42話 ついに証拠ゲット!
物置には、ちょうどチャドの妹がいた。背中に赤ちゃんを背負っている。自分よりはだいぶ若い女性だが、子持ちという事もあり、貫禄がある。エマという名前で日曜礼拝やデレクのカフェで何度か顔を合わせた事がある。
「あら、マスミじゃない?どうしたの?」
エマは、ソニアの絵を紐で縛っていた。
「ごめん、今、説明してられないんだけど、その絵全部捨てるの?」
「そうよ。まったく、こんな絵があってもしょうがないじゃない。小麦粉か牛乳でも貰ってくればいいのの!」
「エマ、マスミがソニアの絵が事件と関係あるんじゃないかと思ってるんだよ。捨てないでくれるかい?」
どうやらエマは家庭内でも、かなり権力がありそうだった。チャドも下手に出て交渉してくれた。
「あら、そうなに。それなら仕方ないわよね。全くお金にもご飯にもならないモンだけど、必要なら持っていちゃって!」
ガハハと豪快にエマは笑って、母家の方に行ってしまった。ちょうど赤ん坊もくずり始め、エマの叱る声も聞こえる。なんというか、歳下なのに肝っ玉母ちゃんと言いたくなるタイプである。ソニアの死も動揺を受けていないようだ。
残された私とチャドは、物置に入ってソニアの絵を一枚、一枚調べる。
物置の中は濃薬や子供用のおもちゃなどでごちゃごちゃしていて、ネズミもいた。
私はネズミにいちいちびびっていたが、チャドは慣れた様子で処理していた。やはり、田舎の人達は強そうだ。思えば元いた世界の職場である女子校は清潔すぎる温室みたいな場所だったとも思う。
「マスミ、この絵はどう?」
「これはいつもの毒キノコの絵ね…」
ソニアはなぜか毒キノコをメインにした抽象的な絵をよく描いていた。ここにある絵もそんな絵が多い。
「この絵は? ちょっとタッチが違うね?」
チャドが指さした絵は、芋粥を食べる男女の絵だった。顔は伏せて描かれているので、確かではないが、ジェイクとソニアにも見えた。この絵だけ見ていると、ソニアはジェイクに何らかの感情があったのかもしれない。少し切なくなってくる絵である。
「この絵は違うと思うけど、あとでジェイクに持っていっていい?」
ジェイクと聞いてチャドは複雑な表情を見せたが、私の提案に頷いた。
「この絵は? これも相当変な絵だよ」
チャドが、もう一枚、タッチの違う絵を見せた。
私は絵を見ながら、驚きを隠せなかった。
その絵はヘクターの絵だった。しかし、驚く事に下半身は女性のようで、フリフリのレースのスカートを履いている。心なしか絵の中のヘクターの頬も赤く、女性的に描かれていた。謎の女の顔にも確かにちょっと似ている。
「そんな」
私は言葉を失いながらも、思考を続ける。
謎の女=ヘクターだった。
同性愛者かははっきりとわからないが、女装癖を考えればありえない話ではなさそうだ。この姿でブラッドリーに迫ったが、相手にされず、モニカやソニアに嫉妬し逆恨みして殺した?
となると、犯行の動機は全て辻褄が合ってしまう。ソニアはヘクターの秘密を知ってしまった事も、殺される動機としては成立している。私を殴って襲ったのも女性もののグッズを見られて都合が悪かったからだろう。
「マスミ、どうしたの?大丈夫?」
「チャド、ちょっとお願いできる?」
私は自分の推理をチャドに伝えた。チャドは最初は信じられないようだったが、だんだんと青ざめてきた。
「僕はよく知らないけど、王都に方では同性愛者に人権をよこせと企業や学校で問題になっているらしいよ…」
チャドの話では、王都で暴力沙汰になった事件も数年前にあったらしい。この問題は、元いた世界よりも深刻そうだった。
「正直、推理とかよくわからないけれど、嫉妬して殺す事はあるかもしれないね…」
完全に納得はいっていないようだったが、チャドは概ね私の推理に肯定的だった。
「だったらヘクターと一緒に住んでるジミーが大変じゃないか。何までヘクターの秘密を知ったとしたら…」
それを聞いて私に肝が冷える。
ジミーは何か悩んでいたようだし、彼の家にこれから行った方がいいだろう。
「チャドはこの絵を持ってアラン保安官に説明できる?あの人は、無能だから信じてくれないかもしれないけど…」
「大丈夫!僕が上手く説明するよ」
チャドは、胸を張る。
「ソニアに出来る事はもうこれぐらいだ」
そう言って、チャドは絵を持ってアラン保安官の家の方に走って行ってしまった。
私のここに一人にいるわけにいかない。ジミーが危ない。
ジミーの家まで走って行った。




