三国志・廖化伝~果敢忠烈の闘将~
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
三国志・廖化伝~果敢忠烈の闘将~
作者:霧夜シオン
所要時間:約90分
必要演者数:最低8人、最大10人
(8:0)
(8:1)
(7:2)
(9:1)
(8:2)
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
●登場人物
廖化・♂:字は元倹。
初め廖淳(惇とも書かれる)で晩年に廖化と改名。(当台本は
廖化で統一します)
荊州襄陽郡中廬県の人。初登場は関羽の荊州統治時で、元黄巾
賊の過去は、演義のみの設定。(当台本では採用しています)
生年不明だが蜀滅亡後死去している為、かなり長命だったと
見られている。忠実で果断激烈、堅実な戦いぶりを諸葛亮らに
評価され、最終的には車騎将軍にまで出世している。
「蜀中無大将、廖化作先鋒(蜀中に大将無し、廖化を先鋒とな
す。)」
「前に王平・句扶あり、後に張翼・廖化あり」
相反する二つの評価を史書から与えられている人物。
※作中、廖化は段々年老いていきます。その点に注意ください
。
関羽・♂:字は雲長。
酒に酔ったような赤ら顔と腹まで届く見事な顎鬚を持ち、重さ
八十二斤の青龍偃月刀を軽々と操る智勇兼備の名将。
軍神と謳われ、信義に厚く目下には慈悲深いが、同輩や目上を
軽んじる傲慢な一面も持つ。死後、関帝聖君として祀られる。
廖化の母・♀:名や字は伝わっていない。
廖化の年老いた母。
荊州が陥落し関羽が死んだ際、息子の廖化は呉の孫権に
一時降伏する。だが間もなく共に呉から脱出し、途上関羽
の報復戦の為侵攻してきた劉備と出会い、保護される。
劉備・♂:字は玄徳。
漢の中山靖王・劉勝の末孫を自称。乱れた世を正す為、義兄弟
の関羽、張飛と共に乱世を駆ける。
蜀漢帝国初代皇帝。
諸葛亮・♂:字は孔明。
蜀漢帝国の丞相。道号は臥龍。
謀略家と言うよりは政治家としての側面が強い。
年々人材が失われていく蜀において、全ての面で非凡な活躍
を見せる。
姜維・♂:字は伯約。
天水の麒麟児と謳われる俊英。
もとは魏の将だったが、諸葛亮の計にかかり、蜀に降伏。
以来彼に師事、その遺志を受け継いで北伐を繰り返し、国力を
疲弊させてしまう。
杜遠・♂:字は伝わっていない。
正史では関羽千里行に廖化は登場しないため、そもそも創作の
人物だと思われる。本作では採用しているため登場している。
劉備の夫人達をさらってくるが廖化の怒りを買い、刺し殺され
てしまう。
王双・♂:字は子全。
隴西狄道の生まれ。
身の丈七尺(約180cm)目は黄色く、腰は熊のごとく、
背は虎のごとくという身体的特徴を持つ。
武勇に優れ、中でも流星槌という鉄球の付いた鎖分銅のような
暗器を得意とし、敵の不意を突いて投げつける。
ただし、挑発に乗りやすく、短慮な面がある。
司馬懿・♂:字は仲達。
司馬の八達の次男。
諸葛亮が魏において恐れる唯一の人物。その才略は計り知れ
ず、演義では諸葛亮に叶わない立ち位置で描かれるが、
本来軍事の才においては諸葛亮以上である。
後に子孫が魏を乗っ取り、蜀・呉をも併呑して晋を建国。
鍾会・♂:字は子季。
幼い時から賢く、早熟で十五にして周りを驚かせていたとある
。司馬懿の息子の司馬師・司馬昭の片腕として活躍する。
蜀平定後、降伏した姜維に野心をくすぐられて反乱を起こすが
失敗、姜維ともども殺されてしまう。
蜀軍部将・♂♀不問:様々な場面で登場します。
魏軍武将・♂♀不問:様々な場面で登場します。
従者・♂♀不問:関羽千里行時の関羽の部下。
賊兵・♂♀不問:関羽千里行時の廖化の部下。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いし
ます。
※配役例+総セリフ数
●ナレ男性版(8:1or7:2)
廖化(148):
関羽(31)・蜀軍部将(14):
廖化母(21):
劉備(19)・勅使(6):
諸葛亮(28)・従者(1):
姜維(40)・杜遠(10):
王双(9)・魏軍部将(7):
司馬懿(8)・鍾会(7)・賊兵(2):
ナレ(27):
●ナレ女性版(7:1)
廖化(148):
関羽(31)・蜀軍部将(14):
廖化母(21)・ナレ(27):
劉備(19)・勅使(6):
諸葛亮(28)・従者(1):
姜維(40)・杜遠(10):
王双(9)・魏軍部将(7):
司馬懿(8)・鍾会(7)・賊兵(2):
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:人材の枯渇を示唆する、ひどく不名誉な言葉。
国を担う重鎮である事を示す、誉れある言葉。
双方を与えられた人物が、古代中国の三国時代、蜀の国にいた。
名を廖化、字を元倹という。
後漢末期、張角率いる黄巾党が大規模な農民反乱を起こす。
世に言う、黄巾の乱である。
しかしその勢いはわずか一年も経たずに下火となり、廖化の属する
部隊も官軍に追い立てられていた。
そこで彼は、己の一生を決定づけるほどの鮮烈な出会いを果たす。
廖化:ちくしょう…張角様に従ってりゃ、世の中が新しくなると思って
反乱に参加したのによ…!
!うッ、あ、あれは!?
関羽:ぬぅうんッ!!
どけェェェい賊徒ども!
張角兄弟はすでに死んだ!
無駄に命を捨てず故郷に帰り、畑を耕すが良い!
廖化:な、なんだありゃあ…。
あんな馬鹿でかい青龍偃月刀を枯れ枝みてえに振り回してやがる…!
関羽:もはや汝らの追い求めた黄天の世は実現せぬ! はあッ!!
醒めない夢は無いのだ!!
廖化:あの人相…赤ら顔に腹まで届く髭……。
一度見たら絶対忘れねえ、まるで昔聞いた武の神様みてえだ…!
関羽:剣を捨て、矛を折り、再び鍬を持てェい!
まだ夢の中にいるのなら、この関羽雲長が叩き起こしてくれる!
りゃあああッッ!!
廖化:…関羽、あのお方は関羽というのか…。
時代を変えていくのはああいうお人なのかもしれねえ。
【二拍】
とにかくよ、おめぇらも一目見りゃ、絶対に忘れられねえ。
あの時の関羽様は、本当に神か何かかと思ったもんよ。
賊兵:お頭は関羽様の話となると、時が経つのも忘れて語っちまいますから
ねぇ。
廖化:そりゃあそうさ。
今はこんな山賊で、その日暮らししちゃいるけどよ。
いつか…あの方の家臣になりてえんだ。
ナレ:黄巾の乱が終息してしばらく後、廖化は黄巾党時代の仲間を率い、
山賊稼業に手を染めていた。
当初の志を忘れたわけではなかったが、日々食べていく為、
慕ってくれる仲間の為に、足を洗うに洗えずにいた。
だがそんな彼の日常を壊すかのような出来事が起きる。
杜遠:おう廖化、いま戻ったぜぇ!
廖化:ずいぶんと遅かったじゃねえか杜遠。
? やけに上機嫌だな。
何か、でかい獲物でも手に入ったのか?
杜遠:へへへ…聞いて驚け!
貴人の奥方様を引っさらって来たぜ!
廖化:なにっ、貴人?
杜遠:おうよ。
どこへ行く途中だったか知らねえが、たった二十人ばかしのお供で
この乱世を旅しようってのが、あめぇ考えだぜ。
廖化:素性は聞いたのか?
杜遠:んなもん聞いてなんになるってんだよ。
廖化:まあ、な…。
【つぶやくように】
だが、妙に気になる…。
【二拍】
ちと尋ねてえ。
何やらわけありに見えるが、いずこのお方で?
従者:【警戒している】
…されば、左将軍宜城亭侯、予州の牧を兼ねておられる帝の皇叔、
劉備玄徳様の奥方様方である。
廖化:ッな、り、劉備様の!?
おいッ、杜遠!
杜遠:なんだ、いきなり大声を出すなよ。
廖化:何てことしやがったんだ!
劉備様と言えば信義に厚く、民百姓に慕われているお方だぞ!
その奥方様をさらってくるなんて、どういうつもりだ!
すぐに元の街道へお戻ししなきゃならねえ!
杜遠:はァ?
劉備だか何だか知らねえが、ろくに護衛もつけずにこんなとこを
うろつかせてるのが悪いんだ。
それよりもよ、ちらっと見たんだが中々の上玉だぜ。
ちょうど二人いるし、俺とおめえで分け獲りにしようや。
廖化:なっ、バカな事を言うんじゃねえ!
杜遠:バカな事だァ?
俺たちゃ山賊だぞ!
奪いてえもんを奪い、食いてえもんを好きな時に喰い、
抱きてえ女を襲って犯す!
それの何が悪いってんだ!
廖化:それじゃ獣と何も変わらねえぞ!
黄巾党にいた時の、俺と世の中を変えようって誓い合ったてめえ
はどこいったんだ!
杜遠:はッ、俺ァ気づいたんだよ!
どんだけお高くとまって、ご大層な事ぬかして、いきがったとこ
で、俺らみてえな土民が世の中変えるなんてのは、夢物語だって
なぁ!
廖化:な…なんだと…!?
杜遠:張角も夢見すぎたんだよ!
たかだか鉅鹿の秀才ってだけで持ち上げられていい気になってる
のを、どこの馬の骨か分からねえ老いぼれに焚きつけられたって
とこだろうよ!
廖化:!!
杜遠…てめえ…そこまで落ちたかァッ!!!
ッッ!
杜遠:ぐはッッ!?
な、なな、なにしやがるん、だッ…!
廖化:ッ!
バカ野郎ッ…!
お前ら、このお方たちは元の場所へお連れする!
不満のある者はいるか!?
賊兵:い、いや、俺らはお頭に従いやす!
杜遠の奴、止めるのに耳も貸さねえでさっさと捕えてこいって言う
んで仕方なく…。
廖化:よし、わかった!
ご夫人様方、恐ろしい思いをさせちまい、申し訳ありやせん!
すぐにもとの街道へお連れしますんで!
お前ら、すぐに出発だ!
ナレ:廖化は杜遠を一突きで刺し殺すと、夫人達を護衛して街道へ
向かった。
見ると、彼方から砂塵を巻き上げて馬を駆けさせてくる者がいる。
遠目にも風になびいて見える見事な顎鬚と赤ら顔、関羽だった。
廖化:!!あ、あれは…忘れもしねえ、関羽様だ!
お前らはここにいろ。
【二拍】
そこへ来られたのは関羽将軍ではございやせんか!?
関羽:!?
我が名を知っているとは、汝は何者だ!
いや、それよりも何故ご夫人方の御車を囲んでいる!
返答次第ではその首がすぐに胴と泣き別れをするぞ!
廖化:お待ち下せえ、将軍!
あっしらは決して将軍や奥方様方に敵意を持っちゃいません!
申し遅れやした。
あっしは元黄巾党の廖化、字を元倹と言いやす。
今はここら辺を縄張りにしている山賊ですが、実はついさっき、
仲間の杜遠という奴が奥方様方をさらって戻ってきたんです。
関羽:なにい!?
では奥方様方は、汝らの根城まで連れていかれていたと言うのか!
廖化:ご安心下せえ、お二方やご家来衆に傷一つ付けちゃおりません。
一目で訳ありだと感じてお尋ねしたら、漢の劉皇叔が奥方様方と
おっしゃるじゃありませんか。
あっしは仰天してすぐに元の場所にお戻しすべきだと言ったのですが聞か
ず、ついにはけしからん野望すらほのめかしました。
それで不意を突いて刺し殺し、こうしてここまでお送りして来たっ
てわけでして…これがその首級です。
関羽:むぅぅ……なるほど、そういう事であったか。
廖化殿と言われたな。
奥方様方が危難を逃れられたのも、ひとえに貴公の尽力の賜物だ。
このとおり、礼を申す。
廖化:あ、頭を上げてくだせえ!
あっしは当たり前のことをしただけなんです。
むかし、戦場で将軍を初めてお見かけした時から、いつかお仕えし
てえと、そう思っていたんです。
関羽様! どうか、あっしらを家来にしてくだせえ!
このままいつまでも、山賊でいたくねぇんです!
関羽:むう…、できる事ならその願いを叶えてやりたいが、どうしても今
は世間の目がはばかられる…。
廖化:ッ、確かに…山賊がお供したとあっちゃあ、劉備様の名に傷が…。
関羽:だが! 貴公の名は決して忘れぬ。
いずれ落ち着き先を聞いたら、我が君劉皇叔なり、それがしなりを
訪ねて参られよ。
今日の恩に重く報いたい。
廖化:!へ、へい!
きっと!
関羽:うむ、必ずまた会おう。
ひとまず、さらば!
ナレ:奇縁によって関羽と再会した廖化であったが、主従の縁はまだ薄く
、家臣となるには至らなかった。
それからしばらくの年月がたち、関羽達の居場所が風に乗って
彼の耳に伝わってきた。
廖化:関羽様はいま、荊州にいるのか…!
山賊稼業から足を洗ってだいぶ経つ。
今なら大手を振って関羽様のもとに向かえる…!
おっ母!
廖化母:元倹や、どうしたんだえ、そんなに大きな声を出して。
廖化:前からおっ母に話してたろ。
関羽様のことだよ。
廖化母:ああ、その話かえ。
もう聞き飽きるほど聞いたわぇ。
廖化:昔話をしようってんじゃねえ。
関羽様の居場所が分かったんだ。
荊州におられるらしい。
廖化母:…山賊やってたと思ったら今度は宮仕えかぇ。
忙しないねえ。
廖化:関羽様にお仕えするのは長年の夢だったんだ!
だから…。
廖化母:おらの事は気にせんでええよ。
荊州へ行って、関羽様にお仕えすればええ。
廖化:おっ母…すまねえ!
落ち着いたら、必ず迎えをよこすからよ!
廖化母:はいはい、あてにせんで待っとるわぇ。
廖化:じゃ、行ってくるぜ!
ナレ:廖化は飛び立つ思いで家を出て、荊州城へ入った。
城門をくぐると、ちょうど関羽が城下を巡察するのに出くわす。
その雄大な体躯を見ると、彼は我を忘れてその脇にひれ伏した。
廖化:関羽様、おひさしゅうございます!
関羽:む?
久しぶりと…?
そう言うそなたは……。
! おお、もしや、廖化殿か!
廖化:はい!
関羽様、お元気そうで何よりでございます!
関羽:うむ!
あれから何年もたってしまったが、そうか、わしの居場所を知って
来てくれたのだな。
廖化:はい、今この荊州におられると聞いて、いてもたってもいられず…
!
関羽:そうか、あの時の礼をせねばな。
廖化:関羽様…今度こそ、あっしを関羽様の家来にしてくだせえ…!
関羽:もちろんだ。
よく訪ねて来てくれた。
あらためてここに主従の契りを結ぼうではないか。
よろしく頼むぞ、廖化。
廖化:はいッ、関羽様!
ナレ:廖化は召し抱えられて念願を果たすと、関羽をただ一つの太陽と思
って忠義を捧げ、粉骨砕身仕えた。
関羽からも高く評価され、今の幕僚長にあたる主簿にまで出世、
さらに母を荊州城に迎え、充実した日々を送る。
だが、その晴天に暗雲が突如として立ち込めた。
それは、関羽が曹操の領土である樊城へ侵攻した事に端を発する。
関羽:皆、聞けい。
我が君劉皇叔が曹操軍を漢中から追い払い、漢中王となられた。
あわせてそれがしは、かたじけなくも軍を統括する最高の位である
、五虎大将軍の筆頭・前将軍に任ぜられた。
廖化:我ら幕僚一同、心よりお祝い申し上げます!
関羽:うむ。
このご恩に報ずる為にも、そして逆賊曹操を追い詰める為にも、
荊州から北上し、南陽方面を攻略しようと思う。
異論はないか。
廖化:ははっ!
関羽様と共に、逆賊曹操を討ち倒しとう存じます!
関羽:よくぞ申した!
出陣は三日後、先鋒は関平、左翼は周倉、右翼は廖化が務めよ!
廖化:心得ました!
ただちに準備にかかります!
ナレ:敵味方から軍神と讃え怖れられる関羽、彼に率いられた廖化達の
士気は最高潮に達する。
樊城の包囲、長雨を利用した計略、敵援軍大将・于禁の捕縛、
ホウ徳を処刑するなど、全てが順調に進んでいた。
呉の孫権が突如同盟を破棄し、荊州へ侵攻するまでは。
その事を新手の敵援軍・徐晃から聞かされた廖化達は動揺、
不意を打たれたのもあり敗走する。
廖化:関羽様、申し訳ありませぬ!
徐晃が軽騎兵を率いて現れ、我が軍の側面を突かれました。
関羽:勝敗は兵家の常だ。
戦は勝つこともあれば負けることもある。
だが、いかに徐晃が勇猛で不意を突かれたとはいえ、戦況はかなり
優勢であったはず。
なぜここまで崩された?
廖化:それが…荊州が落ちたと敵将・徐晃から聞かされ…!
関羽:何ッ!
そのような小賢しい敵の口車に乗って何とするか!
背後の呉とは同盟を結んでいるのだ。
魏軍が荊州を直接攻撃することなど不可能であろう!
廖化:それがしも初めは疑っておりました。
しかし本陣へ撤退直後に荊州から知らせがあり、
呉が…孫権が…我らを裏切ったとのことです…!
関羽:なんだと!?
【勢いよく立ちあがって】
ぬうう孫権!!
碧眼紫髯の不義者め!!
して、孫権軍はどう動いておる?!
廖化:そ、それが…、
すでに荊州城は陥落したと…!
関羽:!!!
バカなッ!
繋ぎ狼煙で異変は瞬時に伝わるようにしていたはず!
なぜ荊州城が奪われているのだ!?
廖化:商人に化けて狼煙台へ近づき、油断を突いて占領したとの事です。
荊州城は狼煙台で降伏した将兵を用いて城門を開かせ、
これもやすやすと…。
関羽:ぬ、ぬうう…しかし荊州の本城が落ちたと言えど、
公安には傅士仁が、南郡方面には糜芳がおる。
そこで巻き返しを図るほかあるまい。
廖化:い、いえ…報告では、公安も南郡もすでに…!
関羽:な…ッ!?
廖化:孫権軍の将、虞翻…この者が公安を預かる傅士仁と旧知の仲で、
調略を受けて降伏したとの事です。
さらに傅士仁が南郡の糜芳を調略し、これも開城と…。
む、無念にございます…!
関羽:……事ここに至ってはやむをえぬ。
あの程度の者どもを後方の守りに置いた、我が見る目の無さを恨む
ほかない。
何としても成都まで撤退せねばならんが…。
廖化:主要な街道はすべて孫権軍、曹操軍に遮断されています。
さらには我が軍の兵士たちの家族は全て荊州城にいるため、
すでに脱走者が出始めております。
関羽:去っていく者は留めがたい。
むしろ、この逆境において我を見捨てず付き従ってくれる者こそ、
一騎当千の兵と言えよう。
廖化:おおせの通りかと…!
関羽:それで、これからのことだが…どこか立て籠もれる城砦は無いか?
廖化:たしか…ここから南へ進んだところに、今は使われていない麦城と
言う古城があります。
まずはそこへ入りましょう。
関羽:麦城か…うむ、わかった。
ナレ:関羽主従は孫権・曹操連合軍に追い立てられるように麦城へ入ると
、百五十にまで減った配下の兵と共に立てこもった。
そのわずかな味方ですら、夜の闇に乗じて投降を呼びかける同郷の
者の声に応じて一人、また一人と減っていく。
そもそも籠城という戦術は、援軍がいずれ来るという前提で成り立
つ。
絶望的な状況の中、廖化は知恵を絞って一計を案じると、関羽達の
前へ出た。
廖化:関羽様、それがしに一つ策がございます。
関羽:…策とな。
どのようなものだ?
廖化:はい。
ここから上庸の地はさして遠くはありませぬ。
聞けば味方の劉封、孟達の二将が守っているとか。
そこへ援軍を要請するのです。
関羽:!
そうだ、上庸の地があったか。
しかしこの城は敵に包囲されつつある。
誰が使者として脱出するかだが…。
廖化:…それがしが参ります。
関羽:廖化…。
そちが…行ってくれるか。
廖化:…はい…!
関羽:危険な役目だ。
失敗すれば確実に死ぬぞ。
廖化:覚悟の上でございます…!!
関羽:そうか…………頼んだぞ…!
廖化:この廖化、身命を賭して必ずや援軍を…!
関平殿、周倉殿、趙累殿、王甫殿、
では…!!
ナレ:廖化は決死の覚悟で麦城から脱出。
やっとの思いで上庸へたどり着き、劉封と孟達に面会し援軍を
要請する。
しかしそこで聞かされたのは、無情にも断りの返事だった。
廖化:バカなッ!!
上庸はまだ不安定ゆえ兵は出せぬ、成都へ直接援軍を仰げだと!?
そんな事をしていては麦城は、関羽様や皆は…!!
!! し、しまった、あれは孫権軍!
ナレ:援軍を拒否され、やむなく成都を目指そうとする廖化。
しかしその途上、孫権軍に見つかり捕えられてしまう。
それと共に関羽達の死を知り、心が折れて降伏する。
呆然自失の日を送るものの、彼を再び突き動かしたのは母の言葉と
、在りし日の関羽の生き様だった。
廖化:関羽様…それがしが、上庸から何とか援軍を引き出していれば…。
悔やんでも悔やみきれぬ…。
廖化母:これ、元倹や!
いつまでそんな腑抜けた様を晒しているつもりだえ!?
廖化:おっ母…。
そうは言っても、関羽様にお仕えする事がすべてだったんだ。
その関羽様に死なれて、心にぽっかり穴が空いてしまったみたい
で…。
廖化母:その関羽様は桃園の契りで義兄弟の誓いを結ばれた、劉備様に
お仕えしてたんだろ?
なら、今度は劉備様を主に仰げばええ!
廖化:だ、だけど、今この身は呉に仕えてしまってる。
どうにもならない…。
廖化母:元倹、関羽様もその昔、曹操の元にいた時があった事を忘れたの
かぇ?
お前がさんっざん聞かせてくれたろ。
廖化:!!!
そうだった…関羽様も、曹操に心から降伏すること無く、
千里の道を越えて劉備様の元に戻った…!
廖化母:それにならって、劉備様の元へ行けばええ。
亡き関羽様が今のお前を見たら、きっとそう仰られるわぇ。
廖化:おっ母!
目が覚めたよ。
呉を脱出して、劉備様の元へ帰参する!
だが降伏した将だけに、目は付けられてるはずだ。
何か手を打たなければ…。
廖化母:だったらこういうのはどうだぇ?
お前が病か何かで死んだという噂を流すんだ。
そうすれば、脱出しやすくなるんでないかぇ?
廖化:そうか! 死んだとなれば、監視の目をそらせる…!
おっ母もなかなかの策士だ!
よし、さっそく…!
ナレ:廖化はすぐに自身が死んだという噂を、周囲にあらゆる手段を使っ
て広めていった。
そして自らは身を隠すと、誰も疑わない状況を作り上げていく。
噂が浸透しきった頃合いを見計らい、ついに彼は夜闇にまぎれて
年老いた母と共に脱出を図った。
廖化:おっ母、もうこれくらいでいいだろう。
聞いた限り、周りも完全に俺の死を信じきっている。
今こそ劉備様の元に戻ろう。
廖化母:そうだね、見張られてる感じもほとんどのうなった。
けんど、本当におらまで連れていくつもりかぇ?
近ごろはだいぶ足腰が弱ってしもうた。
長旅に耐えられるかね…。
廖化:おっ母を一人残していけるものか。
それに、人質にされてしまう可能性もある。
心配しなくてもいい、俺が背負ってでも連れて行くよ。
廖化母:すまないねぇ、苦労をかけて…。
廖化:それで、自分の事は周りになんて言ったんだ?
廖化母:親類と一緒に遠方の親族に会いに行くから、
しばらく留守にするって言ってあるよ。
廖化:それなら誰も怪しむ奴はいないな。
日も完全に落ちた。
さ、行こう!
ナレ:二人は家を出ると昼は林や森、岩陰で身を潜め、夜の闇を利用して
蜀への旅路を急いだ。
そうして幾日か経ち、秭帰という辺りまで来たある日の昼。
いつものように森の中に身を隠していると、大量の人馬の音が聞こ
えてきた。
廖化:うっ、この大勢の人馬の足音は…まずい、追っ手か…?
廖化母:なんてことだい……。
廖化:く…なんとかやり過ごさねば……ん?
! あ、あれは!!
廖化母:? どうしたんだぇ、元倹。
廖化:おっ母、蜀だ!
蜀の劉備様の旗だ!
廖化母:えッ!?
ほ、本当かい?
廖化:ああ、間違いない。
きっと関羽様の仇討ちに来たんだ!
廖化母:おおお、それじゃ、追っ手じゃなかったんだねぇ…!
廖化:おっ母はここにいてくれ!
【二拍】
おーーーぅいッッ!!
【一拍】
おーーーぅいッ! 待ってくれえーーッ!!
蜀軍部将:!? 何奴か!!
廖化:それがしは荊州陥落の折、関羽様の元で主簿を務めていた廖化、
字を元倹と申す者だ!
劉備様にお目通りを願いたい!
蜀軍部将:な、何ッ、関羽様の!?
しばし待たれよ!
はッ!
劉備:む…?
行軍が止まっているぞ。
…あれは。
【一拍】
蜀軍部将:どぉうっ!
申し上げます、陛下!
劉備:何事か?
蜀軍部将:はっ、それが、先ほど我が隊のそばへ一人の男が参り、
名乗るを聞けば廖化と申し、関羽様に仕えていた者だと…!
劉備:!!!なにッ、関羽に仕えていたと申すか!
廖化…聞いた事があるぞ。
関平、周倉をはじめ、みな討ち死にしたと思っていたが…
そうか、生きておったのだな!
すぐにこれへ連れて参れ!
蜀軍部将:ははッ、ただちに!
劉備:そうか、この地にまだ関羽の忘れ形見がおったか…!
【二拍】
蜀軍部将:お待たせいたした、廖化殿!
陛下がお会いになられる。
共に参られよ!
廖化:おお、かたじけない!
廖化母:元倹…よかった、よかったねぇ…。
蜀軍部将:? そちらは?
廖化:それがしの母だ。
共に参ってもよろしいであろうか。
蜀軍部将:むむ、とりあえず、近くまではお連れ申そう。
さ、こちらへ。
【二拍】
陛下、廖化殿をお連れしました!
廖化:こうして直にお会いするのは初めてにございます。
廖化、字を元倹と申します。
陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう…!
劉備:おお、そちが廖化か!
関羽に仕えておったとのう!
廖化:ははっ!
かつて千里の道を陛下の元までお戻りになられる際に、
縁あってお会いしました。
そののち、荊州におられるところへ馳せ参じ、配下に召し抱えて
いただいたものです。
劉備:うむ、その折は我が妻たちを救ってくれたそうだな。
朕からも改めて礼を申すぞ!
廖化:あ、ありがたきお言葉…!!
劉備:それにしても、あの曹仁と呂蒙に南北より攻められた中で、
よく生きていたのう!
廖化:あの時…それがしは関羽様に献策し、上庸に援軍を求めて麦城を
脱出しました。
ですが守将の劉封・孟達に断られ、やむなく陛下のおわす成都へ
向かったのです。
しかしその道中で孫権軍に捕らえられ、進退窮まったそれがしは
心ならずも降伏しました。
しかし蜀に対する忠義の心は変わらず、いつか必ず帰参せんものと
固く誓い、自身の死の噂を流して母と共に脱出して参りました…!
劉備:そうであったか!
その忠義厚き心、さすがは義弟が重く用いていただけの事はある!
関羽にならって朕の元へ、しかも老いたるご母堂を背負っての千里
行…実に見事である!
朕も誇らしいぞ!
して、ご母堂はいずれにおる?
廖化:はっ、幕の外に。
劉備:うむ、ここへ通すのだ。
廖化:えっ、よ、よろしいので?
劉備:もちろんである。
そなたのごとき人物を育てた御人だ。
遠慮はいらぬ。
廖化:は、ははっ!
【二拍】
廖化母:こ、皇帝陛下…わ、わたくしのような者がここにいても、
よいのでございましょうか…?
劉備:おお、そなたが廖化のご母堂であるか。
あなたの息子は忠義厚く、関羽の為に粉骨砕身仕えていたと聞く。
義弟の関羽が討たれ、仕えていた者たちまで皆失ったかと、
朕の嘆かぬ日は無かった。
だが今日、こうして関羽の忘れ形見とも言うべき廖化と会えた事は
近頃一番の良い出来事だ。
廖化の忠烈さはご母堂の教えの賜物である。
朕は心より礼を申すぞ。
廖化母:そ、そんな…陛下…、も、もったいないお言葉でごぜえます…。
劉備:廖化よ、そちを今より宜都の太守に任ずる!
併せてこの呉征伐軍の一翼として軍を率いよ!
廖化:! は、ははぁーッ!!
ありがたき幸せにございます!!
劉備:朕と共に関羽の仇を討とうぞ!
廖化:はいっ!
必ずや、関羽様の無念を晴らしてご覧にいれます!
劉備:うむ!
ご母堂は成都へ厳重に護衛をつけて送ろうぞ。
廖化:何から何まで…陛下、感謝申し上げます!
…おっ母、行ってきます。
廖化母:元倹や、体に気を付けてなぁ…。
劉備:皆聞け!
関羽にかつて仕えていた廖化が再び戻ってきてくれた!
まさに義弟関羽の引き合わせであろう!
実に幸先が良いぞ!
劉備役以外:【歓声:SE代用可】
劉備:さあ、進軍を再開するのだ!
孫権に我らの怒りを思い知らせてやろうぞ!
ナレ:劉備は帰参したばかりの廖化を重く用い、これこそ天が呉を滅ぼし
て関羽の仇を討たせる前兆であると、大いに士気を鼓舞した。
廖化も劉備の期待にこたえるべく、関羽の時と変わらぬ忠義を捧げ
る。
しかし、連戦連勝の蜀軍の前に立ちはだかったのは、すでに病死し
た呉軍大都督・呂蒙と共に関羽の死の原因を作った若き俊英、
陸遜、字は伯言だった。
長く伸びきった蜀軍の陣に、得意とする火計を仕掛けてきたのであ
る。
【激しく燃えるSEあれば】
廖化:くそっ、なんという猛烈な勢いの炎だ…!
これでは味方は寸断されて連携がとれぬ…。
陛下は、陛下はいずれにおわす…!
!あれは!
劉備:くっ…恐るべきは陸遜…。
七十万の兵がこうもあっさりと…。
朕の命運もここに尽きるのか…。
廖化:陛下ーーッ!
それがしです! 廖化です!
お怪我はございませぬか!?
劉備:!おお廖化!
朕はこの通り無事だ!
天は朕を見捨てたまわず…助かったぞ!
廖化:速やかに白帝城へ撤退なされませ!
ここはそれがしが引き受けます!
劉備:廖化…!
死んではならぬぞ!
必ずや生きて戻るのだ!
廖化:ははっ!
お前達は陛下をお守りして白帝城へ撤退せよ!
残りは我と共に味方の退路を確保し、窮地にある友軍を救援するの
だ!
続けェーーーーいッ!!
ナレ:義兄弟の仇、主君の仇と夷陵の戦いに臨んだ劉備と廖化であったが
、陸遜の知謀の前に壊滅的打撃を受け、蜀最前線の拠点・白帝城へ
撤退する事となる。
その後、いくばくもなくして蜀漢帝国初代皇帝・劉備玄徳は病の為
にこの世を去った。
蜀全体が悲しみに包まれる中、廖化も劉備の棺を守って共に成都へ
引き上げた。
廖化:先帝……お会いしてわずかな間ではありましたが、この身に受けた
数々のご恩、決して忘れませぬ。
後を継がれた劉禅陛下に、先帝と変わらぬ忠誠を誓いまする…。
蜀軍部将:廖化様、ここにおられましたか。
丞相閣下がお呼びです。
廖化:? 諸葛丞相が?
わかった、すぐ参る。
丞相には初めてお会いするが…何の呼び出しであろうか…?
廖元倹、お召しによって参じました。
諸葛亮:うむ、待っていた。
さあ、これへ。
【二拍】
そなたとこうして直に話すのは初めてであるが、先帝からは関羽
将軍亡きあとも我が蜀への忠誠を忘れずに帰参したと、書簡で高
く評価されていた。
廖化:お、恐れ入ります。
諸葛亮:夷陵にて呉の陸遜に火計を仕掛けられた際は、味方の救援に奔走
し、先帝をお守りして無事に白帝城へ撤退させたと聞く。
その働き、見事である。
廖化:いえ…その時の自分にできる精一杯の事をしたまでにございます。
諸葛亮:謙遜せずともよい。
それで、先帝がそなたに与えた太守の地位だが…知っての通り、
宜都は現在、蜀の領土ではない。
それゆえ、私付きの参軍に任命しようと思う。
廖化:なんと、丞相閣下付きの…!
ありがたき幸せに存じます…!
諸葛亮:うむ。
現在、五つの道より魏がこの蜀へ攻め入ろうとしている。
すでに魏延、馬超、李厳、趙雲に各所の要害を守らせて万全を
期しているが、そなたも遊軍として補佐してもらいたい。
廖化:ははっ!
国家の為、粉骨砕身働かせていただきます!
諸葛亮:呉にはすでに使者を派遣して修交同盟を結ばせるべく動き、
予も南蛮を平定に向かわねばならぬ。
くれぐれも留守を頼む。
ナレ:廖化は新たに諸葛亮直属となり、蜀へさらなる忠勤を励む。
かたや南蛮王・孟獲を心服させた諸葛亮は、いよいよ先帝劉備の遺
志を継いで魏への侵攻、すなわち北伐を開始した。
この時、廖化は副将飛衛将軍として従軍し、蜀の勝利に貢献する。
しかし街亭において馬謖が司馬懿らに敗戦して以降、思うように
戦況は好転しなかった。
時は建興七年。
第二次北伐、陳倉城攻防戦にて。
蜀軍部将:も、申し上げます!
敵援軍迎撃に向かった謝雄・キョウ起の両将軍は、敵将王双に
討たれましてございます!
諸葛亮:むうう、ならば王平! 張嶷! 廖化!
汝らは部隊を率いて敵援軍を迎え撃つのだ!
陳倉城へたどり着かせてはならぬ!
廖化:ははっ、ただちに向かいます!
【二拍】
しかし、謝雄将軍達を討つとは…かなりの剛の者だな……むっ!
王双:なんだァ!?
また蜀軍の雑魚が来たか!
我は隴西狄道の生まれ、王双、字は子全なり!!
潔くその首を渡せィ!!
廖化:身の丈は七尺もあろうか…なんという猛気あふれる敵将だ…!
だが、臆してはおれぬ!
我は蜀の廖化、字を元倹!
ゆくぞ! でぇぇえい!!
王双:ふんッ!!
なんだその柔い打ち込みは!!
舐めてるのかァ、廖化とやら!!
廖化:ぐッッ!!
なんという重い一撃だ…!
だが、我ら三人を相手ならどうだ!!
王双:雑魚が寄り集まったところでしょせん雑魚にすぎんわァ!!
束になってかかって来いッッ!!
ぬぅぅぅおおおああああ!!!
廖化:うっ、ぬうぅぅうう!!!
バカな、三人がかりでも抑えられんとは…!?
! いかん、兵達が怯えて逃げ始めておる!
王双:うわっはははは!
さすがは雑魚の部下、蜘蛛の子を散らすように失せおったわ!
だが貴様らは逃がさん!
我が武功となるがいい!!
廖化:くっ、こう部隊が崩れてはどうにもならぬ!
退けっ、退けっ!!
王双:待てェい!!
背を見せて逃げる輩には…これでもくれてやるわァ!!
ふんッッ!!
廖化:うっ!
い、今のは流星鎚か!?
危なかった…ッ!? 張嶷殿!
王双:うわッはははは!!
片方は当たったか!
どぉれ、その首をいただくぞォォ!!
廖化:ッさせるかああああ!!
王双:ぬうッ!
おのれェ、邪魔をするかァ!!
廖化:張嶷殿は討たせんッ!
今だ、王平殿!
はあッ!!
王双:逃げるなァ!!
首を置いて行けェ!!!
廖化:貴様の相手などしておれん!
退け退けェ!!
張嶷殿、しっかりされい!
王双:チィィ、武功を逃したわ!!
まァ良い、陳倉城のカク昭将軍と合流するのだ!!
ナレ:かくして陳倉城の包囲を突破された蜀軍は、その後間もなく漢中へ
撤退、第二次北伐は失敗となる。
諸葛亮は戦法を変え、戦術を練り、翌年再び北伐を断行する。
陰平・武都の都市を攻略し、更には魏の名将・司馬懿を自軍の退却
を装っておびき出す事に成功、これを討ち取るべく策を巡らした。
諸葛亮:姜維、廖化、これへ。
姜維:はっ!
廖化:おん前に。
諸葛亮:汝らはそれぞれ兵を三千率い、あれに見える山に潜むのだ。
明日、魏軍との決戦において我が軍が不利と見えても決して動い
てはならぬ。
そしてこれを…。
姜維:これは…錦の袋でございますか。
諸葛亮:うむ。
ここぞという戦機を見極めたら、この袋を開いて中に記しておい
た我が策に従って動くのだ。
よいな。
姜維:お任せ下さいませ、丞相閣下!
参ろう、廖化殿!
廖化:うむ!
では丞相、行って参ります!
諸葛亮:そなた達の動きにかかっている。
頼んだぞ。
ナレ:一夜明け、張コウ・戴陵率いる魏軍先鋒三万がついに蜀軍の背後に
現れる。
呉懿、呉班、馬忠、張嶷ら四将が陣を布いて迎え討ち、そこへ王平
、張翼、関興らの伏兵や、後から追い付いた司馬懿の魏軍本隊が
激突し、混戦模様を呈していた。
血は河となって流れ、屍は山をなし、馬さえも互いを噛み合うほ
どの修羅の世界が現出する。
姜維:廖化殿、戦況が一進一退を繰り返しつつある。
おそらく、丞相のおっしゃられた戦機とはこのことであろう。
廖化:うむ。
となれば、あの時授けられた錦の袋を開けてみよう。
【二拍】
! おお…!
姜維殿、やはり丞相閣下は神算鬼謀だ。
これを。
姜維:うむ。
諸葛亮:汝ら二人は布陣しているこの地を捨て、司馬懿が空にして出てき
た渭水の敵本陣を奪うべし。
姜維:…なるほど、そういうことか…!!
すぐに進軍開始しよう!
本陣を奪われた司馬懿の顔が見ものだ!
廖化:よしッ参ろう!
全軍、我らに続け!!
【喚声:SE代用可】
ナレ:姜維、廖化の二将はただちに軍を動かすと峰伝い、山伝いに間道を
抜け、魏軍本陣を目指した。
この動きは間もなく発見され、司馬懿の元へ知らせが届くこ
ととなる。
司馬懿:ぬう、蜀軍め…なかなか粘る…戦況が膠着しつつあるか…。
魏軍部将:も、申し上げます!
彼方の山に布陣していた蜀軍が動き出しました!
司馬懿:くっ、ここでさらに新手が加わるか…!
数はさほどではないゆえ、そこまで戦局に影響は無いだろうが…
。
魏軍部将:い、いえそれが、その敵軍は渭水方面へ進軍しています!
司馬懿:なッ、なにッ、渭水だと!!?
まずい! 本陣を奪われては長安との通路が断たれる!!
全軍ッ退け(ひ)! 退けェッ!!
本陣へ向けて撤退せよーーーーッッ!!
ナレ:この決戦で魏が受けた損害は、諸葛亮の北伐が始まって以来最大と
伝えられる。
草むらに伏す両軍の屍は実に一万を越え、魏軍の将は蜀軍よりも
多く討たれ、枚挙にいとまがなかったという。
しかしそれでも勝利を決定づけるには至らず、蜀軍は漢中へ撤退と
なる。その後第四次北伐を経て、建興十一年。
第五次北伐、運命の時が迫っていた…。
諸葛亮:今回の策は木牛流馬を用いて敵から食料を奪う事、だがその真の
目的は司馬懿をおびき出して討ち取る事にある。
諸将よ、抜かるな。
諸葛亮・廖化役以外全員:おうッ!【SE代用可】
廖化:【つぶやくように】
よし、必ず今日こそ司馬懿の首をわが手に…!
蜀軍部将:! 将軍! あれを!
司馬懿:はぁ、はぁ、いかん、味方が全滅とは…!
なんとか本陣まで戻らねば…!
廖化:おお、あれこそ司馬懿仲達!
これぞ天の与えた機会!
待てッ、司馬懿!!
司馬懿:うっ、あ、あれは蜀の廖化!
いかん!
廖化:往生際が悪いぞ!
潔くその首を渡せッ!!
司馬懿:くうッ、ま、まだ死ぬわけには…!
廖化:もらった! でぇぇいッッ!!
【一拍】
!! し、しまった! 剣が木に!
ぐっ、くっ、ぬ、抜けん!!
司馬懿:い、今だ!
はっ!
【二拍】
た、助かった…だがまたすぐに追いついて来よう。
廖化:ッ! ッ!!
ぬ、抜けた!
くそっ、逃がさんぞ!!
この千載一遇の好機をおいて、いつ司馬懿を討ち取れるものか!
司馬懿:何か…何かないか…。
分かれ道へ出たか。
!っそうだ、この冠を…ッ!
廖化:急げ! 急げ! 司馬懿を逃しては…!
!むっ!?
道が分かれている…っ!?
これは…司馬懿の被っていた冠ではないか。
!さては逃げるのに夢中で落としていったな。
という事は…こちらの道か!
【三拍】
ぬうう、一向に追いつかん…。
やはり剣を抜くのに手間取ったのがまずかったか…!
くそっ、運の良い奴め!
やむを得ん、この冠だけでも持ち帰るか…。
ナレ:一つの判断の誤りが、後の出来事すべてを狂わせるに至る事はよく
ある。
廖化が司馬懿の機転に気づき、冠の落ちてい
た道とは反対へ向かっていれば、歴史は大きく変わったかもしれない。
かくして司馬懿は九死に一生を得、廖化は空しく蜀軍本陣へ戻った
。
廖化:丞相、ただ今戻りました。
諸葛亮:おお廖化、待っておったぞ。
む? その冠は?
廖化:はっ、司馬懿の冠です。
それがしにこっぴどく追われて余程うろたえたのでしょう。
追撃の途上にて落ちておりました。
さぞ肝を冷やしたことかと。
諸葛亮:! そうか…司馬懿をな。
うむ、将軍に追い回され、生きた心地もしなかったであろう。
ともあれご苦労であった。
皆も下がって休息するがよい。
廖化:ははっ。
【二拍】
諸葛亮:…ああ、もしここに今、関羽や趙雲らがおれば、この程度の小さ
な戦果で満足などしなかったであろう…。
むしろかえって罪を乞うていたかもしれぬ。
関羽なし、張飛なし、趙雲なし。
…そのほか幾多の将星落ちて、蜀に人材はいなくなった、か…。
ナレ:諸将が己の功績を誇る中、諸葛亮は魏との人材の質を比較して
心中その差を嘆く。
しかし国家の大目標を成し遂げる為、身を削り、魏を討つ軍略を
練ると五丈原の地に陣を移した。
廖化も諸将と共に一層の忠勤に励み、蜀軍を支えていく。
だが無情にも天は人を待たず、諸葛亮の命の灯は燃え尽きようとし
ていた。
廖化:地雷の計も失敗に終わり、魏軍は何としても陣を出てこない…。
食料に不足はないが、このままでは…。
姜維:はぁ、はぁ…!
! 廖化殿!
ここにおられたか!
廖化:姜維殿、どうされた?
何をそのように慌てておられる。
姜維:【声を落として】
丞相閣下が、お倒れに…。
すぐ本営へ。
廖化:【声を落として】
!!? なんだと!?
わかった、すぐ参る!
日ごろ、働き過ぎておられるとは思っていたが…。
今ここで丞相に何かあっては、蜀は…!
【二拍】
廖元倹、参りました…!
丞相閣下、お加減は…!?
諸葛亮:おぉ…廖化か。
どうやら予の命も、あとわずかのようだ。
廖化:ッそのような事をおっしゃらないで下さい!
丞相はこの国の大黒柱、代わりなどおりませぬ!
諸葛亮:予もかなう事なら、先帝のご遺志を果たしてから逝きたい…。
だが、天が定めた寿命だけはどうにもならぬ。
廖化:そ、そんな…。
姜維:うっ、うっ…く、くく……。
諸葛亮:姜維よ、泣くでない。
そなたには我が兵法の全てを授けた。
あの兵法書二十四冊をよく究め、国家の為に尽くしてくれよ。
姜維:は、はいっ…!
諸葛亮:廖化よ、そなたの忠義や勇敢さは常々よく見ていた。
予の亡きあとも、皆で力を合わせて蜀を守って欲しい。
くれぐれも頼み置くぞ。
廖化:ううっ…は、はい…必ずや…っ…!
諸葛亮:どれ…。
姜維:!? じょ、丞相、何をなされます?
諸葛亮:陣中を巡視する。
四輪車を引いてきてくれ。
廖化:【つぶやくように】
な、なんと…死が数歩先まで迫っているのに、最期まで国の事を…
しかも死期が迫っていることを感じさせない毅然とした態度…。
それがしもその生き様、見習いとうございます…!
諸葛亮:ああ…旗にはまだ生気がみなぎっている。
予が死すとも、蜀はすぐに潰えることはない…。
姜維:はい…!
諸葛亮:人の一生とは実に短いものだ…。
あの蒼い空…極みはいずこであろうかのう……。
廖化:【つぶやくように】
!! 志半ばで病に倒れるその無念、いかばかりか……!
諸葛亮:もうひとつ、そなたらに申しておくことがある。
…予が死ねば、必ずや魏延は謀反するであろう。
それに対する策はすでに楊儀らに授けてある。
ゆえに決して立ち騒ぐことなく、静かに漢中へ退きあげよ。
ふう…少し疲れた。休ませてもらおう。
廖化:は、ははっ…では…。
姜維:失礼いたします…。
【二拍】
廖化殿、少しよろしいか。
廖化:? どうされた、姜維殿。
姜維:こちらへ…。
【二拍】
これを見ていただきたい。
廖化:!? 丞相?!
ッいや、これは…木像?
姜維:いかにも。
丞相はご自身の亡きあと、必ずや司馬懿はそれに気づいて追撃して
くると見抜かれ、あらかじめこの木像を作らせておられた。
魏軍が追撃して来たらこれを押し出せば、必ずや司馬懿は逃げ奔る
ゆえ、無事に退却できるであろう…そうおおせられた。
廖化:じょ、丞相…ご自身の亡きあとの事まで…。
姜維:王平殿や張翼殿はじめ、魏延を除いた諸将にはすでにこの策は伝わ
っている。
廖化殿もそのつもりで準備にかかっていただきたい。
廖化:承知した。
五丈原の地を去る思い出に、司馬懿めに手痛い置き土産をくれてや
るとしよう。
姜維:ええ。
くれぐれも、魏延には知られぬようお頼みします。
ナレ:それから数日後の夜。
諸葛亮は再び諸将を集めて最期の言葉を遺した。
諸葛亮:楊儀…これが予の遺書だ。
陛下にお届けしてくれ…。
…予の亡きあと、決して喪を発してはならぬ。
予の死を司馬懿が知れば、総力を挙げて攻め来たるだろう…。
すでに姜維から伝わっているとは思うが…そうなったら
授けた秘策を実行するのだ…。
司馬懿は必ずや驚いて退却し、我が軍は無事に漢中へ退きあげら
れるだろう…。
…もはや言い置くことは無い。
諸将よ…心を一つにして国に仕え、己の職分を全うしてくれ…。
姜維:ははッ…!
我ら一同、必ずや丞相のご遺托にお応えします…!
廖化:委細、承知いたしましてございます…!
諸葛亮:うむ…。
外に出たい。
四輪車に乗せてくれ…。
姜維:は、ははっ…。
廖化殿、手伝ってくだされ。
廖化:うむ。
さ、丞相…。
【二拍】
諸葛亮:…秋風が沁みる…。
虫の声もどこか寂しげだ…。
…みな、空を見よ。
あれが、予の宿星だ…。
廖化:あの星が…。
姜維:丞相を現す宿星…。
諸葛亮:いま…滅亡前の最後の輝きを見せている…。
…見ていよ…今に墜ちるであろう…。
姜維:!! あっ!
廖化:ほ、星が…!
!? ッ丞相!?!
姜維:丞相閣下!!?
諸葛亮:……。
姜維:丞相ッ、丞相ーーーーーッッッ!!!
ううっ、ううう………ッ!!【泣き崩れる】
廖化:丞、相……ッッ。
く…う…っ。
【人々が嘆き悲しむSEあれば】
ナレ:建興十二年秋、八月二十三日。
蜀漢帝国最後の巨星、諸葛亮孔明死す。享年五十四才。
廖化をはじめ、諸将はその偉大な足跡を涙と共に偲んだ。
その後、蜀は人事を一新し国の健在を内外に示すが、
以降も国の重鎮が相次いで死去。
誰の目にも国の斜陽が見える中、いつしか廖化は蜀を代表する将軍
となっていた。
廖化:すでに六十を越えたわしが、車騎将軍か…。
国を守るため、さらに奮起せねば…。
姜維:廖化殿、車騎将軍就任、おめでとうござる。
廖化:おお、姜維殿か。
わしはすでに老齢、適任が他にいそうなものだとは思ったが…。
姜維:何を言われる。
張翼殿と並んで百戦錬磨の将である廖化殿こそ、車騎将軍の任に
ふさわしい。
巷では民達も申しておるぞ。
「前に王平・句扶あり、後に張翼・廖化あり」とな。
それに年は関係ない。
かつて蜀の五虎大将軍であった黄忠殿のごとき気概を持ってもら
わねば。
廖化:そうか…黄忠殿か。
確かに、老いてなお盛んな方であられた。
わしも、まだまだ負けてはおれぬのう。
姜維:うむ、その意気だ!
ナレ:その後も廖化は姜維らと共に前線で国を守り続けた。
しかし二代皇帝・劉禅は宦官を寵愛して国政を顧みず、また連年の
姜維の北伐によって国力は疲弊の一途をたどっていく。
その隙を見逃さず、魏はついに大軍をもって蜀に侵攻。
廖化は姜維・張翼と要害の剣閣で魏の鍾会を迎え撃った。
鍾会:あれが剣閣か。
漢中すら守り切れなかった蜀軍など恐れる必要はない!
者ども、踏み潰してやるがよい!
魏軍部将:ははっ!
では将軍、総攻撃の合図を!
鍾会:かかれェーーーーーいッ!!
全軍突撃せよーーーッ!
【喚声:SE代用可】
廖化:くっ…魏め、ついに押し寄せて来おったか…。
漢中はすでに奪われ、ここが抜かれれば国が危うい…。
姜維:なんの、この剣閣は無双の要害。
魏軍がたとえ何十万の兵を率いて来ようと、決して落とせぬ。
廖化:うむ。
何としても守り抜かねばのう!
姜維:よしッ連弩隊、準備せよ!
廖化:敵に矢を腹いっぱい喰らわせてやるのじゃ!
放てェッッ!!
【大量に矢を射るSEあれば】
魏軍部将:ううっ、なんだあのバカ長い矢の雨は!
かすっただけで大怪我はまぬがれん!
鍾会:ええい、かかれかかれ!
力づくでも突破するのだ!
魏軍部将:し、しかし鍾会将軍!
こうも兵が怯えていては戦になりませぬ!
鍾会:お、おのれぇ…!
蜀の内部は腐敗していると聞いたが、前線の軍はそうでもないとい
う事か!
魏軍部将:くうっ、また一斉に放って来た!!
鍾会:ええぇい全軍、矢の届かぬ所まで後退だ!
姜維:はっははは!
見ろ、敵は怯んだぞ!
廖化:よし、わしに続けィ!
魏軍を蹴散らすのじゃあーーッ!!
姜維・廖化役以外:【喚声:SE代用可】
姜維:我らも負けてはおれん!
張翼殿、参るぞ!
全軍突撃せよ!!
魏軍部将:将軍! 敵が打って出て来ました!!
鍾会:くそッ、図に乗りおって!
やむをえん、退却だ!
魏軍部将:全軍ッ退けェーーーいッ!
鍾会:おのれ、早くここを突破せねば…!
トウ艾に手柄を横取りされかねんというに…!
姜維:ははは、いくらでもかかってくるがいい!
この剣閣は決して抜かせん!
廖化:控えの兵は怪我人の手当てにあたれィ!
体力の残っている者は石と矢を回収するのじゃ!
ナレ:剣閣に篭る蜀軍の士気は高く、再三にわたって魏軍率いる鍾会を
撃退する。
その為、いずれ諦めて撤退するであろうと廖化達はふんでいた。
だが、その見通しは成都からやってきた二世皇帝・劉禅の勅使に
よって、絶望と共に突き崩されることとなる。
姜維:ここしばらく敵の攻撃が無いな…。
廖化:確かに。
我らの鉄壁の防御に攻めあぐねたのかもしれぬのう。
姜維:ん? あれは…。
勅使:開門! 開門せよ!
我は成都の劉禅陛下より遣わされし勅使である!
姜維:なに、陛下からの…?
廖化:すぐにお通ししよう。
しばし待たれい!
【二拍】
姜維:勅使どの、ここへ来られたのはいかなるわけで?
勅使:うむ…。
将軍達には辛い知らせと勅命になります。
実は…魏軍が成都城下に迫り、我が国は、蜀は…魏に降伏しま
した…。
廖化:なッ、なんじゃと!?
姜維:バカなッ!
どうやって魏軍が成都にやってきたというのだ!
現にこうやって敵は剣閣から一歩も進めておらぬではないか!
勅使:魏のトウ艾将軍が陰平の間道を越え、江油城とフ城は降伏、
綿竹を守っていた諸葛瞻殿とその子息、尚は戦死しました。
廖化:な…諸葛瞻殿が…!
【つぶやくように】
そうか…国家に殉じられたか…父君・諸葛丞相の名を辱めない、
立派な最期であったろう…。
勅使:それゆえもはや勝ち目はないと朝廷は判断し、魏に降伏する事と
なった次第です…。
姜維:な、何という事だ…。
勅使:では…劉禅陛下の勅命をお伝えします。
ただちに武器を捨て、魏に降伏するべし、とのことです…。
姜維:我らは承服しかねる!
…ッだが……だが……勅命には逆らえぬ…!
無念だが、やむをえぬ…か…。
勅使:よろしいか。
では、その旨を鍾会将軍にお伝えして参る。
【二拍】
廖化:姜維殿!
なぜ降伏を決めたのじゃ!
我らはまだ戦えるぞ!
蜀軍部将:そうです!
なぜ陛下は降伏されたのだ!
我らと挟み撃ちすれば、全滅させるのは容易だったはず!
姜維:我らが今戦い続ければ、陛下とそのご一族の身に危害が及ぶことに
なる。それに我らは勅命に背いたとして、反逆者の汚名を被る事に
もなるのだ。
蜀軍部将:これまでの戦いで我らの親兄弟、子供も戦死しました。
その死は一体何だったのでございますか!
こんな…こんなバカな事があっていいのか!!
くそぉッ!!
廖化:お、お前達…剣を叩き折るとは…。
蜀軍部将:廖化様は口惜しくないのですか!?
まだ戦えるのに、敵にひざまずかねばならないのですぞ!
廖化:……ああ、分かる……分かるぞ、お前達…。
わしもそなたら同様、口惜しくて…無念でならぬ…!
ふんッ!
丞相…我らの不甲斐なさ、お許しくだされ…!
うっ、ううう……!
姜維:丞相、蜀の未来を託されていながらこの始末…申し訳ありませぬ。
この剣ももはや、蜀の為にふるう事ができませぬ。
む、無念……ッッ!!
うっ、ううううおおおお………!!【号泣する】
ナレ:姜維も、廖化も、その他の将兵たちも皆、号泣しながら剣を岩で
叩き折った。
かくして蜀の景耀六年・秋、蜀漢帝国は滅亡する。
二世四十三年の歴史であった。
しかし、諦めきれない姜維は廖化らと語らい、鍾会をそそのかして
蜀を取り戻そうと画策する。
だが計画は失敗に終わり、姜維・鍾会は斬られ、廖化ほか数名は
洛陽へ連行となった。
その途上。
廖化:うっ、ごほっ、ごほっ…!
ああ…この身の命も、尽きる時が来たか…。
思えば…黄巾党時代に関羽様をお見かけした時から…わしの人生は
決定づけられていた…そんな気がする…。
そして関羽様を失い…主の先帝・劉備様も失い…そして諸葛丞相をも
失った時、わしも…共に終わっておったのかも、しれぬな…。
関羽様…先帝…丞相…申し訳ありませぬ…。
不肖の身なりに力を尽くしましたが…国を守りきる事が叶いませなん
だ…。
いま…そちらに参って…おわび…もう、し…あげ…ま…す……ッ…。
ナレ:人材の枯渇を示唆する、不名誉な言葉。
国を担う重鎮である事を示す、誉れある言葉。
相反する二つの評価を与えられた男がいた。
廖化、字を元倹。
その姿は国家への忠義厚く、戦場に出ては勇猛果敢な将であった。
乱世をひた駆けて蜀を守るべく粉骨砕身したが、力及ばず国の滅亡を
目の当たりにすることとなる。
その衝撃と無念、そしてすでに体を蝕んでいた病の為、蜀滅亡の翌年
、魏の景元五年、洛陽への途上でこの世を去った。
享年は七十代であったという。
現在も成都・昭烈廟には彼の像が祀られ、訪ね来る者達に生前の
面影をしのばせている。
END
●参考動画
●YouTube
・蜀の滅亡を見届けた猛将!廖化【ゆっくり三国志武将紹介 第150回】
・【ゆっくり歴史解説】姜維と共に蜀漢の興亡を見た武将「廖化」とは?【三国志】
●Wikipedia
・ 廖化
「俺、廖化推しなんですよね」
「ほほう…(カチッ」
二か月後。
「はぴば、できたよー。」
端的にこの台本ができた経緯です。
廖化はかなり地味な部類の武将ではありますが、蜀の興亡を見届けた人物でもあります。
本当は諸葛亮死後の戦争シーンも書けたらとは思ったのですが、登場人物の枠制限の兼ね合いや、
台本そのものの長さを考慮して現在の作品に落ち着きました。
楽しんで読んでいただけたのなら幸いです。