表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

6話 マリッジブルーは和製英語

 翌日、ジミーの家に仕事の行く前、デレクのカフェに呼ばれていた。ティラミスの試作品を作ったというので、試食して欲しいといい事だった。


 カフェのテーブルにデレクがティラミスを持ってきた。

 チーズが三層になっていて、見るだけでも重厚さや濃厚さが伝わってくる。リコの茶で作ったと言っていたが、見た目は変わり無い。


「マスミ、食べてみて」


 デレクはいつもより少々緊張していた。


 スプーンでティラミスをすくい、口に運ぶ。口いっぱいの濃厚なチーズとほろ苦さが広がった。コーヒーを使っていないとは信じられなかった。日本で売られていたものと全く違いがない。


「完璧よ! おいしい」

「そっかぁ、よかった!」


 デレクは喜びより安堵感の方を強く見せていた。


「これだったら、今すぐ売れると思うよ」

「でもこの村の人に受けるかどうかわからないんだよなぁ」


 ちょうどそこにリリーもやってきた。リリーは仕事前にここでコーヒーを一杯飲むのが習慣となっていた。この村に来た時は少々ぽっちゃりとしていたが、アナのジュースのおかげかダイエットに成功し今はだいぶほっそりとしていた。


「何これ、新作?」


 リリーはティラミスをすぐに注目していた。リリーが新しいものだし、すぐ気にいるだろう。


「わぁ、美味しい!」


 案の定、リリーもティラミスを気に入っていた。材料もこの土地でできたチーズを使っているので、値段もそんなに高くないのも良いとリリーが喜んでいた。デレクのカフェぼ料理は基本的にこの村か周辺の村でとれた材料しか使わない事を売りにしていた。


 リリーは私の隣の席に座り、ティラミスを完食。相当気に入ったようである。


 デレクは嬉しそうにリリーの分のブラックティーを持って来た。


「ところでデレクのマスミもソニアの事を聞いた?」


 私達は頷く。やっぱりソニアの結婚話はこの村でホットな話題のようである。自然とこの話題になるようだ。


「それぐらい知ってるって。リリーは新しい情報持ってる?」


 デレクは呆れながらため息をつく。この村の女性陣の上っす好きは、やっぱり男性陣をドン引きさせているようである。


「ソニアは今かなろ憂鬱みたい」


 ちょっと楽しそうにリリーは笑っていた。ちなみにマリッジブルーは和製英語で通じない。「Pre-wedding jitters」と表現するといいだろう。


「そんな楽しそうに言うなって」


 さらにデレクはドン引きしていた。しかし、いかにも田舎ものらしく噂好きな事は別に不思議ではないというか、私もすっかりこの村の生活に染まっているので別に引かなくなってしまった。


「いいじゃないない。単なる噂よ。それにこんな話も聞いたのよ」


 リリーは声を落として更に噂話を続けた。


「ソニアの結婚相手ってホテル王じゃない?」

「詳しく知らないけど、金持ちだって聞いたわ」

「僕は聞いてないな。興味ないし」

「それが私達にも関係あるのよ」

「どう言う事?」


 リリーの口調からしてあまり良い情報では無いように感じた。


「この村をリゾート地に開発してホテルも作るっていう噂」

「え…」


 私もデレクの言葉を失う。想像もしていない事だった。


「湖や森のあたりを開発するんじゃないかっていうのよ」

「そうは言ってもこんな田舎の客なんてくるか?」

「そうよ、こんな殺人事件だらけの治安の悪い村に」


 例えホテルなどができて開発されても、殺人事件が起きる未来しか感じられない。確かに湖のあたりは綺麗だし、空気のいい場所だが観光地にするのはどうなんだろうか。


「そうは言っても私は賛成ね。人がくるようになれば、少しは殺人事件も減るんじゃない?」

「そうかな…」


 リリーは楽観的すぎる気がした。


「僕は反対だね。この静かな村の人がくるようになるなんてさ、絶対うるさいよ!」


 デレクは耳を塞ぐ素振りをする。確かに観光客達がマナーがいい可能性はあんまり無いかもしれない。図書館でこの国の本を読みと、マナーやモラルはそう高くは無いようである。せっかく観光地を作っても万引き犯などで返って治安が悪化したケースなども読んだ事がある。もともと殺人事件だらけのこの村を観光地化したところで明るい未来は想像出来なかった。


「まあ、そのソニアの婚約者は彼女にメロメロでね。こっちにしばらく住むみたい」

「へぇ」


 私はソニアの婚約者に興味はないが、どうも嫌な予感はした。


「結構なイケメンっていう噂だけど、ジェイクと比べるとブサイクみたい」

「だったら顔も期待出来ないわね」

「まあ、僕は興味は無いよ」


 こんな噂話にウンザリしたのか、デレクは厨房の方に行ってしまった。


「それにそてもソニアはそんなホテル王どこで知り合ったのかな?」


 私は単純にそれは疑問だった。


「さあ。あ、そういえば今日新しくノートが入荷しているけど買う?」

「ノート?」

「そろそろ事件が起きそうじゃない?事件をメモするノートを買った方がいいわ」

「そんな、殺人事件だなんて」


 最初はノートを買うのを否定したが、リリーの店でノートを見せて貰うと表紙のデザインがお花やお姫様のイラストで可愛い。


 結局3冊も買ってしまった。このノートを使う事が無いよう願うしか無いようである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ