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48話 Easy come, easy go

 役所で転移者保護の仕事が終わると、デレクのカフェに直行した。


 本来ならジミーの家で「猫の手」の仕事もあるわけだが、事件の余波でジミーはあまり家に帰れないようだ。


 お陰で仕事が大幅に減少してしまい、再び食い扶持について考えなければならなくなった。とはいえ、クラリッサは屋敷にずっといて良いというし、しばらく考える余裕はありそうだった。


 カフェは、アナやローラが来て、ティラミスを食べていた。何やらキャッキャと大騒ぎしていて、店内は明るい二人の声が響いていた。


 店内には、ソニアが残した絵も飾られていた。毒きのこの抽象的な絵だが、色鮮やかで不思議とカフェに雰囲気を壊していない。チャドの家にあった絵は結局捨てられず、村上人達で分け合った。ジェイクはを、あの芋粥の絵を貰いちょっと泣いていたのを思い出す。


「ハイ!マスミ、こっち来て一緒にお茶しましょうよ」


 ローラに呼ばれ、彼女達の方へいく。


「何騒いでるの?」


 また村で何か噂があるのだろうか。


「実は、ハムの懸賞が当たって、王都に演劇鑑賞に行くことになったの」


 アナはうっとりと微笑んでいた。


「いいなぁ。イアンの舞台?」


 ローラは羨ましそうに呟いた。そういえばソニアの婚約パーティーに俳優のイアンがいたのを思いだす。結局事件とは関係なかったが。


「イアンはめっちゃイケメンよね」

「アナは、すっかりイアンのファンになちゃってんだよ」


 デレクは、ちょっと呆れたようにテーブルにブラックティーを持ってきた。


「ジェイクはいいの?」


 気の様子では、ジェイクについてもう関心が無さそうだった。アナは私の言葉に深く頷く。


「ジェイクは、中身は結構残念じゃない? 健康ヲタクだしね。なんかもう冷めてきた!」


 そんな事まで言っている。一時期は、ジェイクの思いを拗らせていたが、それはそれで悪くないように思えてくる。もっともアナとイアンがどうこうなるとは思えないが、今にアナは楽しそうだった。


「そうね。いくら顔がよくても健康マニアでお金無いって言うのが痛いわね」


 ローラもアナに言う事に同意する。


「まあ、ちょっと変わり者ではあるね」

「でしょう、マスミ!」


 しばらく女三人で、ジェイクの悪口で盛り上がっていた。女達の容赦ないおしゃべりにデレクは、ドン引きしていた。


「君たちはティラミス食べるかい?と言っても、君たちは十分強くてティラミスに励まして貰わなくてもいいと思うけど…」

「食べるわ!」


 女達は、さらに力強くそんな事をいい、ティラミスをガツガツと平げ、さらにデレクをドン引きさせた。


 その後、そばらくアナとローラで少々ゲスいガースズトークを楽しんだ。すっかりご機嫌になったアナとローラは満足顔でカフェを後にしていった。


 やかましいアナとローラが帰っていくと、カフェの中は途端に静かになった。


「女性達は元気だね…」


 デレクは呆れながら、布巾でテーブルを拭いていた。


「ところでマスミは暇そうだね。うちでバイトでもするかい?」

「いいの?」


 思ってもみないありがたい話だった。まあ、長期お世話になる事は難しいだろうが、とりあえず食い扶持は繋がったようだ。綱渡りのような仕事の仕方だが、意外と自由にやれるし、何故か不安が無い。もし殺人事件が起きても、動きやすい。この土地は、日本のような安定志向の社会じゃないからかもしれない。女性も店を持ったり、自立している者も多い。


「うん、ティラミスみたいなあっちの料理も色々出して行きたいしね」

「ありがとう!助かる」

「それにちょっと空いた時間にミッキーと一緒にメニューを開発しようと思ってるんだ」


 デレクはここで手をとめ、ちょっと真面目そうな表情を作る。タピオカを売っていた時の軽薄さは嘘のように消えていた。


「ミッキーの職人魂はすごいよ。僕も影響された」


 確かにミッキーは、パンに対する愛情はものすごいが。


「ちょっとパン作りもミッキーに習おうとも思っているんだ」

「いいと思うよ。デレクのパンも楽しみね」

「うん、だからしばらく恋愛とかについて考えるのはやめようと思っているんだ」


 どうやらミッキーの影響は強そうである。杏奈先生とミッキーは対立していたが、デレクはすっかりミッキーを尊敬しているようだ。


「だから、今までマスミに言った事は忘れて欲しいんだ」

「はは、いいわよ」


 デレクは言いにくそうに言うが、私が深く頷く。確かにデレクにもモテ期のような状況になったが、私は牧師さんがいるので答えられそうにない。結局こんな風にデレクが仕事に打ち込むのが一番良いだろう。


 ロマンス小説では1日中女のことを考えているヒーローが多いが、実際現実にいるとちょっと気持ち悪い。やっぱりし仕事を持っている人は、それに打ち込んでいる姿の方が魅力があると思う。


「でもデレクに好かれてるのは、嬉しかったよ」

「ありがとう、マスミ。きみはやさしいね」


 こうして私達は、まるで仲直りをするように握手をした。ガッチリと力強い握手をしながら、これは良い結末ではないかと感じていた。


 彼氏いない歴=年齢の私のモテ期は、こうして終わったようだ。


 少し寂しいが、そんな器のない私がモテても持て余すだけだった。それに、自分で努力して手に入れた物でもないのであまり嬉しくもない。


 やっぱり私は、勤勉でコツコツと努力するのが好きな日本人のDNAが骨に髄まで染み込んでいるようだ。


 英語の勉強もコツコツ努力する過程が好きだった事も思い出す。


 やっぱり簡単に手に入れたものは簡単に出て行くのかもそれない。


 英語で言うと「Easy come, easy go」。


 相変わらず自分の恋愛はうまくいっていないようだが、それはそれで悪くないかも知れない。

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