表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い男装魔法師と、無自覚な恋  作者: es


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

24. 互いに嘘ついてました



「あの……離して貰えませんか」

「嫌だ」


 話は一段落したが、さっきから抱き締められたままだ。距離を取ろうとしたのに一蹴されて、かえって、ぐっと引き寄せられた。


「僕、あなたを騙して嘘ついてたんですよ」

「色々と事情があったんだろ。前に言ってたジジイに嫁がされそうになった娘って、お前の事じゃねえの」


 大正解だ。

 僕が女だったのは全然気がつかなかったくせに、それには気づいてしまうなんて。ラーシュは、僕の沈黙を肯定と受け取ったようだった。


「お前が女だって知って、全部納得した。でも他の男の物になるんだと思ったら、すげえ落ち込んで……どうしていいか分からなくなったんだ。さっき、お前に当たったのは悪かったと思う。すまなかった」


 彼は切なく許しを乞う。物憂げな美男子がやると、破壊力が凄まじい。どんな酷い事をされてもうっかり許してしまいそうだ。

 ……いや違うな。誤解を誘導したのは師匠で、隠し事をしてた僕が悪いのだから、許すも何もない。


「ラーシュが謝る必要はありませんよ。嘘をついてたのは僕で、結婚も誤解だったんですから」

「いいや。俺もお前に嘘をついてた。だから俺が怒る資格なんかなかったんだ」

「あなたが嘘?」


 思い当たる節がない。首を傾げると、ラーシュは不敵に笑った。それが、普段の彼に近い表情で、少し安心したけれど、言われた言葉は安心から程遠いものだった。


「お前の事は最初、弟がいたらこんな感じかなーとか思ってた。だから『男に興味ないから安心しろ』って言ってたんだ」

「……そうでしたね」

「でもそれは最初だけで、お前はめっちゃくちゃかわいいし、女だったら絶対タイプだから、段々「もう男でも良くね?」とか思い始めて……あの副官も男とか関係ないって煽ってくるし、最近はマジでヤバかったな。何度か理性が四散しかけたぞ」

「四散」

「ああ、いつ弾け飛んでもおかしくなかった」


 とんでもない告白に息を飲む。


「……男同士なのに、時々、空気おかしくない?とか思ったの、気のせいじゃなかった……って事です、か……?」


 おそるおそる尋ねた僕に、いっそ爽やかな笑顔でラーシュは肯定した。


「そういう事だ」

「マジですか」

「思ったけど、お前も結構俺の事好きだよな」

「えっそんな事は……いや、そうなのかな……?」

「そうやってすぐ騙されそうになるのが……まあ、かわいいけど」

「洗脳はやめてください……」


 僕を抱き締め、くつくつと笑い声を上げたラーシュは「ほんとかわいい」とグリグリと銀色の頭を押し付けてきた。まるで飼い主に甘える大型犬だ。

 しかしこいつは可愛らしい愛玩動物などではない。飢えた狼さんだという事実を忘れてはならない。この和やかな雰囲気が変わらない内に、二人きりではない場所に移動しよう。可及的速やかに。

 引越とか、"女神の霊薬"の代金とか、話したい事は他にも色々あるしね!


「誤解は解けたので、とりあえずご飯食べに行きましょう! すっっごくお腹すいてるんです!」

「あーそうすっか」


 力任せにべりっと剥がすと、ラーシュはやけにあっさり離れていった。胡散臭い笑顔が逆に怖い。

 頭に浮かんだのは、罠にかかった獲物のイメージだった。いや、多分気のせいだ。気のせいったら気のせい。

 とりあえず彼に愛想笑いを返し、僕達は行きつけの食堂に移動したのだった。




 夕飯どきの食堂は喧騒に満ちていた。人に聞かれたくない話をするには逆にうってつけかもしれない。僕らは隅の席に陣取って、食事を注文し、額を寄せ合う。


「……"女神の霊薬"の代金は、稼いで必ずお返しします。ただ、これから自立するので正直お金が全然ありません。少々猶予をいただけると助かるのですが……」

「金は別にいらない。それより、どこの街に引っ越すか教えろ」

「そういうわけには」

「いいから教えろ」


 お金は返さなくていい、と頑として断られた。代わりに行き先を教えろ、と彼は主張する。

 渋々僕は行き先を告げた。本当は行き先を告げずに引っ越すつもりだったが、ラーシュには最大の秘密がバレてしまったし、今更隠しても意味がないと思ったのだ。


「国を二つほど跨いだ、ラネル王国の港街です。男装もそろそろ無理があるので、女性としてやっていく予定です」

「了解。俺も一緒に行く」

「はァ!? 何でですか!」

「好きな女と一緒にいたいからに決まってる」

「ちょっ待て待て待て!! そんないきなり決めていいんですか!!?」

「お前が女に戻るなら、気兼ねなく口説けるな。寧ろ行かない理由がない」


 彼は実に嬉しそうだ。僕は焦って、余計な事を言う口を塞ぐ。いくら食堂が騒がしいとはいえ、誰かに聴かれたらどうするんだ。

 ラーシュは僕の手を剥がすと、上目遣いにこちらを見ながら掌に素早く唇を押し当てた。余りの早業に絶句する。多分誰かが間近で見ていても、絶対に気づかなかっただろう。僕以外は。

 さすが女好きを自称するだけある、と妙に感心してしまうくらい手慣れた仕草だった。


「……女たらし」

「不安なのは俺も同じだぞ」

「自信満々にしか見えませんよ」

「そうでもない。余裕なんかねぇよ」


 運ばれてきたエールを一口飲んで、彼は少し苦々しい顔をした。


「世間知らずだったお前の世界は、これからどんどん広がってくわけじゃん。俺は確かにいい男だが、お前に相応しい男なんて、世の中に幾らでもいるんだぞ」

「自信過剰なのか自信がないのか、よく分からない台詞ですね……」

「俺は正直なんだ」


 肩を竦めた彼は「ま、簡単には逃がさないけど」と言ってニヤリと笑った。

 やっぱり、罠にかかった獲物のイメージが浮かぶ。引越先、こっそり変えた方がいいかな……と真剣に悩みはじめた時、彼が改まって口を開いた。


「お前は、魔法師として独り立ちしたいんだよな」

「そうです。僕は、師匠のような格好いい魔法師になりたいんです」

「……あんな目に遭った後でもか?」


 それが黒獅子に襲われた事を言ってるのはすぐに分かった。確かにあの時は死にかけたけど、僕の決意は揺らがなかった。


「はい。誰かに勝手に自分の人生を決められるのは、もう懲り懲りなんです。僕は自分の力で生きていきたい」


 キッパリ伝えると、ラーシュはふと優しく笑う。


「分かった。ま、そういう奴だからほっとけないと思ったし、好きになったんだろうな、俺は」


 彼は琥珀の目を細めた。彼の言葉がすとんと胸に落ちて、沁みるような温かさが広がっていく。彼は自分を閉じ込めようとはしない。ありのままを見て、それで好きだと言ってくれる。

 卵から孵化したばかりの雛と目があったような、不思議な感覚だった。初めて恋を自覚した瞬間とは、皆こうなのだろうか。


「今日は俺の奢りな。俺らの門出に乾杯するぞ」

「俺ら、とは誰と誰ですか」

「意地の悪いこと言うなよ」


 僕は照れ隠しで、思わずぶっきらぼうな態度になる。明るく笑ったラーシュも、誤魔化すように料理を勧めてきた。

 二人で普通にご飯を食べてお喋りして。ある意味、平穏な日常が戻ってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ