年、洛陽(らくよう)への途上でこの世を去った。

   享年(きょうねん)は七十代であったという。

   現在も成都(せいと)・昭烈廟(しょうれつびょう)には彼の像が祀(まつ)られ、訪(たず)ね来(きた)る者達に生前の

   面影をしのばせている。



END



●参考動画


●YouTube

・蜀の滅亡を見届けた猛将!廖化【ゆっくり三国志武将紹介 第150回】

・【ゆっくり歴史解説】姜維と共に蜀漢の興亡を見た武将「廖化」とは?【三国志】


●Wikipedia

・ 廖化



「俺、廖化推しなんですよね」

「ほほう…(カチッ」


二か月後。


「はぴば、できたよー。」


端的にこの台本ができた経緯です。

廖化はかなり地味な部類の武将ではありますが、蜀の興亡を見届けた人物でもあります。

本当は諸葛亮死後の戦争シーンも書けたらとは思ったのですが、登場人物の枠制限の兼ね合いや、

台本そのものの長さを考慮して現在の作品に落ち着きました。


楽しんで読んでいただけたのなら幸いです。



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