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ただそこに在った。
人間の営みとは遠く離れた奥地に、ただ在った。
ある日、数人が我の前へ現れ、この地に住まわせてほしいと懇願した。みなが皆、痩せこけ薄汚れ、襤褸の方がましにすら思えるような姿をしていた。
住まわせてくれたら、あなたを神として祀ろう。信仰を忘れることなく受け継ごう。
一等年若く、しかしその人間らの主であるらしい少女はそう宣った。
見た目は汚らしかったが、その瞳が美しくて、好きにせよと答えていた。
彼女らは人の世から隠れなければならぬ者たちであった。
彼女らは我を神と崇めた。
それは我が人の世と彼女らが住み着いた地を険しく隔てているからでもあったのだろう。
守り神と言われるようになっていた。
少女はよく我の下へ来て、日々の安寧を感謝し、同胞らの幸福を願った。
獣でさえ数少ない厳しい土地にあって、細々と、しかし確かに知識を繋ぎ、営みを紡いでゆくその子らを、いつしか見守るようになっていた。
守り神とよばれるならば、守らねばならぬ。
懇願されたら、聞き入れなければならぬ。
そうして、過ごしてきた。
そうして、受け入れてきた。
そうして、流れてきた。
そうして、流れゆく。
我の中へ消えたいと希うのならば、叶えるより他になかった。
我は彼らの守り神なのだから。彼らの願いを叶えればならぬのだから。
故に、我の子でないものを連れてゆく訳にはいかぬ。
神の子であることを良しとしなかった子よ、強い信を胸に抱く子よ。
お主はここでは終われぬよ。
お主はまだ終わらぬよ。