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眠れない夜はカメラを携えて散歩をする。
雪の夜は好きだ。静かな夜は海の音がよく聞こえるから。
それに、仄明るい夜は楽しい。雪の匂いを吸い込めば、身体の内が清浄になる気がする。
己の身体に溜まった澱を濯ぐように、凍てついた空気を吸い込む。
雪明かりに包まれた村をぶらぶらと徘徊していると、雪に紛れるようにしながらも動くものを見つけた。
近寄ってみると、白い蛇だった。こちらを見上げる瞳は深い水面のような色をしていた。
蛇は目が合うと雪の上を滑るように進んでいく。意思を持ち、誘っているのだとわかった。だから付き従った。己の中に呼ばれる理由は思い当たらない。まだ諦めてはいない。だから、俺に用があるということだろう。
蛇が動きをとめ、もう一度こちらを振り返ったのは、舗装された道路から滝のある川へ降りられる階段のすぐ手前だった。覗き込むと、幅が狭く、表面が不均一な石段は、雪と氷がこびりつき、さらに歪になっていた。
蛇のいたところをもう一度見てみたが、そこには既に何もいなかった。
鉄パイプで後付けされた手摺りを頼りに川岸に下りていくと、仄かな光が視界に入り、足が止まる。
淡い光を纏った白い着物の女が流れを指さしていた。
恐怖や動揺は一切湧いてこなかった。ただ従うように白い指先を辿り視線を動かすと、川岸の大きな岩に何かが引っかかっているのがわかった。
さっと近づいてみると、人だとすぐにわかった。慌てて流れから引きあげ、少しでも風が凌げればと、小さな社の賽銭箱と扉の間の床に寝かす。
村のはずれにある二段の滝を擁するこの川では、時折、村の人間が亡くなる。
神が村の者を呼ぶのだろうか。それは何故なのか。
奪うためか、与えるためか。
その真意はわからない。
そしてこの子は、奪われることなく、救われることもなく、神が生かしたのだから、生きていくしかないのだろう。
水を吐き、泣きじゃくる氷のような身体を掻き抱く。
裕介が呼ばれた理由を抱き締める。
自分は善人ではない。聖人でもない。目の前で困っている人、全てを救うことなど、自分にできないとわかっている。
けれど、神の子になることを拒絶した自分とこの子がここで再会したことには意味があるはずだ。
そうだろう、神様。