7話 女の悩みは異世界でも変わらない
ジミーのところでの仕事を終えると、ソニアの家に直行した。家というよりアトリエで、一階はキャンバスや絵の具、スケッチブック、そして完成した絵で溢れている。
ソニアが創作活動中は、時々ここにやってきて励ます「猫の手」の仕事もしていた。松岡修造のように暑苦しく励ます仕事は意外と評判が良く、他の村人からも依頼があるぐらいだった。
「こんにちわ、ソニア」
「ああ、マスミね…」
玄関から出てきたソニアは、顔が青黒かった。ろくに食事や睡眠をとっていないのかもしれない。ソニアのマリッジブルーは予想以上だった。
「今日はどうしたの?」
ソニアは力なく笑っていた。
「どうしたのじゃないわよ。牧師さんもみんな心配していたから、顔を見にきたのよ」
「そう…。ま、あがって」
アトリエの中はてっきり荒れていると思ったが、意外とそうでもなかった。というか、描きかけの絵もあったはずだが消えている。絵の具もあまり無いようだ。テーブルの上に描きかけのスケッチブックだけが目立つ。そこには、鬼のような表情のウエディングドレス姿の女が一人描かれていた。どうもソニアの精神状態は良くないようだった。
ソニアはブラックティーをポットに入れて持って来たが、不味そうにすすっていた。
「不味い…。茶葉入れすぎたかも…」
「本当?」
確かに濃く抽出されているようで、ブラックティーは美味しくない。
「知ってる? この国の諺ではブラックティーを上手に入れられたら素敵なお嫁さんになれるみたいだけど、私は無理ね…」
ソニアは再び深いため息をつく。
こんな時どう励ませばいいのかわからない。「猫の手」の仕事の時のように松岡修造モードで励ますのは適切では無いだろう。とりあえずソニアの話を聞く事にした。
ソニアの婚約者であるブラッドリーは、金持ちのホテル王。ソニアの絵を何故か気に入ったようで、それがきっかけで付き合いはじめ田。結婚まではとんとん拍子に進むが、ブラッドリーは意外と亭主関白タイプのようでソニアには家の中で趣味として絵を描く事を要求した。結婚準備もあまり進んでいないようで、ブラッドリーの仲もギクシャク。本当にいい奥さんになれるかわからないとため息をついていた。
「そうだったの。それは辛いわね」
ソニアの気持ちは完全に理解は出来ないが、自分がその立場だったら悩むだろうと思う。
「ありがとう、マスミ」
「別にいいのよ。ブラッドリーは本当に悪い人なの?」
「別にそんな事は無いと思うけど…。かなり女遊びを過去にしていた事があって、それが心配。秘書のモニカもすごい美人だし」
再びソニアはため息をつき、あまり美味しくないブラックティーを啜った。イケメンと付き合うのはこんな悩みがあるのか。ロマンス小説や少女漫画のヒーローは120%イケメンであるが、こんな悩みがあると思うとあまり羨ましくも無い。ソニアを見ていると結婚が女を確実に幸せにするものでは無いようである。ロマンス小説を読みながらニヤニヤと結婚に夢見た事も多々あったが、こんな現実を見せられるとあまり羨ましくは無い。
ちょうどその時、ソニアのお腹がなる。
「そういえば昨日からずっと食事をとっていなかったわ」
「ダメじゃない。何か作ろうか?」
日本にいた頃は料理は全くできなかったが、今はデレクに教えて貰ってそこそこ出来る。こんな不便な異世界にいて「苦手だから出来ません!」とは言ってられない。料理も語学と同じで努力次第ではそこそこ出来た。デレクの教え方も良かったが、レシピ通りにきっちりとやると失敗しない。失敗する時は、大抵自分なりの変なアレンジを入れる時だ。デレクにもレシピ通りの作ろう」と口を酸っぱくして言われていた。
「何食べたいの?」
「そうね、芋粥が食べたい。ねえ、マスミ、芋粥を作ってくれない?」




