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見習い男装魔法師と、無自覚な恋  作者: es


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10. 留守番を任されました

 


「じゃあ、行ってくるから後はよろしくね!」


 フローラ邸のリビング。師匠はトランクを持ってない方の手で、僕の肩をポンと叩いた。


 今日のフローラさんは完全に仕事モード。かっちり着こんだ緋色のローブがサマになっている。いかにも優秀な魔法師、という出立ちに憧憬の念を禁じ得ない。

 うちの師匠は素敵だ。世界一だ。


「マール。出発前に、留守番の心得を確認するわよ!」

「はいっ!」

「一、出かける時は?」

「鍵をかけます」

「二、知らない人には?」

「ついていきません」

「三、変な奴に絡まれたら?」

「魔法でブッ飛ばす、それか魔法で逃げる」

「うん、大丈夫そうね!」


 "獄炎の魔女"は満足そうに頷いた。

 今日から三日間、フローラさんはこの家を留守にする。ギルドから依頼を受け、魔獣退治の遠征に出かけるのだ。


 "獄炎の魔女"フローラさんは、強力な炎を操る超優秀な魔法師だ。その炎は、固い甲殻を持つ魔獣さえ焼き尽くし、残らず灰塵に帰す。父の領地に来た時も、魔獣を悉く灰にしたという。

 僕は残念ながら、彼女の鬼のような仕事ぶりを直接見た事はない。しかし、僕の特訓中に、手本として見せてくれる高位魔法は凄まじいの一言だ。


 フローラさんを指名する依頼は引きも切らないが、彼女は最近まで、遠出の依頼は全部断っていた。不肖の弟子がこの街の暮らしに慣れるまで、ちゃんと面倒を見なければ、という責任感からだ。

 僕は後からそれを知って、卒倒しかけた。本気で申し訳なく思う。手のかかる弟子でごめんなさい。


 なのに当のフローラさんは、平謝りする僕に、


「仕事は代わりがいるけど、マールの師匠は私一人しかいないんだから当然よ!」


 と言って、えっへんと胸を張っていた。その師匠のどや顔は、額縁に入れて飾りたいくらいかわいかった。


 尊敬してやまないフローラさん。その信頼に応えるためにも、留守番の三日間、僕は死ぬ気でこの家を守らねばならない。

 出発する師匠に向かって、気を引き締めて頷いた。


「留守はお任せください。しっかりこの家をお守りします……!」

「うんうん、がんばってねマール! じゃ行ってきまーす!」


 フローラさんが転移の魔方陣を開く。光の中に彼女が消えるのを見送って、僕は一つ息を吐いた。

 一人でもやるべき事は多々ある。僕は寂しさを誤魔化すように、「さて、洗濯物でも干すか」と呟いた。




 洗濯、掃除、買い物。頭の中にリストを作って、一つ一つこなしていく。ついでに、普段はやらない棚の奥の掃除とか、本の虫干しもやっておく。

 集中してそれらの家事をこなしていると────いつの間にか陽が傾き、夕方近くになっていた。


 夕陽に染まるハーネの街並み。どこからか夕飯を作るにおいが漂う。窓拭きをする手を止め、暫し長閑な風景を眺めていると、少しだけ肩の力が抜けた。この調子なら、意外に早く三日過ぎるかもしれない。


 薄暗くなってきた室内にランプを灯す。師匠の魔法書を拝借し、リビングで読んでいると、コンコンと玄関をノックする音が聞こえた。

 誰だろう、と覗き穴で確認すると、扉の向こうに立っていたのは、軽薄な笑顔を浮かべた銀髪の剣士だった。

 彼は片手で大きな紙袋を抱えている。僕は急いで扉を開けた。


「ラーシュ! 来てくれたんですね!」

「俺は約束を守る男だからな。ところでお前、晩飯は?」

「まだ食べてませんけど」

「なら、いろいろ買ってきたから一緒に食おうぜ。お前はどうせ一人だからって、パンにチーズ挟んで済ませるつもりだったろ」


 そう言ってラーシュはニヤッと笑った。図星だ。


「ぐっ……何で分かったんですか?」

「マールはそれしか作れないって、フローラに言われてたからな」


 そうだった。料理下手をネタにされて、二人に散々弄られたんだっけ。恥ずかしくて顔を赤くしていると、空いた方の手で、頭をポンポンと叩かれた。


「料理はできなくてもいいけど、飯はちゃんと食えよ。身長伸びねえぞ」


 ラーシュは笑ってスタスタと上がりこみ、ダイニングテーブルに買ってきたものを並べ始めた。

 まるで手品のように、ラーシュの紙袋から次々と料理が出てくる。薄く焼いたパンに肉と野菜を巻いたもの。魚のフライ。蜜をかけたスイートポテト。鶏肉のローストに、蒸し野菜の盛り合わせ。

 豪勢だし、凄い量だ。


「美味しそうですけど、ちょっと多くないですか?」

「全っ然問題ない。ほとんど俺が食うもん」


 「食事がかさみそうですね」と言うと、「その分、稼いでるからいんだよ」とラーシュはフン、と鼻を鳴らした。

 思い返してみると、この間一緒に食事した時もそうだった。身体を動かす職業だからか、ラーシュは驚くほどよく食べる。


「よし準備完了。晩飯だ」

「はい、ありがたくいただきます!」


 向い合わせの椅子に座り、和気藹々と食事を始める。二人で温かい食卓を囲んでいると、寂しいという気持ちは、どこかに行ってしまった。


 まだ数回しか会ってないのに、ラーシュは不思議と、警戒心を抱かせない人物だった。相手の懐に入るのが上手く、話題が豊富で、聞き上手だからかもしれない。

 ラーシュのような人間と話していると、自分が社交的になった気さえするから凄い。勿論それは錯覚で、僕の口が上手くなったわけじゃないんだけど。


 会話が弾み、楽しく食事を終えたら、ラーシュは「明日は早いんだ」と言って、さっさと帰っていった。帰り際、「明日も来るから、メシは食わずに待っておけ」とも言ってくれた。

 自分を気にかけてくれる存在がいると思うと、一人ぼっちの留守番でも、安心感が全然違う。最初は甘えすぎかなと思ってたけど、来て貰って良かった。


 それから僕は、暫く魔法書の続きを読んで、ランプを消して穏やかな眠りについた。



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